ラスボスに使い捨てられる悪役中ボスにTS転生したけど、原作キャラを観察しに行きます! 作:恥谷きゆう
それから、ショーは村の色々なところを案内した。
特別見応えのあるようなものは特になかった、とショーは思っている。
古びた井戸、使い古された農耕具、質素な服を来た村人たち。
それでも、少女はまるでそれが新鮮なものであるようにショーの話を真剣に聞いていたように見えた。
どうやらありふれた農具もあまり見たことがないようだ。
やはり彼女は高貴な家の出身なのだろうか。
着ている服はそれなりに綺麗だし、何よりその美貌は一国の姫君でもおかしくないほどだ。少なくともショーはそう考えていた。
となると、彼女は今日が終われば自分の居場所に戻って行ってしまうのかもしれない。
これが箱入りお嬢様の一日限りの外遊だったと考えれば辻褄が合う。
もう二度と彼女とは会えないかもしれない。
その考えに至ると、ショーは焦りを感じた。
もう二度と彼女の姿を見ることができない。
美しいかんばせにたじろぐことも、不思議な色をした瞳を見ることも、美しい声を聞くこともできない。
改めて、思う。
やっぱり僕は、ナナシのことが好きだ。
自分から離れないで欲しい。ずっと一緒にいて欲しい。彼女の謎めいた内面を、もっと深くまで知ってみたい。
今日が終わってしまう前に、彼女に告白しよう。
ショーはそんな決意を胸に抱いて、少女の隣を歩いていた。
◇
村のものを一通り回った後、俺は案内してくれた少年に改めてお礼をしていた。
「ありがとう。おかげで、普通のもの沢山見れた」
ここで見たものは、改めて俺がこの世界に生きている実感をくれた。
少なくとも、あの少女を殺した罪悪感が少し楽になった気がする。
そんな感謝を精一杯籠めたはずだが、少年はちょっと微妙な顔をしていた。
「普通の……? はい、まあ喜んでもらえたのなら良かったです。その、まだ時間があれば街の方まで行くこともできますけど……」
「大丈夫。そろそろ帰らないと」
既に太陽がだいぶ傾いている。
そろそろ帰らなければ、フレンあたりにまた怒られてしまいそうだ。
俺の言葉を聞いた少年はひどく残念そうな表情をした。
「その、またここに来たり……しますか?」
「しないと思う」
平和に暮らしていると忘れそうになるが、俺はラスボス様に命を狙われる身の上だ。
今日は息抜きとして立ち寄ったが、何度もここに通っていると待ち伏せされる危険性もある。
この長閑な田舎町を戦いに巻き込むわけにはいかないのだ。
俺の返答を聞くと、少年は何やら真剣な表情でこちらを見つめていた。
「その、実は伝えたいことがッ……あります!」
「……? うん」
急に大声を出して、いったいどうした。
彼の顔をじっと見つめると、なぜか頬を赤らめて顔を逸らされる。
挙動不審だな。トイレ?
「その、僕は、君のことがッ……!」
え、俺?
なんだなんだ。
まるで魚のように、少年は何回か口をパクパクさせた。
言いたいことはあるが、中々言葉に出せない。そんな様子だろうか。
やっぱりトイレ?
「……?」
首を傾げて先を促すと、彼は意を決したように深呼吸をした。
「す、好きです!」
「…………?」
彼が何を言っているのか分からず、俺はしばらくの間固まってしまった。
しばらくすると、あまりにも俺の思考停止が長かったのか、彼が困惑した声で聞いてくる。
「あ、その、返事とか……」
「…………」
もしかして俺は、異性として告白されたのだろうか?
ど、どうすればいいんだ……。
俺の意識は未だに男である以上、男が恋愛対象になることはない。
なんか申し訳ないことしちゃったな……。
中身がこんな感じでごめん……。
少年は真剣な表情で俺を見つめていた。
罪悪感がすごい。素直に『男は恋愛対象じゃないんだ』と言うのも気が引ける。
困り果ててしまった俺は、1つの解決策を思いついた。
「『死を告げる霧よ』」
「き、霧!?」
霧を展開すると同時に俺はピューッと逃走することにした。
ごめん少年。次はちゃんとした女の子を好きになるんだぞ。
「今日のことは夢だったとでも思って欲しい」
我ながら最低である。
霧に乗じてその場を脱出し、田舎道を全力疾走。
そのまま俺は、少年の視界から逃げるように帝都へと帰って行った。
『……意気地なし』
俺の中から、呆れた声が聞こえてきた気がした。
◇
「き、霧!?」
少女が何か呟いた瞬間、真っ白な霧がショーの視界を覆った。
何が起こったか分からないショーは、困惑しながら辺りを見渡す。
予想外の出来事に体を固くするショー。その耳元に、静かな声が聞こえてきた。
「今日のことは夢だったと思って欲しい」
――静かだが、悔しさの滲んだ言葉だった。
霧の中に響いた彼女の声からは、苦渋の決断を下した気配があった。
少なくともショーはそう思っていた。
やはり、彼女は商人の跡取りとは釣り合わないような高い身分の人だったのだろう。
ショーは鋭い推理力を発揮する。
少なくとも本人はそう思っていた。
おそらく彼女はショーが不幸にならないために身を引いてくれたのだ。
告白を受けてしまえば、身分違いの恋愛に互いが苦しむことになるから。
はっきりと断りの言葉を言わなかったのは、彼女としても自分との関係性を終わらせたくなかったからだ。
ショーは商人として培った知識からそう推定する。
あるいはショーが彼女に釣り合う身分を手に入れれば、結ばれることができるかもしれない。
「……そうか」
霧が晴れる。既に少女の姿はどこにもなかった。
少年は新たな決意を胸に夕焼けを見る。
商人として大成して、ゆくゆくは貴族位を手に入れる。
それこそが、これからの自分の為すべきことだ。
そうしていつか、彼女を見つけて求婚するのだ。
その勘違いは、少なくともショーがこれからの日々を頑張る活力にはなった。