ラスボスに使い捨てられる悪役中ボスにTS転生したけど、原作キャラを観察しに行きます!   作:恥谷きゆう

58 / 58
第58話 恋の行方

 それから、ショーは村の色々なところを案内した。

 特別見応えのあるようなものは特になかった、とショーは思っている。

 古びた井戸、使い古された農耕具、質素な服を来た村人たち。

 

 

 それでも、少女はまるでそれが新鮮なものであるようにショーの話を真剣に聞いていたように見えた。

 どうやらありふれた農具もあまり見たことがないようだ。

 

 やはり彼女は高貴な家の出身なのだろうか。

 着ている服はそれなりに綺麗だし、何よりその美貌は一国の姫君でもおかしくないほどだ。少なくともショーはそう考えていた。

 

 となると、彼女は今日が終われば自分の居場所に戻って行ってしまうのかもしれない。

 これが箱入りお嬢様の一日限りの外遊だったと考えれば辻褄が合う。

 

 もう二度と彼女とは会えないかもしれない。

 

 その考えに至ると、ショーは焦りを感じた。

 

 もう二度と彼女の姿を見ることができない。

 美しいかんばせにたじろぐことも、不思議な色をした瞳を見ることも、美しい声を聞くこともできない。

 

 改めて、思う。

 やっぱり僕は、ナナシのことが好きだ。

 

 自分から離れないで欲しい。ずっと一緒にいて欲しい。彼女の謎めいた内面を、もっと深くまで知ってみたい。

 

 今日が終わってしまう前に、彼女に告白しよう。

 

 ショーはそんな決意を胸に抱いて、少女の隣を歩いていた。

 

 

 ◇

 

 

 村のものを一通り回った後、俺は案内してくれた少年に改めてお礼をしていた。

 

 「ありがとう。おかげで、普通のもの沢山見れた」

 

 ここで見たものは、改めて俺がこの世界に生きている実感をくれた。

 少なくとも、あの少女を殺した罪悪感が少し楽になった気がする。

 

 そんな感謝を精一杯籠めたはずだが、少年はちょっと微妙な顔をしていた。

 

 「普通の……? はい、まあ喜んでもらえたのなら良かったです。その、まだ時間があれば街の方まで行くこともできますけど……」

 「大丈夫。そろそろ帰らないと」

 

 既に太陽がだいぶ傾いている。

 そろそろ帰らなければ、フレンあたりにまた怒られてしまいそうだ。

 

 俺の言葉を聞いた少年はひどく残念そうな表情をした。

 

 「その、またここに来たり……しますか?」

 「しないと思う」

 

 平和に暮らしていると忘れそうになるが、俺はラスボス様に命を狙われる身の上だ。

 今日は息抜きとして立ち寄ったが、何度もここに通っていると待ち伏せされる危険性もある。

 

 この長閑な田舎町を戦いに巻き込むわけにはいかないのだ。

 

 俺の返答を聞くと、少年は何やら真剣な表情でこちらを見つめていた。

 

 「その、実は伝えたいことがッ……あります!」

 「……? うん」

 

 急に大声を出して、いったいどうした。

 彼の顔をじっと見つめると、なぜか頬を赤らめて顔を逸らされる。

 挙動不審だな。トイレ?

 

 「その、僕は、君のことがッ……!」

 

 え、俺?

 なんだなんだ。

 

 まるで魚のように、少年は何回か口をパクパクさせた。

 言いたいことはあるが、中々言葉に出せない。そんな様子だろうか。

 やっぱりトイレ?

 

 「……?」

 

 首を傾げて先を促すと、彼は意を決したように深呼吸をした。

 

「す、好きです!」

「…………?」

 

 彼が何を言っているのか分からず、俺はしばらくの間固まってしまった。

 しばらくすると、あまりにも俺の思考停止が長かったのか、彼が困惑した声で聞いてくる。

 

「あ、その、返事とか……」

「…………」

 

 もしかして俺は、異性として告白されたのだろうか?

 ど、どうすればいいんだ……。

 

 俺の意識は未だに男である以上、男が恋愛対象になることはない。

 なんか申し訳ないことしちゃったな……。

 中身がこんな感じでごめん……。

 

 少年は真剣な表情で俺を見つめていた。

 罪悪感がすごい。素直に『男は恋愛対象じゃないんだ』と言うのも気が引ける。

 

 困り果ててしまった俺は、1つの解決策を思いついた。

 

 「『死を告げる霧よ』」

 「き、霧!?」

 

 霧を展開すると同時に俺はピューッと逃走することにした。

 ごめん少年。次はちゃんとした女の子を好きになるんだぞ。

 

 「今日のことは夢だったとでも思って欲しい」

 

 我ながら最低である。

 霧に乗じてその場を脱出し、田舎道を全力疾走。

 そのまま俺は、少年の視界から逃げるように帝都へと帰って行った。

 

 

 『……意気地なし』

 

 俺の中から、呆れた声が聞こえてきた気がした。

 

 

 ◇

 

 

 「き、霧!?」

 

 少女が何か呟いた瞬間、真っ白な霧がショーの視界を覆った。

 何が起こったか分からないショーは、困惑しながら辺りを見渡す。

 

 予想外の出来事に体を固くするショー。その耳元に、静かな声が聞こえてきた。

 

「今日のことは夢だったと思って欲しい」

 

 ――静かだが、悔しさの滲んだ言葉だった。

 霧の中に響いた彼女の声からは、苦渋の決断を下した気配があった。

 少なくともショーはそう思っていた。

 

 やはり、彼女は商人の跡取りとは釣り合わないような高い身分の人だったのだろう。

 ショーは鋭い推理力を発揮する。

 少なくとも本人はそう思っていた。

 

 おそらく彼女はショーが不幸にならないために身を引いてくれたのだ。

 告白を受けてしまえば、身分違いの恋愛に互いが苦しむことになるから。

 はっきりと断りの言葉を言わなかったのは、彼女としても自分との関係性を終わらせたくなかったからだ。

 ショーは商人として培った知識からそう推定する。

 

 あるいはショーが彼女に釣り合う身分を手に入れれば、結ばれることができるかもしれない。

 

 

 「……そうか」

 

 霧が晴れる。既に少女の姿はどこにもなかった。

 少年は新たな決意を胸に夕焼けを見る。

 

 商人として大成して、ゆくゆくは貴族位を手に入れる。

 それこそが、これからの自分の為すべきことだ。

 

 そうしていつか、彼女を見つけて求婚するのだ。

 

 

 

 その勘違いは、少なくともショーがこれからの日々を頑張る活力にはなった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

余命僅かなTS悪役令嬢は、生きる為に吐血魔法で聖女と勘違いされる(作者:実験体G)(オリジナルファンタジー/コメディ)

効率厨のゲーマーが転生したのは、魔法を使うたびにHP(寿命)が減る欠陥持ちの悪役令嬢。▼生き残るために「HP変換魔法」で血を吐きながら戦う彼女を、周囲は「身を削る慈愛の聖女」と勘違いして狂信していく。▼本人は裏で特製ポーションを飲んでケロッとしているだけの、すれ違い英雄譚。


総合評価:2172/評価:8.1/連載:16話/更新日時:2026年03月23日(月) 19:01 小説情報

最強の黒騎士の中身がTS少女だと気づかれてはいけない理由 (作者:でかそう)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

辺境の地で現れる最強の黒騎士。▼街行く人々から畏怖される黒騎士の正体は、異世界から転生してしまった俺であった。▼更にひょんなことで女体化してしまった俺は、周りの目を盗んでは黒騎士に変身して日夜人々を守っているのだが、どうやっても黒騎士の評価が良くなる事は無い。▼それ所か益々周りの人間から嫌われてしまう黒騎士。▼何故ここまで嫌われているのか!?▼このままじゃ黒…


総合評価:1628/評価:6.96/連載:158話/更新日時:2026年06月11日(木) 07:43 小説情報

ネコミミ美少女に進化してヒロイン達から勇者を奪うペット枠に転生したので未来を変えたい(作者:日ノ 九鳥)(オリジナルファンタジー/コメディ)

目も見えない子猫の魔物に転生したミーニャ。運よく通りかかった人間たち——しかも勇者パーティに、愛らしい見た目のおかげで拾ってもらうことに成功する。▼勇者とその仲間——女騎士、聖女、魔導士の三人娘に可愛がられ、チヤホヤされる日々。これぞペット冥利に尽きる幸せな生活!▼ところがある日、戦闘後の経験値で進化し、ついに視力を獲得。初めて見たパーティメンバーの顔に、ミ…


総合評価:2380/評価:8.42/完結:11話/更新日時:2026年01月15日(木) 19:36 小説情報

ゲームキャラのメイドにTS転生した(作者:おおは)(オリジナル現代/冒険・バトル)

気づいたらTS転生した。▼しかも、転生先は昔やりまくったゲームのメイドキャラクター。▼地球っぽいがダンジョンのある世界で、雇い主を探したい。▼……レベルカンストしてるけど。▼※カクヨムにも投稿しています


総合評価:1913/評価:7.36/連載:15話/更新日時:2026年05月24日(日) 22:35 小説情報

強化人間がTSしたら魔法少女が戦う世界でメカ美少女になってました(作者:Yura0628)(オリジナル現代/冒険・バトル)

ミサイルの爆発に巻き込まれた強化人間イーグル1。目覚めた先は、魔法少女が戦う過去の地球だった…!▼自身の体が女性に成っている事に困惑しつつ、元の世界に戻るため、イーグル1は魔法少女として戦う事の対価に、この世界の組織に協力を取り付ける。だが、襲いくる強力な魔獣を相手していく上で、身体的損傷を許さざるを得ない状況に追い込まれ…彼女に救われた魔法少女達は、目から…


総合評価:1912/評価:8.5/連載:37話/更新日時:2026年05月09日(土) 11:11 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>