轍の覇王は帰還に向けて旅をする~魔王を倒した後の、平和なはずの異世界にて~   作:岳鳥翁

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3話:馬車に乗り、一行は魔王城へ突き進む

「しっかしまぁ、半年くらいラスダンの街にいたんだが……魔王城の方に行きたいなんて傭兵を見るのは初めてだな。少し遠出して魔物を狩りたいって傭兵は何組かいたけども」

 

 幌馬車の中で腰を下ろしていた三人に向けて、御者台に座ったタヅナが声をかける。

 

 最初こそ「飛ばしていくぜぇ!」と張り切り、馬であるブーことブーケファランを走らせようとしていたのだが、あまり目立つと魔族側に捕捉されかねないと三人で止めてから少し落ち込んでいたタヅナであった。

 

 ようやく元気になってくれたかな? と、彼の質問にネリーネが応じる。

 

「そ、そうなんですよ! 私たち腕には自信があるので、もっと強いのを倒しに行くんです!」

 

 もっと強いの(魔王)であるため、嘘は一つもついていない。

 ムンッ、と力こぶを作ってアピールするネリーネであったが、一見すれば少女らしい細腕にしか見えない腕でのアピールである。

「そうかいそうかい!」とタヅナは楽しそうに笑った。

 

 冗談としか思われていないような反応に一瞬ムッとするネリーネだったが、隣に座るサフィナから落ち着くようにと注意されて押し黙る。

 

 ちなみにだが、幼い頃に聖剣の所有者となったネリーネは、今では聖剣がなくとも戦える一流の剣士でもある。

 でなければ、いくら勇者であろうとも魔王討伐には参加させてはいなかっただろう。

 

 下手をすれば聖剣をもう一本失うか、最悪の場合は魔剣に作り替えられてしまいかねないのだから。

 

「経験値もドロップするアイテムも金も、相手が強いところの方が効率がいいもんなぁ。ゲームでも基本だったっけか……そういう意味じゃ、お客さん方は俺を選んで正解だったな」

 

 一部意味の分からない言葉がまぎれてはいたが、タヅナの言葉に「そうなんですか?」とネリーネが御者台の方へと身を乗り出して尋ねた。

 

「おうよ。なにせここを進めば進むほど、魔物が強くなる。そこいらの馬じゃ、ビビって動けなるどころか、暴れたうえで御者も馬車もほったらかして一目散に逃げてくぞ」

 

「えっと……ブーくん? ちゃん? は、大丈夫なんですか?」

 

「雌だからブーちゃんだな。ああ、大丈夫だ。なにせうちのブーは最強よぉ! そんじょそこらの魔物……いや、魔族にだってビビることはないからご安心をってなぁ! カハハハ!」

 

 そうだろう? とタヅナが問いかければ、まるで彼の言葉がわかっているように「ブフンッ」と鼻を鳴らして返事をするブーケファラン。

 体格が大きくなると度胸もつくんだろうと納得したネリーネは、「よろしくね、ブーちゃん」とだけ言って幌馬車へと引っ込んだ。

 

 再度、「ブフンッ」と返事をしたように鼻を鳴らしたブーケファランに、「わぁっ」と感嘆の声を零す。

 

「サフィナサフィナ。ブーちゃん、度胸もあるのに頭もいいんだねっ。あんなお馬さんもいるんだ……」

 

 私もああいう馬に乗って駆けてみたいかも、と魔王を倒した後、見事な手綱捌きで馬を操る自分を想像するネリーネ。

 対してサフィナとカエラは、さすがにタヅナが誇張しているだけだろうと考えたが、楽しそうなネリーネを見てその意見を心の内へとしまい込む。

 

 自然に存在する魔力の影響の影響を受けることで、特殊な変異が起き凶暴化した生物が魔物だ。

 魔物になった彼らは、元となった生物とは隔絶した力を持つようになる。大人しい草食動物が魔物化したことで、捕食者であった肉食生物の群れを殺し尽くした、なんて例もある程。

 

 相当訓練された軍馬でもない限りは、彼らを前にして逃げ出してしまうのが普通の事である。

 魔物からさらに変異し、強力な力を手に入れた魔族ともなればなおさらだ。

 

「おっと、そうだ。お客さん方、水はいるか? ちょっとした遠出なんだし、節約できるところは節約しておきたいだろ? サービスするぜ」

 

 ラスダンの街を出てからしばらくしたところで、タヅナが幌馬車に座る三人に声をかけた。

 

 水が補給できそうな水源も見当たらない今、タヅナの言う通り手持ちの水の節約は大事だろう。

 

「運んでもらうだけでもありがたいんだが……いいのか?」

 

「問題ない。なんせ俺は、お客様サービスも手厚い御者だからな! それにここまで来ても、魔物が一匹たりとも襲ってこねぇから退屈してるだろ? お客様を楽しませるのも御者の仕事ってな!」

 

「聞いたことねぇし、水分補給でどう退屈まぎらわせんだよぉー」

 

 タヅナの言う通り、ラスダンの街を出てからこれまでの間、魔物が襲ってこないどころか遠目に見える程度でほとんど姿を見せていない。

 何度かの戦闘はあると考えていただけに、何もせず座っている時間が長いこともたしかだった。

 

「フッフッフ……まぁ落ち着きなされ、お客さん方。タヅナさんのエンターテインメントは、他の傭兵の人たちにも大ウケ……いや、中ウケ……小ウケくらい? はしていますとも!」

 

「どんどんウケの規模がちっちゃくなってんぞぉー」

 

「いやぁ……やったらやったで盛り上がるか、質問攻めされるかなんだよなぁ。なんで、少なくとも話のネタくらいにはなると思うぜ?」

 

 たぶん大道芸みたいなもんだ、と笑うタヅナに、「へぇ! 私見てみたいです!」と少しワクワクした様子で興味を示すネリーネ。

 そんな彼女の反応に気を良くしたのか、タヅナは「お、みちゃう? やってみせちゃう?」とニヤリと笑った。

 

 そして、彼がローブの下から取り出した短杖を見て、サフィナは目を見開く。

 

 木目肌に幾つもの青のラインが入った綺麗な杖だった。

 その見た目の美しさに、ネリーネは「わぁ、きれい」と声を零し、カエラでさえ「いいデザインの杖だぁー」と職人気質のドワーフらしいことを口にする。

 

 ただ一人、優秀な魔法使いであるサフィナだけは、その杖に内包された力に気付いて息をのんだ。

 どう考えても、ただの御者が手にしていい代物ではない。

 

「ではでは、ここに空になった水筒が三つ。これを水でいっぱいにしてご覧にみせましょう」

 

 どうやら馬車の運転はブーケファランに任せているらしく、タヅナはくるりと御者台から三人へと振り返った。

 その手には、いつの間に用意したのか三つの皮でできた水筒が用意されている。

 

「すごい! ねぇサフィナ、あれいつ取り出してたんだろうね!」

 

「すまないネリーネ、今私はそんなことを考えている場合じゃないんだ……! タヅナ殿、その杖はいったいどこで――」

 

 いったいどこで手に入れたのか。サフィナも相棒とも呼べる杖を持っているが、タヅナの持つそれと比べてしまうと天と地ほど性能差があるだろう。

 もし手に入るなら自分も……と考えていたサフィナだったが、続けて目にした光景に、魔法使いとして口をつぐんでしまうのだった。

 

「【アクアボール】」

 

「――は?」

 

「わぁ、すごーい!」

 

「おめぇ魔法使いだったのかぁー」

 

 トプンッ、とタヅナの傍で浮遊するように現れた水の塊。

 突如として現れたそれに、ネリーネとカエラは変わらず感嘆の声を上げ、サフィナはさらに目を見開いて思考をストップさせ、ついには叫んでしまった。

 

「ど……どういうことだ!? なぜ何もないところから水が出せ――いや、そういえば無から水を作り出す魔法使いの一門がいたな……魔族との戦いで全滅し、失伝したと聞いていたが、タヅナ殿はその生き残りか!?」

 

「違うな」

 

「じゃあ何なんだ本当に!?」

 

「お、落ち着いてよサフィナ。いったいどうしちゃったの? らしくないよ?」

 

 浮かんだ水塊から水筒に水を注ぎ込むタヅナに否定され、オーバーなリアクションで頭を抱え込むサフィナ。

 普段の冷静な彼女からは考えられない意外な反応に驚いたネリーネは、そんな彼女に「そんなすごいの?」と問いかける。

 

「……ああ、すごい。ネリーネは勇……剣士だから詳しくないだろうが、そもそも魔法はイメージが出来なければ使えないんだ。私がよく使っている植物の魔法を例にしてみようか」

 

 ゴソゴソとサフィナが懐から取り出したのは、彼女が普段の冒険で使用している植物の種だった。

 それを掌に乗せたサフィナは軽く種を握りしめると、「【芽吹きの魔法(ヴォーダンス)】」と唱えてみせた。

 

 途端、土も水もないサフィナの掌で芽を出して成長を始めた植物を見て、「いつものだね」とネリーネがサフィナに視線を向けた。

 

「こんな感じで、起こしたい現象とそれが起きるまでの過程をイメージすることが魔法発動の条件だ。それがイメージできれば、魔力がその過程を省略してくれる」

 

「イメージが雑だったり、過程が複雑すぎると魔力消費がでけぇってきいたことあるぜぇー。最悪は不発らしいぞー」

 

「へぇ……そうなんだ」

 

「そうだ。だからこそ魔法というのは、イメージを容易にするために”そこにあるモノ”を使用することが多いんだ。私だって、何もないところから植物を生やすイメージはできない」

 

 途中でカエラも会話に混ざって魔法の講義を行うサフィナ。

 なるほどと話を聞いていたネリーネは、そこまで聞いて「あれ?」と首を稼げてると、ちょうど三本目の水筒に水を注いでいるタヅナへ視線を移す。

 

「さっきタヅナさん、水出してたよね? 何もないところから」

 

「だから驚いたんだよこっちは! 無から水を、それもあの速度でだぞ!? 同じ魔法使いなら驚くなと言われるほうが無理な話だ!」

 

「さっき言ってた今までの客の反応、魔法使いがいるかどうかの違いだろうなぁー」

 

 質問攻めされるっていうのはそれか、とサフィナの話を聞いてようやく納得したネリーネ。

 あいにく魔法についてはからっきしのネリーネだが、サフィナがそこまで言うのならとんでもなく凄いことなんだろうと考える。

 

 そして同時に思うのは、それだけ優秀そうな魔法使いが、なぜ御者なんてやっているのかということだった。

 あまり人の事情に踏み入ってしまうのは良くないが、もしもタヅナが気分を害しないのであれば少し聞いてみたい。

 

 そう思い、「ほらよ、受け取ってくれ」と水筒をこちらに投げ渡したタヅナに声をかけようとしたその時だった。

 

 ネリーネの視界が切り替わり、数瞬先の未来を《星の聖剣》が視せつけてくる。

 

「っ……!! みんな!! 馬車から飛び降りて!!」

 

 ネリーネがそう叫んだ直後。

 彼女たちを乗せた馬車は、上空から飛来した魔力の斬撃によって破壊されるのであった。

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