轍の覇王は帰還に向けて旅をする~魔王を倒した後の、平和なはずの異世界にて~   作:岳鳥翁

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6話:魔王ルグラマグナ死す。本編スタンバイ

 魔王ルグラマグナ。

 

 魔族たちの王にして、人類を滅ぼすことを宣言して戦いを始めたすべての元凶。

 

 さまざまな生物が魔力の影響で凶暴な魔物と化し、更に強大な力を得ることで魔物は魔族へと進化した、力をすべてとする魔族。

 

 その頂点に立つルグラマグナは、魔族の中で最も強いからこそ彼らの王となったのだ。

 

 その見た目は、魔族の中でもさらに異形。もともと魔族は、祖先にあたる何かしらの生物の特徴を有しているのだが、ルグラマグナの特徴は一線を画す。

 ありとあらゆる特徴が混ざり合ったかのようなその見た目に名前を付けるのなら、《キメラ》と呼ぶのが相応しいだろう。

 

 そんなルグラマグナは、魔王城の玉座に腰掛けながら戦況の報告に耳を傾けていた。

 

「報告します! 現在、東と西で我ら魔王軍と人類の連合軍が衝突! それぞれで勇者の姿を確認!」

 

「魔剣持ちの四天王様がこれらに対応中。戦況は膠着状態です!!」

 

 部下二人の報告を聞いたルグラマグナは、「ソウカ」と静かに呟く。

 そして傍に立つ側近の男……四天王の一人、《不死》モルヴァニスを見下ろすと、「三人目ハドウナッタ」と圧を感じさせる口調で尋ねた。

 

 腰から生えたコウモリのような羽をバサリと一度はためかせたモルヴァニスは、一礼してルグラマグナを見上げる。

 

「そちらは《不壊》アインガルドが向かいました。人類どもも奇襲をかけるつもりが、逆に奇襲をかけられるとは思ってもいないでしょう。勇者を殺して聖剣を奪えば、もはや我々の勝利は約束されたも同然です」

 

「……ソウカ。デハ、結界ヲ抜ケタ者タチハ何ダ?」

 

「はい……? 結界を? そんなバカな……」

 

「ほ、報告いたします!! 何者かが結界を抜け、とてつもない速度で魔王城まで進行中!! も、もう間もなく魔王城に到着する見込みです……!」

 

 ルグラマグナの言葉に肩を竦めていたモルヴァニスだったが、直後駆け込んできた部下の報告に「は?」と表情が固まった。

 そして先に報告に来ていた部下に視線を送る。

 

「東西の戦況は膠着しているんじゃなかったのか!?」

 

「ほ、報告した通りです!! げ、現在も四天王様と勇者は戦闘中とのこと……!」

 

「西も同じく!!」

 

「な、なんだと!? ということは……」

 

「……アインガルド、シクジッタカ」

 

 重々しいルグラマグナの声が響く一方で、モルヴァニスは冷や汗を流しながら思考を回す。

 まさか失敗するなどと考えていなかった、三人目の勇者に対する奇襲作戦。それもそうだろう。

 

 なにせ相手は勇者とはいえまだ少女。それも、他二人の勇者と比べれば戦闘経験も浅く、四天王が奇襲を仕掛ければ簡単に聖剣の奪取が可能と考えたいたのだ。

 

 その作戦の失敗。そして作戦を立案したモルヴァニスは、ギギギと油を指し忘れた機械のような動きでルグラマグナを見上げた。

 

「……」

 

 まるで刺し殺すような視線がモルヴァニスへと向けられている。

 

「す、すぐに!! この私が……四天王最強の《不死》モルヴァニスが始末してまいります……!!」

 

「……イケ」

 

「ははぁっ!!」

 

 冷や汗を流しながら羽を大きく広げ、すぐさま部屋を飛び出していくモルヴァニス。

 そんな彼に続くように、報告に来ていた魔族たちも慌ただしく侵入してきた勇者への対応に向かった。

 

 一人残されたルグラマグナは、玉座から立ち上がる。

 そして玉座の背後に大窓から外の世界を眺めると、クツクツと小さく笑い始め、やがてその笑い声は部屋に響くほど大きくなっていった。

 

「ツイニココマデ至ルカ、人類ドモ!! イイダロウ、貴様ラ聖剣ノ刃ガコノ首ヲ断ツカ、ソレトモ我ラ魔族ガ世界ノ覇者トナルカ!! コノ戦イデ決着ヲツケテヤロウ!!」

 

 魔族として生まれたその時から世界が、人類が憎かった。

 それは魔族として……魔物から進化した魔族に備え付けられた本能のようなものだが、ルグラマグナのそれは他の魔族よりも殊更に強かった。

 

 それは彼が異形だからなのか。あるいはもっと別の理由があるのか、それはルグラマグナにもわからない。

 だがしかし、彼は魔王として君臨してから今日までの長い年月を、ただただ人類滅亡を目的として生きてきた。

 

 そんな人類の刃が、魔族を滅するために女神が人類に与えた聖剣の刃が、もうすぐそこにまで迫っている。

 おそらく、この戦いが人類と魔族の今後を決めるものになるだろうと、ルグラマグナは感じ取っていた。

 

 それが心底面白いと。

 

 魔族と人類では、魔族の方が強い。いくら人類側に数がいようと、魔族の強さがあれば容易に滅ぼせる。

 そう考えていたはずが、女神の介入もあって人類は耐え続け、そしてついにはルグラマグナの目前までやってきた。 

 

 地響きとともに、何者かが玉座の間へと迫る。

 

「モルヴァニス……奴モ殺ラレタカ。三人目ハ他ヨリ劣ルト思ッテイタガ、評価ヲ改メナケレバナルマイテ」

 

《不死》モルヴァニスは、文字通りの不死。

 核となる体の魔石を破壊しない限り再生し続けるうえに、魔石は絶えずモルヴァニスの体内を流動しているため、一撃で全身を破壊しなければ倒せない。

 加えてその再生を抜きにしてもスペックは高く、それでけで四天王最強を名乗れる魔族だ。

 

 それを倒したともなれば、三人目の勇者は難敵になると玉座に座って出迎える準備を整える。

 

 魔族の王として、真正面から勇者を叩き潰す。

 

 例え四天王がやられたとしても、魔王である自身の強さを誇示すれば、魔王軍の士気低下は軽微に抑えられると踏んでの判断だった。

 

 そしてその判断が

 

 すぐには動けない姿勢で待つことが、魔王ルグラマグナの運命を決定づけてしまった。

 

「……ム? 何ガ来テイルンダ……?」

 

 最初は勇者たちによる戦闘音だと考えていた音。

 しかし、ドドドドと何かが駆けているような音が徐々に大きくなっていくことに、ルグラマグナは違和感を覚えた。

 

 だが、それも時すでに遅し。

 

 突如響いた破砕音とともに、玉座の間を閉ざしていた鉄扉がぶっ飛ばされる光景を目にした。

 同時に目の前に現れた八本足の白馬が、嘶きとともに後ろ足の四本で立ち上がる。

 

 そして、振り上げられた四つの蹄がルグラマグナを踏み潰すと同時に、後続の巨大戦車が潰されたルグラマグナの体をさらに轢き潰し、留めとばかりに巨馬の炎が跡も残さず焼き尽くしてしまう。

 

 ギュンッ、と巨馬が進路を変え、それに合わせてドリフトした戦車が急停止した。

 

 ルグラマグナは、燃えカスすら残らなかった。

 

「蹂・躙・制・覇ぁ!! 魔王討伐、完了ってなぁ!!」

 

「ヒヒィイイイイインッ!!!!」

 

「……え? え、えぇぇぇぇええええええええええ!?!?」

 

 まさに一瞬とも呼べる出来事。

 

 本来起こるはずであった勇者と魔王による壮絶な戦いは起きることすらなく。

 

 勇者とはまったく関係のない異世界からの来訪者によって、人類と魔族による長きにわたる戦いは呆気なく終わりを迎えてしまうのであった。

 

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