ラスボスに使い捨てられる悪役中ボスにTS転生したけど、原作キャラを観察しに行きます! 作:恥谷きゆう
先ほどまで敵対していたルミエルと目を合わせたフレンは、堂々とした態度で質問を投げかけた。
「大司教が今どこで何をしているのか、教えてください」
「ッ……!」
その言葉を聞いたルミエルは動揺した様子を見せた。
息を呑み、唇を噛む。
しかし、フレンが怯むことはない。
「……それは」
「あなたも、薄々気づいていたのでしょう? 大司教が何か企んでいること。それは決して聖王国の民の為になることではないことを」
「……」
図星を突かれたルミエルは押し黙った。
黒牧師として教会の暗部に属するルミエルは、教会の黒い部分を何度も目にしてきた。
ルミエルとて手を汚した事は一度や二度目ではない。
そして、この仕事が本当に国の為になっているのかと疑ったこともある。
ルミエルはヴァンガード教の敬虔な信徒であるが、彼女が信仰しているのは神と守護天使でありこの国ではない。
仮に教会がこの国を滅亡へと導いているのなら、ルミエルが倒すべきは教会だ。
しばらくの思考の後、ルミエルは重い口を開いた。
「私は、大司教様と直接会ったことは一度もない。ただ、その行動がおかしいとは度々感じていた」
長年隠していた本心を、ルミエルは告げた。
目の前の彼女なら、あれほどに鮮烈な魂の輝きを見せた彼女になら話していい。そう思えた故の行動だった。
「教会に歯向かう不穏分子を排除するのは自然なことだ。ただ、私たちの排除する相手が本当に聖王国に害をなす人物なのか疑問に思うことは度々あった」
苦々しくそうに言うルミエルは過去を振り返る。
「昔、国民の生活を向上させる農具の研究をした研究者がいた事があった」
ルミエルは過去を振り返りながら語った。
男は革新的な農具の発明によって農家の生活を楽にすることを目指していた。
ルミエルは一度彼の調査に赴いたことがあるが、真に農民のことを考えている善良な研究者という印象を受けていた。
しかし彼は、後にそれを使って内乱を企んだという容疑で捕まり、処刑された。
ルミエルとて疑問はあった。けれど、大司教の決定と言われた以上それに従う他なかった。
彼の研究成果は執拗に抹消され、彼の周囲の人も不審な失踪を遂げた。
きな臭いものを感じつつも、教会に従う1人の神官に過ぎない彼女は引き下がることしかできなかった。
重苦しい沈黙の中口を開いたのはギルだった。
「……支配者ってやつは、下の者にはバカでいてもらった方が都合がいいんだよ」
ギルの言葉を聞いたルミエルは気まずそうに顔を背ける。
「……私は民の為になるならと自分に言い聞かせて殺しを承っていた。しかし、それはむしろ守るべき民を害する行為だったのか……?」
自らの過去の行いを顧みる彼女の様子は、今までの冷酷な黒牧師のイメージとは大きくかけ離れるものだった。
そんな彼女に、フレンが優しく話しかける。
「あなたの行い全てがそうだったわけではない。あなたはこの国の人々を沢山救っていた。そうでしょう?」
「……」
ルミエルはフレンの言葉にそっと目を落とした。
彼女の言葉を胸の中で反芻すると、過去に感じた苦みが少し和らいだ気が下。
「過去に失われた命は取り戻せなくても、これからの未来を変えることはできます。どうか、私たちが大司教を討つことに協力してもらえませんか?」
長い沈黙があった。
葛藤しているような表情で黙り込むルミエル。
フレンは黙って彼女の決断を待ち続けた。
悩みに悩んだ末、彼女は言葉を紡ぐ。
「――大司教様は、とある少女を殺す為に行動すると仰っていた。そいつが自分の所に来たら、すぐに報告するようにと」
4人が息を呑んだ。
4人とも、薄っすらとした予感があった。
大国の裏に潜み野望を目論む大司教。そんな彼女が最も恐れ、排除しようとする少女。
誰にでも平等に死を運んでくる、死神の刃。
「……その少女、とは」
フレンが表情を引き締めて言うと、ルミエルはその先を告げた。
「『白霧の死』。大司教様は自らの手でそいつを抹殺するつもりだ」
◇
いやあ、ここまで来たら後はリオがミレディを殺すのを待つだけだな。
勝ったな! ガハハ!
俺はそんなお気楽な考えをしながら敵兵を殺し続けていた。
霧の中にいる敵は既に全員息絶えている。
苦戦らしい苦戦もせず、実に良い調子だ。
聖王国の兵士たちはすっかり戦意を失ったようで、俺から逃げ惑っている。
この様子なら、原作みたいに帝国の騎士たちの命を犠牲に血路を拓きリオたちが前に進むこともなかろう。
まあ、ミレディさえ倒せれば後はもう推しカプの幸せな姿を眺める平和な時間が続くだろうからな。
勝ったも同然よ。
白霧の先には既に生きた敵の姿はない。
そろそろ、大聖堂まで行って最終決戦の様子でも見に行くか。
呑気にそんなことを考えていた俺の頭上から、刺すような視線を感じた。
――ああ、やっぱり。
内側から、そんな声が聞こえてきたような気がした。
直後、隕石でも墜落したかのような爆音が響き渡った。
衝撃が俺を襲い、吹き飛ばされた体が地面に叩きつけられる。
「ッ……」
回避は試みたが、ダメージをゼロにはできなかった。
地面に叩きつけられた時に脳味噌が揺られたらしい。
視界がチカチカと点滅している。
そしてそれ以上に、違和感があった。
身体的なダメージ以外の、別の感触。
何か内側から熱が発生しているような、不思議な感覚だ。
「――ごめん、ちょっと借りる」
その声は俺の口から発せられたようだった。
俺のような、けれど俺のものではない言葉。
それを聞いてようやく俺は確信した。
そうか。彼女は復讐をやめたのではなくこの機会を待っていたのだ。
俺がミレディと接触する時を。その時のために力を溜め、体の主権を奪う方法を探し、力を練っていた。
今更分かっても、既にどうしようもない。
そのまま俺の意識はブラックアウトした。
◇
戦場に土煙が立ち昇る。まるで隕石でも墜落したかのような有様だった。
半径10m近くの地面は抉れている。中心部にあれば、巨大な岩石であろうとあっさり砕けていただろう。
戦場に降り立った大司教ミレディは自らの最初の一撃の成果を見て小さく鼻を鳴らした。
『
その威力は城塞都市をも崩壊させかねないもの。とても個人相手に撃つような魔法ではない。
ただ、この程度で仕留められる相手とは思っていない。
今のは挨拶みたいなものだ。
彼女の予想通り、爆発の中心部からは人影がゆらりと現れた。
その陰は小柄な少女の姿をしていた。
触れれば壊れてしまいそうな細い体躯。
しかしその瞳に籠められた憎悪は、あまりに巨大だった。
「大司教ミレディ。大陸最後の吸血鬼にして最強の存在。そして、我が怨敵。――殺す」
そこに立っているのは、紛れもなく復讐に人生を捧げた悪鬼だった。