純潔の菩薩姫   作:まだ半妖の夜叉姫観れてないんだよね

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喪失

 

 母が死んだ。

 ぽっかりと胸に穴が空いたような気持ちだった。

 

 人が死んだら、人間は涙を流すものだ。

 だけどオレは泣けなかった。

 やっぱりオレが半妖だからなのだろう。

 

 心の準備は、とうにできていた。

 だって。母から死臭は嫌というほどにしていたから。

 

 一人で生きていけない貴族の娘だった母は、オレを見捨てればもうしばらくは長生き出来ただろうに、オレと一緒にいることを選んだ。

 

 オレは半妖だ。

 妖怪からは蔑まれ、人間からも忌み嫌われる存在だ。

 

 唯一の例外はオレの父と母だけだった。

 

 そのはずだった。

 

 

 唐突に現れたその女は、母の死臭(ニオイ)を嗅いで鼻をおさえた。

 

 オレと同じニオイを嗅ぎ取っていることは見てとれた。

 

 それが母の死を断定するものに思われて、オレは腹が立った。

 

 いつものように感情のままに噛みつこうとして、不思議と流れ込んでくる女の感情に勢いを削がれた。

 

 

 女から流れ込んでくる感情(ニオイ)が、どこまでも悲しくて。胸の奥がザワザワとする。とてつもなく寂しくて、やるせなくて。

 

 

 この女は、オレたちを傷つけない。自信がある。

 なぜだか、そう確信することが出来た。

 

 目に映るもの全てが敵に見えていたオレからすれば、とても珍しいことだ。それなのに、女が敵にならないことを当たり前のように受け入れていて、しかもそれが不思議でもなんでもなかった。

 

 だって――。

 オレとこの女は血が繋がっている。

 

 それが自信の根拠だった。

 

 

 母は女と穏やかに話しながら、いつものようにオレの髪を撫でる。

 オレはその手の心地よさにまどろんだ。

 

 母がゆっくりと、静かに、女へと語りかけている声を子守唄に、オレは眠りについた。

 

 女から漂う隠しきれない妖気は、まるで父が側にいるかのような強大な安心感となって、オレを一段深い眠りへと誘った。

 

 心の準備はできている。できていた。

 だけど、いつ母が死ぬかもわからぬ恐怖のなかでは、ぐっすり眠ることなど出来なかった。

 

 だから――その夜は、呆然とするほどにぐっすりと眠ってしまった。

 

 

 

 目が覚めたら、母が死んでいた。

 

 

 

「犬夜叉」

 

 そっと、語りかける存在がいた。

 

 自分とそっくりの銀髪に、自分とそっくりの月色の瞳をした女だ。

 匂い立つ妖気は紛れもない妖怪のものだ。

 仮面のように美しい無表情なのに、その瞳が映し出す煌めきが、醸し出す雰囲気が、どこまでも人間くさかった。

 

「――十六夜殿をともに弔うことを、赦してくれるだろうか」

 

 決して無理強いはしない、オレの意思を尊重することを匂わせた発言だった。

 オレは反射的に頷いていた。

 決してオレが不安だったからではない、とおもう。

 母も、オレだけに見送られるよりかいいのではないかと思わされたのだ。

 

 

 オレは冷たくなった母を、読めない表情をした女と一緒に燃やした。

 

 しゃがみ込み、燃え上がる炎をいつまでもいつまでも見つめ続けるオレの隣に女はいた。

 

 何も言わず、動くこともなく、ただ側にいた。

 

 

 すっかり炎の熱気も消え失せ、静まり返った夜半に女がぽつりと溢した。

 

 まるで独白かのように、小さなつぶやきだった。

 

「共に行かぬか? 犬夜叉」

 

 ずっと身体を動かしていなかったがために石のようになった身体。

 軋む身体を無理やりに動かし、ゆっくりと立ち上がったオレは女を見上げた。

 

 女の月色の瞳は灰になった母の名残をいつまでも写している。こちらを少しも見ない。とても、寂しい瞳をしているように見えた。

 

 だから、オレは女の袖をそっと引っ張った。

 

 




ストックないのでちょっと遅れますm(_ _)m
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