ラスボスに使い捨てられる悪役中ボスにTS転生したけど、原作キャラを観察しに行きます! 作:恥谷きゆう
戦争が始まる直前、ブルームはリオたちと話し合いをしていた。
「今回は、私が陽動をする」
単刀直入に、ブルームはそう宣言した。
「……それはまた珍しいな。どうして急にそんなことを?」
ギルが戸惑ったように聞いてくる。
彼の印象では、ブルームは陰に潜み奇襲することで確実に敵を殺害する戦闘スタイルを取っていた。
その端には、こちらを心配そうに見つめるフレンの目も見えていた。
「その隙に、リオたちには一気に聖王国領まで駆け抜けて大司教を討って欲しい。私はそのための陽動」
「そいつはまた大胆な作戦だな……本当にそんなことが可能だと?」
ブルームは小さく頷いた。
原作知識では、リオたちは多数の騎士たちを犠牲にしながら進み、聖王国まで辿り着いている。
「倒すべき敵の住処は知っている。そうでしょ?」
「え……うん。そうだね」
平和世界の記憶を持つリオは、ミレディと直接対峙した経験もある。
一度は、大聖堂の地下まで侵入し、彼女の懐まで潜入したことがある。
しかし結果はミレディの力を図る暇すらなく敗北。
様々な記憶を得た今でも、リオはどうすれば彼女を倒せるのか分からなかった。
「でも、どうしてブルームは僕が大司教の居場所を知ってると分かったの?」
「別に。リオなら知っているだろうと思ったから。それに、大司教を倒すのはきっとあなたの役目だと思う」
リオの鋭い視線に内心冷や汗をかきながらも、ブルームはそっけなく答える。
その様子を見ていたギルは、何か疑うように目を細めた。
「おいブルーム。俺の勘違いじゃなければ、お前の復讐相手はその大司教だったんじゃないのか?」
「そう」
あっさりと肯定されて、ギルは衝撃のあまり少し固まってしまった。
彼女が最も執着していたはずの復讐相手に対して、不気味なまでに無関心な反応。
ブルームは相変わらず感情の読めない無表情のままだ。
「その、お前があれだけ執着していた復讐を他人に託していいのか……?」
「彼女が死ねばそれでいい。結果は一緒」
「……」
他の仲間たちも、どこか疑うような視線を向けてきていた。
ブルームが復讐を諦めるとは全く思っていないようだ。
疑われる理由が分からないブルームとしては、困惑するばかりだった。
確かに、内側に生きる本来のブルームは復讐を望んでいる。
ただし、今のところ彼女は何も言ってこないままだ。
それに、彼女が原作知識を知ったのならミレディの末路も伝わったはず。
彼女が死ねばそれでいい、と彼女は思ったのかもしれない。
どちらにせよ、彼女と言葉を交わすことができない現状では何も分からないままだ。
ブルームはそう思考しつつも、とりあえず口からでまかせを吐いた。
「……と言いつつも、私が陽動をすれば大司教が自ら出てくる可能性が高い。そこを討つのが真の作戦」
とりあえず適当な説明を付け加えると4人はなぜか納得したような表情を見せた。
ブルームとしては首をかしげるばかりである。
「なるほど、陽動というのは本丸を引っ張り出すための策略か。考えたな」
「けれど、それだとブルームさんが危ないのではないですか?」
フレンの心配そうな声に、ブルームは感情を感じさせない声で答える。
「危ないのはあなた達も同じ。聖王国領に近づけば、私たちは全員大司教に襲われる可能性がある。であれば、戦力を均等に分けるのが最適解」
「自分の力は俺たち4人と一緒って言いたいのか。……まあ、否定はできないがな」
「そう、ですね」
ギルが悔しそうな顔をすると、フレンも同じような顔を見せた。
ブルームは無表情のままに内心困惑した。
先ほどから誤解が生まれ続けている気がする。
なぜこんなにも意思疎通がうまくいかない……?
疑問はあれど、概ね自分の思った通りに話を進められたから良いものとする。
そう結論づけて、ブルームは小さくため息をついた。
◇
話し合いが行われた結果、リオたちは戦闘を最小限に抑えて敵陣深くまで侵入することになっていた。
しかし、相手は聖王国の正規軍。
いくらブルームが大暴れして気を引いていると言えど、未だ大量の兵が残っている。
途中から完全に兵士たちに補足されたリオたちは、激しい交戦を強いられていた。
「はあああああ!」
リオが剣を振り下ろし、敵兵を一撃で斬り殺す。
もう何人の兵士を殺したのかも分からない。
リオの馬鹿力は戦場でも健在だ。
剣を振るえば敵の鎧をあっさりと切り裂く。
ソウルライトを持たない一般兵は、もはやリオの敵ではなかった。
しかし、次々と後続の兵がリオへと迫っていた。
キリがない、というのが彼の率直な感想だった。
「リオ、こっちだ! いったん隠れるぞ!」
近くにいたギルの声が聞こえると、リオはそちらへ一目散に走り出す。
それと同時に、フレンが閃光魔法を発動した。
迫っていた兵士たちは閃光に目を焼かれてリオたちを見失う。
こうして、リオたちは一時的に身を隠すことに成功した。
◇
ギルが誘導した先は、廃棄された坑道だった。
人のいない洞窟はがらんとしていて、時折冷たい風が奥から吹いてくる。
一時的に身を隠すには十分な場所だ。
「はあ……思ったより反撃が激しいな。これじゃあ国境線まで行くなんてとても無理だぞ」
「そうだね。何か別の方法を考えないと……」
ギルとリオが話し合う中、ローラは暗い顔をしていた。
まるで聖王国から逃げてきた直後のような、この世から消えてしまいそうな顔だった。
その様子を見たリオは、彼女を気遣う。
「……ローラ、大丈夫?」
「ねえ、リオ。本当に、これで良かったのかな?」
ローラは震える声で問いかける。
普段の彼女であれば決して発さないような、小さくか細い声だった。
その声を聞き、リオの動きがピタリと止まる。
「こんなに大勢の人が死んで、沢山の人が悲しんで。……私たちの選択は、本当に正しかったのかな」
彼女の頭の中には、ここ数日で焼き付いた強烈な記憶が浮かび上がっていた。
聖王国へと憎悪を向ける群衆。帝都にいる女性は、早すぎる訃報を受け取って泣き崩れていた。
そして戦場。命があっさりと消費されていく地獄。
その光景は、彼女の決心を揺るがすには十分すぎた。
下を向いたまま、彼女は言葉を続ける。
「もしも……もしも、私があの時大人しく生贄になっていたのなら。不幸になってしまった人も幸せに──」
「──ローラ」
ローラの震える声を、リオの力強い声が遮った。
彼女が顔を上げると、こちらを真っ直ぐに見つめる瞳と目が合う。
「そんなことあるはずない。ローラが死ねば良かったなんて、そんなこと絶対ない……だって、ローラは何も悪くない」
最後の言葉を、リオは絞り出すように言った。
それは、彼にとっての原点の1つだ。
何も悪いことをしていないローラが殺されるのはおかしい。間違っている。
その憤りが、不条理に屈しない心が、彼を外の世界に誘った。
生まれ故郷を捨て、家族を捨て、今までの生活の何もかもを捨てて外の世界に出ることを選ばせた。
たとえ何度失敗しようと、何度殺されようと、その想いが変わることは決してない。
リオは尚も真剣な声音で言葉を吐く。
「ローラは間違ったことなんてしていない。理不尽に殺されるのが正しい人なんていない。戦争は国と国の選択の結果だ。ローラが責任を感じる必要なんて、絶対にない」
「……ッ!」
リオの真剣な瞳に貫かれて、ローラは息を呑んだ。
リオだけは、何があっても自分の味方でいてくれる。
そう確信させてくれるような真剣な瞳だった。
胸の内に火が灯るようだった。
冷え切っていた体に血が通っていき、ポカポカと温かくなってくるような感触すらある。
胸の内から溢れ出してくる熱を、ローラはそのまま言葉にした。
「ありがとう、リオ。──大好き」
「……………………えっ?」
突然の言葉に、リオは顔を真っ赤にして固まってしまった。
ローラもまた、彫像のようにピクリとも動かない。
──気まずい沈黙を打ち破ったのは外から聞こえる叫び声だった。
戦域の端に存在する廃坑道の周囲はほとんど兵士がいなかった。
しかし、今は多くの兵が大声を張り上げているのが聞こえてくる。
「な、なんだろう!? 僕が見てくる!」
リオはやたらとオーバーリアクションで言うと、ピューッと飛び出していった。
「逃げた」
「逃げましたね……」
廃坑道から飛び出したリオが真っ先に見たものは、一面に広がる白い霧だった。
霧の中からは兵士たちの悲鳴と『テエテエの波動を感じる……』という謎の声が聞こえてきた。
「これは……ブルームが?」
おそらく、先に進めないリオたちを見かねたブルームが援護してくれたのだろう。
リオはそう推測した。
彼女の霧は進路にいる兵士を次々と飲み込み、血の海へと変えていく。
道が拓けた。
先に進まなければ。
今尚頭の中に反響している言葉については後でじっくりと考えることにして、リオは敵の本拠の方向を睨みつけた。