ラスボスに使い捨てられる悪役中ボスにTS転生したけど、原作キャラを観察しに行きます!   作:恥谷きゆう

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第45話 皮肉

 ギルが16歳の頃。レジスタンスは終わりを迎えた。

 あの日のことは今でも夢に見る。

 

 ギルにとって悪夢だった。

 彼が一度全てを失った日。

 それは、1人の裏切者によってもたらされた。

 

 

 ◇

 

 

 レジスタンスの拠点は警官に見つからないよう地下に位置している。

 とある酒場の隠された地下一階。それがギルたちの拠点だった。

 

 地下室の扉を前にしてギルは小さく呟く。

 

「『自由をこの手に』」

 

 合言葉を口にして開錠を待つ。

 しかし、いつまでも鍵が開く音が聞こえない。

 

 不審に思ったギルがドアノブを捻ると、あっさりとドアが開く。

 

「……?」

 

 不審に思い、中に入る。

 するとギルの鼻に、濃厚な血の匂いが漂ってきた。

 

「ッ!」

 

 ただならぬ状況を察したギルは短剣を片手に中へと入っていく。

 地下室の狭い通路が、ひどく不気味に思えた。

 

 ──最初に目に入ったのは、ケイの死体だった。

 後ろから刃物で心臓を一刺しされている。

 レジスタンスの誰よりも明るく、その場にいるだけで雰囲気を盛り上げてくれた彼女は、虚ろな目をしてこと切れていた。

 

「……」

 

 動揺しつつも、ギルは足を止めない。

 覚悟していたことだ。

 自分たちは皆、明日には死ぬかもしれない危険な身の上。

 

 けれど、昨日まで会話を交わしていた仲間が急にいなくなってしまうことはひどく悲しいことだった。

 

 その後もギルは先に進むたびに仲間の遺体に遭遇した。

 

 それでも、ギルは先へと進む。

 原因を、元凶を突き止めなければ。彼の頭にあるのはそれだけだった。

 

 

 地下室の最奥についた時、彼はようやく襲撃の首謀者を知ることとなる。

 

「フィル……?」

 

 ギルのよく知る男が、そこに立っていた。

 人の良さそうな顔をした20代の男。

 

 引き連れているのは、黒い服にフードで顔を隠した怪しい者たちだ。

 

 状況的に彼がアジトの襲撃を手引きしたのだろう。

 頭では理解しつつも、心が状況を受け入れない。

 ギルは一歩も動けずにいる。

 

 

 襲撃者たちの先にはこのレジスタンスの長、チェンの姿があった。

 

 拘束された彼の指の爪は、10本全て乱暴に剝がされていた。

 何かしらの薬物を投与されたらしく、泡を吹いて白目を剥く彼はとても正気には見えない。

 

「おい、あいつは?」

「──始末してくれ」

 

 こちらを見たフィルが淡々と指示を出す。

 その瞳は、まるで家畜でも見るかのような冷たい光を灯していた。

 

 激しい衝撃を受ける。

 彼のあんな顔を、ギルは一度も見たことがなかった。

 

 

 黒いフードに身を包んだ人物がこちらに向かってくる。

 

 その後いったいどうなったのか、ギルはまったく思い出すことができないでいた。

 

 

 ◇

 

 

 先日の宿屋の摘発から、ヴァンガード教会の暗部のやり口はさらに明らかになっていった。

 

 帝国内で奴隷として売買されていた人々の多くは旧フレイ連邦国──現在の聖王国領フレイ自治区の住民たちだった。

 

 フレイ連邦国は政変による解体の後、自治区として聖王国の領地となった。

 そして今、自治区の住民たちは教会によって次々と奴隷商売の商品とされていた。

 

 改めて突き付けられた事実にギルは歯噛みする。

 もし自分たちが勝利していれば──ギルたちのレジスタンスが政府を打倒していれば、こんな事態にはならなかったはずだ。

 

 守りたかったものを守れなかった。

 そんな思考が彼の頭を蝕む。

 

 ギルはいっそうヴァンガード教会の調査にのめり込んでいった。

 

 

「ここだな」

 

 ギルが見上げたのは、先日の宿屋と同じく奴隷商売のアジトにされている建物だった。

 外見は倉庫のように偽装されていて、今まで帝国の検挙を免れていたアジトだ。

 

 ギルの後ろには鎧で身を包んだ騎士たちが控えている。

 リオやローラ、フレンの姿はない。

 

 今回のアジトの検挙について、ギルは仲間たちに伝えていなかった。

 彼としては、先日かなり消耗していたローラを心配してのことだった。

 

 小規模なアジトだから、自分1人で十分だ。

 そう思ったギルは1人でここに立っていた。

 

「俺が先行する」

「かしこまりました。ご武運を」

 

 ギルが倉庫の扉を乱暴に蹴り開ける。

 

 短剣を手に中へと入るギルを迎えたのは、複数の魔法による集中砲火だった。

 炎弾が飛び込むのと同時、電撃が走る。トドメとばかりに建物ごと吹き飛ばしかねないほどに暴風が吹き荒れる。

 

「ギル殿!?」

「ッ……待ち伏せだ!」

「馬鹿な……そんな時間はなかったはず……!」

 

 砂埃が立ち昇る。

 爆発の中心部に立っていたギルは、間一髪でその場に伏せることでダメージを最小限に抑えていた。

 

「チッ……」

 

 しかしその体には傷が目立つ。

 額を切ったらしく顔は血で濡れていて、右腕にも大きな裂傷がある。

 

「──そこか」

 

 敵の配置を把握したギルが駆け出した。

 その視界の先には、先制攻撃を仕掛けてきた魔術師の1人がいた。

 

「フッ……!」

 

 負傷しているにも関わらず、ギルの動きは俊敏だった。次の魔法を撃つ暇すら与えずに肉薄し、短剣による一閃。

 的確に喉元を切り裂いた切っ先は、一撃で敵を絶命させた。

 

「『炎よ──』」

 

 突撃して来たギルに対して、他の魔術師が攻撃を試みる。

 詠唱が完了すると、炎の魔法が放たれる。

 

 先程ギルに大きなダメージを与えた魔法だ。

 しかし、ギルはそれが分かっていたかのように跳躍して爆風を回避すると一瞬で術者に肉薄した。

 

「なっ!?」

 

 再び短剣が閃き、喉をかっさばく。

 その後もギルは俊敏な動きで次々と魔術師を殺して回った。

 

 ソウルライト持ちはいないようだ。

 であれば、ギルの身体能力で圧倒できる。

 

「ふぅ……」

 

 最後の1人の息の根を止めたギルが小さく息を吐く。

 ダメージは受けたが、動きに支障が出るほどではない。

 

 暗い倉庫内には、既に敵の姿はない。

 ──そう考えていたギルは、油断していたのだろう。

 

「う、おおおおお!」

 

 暗がりから飛び出した男が、ナイフを持って襲い掛かってきた。

 

 準備万端のギルであれば、難なく回避できる攻撃だった。

 しかし、わずかに緊張を緩めていたギルは反応が遅れてしまった。

 

「ッ!」

 

 ナイフが刺さる衝撃に身を固くし──直後、想像していなかった光景に目を見開いた。

 

「──油断なんて、らしくもない」

「ブルーム……」

 

 どこからともなく現れた白髪の少女が、男に鎌を突き立てていた。

 音もなく忍び寄り一撃で命を刈り取るその姿は、まさしく死神のようだった。

 

 その光景を見たギルの胸には、様々な感情が湧き上がった。

 半ば無意識に、彼は口を開く。

 

「よ──」

「余計なお世話、でしょ?」

 

 ギルの言葉を先読みしたブルームが無表情に言う。

 幾分か冷静さを取り戻したギルは、バツが悪そうに目を逸らした。

 

「いや、助かった。……なあ、俺をつけてきたんだろ?」

 

 こんな都合の良いタイミングで現れるということは、おそらく最初から観察していたのだろう。

 ギルが1人で無理をしようとしているのを察して、助けに入れるようにしていた。

 

 そのことに不快感を覚える。

 まるで親が子の遊びをハラハラと見守っているようだ。

 

「怒っている?」

「……そうだな。さっきの攻撃はたしかに痛手になっただろうが、死ぬことはなかった。生意気にも『余計なお世話』と思ったのは事実だ」

 

 皮肉げな笑みを浮かべてギルは語る。かなり攻撃的な態度になっていることは自覚している。

 しかし、その言葉を聞いてもブルームは無表情のまま。

 その様がいっそうギルを苛立たせる。

 

「なんでこんなことしたんだ。お前は熱心な正義感で動くような奴じゃないだろ」

「……」

 

 口を閉ざしたブルームは、しばらく考え込んだ後でポツリと言った。

 

「私にも分からない。こんなことする気じゃなかった。……でも、あなたが傷つけば悲しむ人がいる」

「ハッ! そんなのお前にだけは言われたくないな!」

 

 ギルがブルームを睨みつける。言葉には、普段はまったく見せない敵意が籠っていた。

 勝手に行動して散々フレンに心配をかけたのはお前だろ。瞳でそう語りかける。

 

「そうだね」

 

 ブルームは反論するわけでもなく、怒るわけでもなく頷いた。依然として表情に変わりはない。

 その様子にギルは苛立ちをさらに加速させる。

 

「お前も似たようなものだろ。口出しするな」

「そうだね。よく似ている」

 

 そこまで淡々と話していたブルームは、一旦言葉を区切ってギルの目を真っ直ぐに見た。

 

「──ねえ、ギル。復讐にのめり込めば現実が見えなくて気持ちがいい? お酒とどっちがいい?」

「──テメエ」

 

 もはや我慢できなかったギルは短剣を構えた。

 核心をついた言葉は彼を激しく動揺させた。

 ブルームは彼の殺意を感じ取ってもまったく動揺した様子を見せない。

 

 突如として、ブルームの足元から霧が現れた。彼女がいつも戦闘時に使っているものだ。

 霧が一瞬にしてギルの視界を遮り──視界が晴れた時には、ブルームの姿は既にそこにはなかった。

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