ラスボスに使い捨てられる悪役中ボスにTS転生したけど、原作キャラを観察しに行きます!   作:恥谷きゆう

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第46話 月下の逢瀬のような

「フレン、大丈夫かな……」

 

 満月の夜。

 俺はコソコソと外に出て森の中を歩いていた。

 俺がここにいるのは、原作イベントが発生することを知っているからだ。

 

 突然大怪我をして宿へと帰ってきたギル。

 リオやローラは彼に事情を聞くが、ギルは頑なに詳細を話さない。

 プリプリと怒るローラから絶対安静を言い渡されたギルだが、真夜中にこっそりと病床を抜け出してしまう。

 

 満月を眺めて物思いに耽るギル。

 そんな彼の元に、フレンがゆっくりと近づいていく。

 真夜中、2人は静かに言葉を交わす。

 それはまるで月下の逢瀬のようで、幻想的で、感傷的で、美しくて……。

 

 ああ、早く見たいなぁ、あの名場面! 

 俺はワクワクしながら目的地へと歩みを進める。

 

 やがて、ギルの姿が見えてくる。

 彼は満月を見つめて物思いに耽っているようだ。

 

 俺は気配を隠して茂みに隠れる。

 しばらくすると、どこからか声がした。

 

 

 ◇

 

 

「──病人がこんなところで何をしているのですか?」

「……フレン」

 

 ギルが振り返ると、その先には感情の読めない笑顔を浮かべたフレンの姿があった。

 

「ローラさんが一生懸命に説明してくださっていましたよね。あなたの傷はもう塞がっているけれど、失った血液やエネルギーは簡単には戻らない。しばらく安静にする必要がある、と」

「あー、そんなこと言ってたかもな」

 

 気まずそうに顔を逸らすギル。

 フレンは先程の感情の読めない笑顔のままだ。

 

「あまりジッとしていられる気分でもなくてな。あいつらに迷惑はかけない」

「迷惑ですとか、そのような話はしていません……」

 

 フレンは抗議するように言うが、ギルはその言葉に答えようとしなかった。

 

「……そんなにも、あなたにとって過去は重要ですか?」

「ああ。俺はあいつを殺さなければならない」

 

 ギルは再び満月に目をやる。

 きっと、彼の頭にあるのは昔のことだけだ。

 

「『黒牧師トレイター』は俺の仲間だった。……仲間だと、思っていた。俺は奴と一緒なら世界を変えられると思っていたし、あいつも同じだと思っていた」

 

 ギルの中にあったのはトレイター、つまりフィルへの信頼だった。

 その愚かさを、彼は呪わずにはいられない。

 

「でも、実際は違った。あいつは3年近く共に戦った仲間を敵に売った。俺はそんな奴を信頼していた過去の俺が憎い。俺が最初からあいつの本性に気づいていれば、あるいは仲間たちは……」

「──変えられない過去のことを考えても仕方ない。そうは思いませんか?」

 

 フレンの言葉には挑発的な色が含まれていた。

 ギルは彼女をじろりと睨む。

 

「そんな簡単に片づけられるわけないだろ。……何人も死んだんだよ、仲間が」

 

 あの光景は未だにギルの頭に焼き付いている。

 

 隠れ家の中で起こった殺戮。冷たくなった仲間たち。

 ギルの心は未だにあの日に囚われたままだ。

 

「子どもの未来のために戦った奴。恋人の仇を取るために立ち上がった奴。隣人の為に安定した生活を捨てた奴。そいつらは全員死んだ。──全部、あの裏切者のせいだ。俺が生き残ったのは、きっとあいつに報いを受けさせるためだ」

「……」

 

 ギルの執念に直接聞いたフレンは、しばらく何も言えなかった。

 彼の瞳には、年単位で凝縮された憎悪が籠っていた。

 

 フレンはそれに見覚えがあった。

 それは、ブルームが時折見せる空虚な瞳の色によく似ていた。

 

 復讐者の瞳だ。

 フレンはそう直感した。

 

 

 

 ──尚、フレンがたまに見かけるブルームの空虚な瞳は妄想に耽ってボーっとしている時の目である。

 彼女にそれを知る術はなかった。

 

 

 

「だから俺のことは気にしなくていい。俺は俺の過去の清算をしているだけだ。裏切者を殺す。それさえできれば後はどうなってもいい。お前らには関係のないことだ」

「……それは」

 

 ギルの突き放すような言葉に、フレンは返す言葉をもたない。

 彼は復讐を、死んだ仲間に報いることを己の人生の意味と決めてしまった。

 それは、彼の過去を知らないフレンに否定できるものではない。

 

 ──ただ、それでも。

 フレンは踏み込みたいと思った。

 

「……いや、ですよ。関係ないなんて言えるわけないじゃないですか。どうしてそんな風に突き放すんですか……!」

「フレン……?」

 

 フレンの顔には、既にいつも浮かべている余裕はなかった。

 涙すら混じった瞳で、ギルをじっと見つめる。

 

 普段とはまったく違う彼女の姿に、ギルは思わず固まってしまった。

 

「そんなに薄情になれるわけないじゃないですか……見捨てられるわけないじゃないですか……どうしてあなたは、あなたたちは、そんなことを言ってばかりで……!」

 

 フレンの涙の混じった目に見つめられたギルは、心臓が跳ね上がったような感覚を覚える。

 それは彼が祖国を追われてから直視していなかったもの──真っ直ぐに自分を案ずる瞳だった。

 

 感情的に言い切ったフレンは、自分を落ち着かせるように小さく深呼吸した。

 

「──私は決めたのです。あなたたちがそうやって自分勝手に自分を蔑ろにするのなら、私も自分勝手にします。私は、私が正しいと思うことをします」

 

 他ならぬブルームが言ってくれた。

 

 

『フレンはフレンの正しいと思うことをやればいいと思う。それがあなただから』

 

 

 フレンは語気を強めて言葉を続ける。

 

「自分勝手でも、迷惑でも、あなたに正しくないと言われても、あなたの心配をします」

「……」

「だからギルさん。まずは話してくださいませんか。あなたの過去に何があって、今それをどんな風に悔やんでいるのか。私にあなたの苦痛を教えて、背負わせてください。私がそうして欲しいのです」

 

 フレンの真っ直ぐな瞳に、ギルは何も言い返すことができなかった。

 まるで吸い込まれてしまいそうな錯覚。

 

「──」

 

 気づけば、ギルはポツリポツリと話し始めていた。

 今まで誰にも話していなかった、過去の後悔を。

 

 

 月明かりが2人を優しく照らし続ける。

 虫の音すら彼らの耳には入らない。

 

 その姿を鼻息荒く見つめるストーカー少女の存在になど、気づけるはずもなかった。

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