ヴァンガード・ザ・ウロヴォロス【再誕の先駆者】   作:唯尊

12 / 12
第十話 蒼き鋼と呪われし生命

 

 柚瑠と移動している内に、目的地へと辿り着く。7階建のボロいビルで、全体的に錆びれた雰囲気を持つ。中に入って階段を降り、地下1階のフロアに彼の店はテナントされている。

 

「……なんか増えてない?扉のシール」

 

「また新しいアニメだかエロゲーにでもハマったんだろ」

 

入り口に立て付けられた鉄製のドアには、よく分からないアニメだかゲームだかのキャラクターらしき美少女のシールが一面に貼られている。一見すると、ただのオタクショップか何かに見えるだろうが、ここで売買されているのは紛れもない武器であり、それも法に触れるギリギリの商売だ。品揃えは保証するが、出所はあまり詮索しない方がいい。ここの店主と同じで。

 

「お〜い!入っていいか?まだ営業時間内だよな?」

 

インターフォンがないのでドアを強めに3回ノックすると、『鍵は掛かってないぞ〜』と男の間延びした返事が返ってくる。

 

ドアを開けると、ギギ…、と留め具が軋む音がする。中に入った瞬間、銃器の整備に使う機械油の臭いがツンと鼻を刺す。壁一面が二次元美少女のイラストやらポスターやらで埋め尽くされており、ショーウィンドウのガラスケースには何種類ものハンドガンが並べられていた。これらがモデルガンの類なら完全にオタクショップだが、コレらは全て高い殺傷能力を持つ実銃に他ならない。

 

やがて、暖簾の奥から丸いフレームのメガネをかけた短髪の男が現れる。痩せているが、ひ弱そうには見えない。千桜の自衛隊時代の同期、渕白仙谷(ふちしろせんご)だ。こう見えても自分と同じ元レンジャーである。

 

「よぉ、なんだか久しぶりに会った気がするな」

 

「少し前まで入院してたからな。まさか仕事中に盲腸で倒れるとは……。つーかメール送って知らせたろ。見舞いにくらい来いよ」

 

「あーすまん、その時は柚瑠の期末試験の勉強見てたんだ。悪いな」

 

 仙谷はこの店の店長であり、彼の恋人が唯一の従業員を務める。二人だけの小さな店で売られてるのは、中古の銃や弾薬、ナイフといった武器だけでなく、チェストリグやバックパック。コンバットブーツなどの各種ギアも揃えられていた。奥には無反動砲らしき物騒なデカブツも置いてある。

 

「にしても……、俺が知らない間に相棒との仲が随分と進展した様だな」

 

密着した状態のまま手を繋ぐ千桜と柚瑠を前に、感想を口にする。直後、仙谷の口元がニタァ…、といやらしく歪められた。

 

「嬉しいよ、ようやくお前も俺の趣味を理解してくれる様になったか」

 

「おい待てどういう意味だッ?」

 

「瑞々しく柔らかいJCの肌と、しなやかな筋肉の弾力という抗い難い禁断の魅力にさ。やっぱ直接抱かないと分からないよな〜」

 

 両指をワキワキとさせながら下衆な笑みを浮かべる。空前絶後の変態にしてロリコンであるこの男は除隊後、武器商人として世界中を渡り歩いていたらしいが、ヤバい相手にヤバい武器を売りまくったせいでFBIやCIAに目をつけられ泣く泣く事業を縮小、日本で公安の監視に怯えながら、今となってはこの薄暗い地下の片隅で細々とガンディーラーを営むまでに落ちぶれている。彼がどこで何を売ったのか……正直、使われた用途を含めてあまり知りたくはなかった。因みに、護衛を必要した際にPMCライセンスを取得、合法的に可愛いヴァンガードとあんな事やこんな事をしてる内に恋人となっている。レンジャー時代からロリコンではあったが、女子中学生相手に童貞を捧げたせいでより重症となっていた。

 

「……お前とこの話題で盛り上がる気はない。とにかく柚瑠のブーツとグローブ売ってくれ、あと替えのニーソもだ。言っとくがお前が採寸とかするなよ?その時は俺が縊り殺してやるッ」

 

「千桜、目が本気だぞ?」

 

かつての戦友に殺意の目を向ける千桜に対し、仙谷が冷や汗を浮かべる。

 

「わきゃあッ!?」

 

突如、隣の柚瑠が可愛らしい悲鳴を上げる。白く細い指が柚瑠の豊満なバストを背後から揉みしだいていた。

 

「こんにちは、柚瑠ちゃん♪」

 

「き、桐霸(きりは)ちゃん…!んん…!」

 

柚瑠が悩ましげな声を上げる中、楽しそうな声音で柚瑠の背後から現れたのは、柚瑠と同年代くらいの少女だった。柚瑠よりも背が高く、中学生離れしたスタイルの良さは学校の制服らしき薄青のブレザーの上からでも分かる。

 

「ふふ、ごめんね。なんだか前より可愛くなっていたから、つい触れ合いたくなっちゃって」

 

パッ、と柚瑠から離れると、ウェーブのかかった長い桃色の髪を腰まで伸ばした少女は悪戯っぽく舌を出す。彼女こそが仙谷の恋人である氷野華桐霸(ひのはなきりは)だ。柚瑠と同じ『蒼星の忌み子』でありヴァンガード。14歳特有の幼さを残した端正な顔立ちをしているが、実年齢に見合わず表情は柔らかく、慈しみのある微笑を浮かべている。子供でありながら聖母じみた雰囲気を持つ美少女だ。

 

「それより、話は聞いていたよ。ブーツとグローブはわたしが見繕うから、こっちに来てくれる?」

 

「うん、じゃあ行ってくるね?」

 

「あぁ。……桐霸、予算は十分にあるから。柚瑠に合うものを選んでやってくれ」

 

「りょーかい♪任せて」

 

 桐霸にウィンクを返されながら、二人は別の部屋へと消えていった。

 

「……いい娘だろ?あと4年もすれば結婚できる」

 

「あぁ、なんでお前なんかが気に入られたのか。未だに理解出来ん」

 

「人殺し顔のムッツリナルシストよりは人格者のつもりだが?」

 

「うるさい黙れッ。それよりコイツの9mmウロヴォロス合金弾くれ、あとスタングレネードも何個か必要だ」

 

そう言ってガラスケースの上にVP9拳銃を置くと、仙谷は無言のままウロヴォロス合金製9ミリパラベラム弾の入ったケースを何個か取り出す。鈍い金色に輝く真鍮の薬莢の先端には、黒銀の弾頭が埋め込まれている。これは通常の白銀色であるウロヴォロス合金に特殊な加工を加える事によって色が変わるのだが、一般的に黒銀の鋼(ブラック・ウロヴォロス)と呼ばれている。何よりも特徴的なのはアルギュロスの装甲に使われている白銀の鋼(ホワイト・ウロヴォロス)に触れた瞬間、液状化させる性質を持っている事だ。ヴァンガード達が生成する赤銀の鋼(レッド・ウロヴォロス)にも同様の性質がある。

 

 今の所、この金属を生み出せるのはアルギュロスのみであり、彼らの装甲や大量生産ラインである工場、もしくは巣(エイリー)と呼ばれるアルギュロスの巣窟・要塞からしか確保出来ない。

 

「…なぁ」

 

「ん?」

 

 ショーウィンドウの下にあるたなを漁っている仙谷から控えめに声をかけられる。

 

「昔の仲間と連絡取ってるか?」

 

「……いや、お前や横瀬さん以外とは殆どない。それが?」

 

仙谷は目当てのスタングレネードを6個取り出し、別のグレネードケースへと詰めていく。

 

「…雪平曹長が死んだ」

 

「ッ…!?雪平さんがッ?」

 

「あぁ、何日か前に天城さんから連絡貰った。任務中の戦死らしいが、詳しい事は聞かされなかった。……まぁ、除隊して民間人になったんだから、当然かもしれんが」

 

「…………」

 

千桜と仙谷がまだ第一空挺弾に所属していた頃、特殊作戦群の隊員と共に演習に参加した事があった。その時に出会ったのが雪平豹馬(ゆきひらひょうま)であり、射撃・格闘・障害突破・侵入(ブリーチャー)など、凡ゆる面で戦闘能力に長けた、正に自分達が知る最強の兵士の一人だった。関わった時間こそ短かったが、伝説級の戦闘員なだけあって、まさか任務中に命を落とすとは思いもしなかった……。彼の部下であり、演習で親睦を深めた先輩自衛官である天城英牙が『鬼の様に強く厳しいが、戦闘員なら誰もが目指すべき人物』と言っていたのを思い出す。突然の訃報に、千桜も少なからずショックを受けていた。

 

「そうか……、残念だな。天城さんもそうだが、あんな人間離れした人がやられるなんて------」

 

その時、千桜は自衛官時代に耳にしたある噂(・・・)を思い出した。

 

「------そういえば、あの人……っていうか天城さんもそうだが、自衛隊全体で変な噂が流れてた時期があったよな?なんでも『得体の知れない外部の組織に精鋭隊員が引き抜かれてる』って」

 

「あぁ、俺達のいた空挺にもあったなそんな噂。けど何年か前に流行った都市伝説だろ?ぶっちゃけ極秘に行われてる作戦なんて珍しくもないし、仮に外部の人間が関わっていたとしても、転属した自衛官がどこに配属されたかなんて知りようがない。それこそ『別班』とかいうスパイ集団かもしれないぜ?つーかあの二人は普通に特戦群の人間だろ。実際引き抜かれてないし」

 

「俺が現職だった頃、"自衛隊員の身分を騙ってバケモノと戦う集団"がいるって聞いた事がある。その中には海外の外人部隊や特殊部隊出身者の他に、現役の自衛官もいるらしくて、あの二人も本当はそうなんじゃないかって------」

 

「バケモノって……、アルギュロスの事か?」

 

「いや、"不死身の龍"だとか、"古代の棺から蘇った凶戦士"だとか、"燃える天使"だとか……そんなのを相手にしてるそうだ」

 

「…………千桜、まさかとは思うが、本気にしてないよなソレ?」

 

 仙谷が心配するような眼差しを向けてくる。

 

「まさか、ただアレほど人間離れした男を殺せる奴なんて、アルギュロスか戦前の頃に人気だったゲームのクリーチャーくらいだろ」

 

「まぁ………確かにな」

 

とはいえ、流石の二人も後者はありえないと思う。常識的に考えて、雪平の死は新型のアルギュロスが齎したものだろう。並の人間じゃまず彼には太刀打ち出来ない。例外があるとすれば----------。

 

「…………」

 

「…どうした?急に黙りやがって」

 

「いや、なんでも……」

 

 こちらの妙な沈黙に怪訝な顔をされるも、千桜は黙って会計を済ませようと現金を差し出す。

 

「大物獲りなら、破壊力のあるヤツが必要だろ?最新のRPG-29がほぼ未使用の状態で手に入ったんだ。弾頭もオマケしてやるから買っていけよ」

 

「やめとく、あんなデカくて重いモン背負っていたら一瞬でやられる。代わりに爆薬をくれ、ウロヴォロス合金が封入されたヤツ」

 

「幾つ?」

 

「C4が三つもあれば十分だ。それ以上は邪魔になる」

 

「了解だ」

 

奥の棚から木箱を卸し、梱包されたプラスチック爆薬を並べていく。不意に、仙谷が慎重な視線を向けてくる。

 

「……今度の相手、相当ヤバかったりするのか?」

 

 昨日の防衛省襲撃の件は一般には報じられていない。上はあの二人組の正体と行方を今も追いつつ、テロによる民衆のパニックを防ぎたいのか、徹底した報道管制を敷いているらしく、仙谷みたいな民間人は何も知らない。千桜も依頼内容は守秘義務とされているので口外する訳にはいかなかった。

 

「ヤバいな。もしかしたら……俺も死ぬ気でやらなきゃ殺されるかもしれない」

 

「マジかよ……」

 

「正直、本気を出しても勝てるかどうか……」

 

「おいおい、本気を出したお前と柚瑠ちゃんのデュオで勝てないって……。大型機の軍団(レギオン)か巣(エイリー)にでも突っ込む訳じゃあるまいし--------」

 

 その時、仙谷は何かに思い至ったのか、唐突に口を閉じる。

 

「おい……まさか、お前と同じ-----------」

 

「肯定も否定も出来ない。頼む、これ以上は聞かないでくれ」

 

 千桜の制止に対し、仙谷は暫し沈黙していたが------。

 

「…千桜、相棒のフレームを一段階上げろ」

 

「…ッ、何だと?」

 

信じられない発言だったが、仙谷の声は真剣だった。表情も現役自衛官の頃に見せた鋭いものへと変貌している。

 

「アルギュロス相手に小細工は一切通じない。ましてや敵の中にアレ(・・)がいるなら、RPG担いだくらいじゃ気休めにもならん、戦力に不安があるなら、根本的な戦闘能力を底上げするしかない」

 

 仙谷の主張は理に適っていた、だがそれは、千桜にとって到底受け入れられない策だった。

 

「それが柚瑠にとってどういう意味を持つか………お前だって分かってんだろッ」

 

 『蒼星の忌み子』が持つウロヴォロス合金生成能力と強靭な生命力、身体能力は、全て彼女達が持つ"特殊な脳"が司っている。これらの力は意識的に解放する事で真価を発揮し、使えば使うほど強くなっていく一方で、脳の構造を限りなく『アルギュロスに近い状態』へと変質させていく。内臓や骨格への金属化も進み、やがてアルギュロスに意識を乗っ取られ、最終的には『アダマンティニ』と呼ばれる人類史上最悪のアルギュロス機体と化す。

 

その為、現代のヴァンガードの脳には変質を防ぐ為のフレームが三段階に分けられて施術されている。コレらが機能してる限り、彼女達『蒼星の忌み子』はアルギュロスへと変貌する事はない……が…。

 

「フレームが抑止するのは脳の変質や身体の金属化だけじゃない、ヴァンガードが持つ能力もだ。無論、フレームが働いてる状態でもある程度は力が伸びるが、それにも上限がある。今の柚瑠ちゃんはフレーム3……人間としての生活に支障を来さない安全圏内から出ていない。他の同年代のヴァンガード……フレーム3の子達の中では強い部類に入るんだろうが、これ以上成長する保障はない。実際、フレームの引き上げを躊躇って力の限界にぶつかり、戦場で命を落とすヴァンガードも少なくないんだ。彼女達が強くなるには、力を制限するリミッターを外す他ないだろ?」

 

「だがその分、心身へのダメージは計り知れないッ。フレームは一度引き上げると元には戻せなくなるし、下手をすれば死ぬより悲惨な結果を招く!」

 

三段階のフレームの内、一つでも解放すれば脳の変質を完全には抑止出来なくなる。せいぜい"抑制"が限界であり、アルギュロスが用いる量子通信の影響を受け易くなる。つまり---------深刻な意識障害を引き起こす可能性があるのだ。他にも内臓や血管の金属化による重篤な疾患で耐え難い程の苦痛を味わい、最悪の場合そのまま死に至るケースも実例として報告されている。

 

「確かにお前の言う通り、フレームの段階的な解放はデュオの選択肢としては存在するッ。フレームを全て解放したヴァンガードの力は理論上、限界という概念がない。肉体の変質を許容さえすればいくらでも力は増すッ、だがな!あの子はまだ中学生だッ、ヴァンガードになって身分が保証されなきゃ戸籍すら取得出来ない。捨て子である以上、両親の顔も知らないッ。『雛衣(ひなきぬ)』という苗字も所詮は国際ヴァンガード監督機構(IVSO)で登録された仮物の名だ!!あの歳で死の恐怖と向き合い、命懸けで戦って戦って戦い抜いて……、やっと社会に出られたと思ったら、今度は顔も知らない大勢の人間から拒絶されたッ!」

 

以前、柚瑠が最初に通っていた中学校では、柚瑠が『蒼星の忌み子』だと露見した瞬間、それまで柚瑠に対し好意的な反応を示していたクラスメイトや友人達が、一斉に軽蔑と憎悪の籠った眼差しで彼女への迫害を始めた。

 

「今の学校に移る前、柚瑠が裸足のままずぶ濡れになった状態で学校から帰宅した事がある……。鞄には泥やゴミ、虫まで入っていやがったッ。俺が何を聞いても、柚瑠は『ほっといて』としか言わなかった…!誰に何をされたのか----------バカでも理解出来るッ」

 

 通っていた中学校に連絡してもまともに取り合ってもらえず、直接柚瑠の担任を問い質しに行けば、『宇宙人が作った金属のバケモノが人間に混じって生活してる』と嫌悪感を露わにした。

 

 あの時、そう言って吐き捨てた目の前の女性教諭に対し、千桜は本気で彼女を射殺しようと思った。腰から抜いたVP9のトリガーを引かず、直前で思い留まったのは、一般人を射殺するという重大な違反でリアガードの資格を失い、柚瑠から引き離されるのが怖かったからだ。だから代わりに、VP9のグリップ部分で教諭の顔を殴りつけた。

 

『いいかよく聞け、次にまた同じ台詞を口にしてみろ……生まれてきた事を後悔させた上で、最大限の苦痛を味合わせながら殺してやるッ。今日の件で警察に駆け込んだり訴えたりしても同じだ。俺がこの手で、アンタを殺してやるッ!!』

 

 醜いブタみたいな顔をした女性教諭は口から血を流しながら怯えた表情で此方を見つめている。突きつけた銃口を下ろし、廊下を歩き去っていく間も不快な時間は続いた。

 

『なにアイツ…』『ホラ、あの女のリアガードよ』『あぁ、バケモノ使ってアルギュロスと戦ってるんだろ?』『なんで"蒼星の忌み子"なんか使うんだか…、とっとと殺しちまえってんだ』『青鬼なんてみんな纏めて駆除しろよ』『私、あの子と連絡先交換しちゃったんだけど』『うわッ、最悪』『早く消しなよ、気持ち悪い』『ねぇ、わたし何度かあの人間モドキに触られたんだけど……金属化とかしないよね?病院とか行った方がいいかな?」『うそ、ヤバいよソレ!』『人間のフリして学校来るとか……』『ホント何考えてんのアイツら?マジでキモいんだけど』『人間の姿をしたアルギュロスよ』『バケモノ……怖い…」『早く死ねばいいのに』

 

 生徒だけではない、教職員含めて学校全体が悪意と恐怖に満ちていた。柚瑠が暗く乾いた瞳で下校するのも当然だった。

 

 こんな場所に彼女を置き続けられない。だからその後すぐに、柚瑠と話し合って学校を変えた。

 

「双柳に転校して、新しく友達も出来て、自分の出自も受け入れてもらえた……。ようやく見つけたアイツの居場所を、奪う訳にはいかないんだよッ!仮に死ななくても、顔や手足に金属が生えて、内臓に異常が起きたんじゃ二度と学校には通えなくなる!友達にだって会えなくなるんだ。そんなの……アイツはきっと耐えられないッ」

 

「なら、お前が守れ」

 

不意に、仙谷の口から紡がれた言葉に冷静さを取り戻す。

 

「お前が柚瑠ちゃんを想う気持ちは痛いほど理解出来る。俺だって桐霸が大切だ。武器商の規模を小さくしたのも、あの子を危険から遠ざける為でもあるしな」

 

 仙谷の瞳が、真っ直ぐに此方を見据える。

 

「柚瑠ちゃんを守りたいなら……、フレーム解放のリスクが嫌なら、お前が彼女の分まで強くなれ。忘れたか?『半端なガキじゃ死ぬだけだ------』」

 

「『全てを戦いに捧げなきゃ、何も守れない』……よく覚えてるさ、忘れはしない」

 

千桜が続きを口にする。ソレは、演習の際に雪平から言われた"戦士としての在り方"を示された言葉だった。

 

「俺は……アイツの為なら全てを捧げられる。だが、それ以上にアイツの未来を守りたい。その為には、俺と柚瑠は一緒に生き残らなきゃいけない」

 

「ならやる事は分かってるな?」

 

「あぁ、……ありがとう、仙谷」

 

「こんなんでも一応戦友だ。俺は雪平さんや天城さんみたいなバケモノにはなれないが、お前ならあの二人を超えられるかもしれないしな」

 

「……頑張ってみるさ、限界まで------いや、その先だって超えてみせる」

 

柚瑠と、彼女が生きる世界を守る為ならッ--------!

 

「お待たせー!どうかな?」

 

タイミングを見計らった様に、奥の部屋から柚瑠と桐霸が現れる。柚瑠の細く引き締まった綺麗な脚には、新品のニーソとブーツが履かれており、千桜の前で見せつける様にくるりと一回転する。

 

「いいと思うぜ。予備の分も確保したか?」

 

「うん!バッチリ!」

 

袋に入れられた何着かのニーソとグローブを確認すると、その場で桐霸に礼を言い、会計を済ませて店を後にした。

 

「じゃあな」

 

「あぁ、また何か必要になったら来い」

 

「またね、柚瑠ちゃん」

 

 二人に見送られながら、地下の店から地上へと出る。思ったより長居してたのか、もうすぐ陽が沈みそうになっていた。

 

「……ねぇ」

 

「ん?」

 

暫く歩いてると、柚瑠がおずおずとした様子で口を開く。

 

「さっきの会話なんだけど……」

 

「げ、聞いてたのかよッ?」

 

「あんな大声じゃ流石に聞こえちゃうよ。いつ出るべきか本気で迷ったし、それより---------」

 

 柚瑠は千桜の前に出ると、真剣な表情で向き合う。

 

「フレーム2への引き上げ、必要なら僕は構わないよ」

 

「な、なにッ…?」

 

 思わず足を止め立ち尽くす。

 

「正直、僕もフレームの解放は怖いよ。アルギュロスに為るのも、身体に起こる異常も……けど、千桜を喪うよりはいい」

 

「いや、良くないだろッ。俺は------」

 

千桜が最後まで言う前に、続きを手で制止される。

 

「分かってる。今すぐ決めなくていい、少なくとも今からフレームアップするのは無理だしね」

 

ヴァンガードの脳に施術されたフレームを解放するには、高度な外科手術を必要とする。絶大な生命力を持つ『蒼星の忌み子』は通常の手術ではメスで開いた箇所も瞬時に塞がり、手術器具が癒着するおそれがある。故に専用の抑制剤を大量投与し、再生能力を司る脳の機能を弱らせてから執刀しなければならない。当然、手術時の身体への負担は相当なものとなるし、術後の回復にも数日の時間を要する。今日フレームアップしても、どのみち明日の作戦には間に合わない。

 

「……俺は、お前が生命を喪うリスクを可能な限り減らしたい」

 

「僕も、千桜が苦しむような手段は取らせたくない。だから……二人で考えよう。この先どうしていくのが最善なのかを」

 

「……そうだな」

 

 沈んでいく夕陽を背景に、二人は手を繋ぎながら自宅への帰路に着いた---------。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。