ラスボスに使い捨てられる悪役中ボスにTS転生したけど、原作キャラを観察しに行きます!   作:恥谷きゆう

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漫画版の一巻が発売されました!


第66話 正義の在処

「『氷の矢よ!』」

 

 フレンが詠唱すると、巨大な氷の矢が出現する。

 普段よりも遥かに大きいそれは、矢というよりもミサイルのようだ。

 

 「ッ……!」

 

 フレンはそれを自らに迫る光の奔流へと放つ。

 

 氷の矢と光の奔流は、衝突すると同時に互いを消滅させた。

 轟音が響き、爆風がまき散らされる。

 

 「ッ……!」

 

 その結果を見たフレンは顔をしかめる。

 先ほど打ち出した氷の矢は、フレンがほぼ全力で放った一撃だ。

 

 それでも互角、あるいはフレンがやや劣勢だ。

 相手に消耗している様子はない。

 であれば、このまま続ければ負けるのはフレンの方だ。

 

 フレンは自らの魔法の発動が普段よりも上手くいっていないのを自覚していた。

 

 彼女の精神は今、不安定な状況にある。

 

 今の状況が果たして自らの原点である『ノブレスオブリージュ』に沿うものになっているのか。

 そんな疑念を抱いたフレンのソウルライトは、魔法は、揺らぎを見せていた。

 その揺らぎは、この場においては致命的な隙になり得る。

 

 「貴様のように迷いのある者には、私は決して負けない。――光よ」

 

 再びルミエルの背後の羽根が輝き、光の奔流が放たれる。

 フレンは劣勢を自覚しながらも、魔法を発動せざるを得なかった。

 

 「『氷の矢よ』!」

 

 再び2つの魔法が激突し、爆発を起こす。

 フレンの方は魔力の消耗により浅い呼吸を繰り返しているのに対して、ルミエルは全く疲労を見せていない。

 

 ――しかし、フレンは1人ではない。

 

 「オオオオオオオ!」

 

 ルミエルの横合いから飛び出したリオが一気に肉薄する。

 直前にフレンを攻撃したルミエルにはそれを迎撃する術はない――かと思われた。

 

「『聖なる剣よ』」

 

 ルミエルが呟くと、彼女の手元に光り輝く剣が現れた。

 それは背中の羽根と同様に、相対するものが思わず平伏してしまいそうな程に神聖な光を宿していた。

 

「――聖断!」

 

 輝く剣が地面に振り下ろされると、その場に光の柱が立ち昇り直後爆発が起きた。

 

 「ッ……!」

 

 爆風に吹き飛ばされたリオが地面を転がる。

 彼が再び体勢を立て直す頃には、背中の羽根は次の攻撃の準備を終えていた。

 ルミエル本人には爆風のダメージを受けた様子はまったくなかった。

 

 「光よ」

 「くっ……!」

 

 大きく下がったリオは、再び剣の射程の外へと出てしまう。

 

 

 ルミエルのソウルライト――『正義の天使』は光の魔法の扱いに特化した力だ。

 その力は単に光を遠くに放つだけではない。

 

 光はルミエルの思うがままに性質を変えることができる。

 地面に叩きつけると爆発する光、鋭い剣も止める強固な光。敵を穿つ鋭い光。

 

 それはルミエルの信念が続く限り尽きない光だ。

 ルミエルの原点は『正義』。

 聖王国の民を護り、敵対する者を打ち倒す。

 それこそが彼女の正義であり、力を振るう意味だ。

 

 「――光よ」

 

 再び閃光が迸り、フレンを襲った。

 魔法を発動して相殺するフレンの額に冷や汗が浮かぶ。

 4人を相手にしているにも関わらず、彼女の魔法はフレンを圧倒している。

 

 護るべきものを、民を背中にしたルミエルは最大の力を発揮できる。

 相対するフレンには、その姿が眩しいものに見えていた。

 

 「ッ……『氷の矢よ!』」

 

 再度、魔法がぶつかり合い爆発する。

 フレンを爆風が襲い、皮膚に細かい傷がつく。

 

 ダメージを受けながらも、フレンの意識はどこか別の場所に存在しているかのようにぼんやりとしていた。

 考えるのは、自分はどうすればよかったのかという問い。

 たしかに正しい道を進んでいたはずなのに、いつの間にか別の道に迷い込んでしまったような感覚。

 

 フレンは戦いの中で回想に耽る。

 立ち返るのはやはり、己の原点となる記憶だった。

 

 

 ◇

 

 

 「フレン」

 

 威厳のある、けれども優しい声がフレンを呼ぶ。

 誰よりも大好きな父の声。

 幼いフレンの、まだ何も知らなかった頃のフレンの幸福な記憶の1つだ。

 

 彼はいつも立派な髭を蓄えた顎を手で弄りながら、フレンに話しかけてきた。

 

「僕が少し前に言った『高貴なる者の務め(ノブレスオブリージュ)』について、覚えているかい?」

「はいお父様!」

 

 その時のフレンは、父に良いところを見せたくて仕方がなかった。

 張り切って返事をするフレンに、父は微笑ましそうな視線を向ける。

 

「高貴な者として様々なものを与えられた私たちは、持たざる者の為に働かなければなりません。国の為、民の為に、私たちは様々な努力を致します!」

 「その通りだ。悪政は千の民を殺し、善政は千の民を救う。私たちは多くを与えられた分多くを救わねばならない。……賢いフレンなら、きっと僕よりも上手くできると期待しているよ」

 「そんな、お父様よりも上手くなんて……」

 

 その言葉は嬉しかったが、そんなことは不可能だと思った。

 幼いフレンにとっては父は理想そのものだった。

 

 民の為を思い自己研鑽を欠かさない貴族の鑑。

 農作物の収穫報告に熱心に目を通し、然るべき援助を寄越す。

 天候不良による凶作とあらば、私財をなげうって民を助ける。

 

 そのためなら他の貴族に頭を下げることも厭わない。

 彼は彼の言う『ノブレスオブリージュ』をこなそうと努力していた。

 

 ――そんな父は、信念とは程遠い野卑な盗賊に心臓を貫かれてあっさりと死んだ。

 

 

 ◇

 

 

「くっ……!」

 

 何度目か分からない爆風がフレンを襲った。

 半ば無意識に魔法で迎撃をしながら、フレンは息を吐く。

 

 そろそろ魔力が底をつく。

 氷の矢を形成できなくなった時が、彼女の命の終わりだろう。

 

 相手には未だに消耗している様子は見られない。

 あれほどの威力の光魔法を連発しておきながら底が見えないのは、ソウルライトの恩恵が大きいのだろう。

 

 遠くの方で、リオたちが撤退するよう言っているのが聞こえてくる。

 けれど、フレンはこの場を退く気にもなれなかった。

 

 「お父様……」

 

 どんな困難にぶつかっても決して諦めなかった父を想う。

 結局、自分は父のように信念を貫くことができなかった。

 

 その回想は、確かな隙となった。

 光の奔流を迎撃する氷の矢の形成がわずかに遅れる。

 迎撃が遅れれば、破壊された魔法の余波は容赦なく彼女の体を襲う。

 

 「――フレン!」

 

 魔法を相殺した際に発生した爆風に、フレンの軽い体が吹き飛ばされる。

 視界を覆う閃光の中で――フレンは幻を見た。

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