轍の覇王は帰還に向けて旅をする~魔王を倒した後の、平和なはずの異世界にて~ 作:岳鳥翁
「サフィナ! カエラ! 無事!?」
幌馬車が破壊される寸前。
なんとか馬車から脱出したネリーネは、仲間達の無事を確認するため周囲を見渡した。
そして、目の前に広がる光景に目を見開く。
馬車どころか、その周囲までもを吹き飛ばすほどの威力。地面は抉られたように深く削れ、巨大なクレーターが出来上がっていた。
「ネリーネ! 無事か!?」
言葉を失っていたネリーネだったが、そんな彼女の元へカエラを雑に担いだサフィナが現れる。
どうやらネリーネが叫んだのと同時に、カエラをひっつかんでの脱出に成功したらしい。
担がれたカエラは、「め、面目ねぇー……」と動きが鈍いことについて反省を見せていた。
「サ、サフィナ! それにカエラも……! よかった、無事だったんだね」
「我らのことはいいんだ。それより、タヅナ殿が……」
「あ……そ、そんな……」
お椀形状に抉れたクレーター。その中心部へと目を向ければ、削られた土砂に紛れて木片や布などが混ざっていることが確認できた。
自分たちが乗っていたタヅナの幌馬車だと、ネリーネもすぐに気づく。
そして気づいてしまったが故に、タヅナと馬車を牽いていたブーケファランがどうなってしまったのかも容易に想像することができた。
「た、助けないと! もしかしたら、まだ生き残って……!」
「そうしたいのはやまやまなんだがな、ネリーネ。その時間はなさそうだ」
「構えたほうがよさそうだぜぇー」
今すぐにでもタヅナを助けに行こうとするネリーネだったが、その行動はサフィナとカエラが視線を向ける集団に気付いたことで阻まれる。
ザッザッ、とまるでネリーネたちを威嚇するように足音を立ててやってきた集団は、クレーターを挟んだ向こう側でピタリと静止した。
彼らの掲げる旗を目にしたネリーネは、キッと睨みつけるように視線を鋭くする。
「魔王軍……!!」
「如何にも。そして俺は、魔王様率いる魔王軍、その四天王が一人! 《不壊》のアインガルド!」
そんなネリーネの呟きに答えたのは、集団の先頭に立つ巨躯の影だった。
頭に当たる部分から飛び出た一本角と、四つの手にそれぞれ握られた
《不壊》のアインガルドと名乗った、カブトムシのような特徴を持つ魔族を見たセフィナは「馬鹿な……!」と驚愕の声を上げた。
「四天王だと!? なぜこんなところに……!」
「おかしなことを聞く。勇者を相手取るならば、俺たち四天王が出るのは当然の事。……いや、お前たちの『なぜ』はそこではないな? よろしい、ならば答えてやろう!」
サフィナの動揺を理解したのか、アインガルドはふむふむと頷いてみせると、下段の手に持つ二本の長柄武器を地面に突き刺し、空いた腕で腕組みをして話を始めた。
「二人の勇者と二手に分けた軍を使った魔王城への進軍。しかしこれらは、俺たち魔族の目を引くための囮。真の狙いは、三人目の勇者による強行突破だろう? たしかに、囮への対処で防備が手薄になった魔王城であれば、魔王様の元へたどり着くこともできただろう」
だが残念だったな、とアインガルドは続ける。
「お前たち人類の作戦を、俺たち魔族が見破れないとでも思ったか……!!」
「だとしてもだ! そもそも、三人目の……ネリーネの存在は上層部以外には秘匿されていたはずだぞ!? なぜお前たちがそれを知っている……!?」
アインガルドの話に反応したサフィナは、なぜネリーネのことを魔族が知っているのかを問うた。
長らく担い手が現れていなかった、人類の最後の聖剣。
その所有者となったネリーネの存在は、魔王軍への切り札となりえると判断され、今日この日まで隠し続けてきた。
だからこその、二人の勇者と軍を使った囮作戦。人類側の最大戦力とも呼べる二人の勇者を相手にするならば、魔王軍も四天王を出さざるを得ない。
最悪でも魔王を守る四天王は半減、最上の結果であれば全員が勇者の対応のため魔王城から四天王はいなくなり、ネリーネたちによって奇襲をかけられる――はずだった。
彼女の存在がすでに魔族側に露呈している以上、前提から今回の作戦が覆ってしまう。
「……なるほどなぁー。内通者がいたかぁー」
「なん……だと……!?」
「ほお? さすがに気づいたか。お前たち人類の、なんと愚かなことか! 『人類が滅ぼうとも、お前だけは助けてやる』などと、そんな口約束でベラベラとそこの勇者の情報を吐いたのだからな! 殺す際の顔も傑作だったぞ!」
ネリーネの存在が露呈していた理由に気付いたカエラの呟きに、サフィナは信じられないと唖然とし、アインガルドはくつくつと笑い声を零しながら理由を告げた。
「ネリーネの存在を知っているが故に、私たちの奇襲も想定していたか……」
「どうするネリーネ。奇襲をかけるつもりが、こっちがかけられたぜぇー。状況は不利と見るのが妥当だぞぉー」
杖を構えるサフィナと、背負っていた戦斧を手にして前に出たカエラ。
そんな二人の言葉に、ネリーネは《星の聖剣》に手を伸ばした。
「ここで
襲撃する魔族の悉く殲滅する《女神の御使い》という存在の話もあるが、不確定なモノに頼るわけにもいかないだろうと、ネリーネは二人よりも前に出て正面のアインガルドを見据えた。
「なにより……隠す必要があったとはいえ、タヅナさんとブーちゃんを巻き込んで殺してしまった責任が私にはある……! 人類のためにも、せめてここで四天王の一人は倒さないと……!!」
「この俺を、《不壊》のアインガルドをここで倒すというか!! ならば殺そう、俺が! お前を! 聖剣がなければ、お前たち人類は魔王城へ入ることもできないと聞く。その聖剣、回収させてもらうぞ……!!」
腕組みを解き、地面に突き刺していた長柄武器を手にして構えたアインガルド。
それだけではなく、彼に付き従う鎧を纏う魔族の軍も各々の武器を手に構えた。
四天王の中でも最も硬く、倒れたことがない魔族。従う部下の魔族たちも、魔王軍の中で最も突破することが難しいと噂されている。
一筋縄ではいかないだろうと、三人は思考を巡らせた。
そして同時に、アインガルドたちを打ち破る手段は一つしかないと思い至る。
「……ネリーネ」
「わかってる。隙が出来たら、アレを使うよ」
「任せろぉー。何とかして、突破口は開いてやるぜぇー」
先にどちらが動くのかという、緊張感漂う両者の睨み合い。
そんな中、場にそぐわない第三者の声が響き渡った。
「プッハァー!? 生き埋めになる経験なんて、リアルでもゲームでも初めてだったぞ……!?」
「ブハッ、ブフンッ!!!」
「おーおー! ブー、動けそうか?」
「ヒンッ」
「ならばよぉしっ!!」
突然の声に、ネリーネたちも、それどころかアインガルドたちもその視線を移した。
アインガルドたちの攻撃によってできた、中央の大きなクレーター。
その中心、馬車の木片などが混ざった土砂の中から現れたのは、一人の青年と巨馬だった。
「「「はい?」」」
「タ、タヅナさん! 無事だったんですね! よかった……!」
他が驚愕する中、ネリーネはタヅナとブーケファランが生きていたことに喜び笑みを浮かべる。
そんな彼女の声に反応したタヅナは、ブーケファランの毛並みについた土汚れを払いながら、ニッと振り向いて笑ってみせるのだった。