轍の覇王は帰還に向けて旅をする~魔王を倒した後の、平和なはずの異世界にて~ 作:岳鳥翁
そもそもの話として。
こんな状況になってしまっている以上、まず俺が何者で、この世界においてどういう立場なのかを説明する必要があるのかもしれない。
などと、土砂の中に埋もれながら考えてみる。
幸い、壊れた馬車の破片のおかげで息ができる程度の空間は確保できていた。
山盛りの土の向こう側で、ネリーネちゃんたちと新たにやってきた誰かが話しているのだろう。くぐもった声とともに、『勇者』やら『魔王』なんて如何にもな単語が聞こえた気がしているが……今は置いておく。
日本生まれ日本育ちの俺がこの異世界にやってきたのは、およそ今から一年ほど前の事だった。
まるで現実世界にいるような気分を味わえることが売りのフルダイブ型VRMMOゲーム、《ワールドファンタジー》……通称は《WF》。
それが、俺がこの異世界に来る直前まで遊んでいたゲームだった。
いつもどおりにログインして、いつも通りに遊び、いつも通り俺の従魔たちと戦車でフィールドのモンスターを轢き潰しながらドロップアイテムを集めていた……そんな最中、俺はこの世界にやってきたのだ。
意味が分からないだろう? 俺だってわからない。
最初は未踏破のフィールドがいつの間にか実装されて、そこに入ってしまったのかと思っていたのだが……俺が使用しているアバターはいつの間にかリアルの俺の姿になってるし、ゲームとは異なる感覚やNPCとは思えない異世界の住民たち。
ログアウトもできないまま一日を過ごした俺は、そこでようやく「あれ、これリアルだったりします?」と自身の身に起きた異常事態に気が付いたのである。
帰ろうにも帰り方なんてわかるはずもなく。
それでも、いつか帰るために生きなければとこの一年間を過ごしてきた。我ながら、順応力が高かったことを褒めてやりたい。
語ればいくらでも語ることはできるだろうが……今は長くなりすぎるため割愛しよう。
大事なのは、この世界で生きていく傍らで情報を集めた結果だ。
どうやらこの世界は人類と魔族による戦いの真っ最中らしく、情勢は人類と呼ばれるエルフ、ドワーフ、ヒューマンの三種族が不利。
この両者による戦いの歴史は長いそうだが、魔族が人類を滅ぼすために始めた戦いとのこと。
そこで俺は閃いたのだ。
「魔王倒せば帰れるんじゃね?」
そこからの俺は速かった。
従魔たちに指示を出して戦車をかっ飛ばし、やってきたのは魔王城。
周辺を守る魔族や魔物なんてなんのその。半年間の異世界生活で何となくわかってはいたが、従魔たちのレベルに対してこの世界の魔物や魔族、人類も含めて弱いのだ。
《WF》でいえば、魔物は強くても20くらい、魔族は50くらいとみていいだろう。
人類は傭兵が戦っているところを見たことがあるが、強いヒューマンでだいたい30、エルフ、ドワーフだと40くらいと考えてはずだ。
対して、俺の従魔たちのレベルは100
相手がどれだけ数を揃えたとしても、俺と従魔たちにとっては大したことはない。
いつも通り従魔と戦車の突撃で悉くを蹂躙し、そのまま魔王まで倒して元の世界に帰還……いや、凱旋しようじゃないか!
そんなことを考えてました。
まぁ無理だったんですけどね?
聖剣がないと通れない結界? なにそれ知らん。ブーケファランたち従魔の突撃で突破できないなら仕方ないですわ。
そんなわけで、「どうにかあの結界をぶち破る方法ねぇかなぁ~」と近くのラスダンの街を拠点にしていたわけだ。
その間、やっぱり野良の御者として人や物を運んだり、ラスダンを襲いに来た魔族どもを蹴散らしたりしていたが……どうやら今日、俺は大当たりを引いたようだった。
「行けるか、ブー」
「フンッ!」
土砂に埋もれた暗闇の中、俺はすぐ傍にいるであろう相棒に声をかければ力強い鼻息が返ってきた。
「当然だ」とでも言ってるのであろう。ゲームの時ではただのキャラクターでしかなかったブーたち従魔も、この異世界に来てからは一個の生命として確立されたのだ。
そこは良かったところかもしれない。おかげで、俺はブーたちと触れ合えるようになったのだから。
「息を合わせて、せーので行くぞ。ちょど向こう側の話も、キリよく終わったみたいだからな」
グッと、足腰と腕に力を込め、俺たちを生き埋めにしようとしている土砂の山を押し上げる。
そこにブーの膂力も加わり、「せーの」の合図で飛び出すことになるのだった。
◇
「カハハハ! ダヅナさんここに参上ってなぁ! まぁ、土砂の中から出てきただけなんだけども」
「ブフンッ」
「しけたこと言うなってか? わかってるわかってる。そうツンツンするなっての」
鼻先で背中を突っつかれながら周囲を見渡してみる。
どうやら俺とブーは今大きなクレーターの中心にいるらしい。
俺たちが土砂に埋まった攻撃でできたのだろう。とんでもない威力を不意打ちでぶち込んでくれたなこいつら。
まぁ、それで生きている俺たちが相手からすれば予想外かもしれないのだが……そういう意味では、ネリーネちゃんたちは怪我無く脱出に成功しているみたいだ。
そして、彼女の腰に携えられた剣。
話をする傍ら「いい剣っぽいなぁ~」と考えるくらいはしていたが、まさかあれが聖剣だったとは思わなかったぜ。
「……なぜ生きている、ヒューマン」
ブーの体についた砂をはらっていると、低くくぐもった声で問いかけられた。
チラと視線を向ければ、ネリーネちゃんたちとは反対側に陣取った集団。
その先頭に立つカブトムシみたいな見た目の魔族が、四つ手に持った武器の内の一つを眼下の俺に突きつけていた。
「なぜって言われてもな。大した攻撃じゃなかったからだぞ」
「……ほざくなよ、勇者でもないただのヒューマン如きが。運よく直撃を免れただけの分際で、俺と勇者の戦いに水を差すか……!!」
「っ……!? まずい、タヅナさん!! そこから逃げて!!」
ネリーネちゃんが叫ぶのと同時に、カブトムシの魔族が三本の長柄武器を部下に預けて飛び上がった。
頭上を見上げれば、残った一つ……ハルバードを振り上げ迫りくる。
「ならば直接、この俺が殺そう!! この俺に、《不壊》のアインガルドに出会ってしまった己の不幸を呪うがいい!」
「間に、合わない……!!」
聖剣を抜き放ったネリーネちゃんも、俺を助けようと斜面を駆け下りてくるが……タイミング的に間に合わないだろう。
それを悟ったからか、表情は悔しそうで今にも泣き出してしまいそうだった。
「死ねっ、ヒューマン!!」
魔族の振るう刃が目の前まで迫る。
その光景を前にした俺は、ただ一言。隣で今か今かと指示を待つ相棒に向けて、短く呟いた。
「蹴飛ばせ」
「ヒヒィイイイインッ!!!!」
「は? ガベッ……!?」
土を跳ね上げて反転した相棒は、完全な不意を突く形で魔族の顔面に蹴りを入れる。
めり込んだ後ろ足の蹄は、メキャメキャァッ!! と魔族の頭を守る兜を損壊させると同時に、立派だった角はまるでクッキー生地でできていたかのように根元からぽっきりと簡単に折れて飛んでいった。
「え……?」
そして、魔族がクレーターの斜面に頭から突き刺さるまでの一部始終を間近で見ていたネリーネちゃんは、聖剣を手にポカンと口を開けたまま佇んでいる。
「ブフンッ……!!」
「砂まみれにした分は返したってよ」
聞こえているかは定かではないが、一応ブーからのメッセージを伝えておく。
いや、別に言葉がわかるわけではないんだが……某ポケットなモンスターの主人公であったマサラ人が、電気ネズミの伝えたいことが何となくわかる、的なアレだ。
自分たちの真下の斜面に突き刺さった魔族を見て、「ア、アインガルド様ぁ!?」と他の魔族たちが慌ただしい。
そんな彼ら余所に、俺は立ち止まっていたネリーネちゃんのほうへと振り返った。
「ごめんねぇ、ネリーネちゃん。驚かしちゃっただろ。俺たちの心配をしてくれてありがとうな」
「……え? あ、いえ……って、それよりタヅナさん!? いったい、何がどうなって――」
「まあまあ、そんなことよりも……ほい、確保だ」
いろいろと問い詰めたいことがあったのだろう。聖剣を鞘に納めながらこちらに距離を詰めてくるネリーネちゃんだったが、俺はそんな彼女の手を掴むと、そのままヒョイと担ぎ上げた。
俺のスムーズかつ鮮やかな動きで肩に担がれた彼女は、「へ?」とおまぬけな声を零す。
「ちょ、タヅナさん!? これどういう状況ですか!? え、嘘、私の力で振りほどけない……!?」
ワタワタと自力で降りようとするネリーネちゃんだが、そう簡単には俺を振りほどくことはできないだろう。
というか放すわけがない。
こちとら半年待った帰還チャンスなんだ。ブーたちと過ごせなくなるのは少し寂しいが、人類を助けてさっさと現代日本の生活に戻りたいのである。
「
「ヒヒィイイインッ!!!」
「え、タヅナさん!? それどういう――」
俺の言葉の意味を尋ねようとしたネリーネちゃんだったが、その問いかけはブーの変化を目にしたことでピタリと止まった。
ボウッ、とブーの蹄から噴き出した炎がたちまち馬体を包み込んだかと思えば、嘶きとともに炎が膨らみ、そして弾けた。
現れたのは、真っ白の馬体。
もともと普通の馬と比べても大きかった体は、ところどころに炎を纏ったうえさらに大きく変貌し、特徴的な八つの足が力強く地面を踏み鳴らす。
ドンッ、という蹄が地面を叩く重低音。そしてその度に巻き上がる火の粉が頬を撫で、その熱に思わず笑みを浮かべる。
「なっ、魔法による見た目の偽装だと!? バカな、我も感知できないほど高度な魔法をあの馬が!? しかも、あれは……」
「お~。あれ、《女神の御使い》ってやつじゃねぇかぁー?」
「タヅナ殿が《女神の御使い》の正体だったか!! いや、でも
こちらの様子を見ていたサフィナさんとカエラさんの二人が何かを叫んでいるが、俺は気にせずアイテムボックスの一覧を呼出し、その中のアイテムをいくつかタップする。
光とともにその場に現れたのは、ブーよりも巨大な
《WF》のゲームにおいて《
突如出現した巨大戦車に、担がれたネリーネちゃんも、その仲間達も、それどころか斜面に突き刺さったアインガルドという魔族を引き抜こうとしていた魔族たちも目を見開いて息をのんでいる。
そんな周囲の様子に満足した俺は、戦車の出現とともにブーに装着された引き綱を確認して戦車へと飛び乗った。
NPC御者偽装用だった格好も、戦車の登場とともに赤と黒を基調とした派手なモノへと換装され余計に周囲の目を惹いている。
当然、ネリーネちゃんは担いだままであった。
「……え? あの、タヅナさん?」
本当なら聖剣だけ借りて出発したいところなのだが、それをすると窃盗になりかねない。
なので、妥協案としてネリーネちゃんも連れて行くのである。これなら、聖剣の持ち主も一緒だから問題ないはずだ!
バシンッ! と手綱を振るってブーに出発の合図を送る。
「さぁ、行こうかブーケファラン!! 魔王城まで、前進! 突撃!! 蹂躙だぁああああ!!!」
「ヒヒィイイイイイイイイイイイイイインッ!!!!!」
「待って!? まだ二人が、ていうかこれどういう状きょ……きゃぁあああああああああああああああ!?」
初速から戦車を牽いているとは思えないほどの速度を出し、一直線にクレーターの斜面を駆けあがる。
その際、埋まっていたアインガルドも、それを引き抜こうとしていた魔族も、その悉くをブーと戦車で轢き潰していく。
逃げ出そうにも、戦車の両側に備え付けられた殺意マシマシの巨大刃が逃さず、それでも打ち漏らした魔族はブーの炎が燃やし尽くす。
魔族死すべし、慈悲はない。
理由なく人類を殺し回る奴らを生かしたところで、何の意味もないことを知っているのだから。
なればこそ、その親玉たる魔王は倒すべき存在だ。
聖剣に選ばれ、勇者となったこんな少女が背負うべきものではない。
「カハハハハハハハ!!! 魔王はぶっ飛ばし甲斐のある敵だといいよなぁ!! ブー!!」
「ブフフンッ!!!」
それはそれとして。
やっぱ戦車でかっ飛ばすのって楽しいなぁ!!!