ラスボスに使い捨てられる悪役中ボスにTS転生したけど、原作キャラを観察しに行きます! 作:恥谷きゆう
リオグレンは今日も夢を見た。
最近の彼が見る夢は、平行世界の己の記憶だ。
違う未来を辿った自分の記憶。自分のようで自分でない、他の世界の記憶だ。
ソウルライトを覚醒させて以来、リオの頭には度々知らないはずの記憶が流れ込んでくる。
その力はリオに幼馴染を護る力を与えたが、同時に彼の精神を不安定にさせた。
今日見た夢は、特によく見るものだった。
おそらく、それだけ強烈な記憶だったのだろう。
病床に眠る自分と、それを看病する女の夢だ。
◇
「──アンタ、また剣を振ろうとしただろ? 言ったじゃないか。その体じゃ剣を振ることは愚か、歩くことも困難だって」
聞いているだけで不思議と安心できるような、落ち着きのある声がリオに投げかけられた。
この世界線のリオは、しゃがれた声で静かに返す。
「まだ……まだローラを助けられていない……僕は、戦わなきゃ」
「ダメだよ。……世界は、もうおわったんだからさ」
女性が部屋の外を見た。
そこには、ミレディの野望が叶い吸血鬼が支配した世界が広がっているのだろう。
リオが負けたということは、そういうことだ。
その結末について、夢を見るリオはあまり覚えていない。
ただ、ローラを救えなかった後悔だけが感じられる。
「アンタはいっぱい頑張ったんだ。少しくらい休んだっていい」
リオの魂はその言葉を否定している。
諦めたくない。
けれど、体は限界を訴えていた。
呼吸するたびに肺が痛む。右足の感覚はない。
『不屈』の魂を持つと言えど、苦しみを感じないわけがない。
だからこそ、女性の言葉が心地よかった。
彼女が本心から自分を案じ、そして愛してくれていることが分かる。
「……僕は、あなたに何も返すことはできない」
「アンタの一番が変わらないのは良く知ってるよ。ただ、私はアンタのそばにいれればいいんだよ。──これはただ、喪ってしまったアタシたちが余生を心地よく生きるための関係性なんだから」
女がゆっくりとリオに覆いかぶさる。
唇にそっと唇が重ねられ──
◇
帝都の食堂は朝から活気に溢れている。
朝食をテキパキと準備する料理人たちや、あくびを嚙み殺しながらスープを啜る客。
そんな人々の中に、2人の姿もあった。
「リオ、ちょっと顔色悪くない? 大丈夫?」
「うん。ちょっと夢見が悪かったっていうか……」
ローラの問いかけに対して、リオはどこかバツの悪そうな顔で答えた。
たしかに声にも元気がないように聞こえる。
その様子を見たローラは心配そうに眉を下げる。
どうにか彼を元気づけたい。
そう思い思考を巡らした彼女は、やがて『名案を思いついた』とばかりに明るい顔になった。
「じゃあ、今日はリオが元気になれるような所に行こうよ! どこか行きたいところある?」
「元気になれるところ……急に言われても分からないなぁ……」
ローラの言葉を聞いたリオが顎に手を当てて考え始める。
彼が今考えているのは、ローラはどこなら喜ぶか、だ。
彼にとって一番幸せなことは、ローラが楽しそうにしていることだ。
基本的に最も優先するのはローラのことだし、ローラが喜べばリオも満足する。
「あ、そう言えば最近この近くにサーカス団が来てるって聞いたよ! 良かったら行ってみない!?」
うんうんと悩むリオに痺れを切らしたローラが提案する。すると、リオは嬉しそうな笑顔を見せた。
「お、それいいね。行ってみようか」
そうして、2人の実質的なデートが始まった。
──その先に、2人の仲を引き裂きかねない試練があるとは知らずに。
◇
帝都の端には見慣れないテントができていた。
ここで公演するサーカス団が2週間ほど前に設置したものだ。
その前では、既に多くの人が集っていた。
まだ公演前だが、公演に乗じて露店が開かれていてちょっとしたお祭り騒ぎになっている。
リオとローラもまた、その賑やかな群衆の中へと入っていく。
「ねえ、見て見てリオ! あれなんだと思う?」
「ローラ、走ると危ないよ」
前を行くローラを嗜めながらリオが歩いて行く。
リオの表情を見るに、彼を元気にするというローラの目標は達成できたようだ。
本人は既にそんなこと頭にないらしく、目の前の景色にはしゃぎきっている。
ああ、幸福だな。
リオは目の前の景色を見て素直にそう思う。
楽しそうに笑うローラがいて、自分が一緒にいれる。
少なくとも、今朝の夢の光景よりもずっと幸福だ。
不思議な気分になったリオは一瞬ローラから目を逸らす。
何か、罪悪感のようなものが胸につかえた。
それは幸せを掴めなかったもう1人の己に対してか、あるいは夢に出てきた女に対するものだっただろうか。
──その時、1人の女性が目に入ってきた。
「君、は……」
リオが呆然と彼女の姿を見る。
すると、彼の瞳からスーッと一筋の涙が零れ落ちた。
彼は雫が頬を伝ってようやく自分が泣いていることに気づいたようだ。
「リオ……?」
その様子を見たローラが戸惑いの声を上げる。
彼のこんな表情は、長年一緒に過ごしてきた彼女でも見たことのないものだった。
戸惑いのあまり動けない2人の前に、リオが見つめていた女性が歩いてきた。
「……アンタ、どうしたんだい?」
頬の泣きボクロが特徴的な女だった。
女性らしく、凹凸に富んだスタイルだ。
大人びた顔立ちと見事なスタイルから、立ち姿だけでも色気を感じさせる独特な雰囲気を持っている。
リオの視線が女性をずっと見つめている。そのことに、ローラは凄まじい不安を覚えていた。
リオが女性に目を奪われている所など一度も見たことがなかった。
「ああ、すいません。なんでもないんだ。……なんでも」
そう言ったリオの口調は、明らかに普段とは異なるようだった。
まるでこの一瞬で老衰したかのような、落ち着き払った声だ。
ローラが不安そうな顔をしていることに気付く様子すらなく、リオは目の前の女性をじっと見つめていた。