ラスボスに使い捨てられる悪役中ボスにTS転生したけど、原作キャラを観察しに行きます! 作:恥谷きゆう
ブルームのお陰で廃坑道から先に進んだリオたちは、ついに聖王国の中まで入ることに成功していた。
4人は街道を駆け抜けて一気に聖都を目指す。
全員がソウルライト持ちである彼らの脚力は常人を凌駕する。
戦闘慣れしていないローラでさえも、移動のみなら普通の男性を凌駕する。
「……人がいない」
「うん。なんか不気味……」
いくつかの村の近くを横切ったが、いずれも人の気配がなかった。
活気がない、というのが率直な感想だ。
この国出身のリオたちでも、この光景には違和感を覚える。
「戦時だから働き盛りの男が皆徴兵されてるってのはありそうな話だな。女子供だって後方支援に回されているのかもしれない」
ヴァンガード教が絶対とされる聖王国では、教会の命令は絶対だ。
教会が『戦争に行け』と命令すれば、身分に関わらず戦争へと出向く他に選択肢はないのだ。
「手の届かないものを気にしても仕方ないだろ。行くぞ」
ギルの言葉に頷くと、リオたちは引き続き先を急いだ。
故郷を懐かしんでいる暇など、ましてや自分たちの生まれ故郷を見学する暇などありはしない。
彼らはこれから、この国を支配する黒幕と戦わなければならないのだ。
「……」
彼らの後ろを無言で走るフレンは、常とは異なり固い表情だった。
ローラと同じように、フレンもまた戦争という現実に直面して大きく揺らいでいた。
フレンの目標は、父のような立派な貴族を目指すことだ。
彼女にとっての立派な貴族とは、強きをくじき弱きを助ける、ノブレスオブリージュを体現する者のことだ。
そんな彼女にとって、罪のない人が次々と殺されているこの戦場に立ち、そして敵国へと侵攻することは己の信念に反しているのではないかという疑念があった。
フレンはずっと迷っていた。
自分はどうするのが正しいのだろうか。
こうして聖王国の国土を踏みにじり、元凶を倒しに行くのは正しいのだろうか?
あるいは、聖王国の兵を倒し帝国騎士を助ける?
けれど、聖王国の兵もまた罪のない人だ。
無理やり戦争に連れ出された被害者だ。
今までの戦いでは、黒牧師が襲い掛かってきてそれを迎え撃つ状況だった。
けれど、今回のフレンたちは侵略する側だ。
大司教を倒すのは正しいことだ。やらなくてはならないことだ。
頭ではそう分かりつつも、フレンの心のモヤは晴れないままだった。
「……なるほど、あれが噂に名高い『
フレンはギルの呟きを聞いて意識を現実へと戻した。
ギルの視線の先には、関門があった。
ちょうど川にかけられた橋の先に存在していて、通行人を監視する役割を果たしている。
『
「迂回は……無理そうですね」
「そうだな。ノロノロしていれば援軍が来るかもしれないし、正面突破しかないだろう」
関所と共に道を阻む川は川幅が広く、泳いで渡るのはかなり困難であることが予想できる。
当然、聖都を守ろうと考える人間ならここに防衛線を引いているだろう。
そんな予想の通り、関門に近づく4人の視界には黒い神官服を着た女の姿があった。
「――来たか」
ぽつりと呟いた女は、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
外見は平凡な20代の女性に見える。
しかし、相対するものが思わず平伏してしまうような不思議な存在感を纏っていた。
彼女は剝き出しの敵意を隠しもせずに4人の前に立ちはだかった。
「戦いの前に、1つ問おう」
「なんだ、問答に答えられたらここを通してくれるってか?」
ギルの冗談めかした言葉にはニコリともせず、女はこちらに鋭い視線を向ける。
「貴様らは何のためにここを通ろうとする? ……聖都の民の生活を脅かして、いったい何を為す?」
それは、返答すら憚られるような厳かな響きを持った問いだった。
真正面から返答を口にすることができたのは、ギルだけだった。
「聖王国以外の民を守る。聖王国の横暴に抵抗する。この国の安寧は他国を踏みにじって成立しているものだ。許容できない」
「民たちには何の罪もないというのにか?」
仮に聖王国がこの戦争に負ければ、ここに暮らす人々の生活がどうなるか分からない。
戦敗国ともなれば、その扱いが悲惨なことになることは想像に難くない。
けれど、ギルの言葉に迷いはない。
「そうだ。罪のない人の為、罪のない聖王国の民の生活を壊す。多数の為、自分の護れるものの為に戦う。俺たちがやるのはそういうことだ」
女は小さく頷き返答を口にする。
「そうか、大した傲慢さだ。しかし、お前の仲間は戸惑っているようだぞ」
女の視線はフレンの方に向いていた。
彼女は下を向き唇を噛んでいた。その表情には葛藤が見て取れる。
「……フレン」
「己の行いに迷いのある者に、ここの安寧を壊される訳にはいかないな。――私は、私の正義を為そう」
女は神に祈るように両手を前で組んだ。
「我、黒牧師ルミエルが願い奉る。守護天使よ、今一度我が身に君臨し、聖敵を討ち給え」
――3対の羽根が、彼女の背中に現れた。
それは直視するのも恐れ多いほどに神聖な輝きを纏った羽根だった。
それを背負う彼女――ルミエルは、まさしく聖典に描かれる天使のようだった。
「――光よ」
展開された羽根が光り輝くと、光は前方に向けて解き放たれた。
まるで津波のような、膨大な量の光の奔流が4人へと迫る。
「ッ……『聖なる壁よ』!」
ローラが咄嗟に障壁を展開し、光を防ぐ。
障壁の中にいても尚伝わってくる衝撃に息を吞む。
攻撃が終わった後に見れば、光の奔流が通った地面はまるでショベルカーで掘り返したように深く抉られていた。
「これは……近づくどころの話じゃないぞ」
ギルが冷や汗を浮かべながら言う。
あんなにも広大な範囲を攻撃されては、分身体で陽動して接近するのすら困難だ。
「……では、こういうのはどうでしょうか」
重苦しい口調で話し始めたのはフレンだった。
「二手に分かれて大きく距離を取り、狙いを分散します。あなた方3人はローラさんの障壁で身を守りつつ、接近を試みる。そして、私は1人になり自分の身を守ります」
「そ、それは危なすぎるよ!」
真っ先に反対の声を上げたのはローラだった。
他の2人も心配そうな表情でフレンのことを見ている。
「……大丈夫です。おそらくソウルライトの影響で奇異な見た目をしていますが、あれは魔法による攻撃です。魔法についてよく知っていて、その対処についても知っている私が囮として適任でしょう」
光を放つ魔法はさほど珍しいものではないが、彼女のそれが異常なのは発動方法とその威力だ。
聖なる光を纏う3対の羽根。
おそらく、彼女のソウルライトは揺るぎない信仰心によって強化されているのだろう。
「でも――」
「あまり悠長に話している時間もないようです。次が来ます」
黒牧師――ルミエルの羽根が再び光を帯びている。
先ほどの攻撃が再び飛んでくる。
そのことを悟った3人は、頷き合うとフレンの傍を離れる。
どの道、目の前の黒牧師を倒さなければジリ貧だ。
「……そうです。これが正しい選択です」
フレンはそう呟き、自らに迫る光の奔流をじっと見つめた。
その様子は、やはり常とは異なり冷静さが欠けているように見えた。