ラスボスに使い捨てられる悪役中ボスにTS転生したけど、原作キャラを観察しに行きます! 作:恥谷きゆう
吹き飛ばされたフレンの頭に浮かんできたのは、大事な人を喪った人の記憶だった。
盗賊は皆、死神の手によって殺された。
けれど、フレンの大事な人たちはもう二度と戻っては来ない。
「……どうして」
簡素な墓石を前に、フレンは呟く。
この下には、父と母が眠っている。
先ほどまで遺体を埋める手伝いをしていたのが嘘のように現実感がない。
家に帰れば父と母が食卓に座り朝食が用意されているような気すらしてくる。
けれどこれは現実だ。
父と母は盗賊に殺され、フレンだけが奇跡的に生き残った。
どうして、自分だけが。フレンだけが生き残り父と母が死んだのはなぜ。
考えても仕方のないことだ。
たまたまフレンが殺されるのが一番最後だった。それだけの話だ。
それでも、フレンは何度も考えてしまう。
民の為に正しい事をしていた父が殺された理由は何だ。
あの盗賊たちは、父よりも立派な人間だったのか。
自分は、どうしてこんな悲しい思いをしなければならないのか。
理不尽だ。不条理だ。道理に合わない。
どうして、どうして、どうして……。
「……少しは落ち着いた?」
音もなく、死神が背後に立っていた。
先ほど盗賊たちを皆殺しにした少女は、まるで幽霊のようにひっそりとそこに立っていた。
フレンは全身の毛が逆立つような感覚を受ける。
首筋に寒気を感じながらも振り返ると、表情の読めない瞳がこちらをじっと見つめている。
「……」
フレンは彼女の言葉に応えることができなかった。
淑女たる者、常に状況を冷静に観察できるようになれ。
そう父に教えられたにも関わらず、フレンの心は未だに現実を直視できていなかった。
問いかけた少女は、そんなフレンの様子をじっと見つめる。
やがて口を開いた時、少女の雰囲気が僅かに変わった。
「……良ければ、今思っていることを口に出して欲しい。私にそれを解決する事はできないけど、話を聞くくらいならできる」
不思議と、その言葉はフレンの胸にすんなりと入ってきた。
ここで何を言おうと、死んだ両親が蘇る訳でもない。
ただ、思っていることを吐き出すくらいならできる。
「――どうして、お父様たちが殺されなければならなかったのでしょうか」
堰を切るように、フレンは想いを吐き出した。
最愛の家族のこと。貴族の義務について語り、それを身をもって体現していた父のこと。
先ほどまで1人で考えていたことを口に出すと、不思議と心が軽くなっていくのを感じた。
話してからようやく、フレンは自分に必要なのは話を聞いてくれる相手であることが分かった。
死神のような少女は、それに応えるでもなくただ淡々と話を聞いている。
今のフレンには、その態度が心地よかった。
どんな慰めを口にされても、フレンは納得できなかっただろう。
だから今はただ、傍にいて欲しかった。
話しているうちに、涙は出なくなっていた。
フレンが一通り話した後、少女は唐突に問いかけてきた。
「……それで、あなたはどうしたい?」
「自分と同じ不幸を味わう人を、二度と生み出さないようにしたいです」
その言葉は、フレンの口から自然に出てきた。
「理不尽に大切な人を亡くす人がいなくなって欲しいです。こんな身を引き裂くような痛み、他の人には経験してほしくないですから」
フレンの言葉を聞いた少女は、ほんの少しだけ微笑んだように見えた。
そして、告げる。
「あなたはその想いの始まりを、原点をよく覚えておくといい。これからどんな事があっても、最初の想いを忘れないで。そうすれば、あなたの魂の輝きが衰えることは決してないはずだから」
その言葉は、まるで予言のようにフレンの胸に深く入り込んできた。
◇
「――ああ、そうでしたね。ブルームさん」
痛みを感じながらも、フレンは立ち上がった。
どうして、こんな大事なことを忘れていたのだろうか。
いや、忘れていたというよりも見えなくなっていただけなのかもしれない。
大きなものを見ようとしすぎて、見落としていた。
回想はもう終わりだ。
過去に抱いた想いを、大切な人からのメッセージを、改めて思い出した。
「きっと私は、思いあがっていたのでしょう」
フレンの正義、ノブレスオブリージュ。
その根本は、もっと個人的な想いから生じたものだった。
自分と同じ不幸を味わう人を、二度と生み出さない。
それは国家や政治思想とは程遠い、卑近な正義だった。
手の届かないものに想いを馳せるのは後にしよう。
聖王国の民をも救うだとか、戦争の大儀だとか、そういうものは一旦考えることをやめる。
フレンは未だ父のように大勢を救うような人間になれない。
手の届く所から、不幸をなくしていくのだ。
「――『ムスペルヘイム』」
フレンの周囲に炎が吹き荒れた。
相対する者を容赦なく焼こうとする、灼熱の炎。
その様を見たルミエルの顔に驚愕が現れる。
「馬鹿な……! 貴様の魔力はほとんど尽きていたはず……なぜそんな魔法が放てる……?」
フレンのソウルライトが再び活性化する。
今まで、彼女のソウルライトは十全に力を発揮できていなかった。
心のどこかで自らの行いが正しいのか疑っていた。
意志が揺らげば、魂の輝きもまた揺らぎを見せる。
けれど、今は違う。ノブレスオブリージュ、その始まりは手の届く人を救うことから始まる。
大切な誰かを救うことができないのなら、民衆を救うことなどできるはずもないのだから。
「まずは、皆さんを助けなければ」
今のフレンにとっての大事な人。
大司教に命を狙われているというローラ。それを助けようとするリオ。ブツブツ言いながらも彼らを助けようとするギル。
そして、フレンの恩人であるブルームもまた大司教に命を狙われている。
フレンがまず最初に救うべきは、彼らだ。
「私も、負けるわけにはいきません」
目の前の敵を見やる。
民の為に戦う黒牧師。
けれど、フレンもまた己の大事な人を護るため戦わなければならない。