轍の覇王は帰還に向けて旅をする~魔王を倒した後の、平和なはずの異世界にて~   作:岳鳥翁

9 / 21
9話:旅準備

 さて、翌日である。

 

 予定通り、少し値は張ったが馬小屋付きの宿で従魔たちのケアと休息をとり、そしてその後は街に繰り出してうまい飯を堪能させてもらった。

 おばあさんの言ってた通りおいしそうな店が多く、迷い迷って肉をメインにしている酒場を選んだのだが、これがまあ美味いこと美味いこと。

 

 焼き加減が絶妙なのか、溢れ出んばかりの肉汁が口の中を満たし、付け合わせのソースはさっぱり系で、これもまぁ肉に合う合う。

 おかげで大きなステーキを二枚ペロリと平らげてしまった。残金は予想以上に減った。

 

 機会があれば、また是非この街で食事をとりたいものだ。まだまだ、行ってない店が多すぎる。

 

「さて、それじゃあ旅の準備を整えてから出発するか。ブーは大人しくここで待っていてくれよ?」

 

「……フンッ」

 

「おいおい、買い物についてこれないからってそう拗ねるなよ。そんなについてきたいなら、端末の方に入れば……」

 

 腰の端末……従魔を収納する機械に手を伸ばす。

 しかし、機械を手にする前にブーが袖を噛んで止めた。どうやら機械の方には入りたくないらしい。

 

「……りょーかい。なら、早めに戻ってくるよ」

 

「ヒンッ」

 

 首筋を優しく叩くように撫でながら声をかければ、ブーが俺の肩に顎を乗せて小さく嘶く。

 名残惜しいが、このままじゃ買い物にも行けないため、最後に軽く鼻先を撫でてから宿を出て街の大通りへと向かった。

 酒場などの飲食店だけでなく、雑貨や衣服、はては武器防具に魔道具とよばれる何らかの魔法的効果が付与された代物を扱う店も豊富だ。

 

「さてそれじゃ、買えるだけ買っていきますかね」

 

 幸いなことに、俺のアイテムボックスには時間の概念がない。そのため生ものでも安心してしまえるのがいいところだな。

 欠点は、すでに枠の大半がゲーム時代のアイテムで埋まってしまっていることだろう。

 

 魔道具の中には、見た目以上に物が入るカバンなどもあるらしいし、できれば異世界で購入したものはそれを使いたいが……値段が高すぎるため手の出しようがない。

 アイテムボックスの空き枠が使えるだけでも良しとしておく。

 

「おっちゃん、これいくら?」

 

「あいよ。お客さん、見る目があるねぇ~! それは――」

 

 大通りを歩きながら、旅に必要になりそうなものを購入していく。

 基本は食料だ。この街の飲食店の料理が美味いのは食材そのもののレベルが高いこともあるのだろう。旅となれば野営も必要になるだろうし、外で美味いものが食えるのはありがたい。

 

 むしろキャンプだな。今からでも楽しみになってくる。

 

「テントもライトも、ゲーム時代のアイテムで代用できるし……雑貨系はそこまで必要はないか? ……いや、食器類は買い足しておくか」

 

 足を止めて目についた雑貨店に入った俺は、そこでいくつかの食器類とこれまた目についたよさそうなアイテムを購入していく。

 

 買い物っていくまでは面倒なのに、いざ行ってみたらつい金を使いすぎてしまうのはなぜなのか。

 手に抱えた購入品を、肩掛けカバンの中へしまう……ふりをして、アイテムボックスへと突っ込んだ。

 

 こんなので目立つなら、いっそのこと「魔道具なんですよこれ~」ということにしておいた方が説明も楽になるはずだ。

 ゲーム云々の説明をされても、こっちの世界の人からすれば「なんじゃそりゃ」って話だろうからな。

 

「さて。だいたい買いたいものも買えたし、そろそろ宿に戻って出発の準備でも……お?」

 

 アイテムボックスの一覧で購入品を確認していると、そこでふと小さな店が目に入った。

 

 何の店かと外から少し覗き見る。

 どうやら本屋だったらしい。店の奥には、起きているのか寝ているのかわからない眼鏡をかけたご老人が鎮座しているのが見えた。

 

「……本か。そういえば、まだ読んだことなかったっけな」

 

 一応この世界の文字が読めることは確認している。

 それがなぜなのか理由は不明だが、俺にとって不便なことではないため、あまり気にせずこの一年を生きてきた。

 

 そもそも、あの事件以降優先して魔族を蹂躙していたからということもある。

 

 だがしかし、せっかく魔王も倒して世の中が落ち着きを取り戻しつつあるのだ。俺もこの世界の文学とやらを、旅のついでに楽しんでいいのかもしれない。

 

「すみません。女神様についての本ってありますか?」

 

 足を踏み入れ、店主であろうご老人に話しかける。

 

 記念すべき一冊目、何を読むのかは決めていた。

 

 この世界における人類の信仰対象。人類の守護者と呼ばれる《女神様》についての本。

 俺自身、《女神の御使い》なんて呼ばれていたと聞くし、気にはなっていたのだ。

 

 人類のため、魔族を打倒す聖剣を授けたという存在。面白いのは、その《女神様》というのが架空の存在ではなく、実在していた存在だということだろう。

 なにせ、その聖剣が実際に存在していたのだから。

 

 ネリーネちゃんのは……たしか、《星の聖剣》だったかな?

 

「そこの棚の、一番下じゃ」

 

 ほれ、と棚を指差してくれた店主に感謝を伝え、俺は指定された棚から本を一冊取り出す。

 タイトルは《女神様の伝説》というシンプルなもの。

 

 初心者なので、最初はこのくらいから簡単そうなのがいいだろう。

 

 ペラリと本を捲った。

 

「立ち読みは禁止じゃい!!」

 

「はいっ! すんません!!!」

 

 俺はすぐに本を買ってお店を飛び出すと、急いで宿へと引き返す。

 

 なお、この世界の本はかなり高いらしい。

 

 ……また金稼ぎを頑張ることにしますかねぇ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。