STAY WITH ME ドラえもん   作:ミサ菓子折

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[僕は天才の好敵手。]

そして、ぴったり1時間後。

出木杉は裏山に現れた。

 

出木杉「やあ、のび太君。呼び出して済まないね。それと待たせてごめん」

のび太「別に。何も用がなかったから直行しただけだよ。女の子たちは撒いたのかい?」

出木杉「ああ、あれね。参っちゃうよ。悪目立ちしすぎたな」

のび太「何がだよ。常に500点満点取っておきながら。さぞ気分良かっただろうな」

 

やめようと思っているのに、嫌味を言ってしまう。

そんな自分が果てしなく嫌だった。

だが、出木杉はそんな僕に対して頭を下げてきたのだ。

 

出木杉「すまなかった」

のび太「え、ええ!?」

出木杉「君が一学期、頑張ってるのは知っていたんだ。たぶん1位を狙っているんだろうってことも分かってた」

のび太「え? なんで……」

出木杉「しずかちゃんから聞いてたからね。何かすごい頑張ってる、って。そこでピンと来たんだ」

のび太「だ、だからって、なんで謝るんだよ」

出木杉「本当を言うと、僕は学校のテストは手を抜いていたんだ。正確には語学の勉強をしてた」

のび太「語学?」

出木杉「英語・ロシア語・フランス語・中国語あたりだよ」

のび太「なんだって!?」

 

ぶったまげた。

僕なんか5科目でも大変だったのに、出木杉のやつは同じ時に10科目ぐらい勉強していたというのだ。

それじゃ勝ったとしたって、全然出木杉は本気じゃないっていうことに……。

 

出木杉「しずかちゃんからのび太君のことを聞いた時、僕は『ふーん』と思った。別に負けても気にならないし、のび太君が喜んでくれるならそれでもいいかなって」

のび太「じゃあ、何で……」

出木杉「ふと思ったんだ。それでいいのか、ってね。のび太君は必死に努力してるのに、僕は手を抜いた状態で勉強して、それで負けたらへらへらして君に拍手を送る。君はそれで満足だろうか、と」

のび太「それは……知ったら馬鹿にされたと思っただろうね」

出木杉「そうだよね」

 

出木杉は笑顔でうなずいてくれた。

これは、僕は出木杉に感謝すべきなのか?

いや、しかし、それでも勝ちたかったのは事実だし、出木杉が油断しそうな隙を狙ってたのも事実だ。

 

出木杉「それで、僕も試験勉強を真剣にやってみることにした。まあ、語学の勉強は続けながらだったんだけど……」

のび太「けど……?」

出木杉「適当なところで妥協しようと思ってたのに、ふとあるごとに『いや、のび太君はもっとやってくるはずだ』と思い込んで、気づいたら国語の先生の採点傾向を過去問題から分析したりしてしまったよ」

のび太「そんなこと、いくら僕でもやってないよ!」

出木杉「僕も500点満点取ってから気づいたよ。どう考えても過剰だった。だから、すまない」

のび太「はぁー、そんなんじゃ君のこと恨めないじゃないか。完全に僕の負けだよ」

 

どっと肩の力が抜けた。

出木杉は出木杉で僕の知らない次元で苦しんでいたんだ。

それが分かると、僕がどれだけ頑張ったって勝てるわけがないって分かってしまった。

こいつは本当の本当に天才だったのだ。

 

のび太「ていうか、何で3年まで500点満点なんか続けたのさ? 僕がやる気失ってたのは気付いていただろ?」

出木杉「ああ、それね……」

 

出木杉はちょっとばつが悪そうに口ごもった。

 

出木杉「500点満点の威力が凄すぎたみたいで、なんか採点基準が僕基準になってしまったみたいなんだよね」

のび太「どゆこと?」

出木杉「落としたと思ったのに〇(マル)になってることとか、計算式間違ってるはずのに減点されなかったりしたことがあった」

のび太「えー、何それ」

出木杉「一回目でコツ掴んだってのもあるだろうけど、二回目以降はただの偶然だよ。運が良かっただけ」

のび太「それでも490点とかだったんだろ?」

出木杉「まあね」

 

まったく嫌味のない笑顔で出木杉は笑った。

あまりの毒気のなさに僕もつられて笑ってしまった。

 

出木杉「君は間違いなく僕の生涯で最強の敵だったよ、のび太君。ありがとう」

のび太「ちぇっ。最強なのは僕じゃなくて、君が作り出した僕じゃないか」

出木杉「そうだったね」

 

僕と出木杉は笑い合った。

小学校以来だな、こんなの。

あの時は出木杉ともくだらないことで笑い合ったこともあったっけ。

もう、任せてもいいかな。

僕の中の出木杉へのわだかまりは完全に消えた。

 

のび太「出木杉。しずかちゃんのこと頼むよ。じゃあね」

出木杉「いやいやいや、ちょっと待って。何で帰ろうとしてるの!?」

のび太「いや、ここはかっこよく去る場面かと」

出木杉「そんなの知らないよ。だいたい、僕はもうしずかちゃんにフラれてるよ」

のび太「え? 一体、いつ」

出木杉「1学期の中間試験のとき」

のび太「え? えー? 何で? 500点満点だぞ!?」

出木杉「のび太君落ち着いて。500点満点だぞって何なんだい」

のび太「え? でも? なんで?」

出木杉「君、中間試験の結果発表の翌日休んだだろ。その時、しずかちゃんに引っぱたかれたんだ」

のび太「何でだよ! 500点満点だぞ!?」

出木杉「いや、うん、ちょっと500点満点から離れてくれないかい? 恥ずかしくなってきた」

のび太「ごめん。ちょっと混乱して」

出木杉「別に大したことじゃないよ」

 

そういって出木杉はその時の状況を語りだした。

 

しずか「最低よ、出木杉さん!」

出木杉「すまない」

しずか「のび太さんがかわいそうだわ! あんなに頑張ってたのに!」

出木杉「すまない」

しずか「私、出木杉さんに言うんじゃなかった! こんなのあんまりだわ!」

出木杉「すまない」

しずか「すまないばっかり! 謝るぐらいなら最初からやらなければいいじゃない!」

出木杉「ごめん、しずかちゃん。悪気はなかったんだ。それだけは信じてほしい」

しずか「……ぐすっ」

 

知らなかった。

あのしずかちゃんが出木杉を叩いていたなんて。

 

出木杉「僕も暴走した手前謝るしかできなくてね。しずかちゃんには悪いことをした」

のび太「そうか。しずかちゃんが出木杉のやる気に火をつけた結果になっちゃったのか」

出木杉「謝り続けて許してはもらえたし、今では理解してもらってるけどね」

のび太「じゃあ別にいいじゃないか」

出木杉「もちろんそれだけじゃない。しずかちゃんを僕の夢の犠牲にはできないよ」

のび太「夢?」

出木杉「僕、宇宙飛行士になりたいんだ」

のび太「なればいいじゃない」

出木杉「そんな簡単じゃないんだよ」

のび太「そうなの?」

出木杉「まず数か国語を話せる必要がある。それも日常会話レベルじゃなくて学術論文レベルで」

のび太「ええー?」

出木杉「さらに宇宙で実験をするために必要な知識も身に着けていなければならない。自分の実験だけでなく、依頼された実験をするための知識も必要なんだ」

のび太「???」

出木杉「まあ、分かりやすく言うと数か国語話せて、しかもいろんな学問の博士になる必要があるってこと」

のび太「なるほど! それはたいへんだ!」

出木杉「ほんとに分かってる?」

のび太「もちろん!」

出木杉「まあ、勉強の方は頑張ればいいだけだけど、僕なんかを恋人にしたらしずかちゃんにもっと悪いことがある」

のび太「?」

出木杉「事故が起きたら一瞬で僕は死ぬ。そうでなくても家には帰れない。そんな僕の人生に、しずかちゃんをつき合わせる気にはならないよ」

のび太「そ、そっか……。宇宙って危険な場所だもんな」

出木杉「のび太君、しずかちゃんには悪い虫が寄り付かないように僕が見張っておくよ。君はできるだけ早く彼女を迎えに来るんだ」

のび太「なっ! いや、僕は、別にそんなんじゃ、ないんだよ?」

出木杉「ははは。それじゃあね。僕は君たちの天才として、誇りをもって生きていくよ」

 

こうして僕は出木杉と別れた。

中学・高校と話した時間は本当に今ぐらいしかなかったけど。

僕は出木杉との間に、深い友情を感じたのだった。

 




採点傾向を読み、それに合わせた回答をする。
そのために過去問も研究する。
ここまで異常な行為をしてはじめて国語で満点を取れます。
……が、出木杉も言ったように「どう考えても過剰」な対策であり、むしろ自分の考えをきっちり読んできてる出木杉に国語の教師もびびったでしょう。
他の教員も出木杉を恐れてしまったようで、出木杉の試験対策は「出木杉が間違うはずがない」という恐怖感まで先生達に植え付けてしまったようです。

ちなみに、国語の満点対決は昔国語教師との間で本当にやらかした戦争で、最後には「いや、この漢字が汚い。ここで減点だ」と実にくだらない次元でやり合ってました。
でも、模試も受けず、比較的まともな国語教師と1年間向かい合えたことは自分にとってもプラスだったなと思います。
教師にも「君のおかげで国語でも満点って出していいんだなってわかったよ」と言われました。
……そこは、私を褒めるより前に今まで満点出してなかったのを反省すべきなんじゃないですかね?

まあ、そんなわけで、国語の試験はちゃんとした採点基準を持った人に採点してもらってこそ意味があるもので、模試のバイト学生の採点は当てにならないどころか害悪ですらあるという話でした。
でも、この手の話をすると駿〇とか河〇塾とかの模試会社から刺されかねないので、外では言わないようにしましょう。
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