純潔の菩薩姫 作:まだ半妖の夜叉姫観れてないんだよね
二人して殺生丸が来るのを待ちすがら、邪見が殺生丸を見初めたときのことを聞いた。
あまりの格好良さに息が止まったようだった、と頬を染める邪見は乙女の顔をしていた。
邪見の語る殺生丸は自分が見てきた彼とは少し違っていて、だけど同じように見えるところもあり、それが面白かった。
邪見曰く。
他者にはまるで無関心で、だけど
その証拠にではないが、邪見がついてくることを拒絶しない。
基本は無愛想なのに、気まぐれに手を差し伸べてくれて、そこがまたいいのだと熱弁している。
私は心のなかで深く頷いた。
――そう、そこがいいのだ。
あの見かけで存外にロマンチストなところもあったりして、そこがちらりと見えたときの
夜明けまで語り明かし(というか邪見がほとんど語っていた)、そろそろ殺生丸を探しにいく、という邪見と離れた。
待っていれば来るだろうと、なんの根拠もなく二人して思っていた。だが、実際は明け方を待っても来なかった。
邪見とともに殺生丸を探しに行くことに、少なからず心は傾いた。
だが私は犬夜叉たちを探しに行かなければならない。
それに、やりたいこともできたし。
「また近いうちにお会いしましょう! 姫!」
殺生丸の姉、ではなく私個人を見てくれるようになった邪見。この一晩で随分と仲良くなれたと思う。
大きく手を振るちっちゃい緑に、私は小さく手を振りかえした。
さて、どこを探そうか。
そう悩んでいた私だったが、あれだけ探し回ったのが嘘のように、犬夜叉たちはあっさりと見つかった。
「怜悧殿ー!」
「姉貴!」
森のなかにいましたよ、と言わんばかりにひょっこりと現れた二人が駆け寄ってくる。
「どこにいたんだ?」
「それはこっちの言い分だ。
オレたちは、もうしばらくずっとこの森のなかにいるぜ」
「本当か。私も昨日から一晩中この森にいたのだ。
……お前たちが隠れ潜んでいたとでも言うなら話もわかるが」
すると、一際強い視線で犬夜叉が美尾を見つめる。
「なあ、美尾。俺たちはずっと森にいた。そうだよな?」
「――う、うむ。
その通りじゃ。な! 犬夜叉」
頑なに私の方を向かず、犬夜叉に同意を得る美尾。
あからさまに私から逸らされた翡翠色の大きな瞳。
その言葉に嘘はないのだが、隠し事のニオイがする。
……知らぬ間に随分と仲良くなったことだ。
私のおらぬ間、共有された二人の時間。
交わされた視線から秘された時間の残り香を感じる。
少しばかりの寂しさは覚えた。
だが、それ以上にやわらかな感情が胸の奥で広がって口の端がわずかに上がる。
私は二人の頭を撫でた。
「そうか。たまたま会えなかっただけなのだな」
「ああ。姉貴は妖力を抑えてるから、こっちから見つけづれぇんだ」
「う、うむ。犬夜叉の鼻が利くゆえこうして出会えたが、朔の日である昨日は――あいてっ!」
ごいん! と頭を殴られた美尾。涙目で犬夜叉を見上げるも、いつものように文句を言わなかった。
……やっぱりなんか、仲良くなってる?
二人だけで共有した秘密の深さに、私はほんの少しだけ嫉妬した。
私のことを姉と呼ぶようになったのは、きっと二人で過ごした時間のなかで、変化があったからだ。
美尾からの厳しい言葉を五月蝿がるばかりだったのに。
一体彼らの間でなにがあったのだろう。
私はその出来事が彼らの言葉で紡がれる日を楽しみにした。
この変化は、きっと犬夜叉にとって良いものだ。
「姉貴はあの戦いのあとしばらく何してたんだ?
その刀となんか関係あんのか?」
キラキラとした視線を私の腰へと注ぐ犬夜叉。
「話せば長くなる――が。
そうだな。……聞いてくれるか」
相手に語って欲しくば、私も語らねば。
ウキウキとした表情で頷いた二人を見て、私は口を開いた。
鉄鶏と戦い、それから友人となったこと。
娘の阿毘を助けたこと。
刀々斎に助けられたこと。そして気絶してる間に歯を抜かれたこと。
父からの遺言でこの刀を授けられたこと。
それらをゆっくりと、自分の言葉で語った。
そしてこれは胸の内でのみ思う。
犬夜叉の刀の在処を知った。
渡してやらねば、と思うが場所が場所だ。
一度その地を、自分の目で見て確かめておきたい。
私一人ならば冥界からあの世へ行き、妖怪の墓場へと至るルートが使える。
それから火の国の門を通り、火の国から武蔵国まで飛んで帰って来ればいい。
犬夜叉と美尾たちも、私と鉄鶏との戦いのあとのことを語ってくれた。
どれほど妖怪達が騒いだのか、この森にどういう変化が訪れたのか。
そして、雑魚妖怪どもをあっという間に二人で蹴散らしてやった武勇伝を聞いた。
そうして自然と言葉が尽きた頃、私は切り出した。
「犬夜叉、美尾。少し野暮用が出来た。
しばらく不在にするが、よいか?」
「けっ、無言で前の月の半ばで消えて、ふらっと月初めに現れた姉貴がわざわざ戻ってきてそう言うたぁ……。
その野暮用ってやつはそこそこ長くなるんだな」
「わたしは、信じてお待ちしております。怜悧殿」
「ま、お互い達者にやろーぜ。
丁度姉貴がいねえときにやりたいと思ってたこともあるし」
じゃーな、と背中を向けて歩き出した犬夜叉のあとを、ぺこりと丁寧に一礼した美尾が急ぎ足でついていく。
私はその背中が見えなくなるまで、見送った。