なんで僕はそうなのだろう?
前回は深い考えもなく即座に決めたせいで怒られた。
と、なると今度はのんびりしていたせいで怒られた、だ。
あれから5年、僕は必死に働いた。
POP作業はもちろんのこと、本社社員として各店舗の見回りに行ったり、充実した日々だった。
ところが、最近は忙しさに参っていた。
同僚「野比君、それじゃ僕はお先に」
のび太「あ、はい。お疲れさまでした」
同僚が勤務を終えて帰宅する。
僕の仕事はここからが本番だ。
最近はとにかくキャラクターデザインの仕事が増えた。
好評なのはうれしいんだけど、うちの店でやってた「見つけろ! 隠れたキャラクターたち!」が全店舗で行われるようになったからだ。
さすがに仕事の合間に落書き感覚でやってたのじゃ、とてもじゃないけど時間が足りなくなってきた。
というわけで、残業で作業をするようになったのだが、それも相当きつくなり始めていた。
のび太「はぁ、もういっそ手を抜こうかなあ」
さらに都合の悪いことに、続けていたせいか僕の絵のレベルが上がってきていた。
当然そうなると、凝るところには凝るようになり、ますます時間を食う。
ついつい悪魔のささやきに耳を貸そうとしかけ、頭をふった。
のび太「いや、子供たちが楽しみにしてくれてるんだ。頑張ろう」
そうして、僕はPOP作りに集中する。
タイムカード(勤怠カード)は当然切ってる。
僕の個人的なこだわりに残業代を求めるわけにはいかないからだ。
そして、作業をしはじめて何時間が経過しただろうか。
フロアにおかしな歌が流れてきた。
「たらりったったー。かえりましたよー、ってね」
はて? と僕は頭をかしげる。
誰だろう、と。
社長「さーて、お残りさんは誰かなー?」
社長だった。
のび太「社長? なんでこんなところに!?」
社長「仕事で飲んだ帰りに本社に寄ったら、まだ電気が付いてるんだもん。誰かいるのかと思って」
のび太「すいません。連日残って仕事してしまって」
社長「まったく、そんな根詰めてまで働かなくてもいいじゃないか」
のび太「いえ、あくまで僕のこだわりなので」
社長「ふーん。で、何してたの?」
のび太「POP作業してました」
社長「は?」
僕の返答に、社長は不思議そうな声をあげる。
社長「ちょっと、ちょっと、待って。君POPのために残業してたの? こんな時間まで?」
のび太「あ、でも大丈夫です。タイムカードは切ってます。残業代はいりません」
社長「そういう問題じゃないよ! うわ、いったいいつから……君にPOPを発注してるのは誰!?」
社長は青い顔をして冷汗を流していた。
当然、酔いなんかとっくに覚めていただろう。
そして、関係各所に連絡をし終えた社長は、ため息を付きながらこう言った。
社長「野比君、君はもう帰りなさい」
のび太「え? あ、はい」
社長「それと、君はもう会社に来なくていい」
のび太「ええっ? どうして!?」
社長「独立するんだよ。これまでの残業代がわりに費用も出してあげるから」
のび太「独立、ですか?」
社長「もう君の仕事は勤務中のお遊びじゃない。君はもはや立派なアーティストだ」
のび太「でも、僕にできるでしょうか?」
社長「なに、うちからPOPの仕事はこれからも発注する。ダメだったら、またうちでもあの店長の店でもどっちでもいい。好きな方で雇ってやるさ」
のび太「……はい」
社長「これからもよろしくな、野比君。……いや、野比先生だな」
僕が、先生?
なんだか、とてもむずがゆい感じがした。
ちなみに、家に帰ってその話をすると……。
しずか「何でそんな大事な話を黙ってたのよ!」
のび太「え、ええー?」
しずか「残業残業ばっかり! なんでそんなにこき使われてるのかと思ってたら、ただ働きしてただなんて!」
のび太「ご、ごめん」
しずか「せめて夜の時間ぐらい、もっと私といて!」
のび太「うん……って、え?」
しずか「あ……」
どうやら、僕らの間に春が来るのも時間の問題のようだ。
のび太君「まあ、落書きで遊んでるだけだし」と思ってたら、残業してただ働きを続けてましたの巻。
これでね、静香ちゃんが性格悪かったり、のび太のこと信用してなかったりしたら、間違いなく興信所(探偵)付けられてますよ。
変だな、と思いつつも放置してくれていた静香ちゃんと、間違った労働環境を改善してくれた社長には感謝すべきですね。