ラスボスに使い捨てられる悪役中ボスにTS転生したけど、原作キャラを観察しに行きます!   作:恥谷きゆう

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第55話 結末と自傷

「ッ……」

 

 絶対の死をもたらす『死神の大鎌』が少女の首を跳ね飛ばした。

 

 決着はついた。

 そう悟った俺は、その場に崩れ落ちた。

 

 無理に動いたせいで傷口からの出血がさらに増えた。

 出血多量による脱力感と眩暈で、しばらくまともに動けそうにない。

 それに、あまり立ち上がる気にもなれなかった。

 

 「……私がここにいれば、不幸になる人もいる」

 

 先程の少女の顛末を考えて、俺はポツリと呟いた。

 血の槍を扱う少女は、俺の知る原作には一度も登場しなかった人物だ。

 

 多分、ミレディが俺を殺す為に用意した刺客だ。

 ミレディが自国の民を兵器で犠牲にすることはよく知っている。

 

 俺という存在がいたことによって発生したイレギュラー。

 それが1人の少女の命を奪った。

 

 『――ねえ。その馬鹿な自罰辞めない? こっちまで憂鬱になってくる』

 

 急に声がして驚く。

 頭の中に直接響くかのような声は、本来のブルームが俺の内側から発したものだった。

 俺から話しかけても一向に応じなかった彼女だが、今は話をする気分のようだ。

 

 『自分で言ったでしょ。現実にIF(もしも)はないって』

 「……うん」

 

 返答しつつも、俺は彼女の言葉に完全に同意できないでいた。

 おそらく、彼女と俺の現実の認識はかなり違うものだと思う。

 

 俺はこの世界の異物だ。

 訳も分からないまま違う世界に来た。

 その影響が、今になって大きくなってきている。

 

 『もしかして、転生がどうとか考えてる?』

 「ッ……! 知っていたの?」

 『まあ』

 

 大したことでもないように告げるブルームの言葉に衝撃を受ける。

 この世界の事を創作物として知っている、なんて誰にも言うことはないと思っていた。

 

 「それなら、分かるでしょ?」

 

 既に吸血鬼となってしまった少女を見逃す訳にはいかなかった。

 今ここにいる彼女を前にして『もしも』を考えるのは意味のないこと。

 

 ただ、最初から俺がいなければ、彼女はミレディの尖兵になっていなかったかもしれない。

 しかし、彼女の返答はそっけなかった。

 

 『分からない。それって今生きている世界に関係ある?』

「関係って……」

 

 なんと言い返していいのか分からず、言葉に詰まる。

 

『どこかの知らない誰かが死んだことにいちいち責任を感じるなんて馬鹿げてる。そんなに自罰が好きなら手首でも切っておけば?』

 

 冷たく突き放すような物言いは、しかし彼女の気遣いを感じさせるものだった。

 

 「……考えておく」

 

 そう答えると、ため息をするような気配がする。

 それ以降、本来のブルームは一言も発しなくなった。

 

 ぼんやりとした頭で、先程の問答を反芻する。

 やがて遠くからローラの声が聞こえて気がしてから、俺は安心して気を失った。

 

 

 ◇

 

 

「もう、なんで皆ボロボロになって帰ってくるの? 治療する私の身にもなってほしいな!?」

 

 起きた俺を見たローラの開口一番はこれだった。

 

 怒ったような、そして泣きそうな顔をしながらも、彼女は病床の俺に抱きついてきた。

 まるで俺がここに存在し、生きていることを確認するような、力強い包容だった。

 

 うあああ、推しの匂いだ……!

 正体不明の甘い匂いが俺の情緒を狂わせる。

 

 全身から感じられる柔らかくて温かい感触。

 包み込まれるような不思議な安心感に、もう一度眠ってしまいそうな気すらしてくる。

 

「――お目ざめになったのですね」

 

 幸福な時間を過ごしていると、遠くからフレンの声が聞こえた。

 

 それを聞いた途端、ローラは凄まじい勢いで俺から離れて行った。

 アッ、推しの匂いが……!

 

「ち、違うのフレンちゃん! これは無事に目覚めてくれた安心感からちょっと抱き着いちゃっただけで……別に取ろうとか考えてないから!」

 「何を言っているのですか……?」

 

 慌てて捲し立てるローラに、フレンは首を傾げた。

 

「そうだよローラ。意味不明」

「この……くっ……」

 

 俺の顔を見てなぜか唸っていたローラは、やがて諦めたようにその場に座った。

 気を取り直したように俺に向き直って、真面目な顔を作る。

 

「ブルームちゃん。いつものことだけど、傷が塞がってもってすぐに動き回っちゃダメだからね」

「うん」

 

 俺がまだぼんやりとする意識で答えると、ローラはぐいと俺の顔を覗き込んだ。

 

「本当に分かってる? 血が足りないと思うから、よく食べてよく寝てね。野菜とかよく取ってね。緑色のやつとか。あ、あとお肉! ブルームちゃん小食なんだからこれを機に少しはお肉を――」

 「わ、分かったから」

 

 急に何かのスイッチが入ったらしいローラの勢いにたじろぐ。

 そんな風に食生活についてあれこれ言われると、病弱だった前世のことを思い出すな。

 

 別に多少食事に気を遣ったところで俺の体調がよくなるわけでもないのに、あれこれとクドクド言われて、律儀にそれを守っていたっけ。

 どうせ死ぬなら好きなもの食べれば良かったなあ。

 

 「あ、あれ……ごめん、ブルームちゃん。気に障ったなら忘れて。できればそうした方がいいよーってだけだから!」

 

 俺が少しばかり物思いに耽っていると、ローラが何やら慌てた様子で話しかけてきた。

 どうやら、俺が黙り込んだので発言が気に障ったと思ったらしい。

 勘違いされているようなので俺は首を横に振る。

 

 「違う。少し昔のこと思い出しただけ。ローラは悪くない」

 「そ、そう? 珍しいね」

 

 珍しい。

 確かにそうかもしれない。

 今の推しカプを間近で眺められる状況が幸せだったので、しょうもない人生だった前世のことなんて全然考えていなかった。

 

 その原因は、多分改めて自分がこの世界の異物であることを意識したことかもしれない。

 

 「ローラさん。ブルームさんはまだ本調子ではないようです。少し休ませてあげてはいかがでしょうか」

 「え? ……あ、うん。そうだね!」

 

 俺の様子を見たフレンがローラに声をかける。

 2人は一旦俺を1人にすることに決めたようだ。

 

 その様子を見ていると、ふと前世の光景が思い起こされた。

 誰もいなくなって病室に、1人でいる俺の姿。がらんとした部屋はひどく広く感じられて――

 

 「……さびしい」

 

 思わずポツリと呟くと、フレンがこちらを振り返った。

 

 「いえ、せっかくですからもう少しお話していきましょうか。ブルームさんに伝えなければならないこともありましたからね」

 「え? ええ!?」

 

 急に言葉を翻したフレンに、ローラは目をまん丸にして驚いていた。

 

 「ね、ブルームさん」

 「……」

 

 やっぱり、先程の言葉を聞かれてしまったみたいだ。

 彼女の視線から、どことなく微笑ましいものを見るような気配がする。

 

 ……なんだこれは。新しい羞恥プレイか。

 顔が熱くなるのを感じる。

 

 俺はせめてもの照れ隠しに、彼女から顔を逸らすことにした。

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