轍の覇王は帰還に向けて旅をする~魔王を倒した後の、平和なはずの異世界にて~   作:岳鳥翁

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20話:現状確認

「さて、とりあえず情報の整理から始めることにしようか」

 

 宿へと戻ってきた俺とエリンさんは今後の事を話し合うため、一度俺の部屋……だと、後で知ったブーがうるさくなるため、馬小屋に集まることにした。

「それでよし」という目でこちらを眺めているブーを背景に、まずはここまでで起きた内容を整理する。

 

「まずはエリンさん視点での話なんだが……話せるところだけでいいから、教えてもらってもいいか?」

 

「……せやな。協力する言うてくれてるんやし、隠し事したまんまは筋が通らん」

 

 そう言って、彼女は俺と出会うまでのことを話し始めた。

 

 エリン・フォルティア。

 フォルティア商会を一代で成長させたケルマー・フォルティアの一人娘。そんな彼女は数年前、唯一の家族であった父と、フォルティア商会の従業員の大多数を亡くすことになる。

 

 原因は単純。物資輸送中に起きた魔族の襲撃だった。

 魔王軍と交戦中だったとある都市への支援物資の輸送。しかし、安全なはずのルートは魔族たちが待ち伏せており、結果的にフォルティア商会は壊滅することになった。

 

 だが、問題はここで終わらない。

 物資が届かないと知った都市を治める子爵家は、後にフォルティア商会に対して賠償を請求。当然、壊滅したフォルティア商会に払えるはずもなかったのだが、これを助けたのがメルド商会の前商会長マルトット・メルドだった。

 

 聞けば、ケルマーとは旧知の仲でもあったマルトット。彼は子爵家への支払いを肩代わりしてくれたらしい。

 そしてその返済も、すぐに求めるようなことはせず、エリンが一人前の商人になってから改めて返済の計画を立てることになっていた。

 

「いい人だったんだな。そのマルトットって前の商会長さん」

 

「せやねん。こっちの方が逆に申し訳ないくらいやったわ。すぐにでも一人前になって、受けた恩以上のもん返そう思てたんよ」

 

 けど、と彼女の表情が陰る。

 そのメルド商会の前商会長であるマルトットさんも、それから間もなくして流行病によって急死。

 

 新しく商会長になったその息子マルドレッドは、就任早々にフォルティア商会を訪れて返済を迫った。

 残っていた従業員とともに立て直し中だったフォルティア商会には、当然ながら返済能力はまだなく、結果フォルティア商会が所有していた資産財産のほとんどが差し押さえになったのだとか。

 

「マルトットさんとの約束で印鑑は使わなかったのか? あれなら、返済期限はそのままだったと思うんだが……」

 

「ぐぅ……そ、それ言われたら痛いなぁ。マルトットさんが気ぃ利かせて、正式な契約はフォルティア商会の立て直しができてからってことになってたんや」

 

「けど、そんな約束は知らんとマルドレッドが取り立てに来たのか」

 

「いくらマルトットさんとの約束があったとしても、商人ギルド通じた現メルド商会商会長からの正式な申し立てや。落ちぶれた小娘一人じゃどうすることもできんかってん」

 

 その後、残っていた従業員たちもフォルティア商会を辞め、一人になったエリンさん。

 しかしそれでも、彼女はフォルティア商会の再興を諦めなかった。

 

 ケルマー氏の形見である《空間鞄》。これさえあれば、再興の夢だって不可能ではないと信じ、しばらくの間は街で荷運びなどの仕事をしながら生計を立てていたらしい。

 

 叔母であるエラジィーネに《空間鞄》のことがバレたとすれば、おそらくこの期間だと彼女は言う。

 

「その後はさっきの通りやな。哀れ顔のええ美女エリンちゃんは、叔母ちゃんに騙されて、見事にポカをやらかしたわけや」

 

「それについては騙した方が悪いとしても、エリンさんが迂闊だったことも原因の一つだな」

 

 商人目指してるなら今後は気を付けた方がいい、と純粋なアドバイスのつもりで伝えると、彼女は「うっ」と気まずそうな表情を浮かべてから三角座りでうずくまってしまった。

 

 いや、本当にマジな話だ。

 俺だったからいいものの、この人他人のことを信用し過ぎているのではないだろうか?

 

 こんなんで商人を目指していると言われても、聞かされているこちらが不安になってくる。

 俺の知らないうちに、騙された挙句野垂れ死にしてそうな予感までするぞ。

 

「もうちょい乙女に対して優しくしよとか思わへん? ウチ、今ごっつ傷ついてるんやで?」

 

「わりと真面目に注意してるんだよ。とはいえ、軽口が言える程度にメンタルが回復したのなら何よりだ」

 

 さて続きだ、と今度はこれからのことを話す。

 現状エリンさんが抱えているのは、叔母のエラジィーネがメルド商会から借りた金の返済である。

 

 本当に、なんで商人にとって大事な印鑑を、あの叔母に渡してるんだとため息を吐きたくなるが……反省はしているようだし、今はこれ以上何か言うことは控えておこう。

 

 ともかく、どうにかしてエリンさんは《海中光》を売り、六日後までに借金の返済をしなければ《空間鞄》を手放すことになるうえに、なぜかエラジィーネには追加で金が支払われるのだから質が悪い。

 

 だがしかし、返済のための金稼ぎが難しいのが今の状況だ。

 

「どう考えても、今のリュミネやと《海中光》は売れへんやろな……かといって、別の街でっちゅーのも時間的に厳しいし……やっぱ今のウチ、詰んでる思うんやけど?」

 

 実際、彼女の言う通りではある。

 普通ならこの状況、何をどうしたって覆すのは困難だろう。唯一可能性を考えるとすれば、突然リュミネにやってきた勇者がクラーケンを討伐して、リュミネでの漁が再開されることくらいだが……現実的ではない案だろう。

 

 ちなみにだが、捺印を押されている状態で契約から逃げる、という提案はお勧めできない。

 一応逃げることは可能かもしれないが、印鑑の管理元である商人ギルドには、登録した商会と商会運営者の個人情報も保存されている。

 

 そのため、万が一不当に契約を破棄するようなことがあれば、マニフィス中の商人ギルドに共有されブラックリストに乗るうえに、傭兵ギルドにも指名手配犯として捕縛依頼が出されることになっているらしい。

 

 こっわ

 

「ま、普通に考えたらここからどうやっても返済は無理だろうな」

 

 けど、と俺は続ける。

 

「さっきも言ったろ? エリンさんは幸運だ。普通の(みち)じゃ無理? なら非常識を切り拓こうじゃないか。それは俺たちが、もっとも得意とするところだぜ」

 

 そうだろ相棒、と今までの話を聞いていたであろう相棒に視線を向けると、元気な嘶きが返ってきた。

 それを聞いたエリンさんは、「ありがとな」と小さく呟き、元気よく立ち上がった。

 

「よっしゃ。ならウチも気合入れるで! タヅナさん、ウチは何したらええ? 言われたこと、何でもやるで!!」

 

 やる気になったエリンさんはドン、と胸を叩いて俺の言葉を待つ。

 そんな彼女に「いい心意気だ」と満足に頷いた俺は、彼女にとある頼みごとをすることにした。

 

「ならエリンさん。一つ、頼みたいことがある」

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