[幸せに包まれて……?]
それから、僕はしずかちゃんと結婚した。
みんなに祝福されて、とても幸せな式だった。
え? 式に至った経緯?
それは恥ずかしいから、また別の機会に……ね?
だいたい君も知ってるだろ?
雪山のロマンスとかのび太の結婚前夜とかさ。
だから、これから僕が語るのはその後の話だ。
僕が一番大切な友達と別れる、その日までの。
しずかちゃんと結婚してから、僕は幸せ絶頂だった。
職場でもルンルン気分で落書きにいそしんでいた。
いや、分かってるよ。
これは落書きじゃなくてPOPってれっきとした仕事だ。
そのPOPだけど、好評が好評を呼んで、うちの店舗では大量に必要になっていた。
そのせいで、僕は作業のためにバックヤードの事務所にこもる時間が増えた。
POPが好評って何だって思うだろう?
子供A「おい、あったぞ!」
子供B「後一個! 後一個はどこ?」
奥様「静かに探すのよー。没収されるわよー」
子供A・B「はーい」
原因はこれだ。
僕のデザインしたキャラクターを店内のいたるところに隠しているのだ。
それを全部見つけた子供達に、お菓子をプレゼントするという企画を始めたらこれが大ヒット。
もちろん子供達には、騒いだらキャラクターシートを没収するという注意をしてある。
しかし、それでも売り場を子供がうろついたら苦情が出るんじゃないかと思ったら大間違い。
逆に万引きが減ったのだという。
子供というのは、行動の予想がつかない。
そんなのがスーパーの中を無軌道に動き回るのでは、万引き犯も落ち着かないようだ。
また、子供の動きに注意を払う人が増え、結果として地域での見守り効果を期待できるらしい。
……ということを店長やおばちゃん達から聞いたが、僕の落書きにそんな有効活用法を見つける彼らの方が凄いと思う。
まあ、そんなこんなでPOPは短い間隔で張り替えた方がいいらしく、僕の業務の大半はPOP作業となったわけである。
店長「野比くーん」
のび太「何でしょうか?」
その日も作業をしていると、突然店長から声をかけられた。
見てみると、後ろにそこそこ歳のいったおじさんをつれていた。
誰だろう?
店長「こちら、うちの本社の社長さん」
のび太「え? わわ、はじめまして! の、野比のび太と申します!」
社長「ああ、いい、いい。そんな畏まらないで」
のび太「何か僕に御用でしょうか?」
社長「うん。あのPOPのキャラクターデザイン、君がやったんだって?」
のび太「ええ。まあ」
社長「あれ愉快だね。僕もついつい探しちゃったよ。一つだけ見つからなかったけど」
のび太「あ、景品のおやつ欲しいんですか? ちょっと待ってください」
店長「ちょっ、野比君!?」
社長「わははは、君面白いな。おやつはいらないよ。第一、私は全部見つけられてないじゃないか」
のび太「あ、そうですね。ついズルを許しちゃいました」
社長「で、君に相談なんだが、よかったら本社直属の社員にならないかい? 全店舗にあのPOPを導入してみたいんだ」
のび太「え?」
社長「ああ、もちろん今すぐ答えなくてもいいよ」
のび太「で、でも、あのPOPのああいう活用法を考えたのは、店長やバイトのおばちゃん達なんですけど」
社長「正直なところもいいね。もちろん聞いてるよ。でも、君のデザインセンスにピーンときたんだ。だから、待ってるよ」
のび太「い、行きます!」
社長「え?」
店長「え?」
のび太「え?」
社長「彼、普段からこうなのかい? なんというか、その、てきとーに生きてる感が」
店長「ええ。なんかてきとーに生きてる感は昔からありました」
のび太「ちょっと、店長!?」
社長「まあ、遅くなったけど私の名刺だ。そうだな、それじゃ明日にでも本社にきてくれ」
のび太「はい」
この時の僕は、なんかえらいことになってきたぞ程度にしか思ってなかった。
えらいことになってきた、というかえらいことになっていたのだ。
おかげで家に帰ってから、新婚早々さんざんな目に遭うことになる。
家に帰ると、僕はパパ・ママ・しずかちゃんに会社であったことを伝えた。
あ、ちなみにしずかちゃんとは、おばあちゃんの部屋を片付けて実家の二階で暮らしていた。
まあ、それは別段どうでもいい話なので置いておこう。
なぜなら、今すぐ意味がなくなるのだから。
しずか「え? 社長さんに本社に誘われた?」
のび太「うん、びっくりしたよ」
しずか「それでどうしたの?」
のび太「いやあ、緊張しちゃってその場で『はい』って言っちゃったよ」
パパ「なぁんだあってぇ!?」
のび太「何大声出してるのさ」
しずか「ちょっとあなた! その本社ってどこにあるのよ!?」
パパ「その名刺見せてみろ。ふむふむ……」
ママ「どこなの? 近く?」
パパ「全然! っていうかめちゃくちゃ遠いじゃないか!」
しずか「ええっ!?」
のび太「え? そうなの?」
パパ「のび太、お前車持ってないだろ! 電車じゃここ、かなり遠いぞ!」
のび太「まあ明日行くだけだし、それぐらい別に」
しずか「何言ってるのよ! 採用は早くて明後日、遅くても1週間後ぐらいじゃない!」
のび太「あ、そうか」
パパ「ああ、こうしちゃいられない。すぐに物件を探すぞ、のび太」
しずか「引っ越しの準備もしなきゃ! お義父さん、私の仕事先も近いところを選んでね!」
パパ「ああ、そうか。それも考慮しないといけないのか」
のび太「あわただしいなあ」
しずか「誰のせいだと思ってるのよ!」
のび太「ええと、その、ごめんなさい。僕のせいです」
しずか「ごめんなさい、お義母さん。私、家を出ます」
ママ「あらそう。残念ね、静香さんとならいい嫁姑になれると思ったのに」
僕の即決が原因で、家の中はちょっとした修羅場になった。
なんだかママが悲しそうだったのを覚えてる。
しずかちゃんにめちゃくちゃ怒られた翌日。
僕は本社の前に立っていた。
ていうか……。
のび太「でっかいなあ……」
僕は本社の大きさに圧倒されていた。
そりゃこの周辺に100店舗も展開しているスーパーなだけある。
今更ながらに、昨日話したおじさんが凄い人だったのに気付いた。
のび太「なんだかお腹が痛くなってきた」
本社の規模を知ると、とんでもないところに来たのではと思いはじめ、僕は震えだした。
どうしよう、帰っちゃおうかな。
でも、それじゃ引っ越し準備してくれてるしずかちゃんたちに悪いし……。
そう僕が怖気づいてた時だった。
警備員A「もしもし?」
のび太「わひゃあい!?」
警備員A「来客の方ですか?」
のび太「ちがいます! いえ、合って……ない? いや、合ってる?」
警備員A「…………」
警備員B「どうした?」
警備員A「こいつ、なんか怪しいぞ」
警備員B「何?」
のび太「ぼ、僕は怪しくなんかなぁい!」
警備員A「怪しいやつはみんなそう言うんだ」
警備員B「おい、警察を呼べ!」
のび太「ええええ!?」
社長「何やっとるのかね、君」
警備員A「あ、これは社長!」
社長「彼は問題ないよ。私が呼んだんだ」
警備員B「そうですか。失礼しました」
のび太「た、助かりました」
社長「いや、それはいいんだけどね。何やっとったんだ」
のび太「いえ、会社があまりに大きくてびっくりしちゃって」
社長「まったく君は面白いな。早く会社に入って採用審査の面談を受けたまえ。なに形だけだ」
のび太「…………」
社長「どうした? まだ怖いのかい?」
のび太「いえ、行きます。ありがとうございました」
本当にいい職場だ。
ここにして良かった。
と、僕は思ったのだった。
帰った後、パパから物件は見つかりそうだと言われた。
その後、またしずかちゃんからものすごい剣幕で怒られたけど。
はい、もう二度としません。
以後気を付けます。
「明日は日曜日そしてまた明後日も……」(藤子不二雄Ⓐ)
フラグが立ちかけたわけですが、ギリギリ回避できてよかったですね。
ちなみに、社長はのび太君のデザインセンスにピーンと来たそうです。
ティンと来たわけではありません。
……何のこっちゃ?
何かそんなアイドルの会社の社長がいたとか、そういう話です。