ロボット擬人権事件から2年後。
さらに僕らを驚かせることが起きた。
なんと、出木杉がノーベル賞を受賞したのだ。
それも、まさかの二つ同時受賞とあって日本は沸いた。
受賞した賞がまた驚きで、文学賞と平和賞だという。
「え? 何で?」って思ったよね?
僕も不思議だった。
そして日本国民も驚いていた。
元宇宙飛行士で、ブームになったとはいえ変なロボットを開発した人物が、なぜ無関係なはずの文学賞と平和賞を受賞したのか?
そもそも、あまりに唐突に決まりすぎて、何で受賞したのか国民はさっぱりだった。
だが、受賞自体は事実。しかも同時受賞は初とのことで、日本は大いに沸いていた。
そうして、よく分からないまま祝福の雰囲気で国内が包まれる中、僕はスネ夫に呼び出された。
たぶん、出木杉のノーベル賞の件だろう。
しずかちゃんにも来るかと尋ねたけど、案の定断られた。
その代わり、出木杉さんの話をあとで教えてねと言われた。
なんで、しずかちゃんは僕と行かないんだろう。
僕から聞かずに自分で聞けばいいのに。
とにかく、僕はスネ夫の家に向かった。
スネ夫「よう、来たなのび太。ジャイアンも待ってるぜ」
のび太「やあ。しかし、お互い老けたなあ」
スネ夫「まあ、僕らももうすぐ60代だしな」
のび太「出木杉君は?」
ジャイアン「いねえよ。授賞式とかで忙しいそうだ。唐突に決まったからな」
のび太「警護しなくていいの? 警備員だろ?」
ジャイアン「もう、いらねえってよ。どこのバカがノーベル賞受賞者を襲うってんだ」
スネ夫「知名度のおかげだね。もう、今の出木杉を捕まえようなんて考える組織はいないだろう。日本国民全部を敵に回すようなもんだ」
のび太「へえ、大したもんだなあ」
ジャイアン「ま、俺も出木杉を守って弾食らった甲斐があったってもんだな」
のび太「あの時は心配したよ。ジャイアンが死んじゃうんじゃないかって思ったよ」
ジャイアン「心配かけて悪かったな。だが、俺は不死身だぜ」
スネ夫「どうせなら世界平和のために死んどけばよかったのに」
ジャイアン「なんだと? てめえが死ね!」
スネ夫「わあ、そういうとこだよ! 僕、君の雇い主!」
ジャイアン「うるせえ、知るか! 言っていいことと悪いことの区別ぐらいつけろ!」
ジャイアンの拳骨がスネ夫に炸裂する。
うん、どっちもどっちだな。
のび太「それで、今日は出木杉のこと説明してくれるんだろ?」
ジャイアン「おう、俺にも説明してくれ。何で突然ノーベル賞受賞ってことになったんだ?」
のび太「ジャイアンも知らないの?」
ジャイアン「出木杉の身辺警護をしてたら突然聞かされたんだ。俺もよくわかってねえよ」
スネ夫「だろうね。実は出木杉からメッセージを預かってる。とにかく、それを見てくれ」
そういって、スネ夫はでっかいモニターに映像を映した。
「やあ、みんな。
こんなメッセージですまない。
突然決まったもので、今スピーチの準備に追われてるんだ。
いやあ、何を話したものか困るね。
さてと、このメッセージは寝る前に撮っている。
興奮で眠れなくってね。
スネ夫君に託すつもりだが、のび太君、武君にも聞いてほしい。
のび太君は静香さんにも伝達を頼むよ」
のび太「なんで出木杉君はしずかちゃんがいないことを知ってるんだ?」
スネ夫「まだ、わかんないのかよ」
ジャイアン「しずかちゃんも苦労するよな。もういっそ浮気でもしてやればいいのによ」
のび太「な、ななな、なんてこと言うんだ! 浮気なんてそんなこと、あのしずかちゃんが……」
スネ夫「あーもう、分かった分かった。出木杉の話に集中してやれ。な?」
「受賞の話は完全に予想外だった。
もらえるとしてもイグ・ノーベル賞の方だと思っていた。
イグ・ノーベル賞というのは人々を笑わせ、そして考えさせる研究に与えられる、言ってみればジョークのノーベル賞のことだよ。
もちろん、名誉なことだし、イグ・ノーベル賞でも、もらえるなら嬉しいとは思ってたんだ。
そもそもノーベル賞には、僕が受賞できるような分野はなかったしね。
ノーベル賞は物理学、化学、生理学・医学、文学、平和と経済学が対象なんだ。
ゴンの開発は、驚くほどの社会現象を起こしたとはいっても、そのいずれの分野にも相当しなかった。
ところが、アメリカや英国の方で出していた自伝小説が思わぬ形でノーベル選考委員の目に止まってね。
それが波紋を広げたんだ。
選考委員が言うには、『彼はノーベルだ。彼自身がそうなりたかった』ってことらしい。
もともとノーベル賞は、ダイナマイトを作ったノーベル博士によって作られたものなんだ。
彼は鉱山で使うはずのダイナマイトが、戦争に使われたことを悩んでいたという。
そんなわけで、僕をノーベル博士と重ね合わせてくれたらしい。
そして、選考委員の間で『彼こそ本物のノーベル賞にふさわしい』と推す運動が起きたらしいんだ。
結果、今回の同時受賞に繋がったってわけだよ。
曰く『人類に新しい友人を生み出した青春の物語』『戦争を拒否し平和を選んだ立派な科学者』だそうだ。
ははは、照れちゃうね。
自伝小説は、今度日本語訳されて発売されるはずだ。
興味があったら読んでくれると嬉しい。
そして、ありがとう。
こんな名誉な賞をもらえたのは、君達のおかげだ。
本当にありがとう。
それじゃあ、僕はそろそろ寝るよ。
おやすみ」
そう言って、出木杉は頭を下げた。
そして、映像が終わる。
……かと思ったら、映像がまた付いた。
「あー……その。
先に謝っておく。
のび太君、ごめん。
それじゃ、今度こそお休み」
何だ、最後の。
何がごめんなんだ?
ジャイアン「へへ、こっちこそありがとな出木杉。楽しかったぜ」
スネ夫「ジャイアンはこれからどうするの? 護衛はもう必要ないとは言っても、最低限はつけるけど」
ジャイアン「俺はもう降りるぜ。オリンピックのサポートに戻りたいしよ」
スネ夫「ま、そうだよな。これまでありがとうよ。僕からもお礼を言わせてもらうよ」
ジャイアン「最初からそう言えよな。まったく素直じゃねえんだから」
スネ夫「性分だよ。分かってるだろ?」
ジャイアン「まあな」
のび太「うーむ……」
スネ夫「どうした、のび太?」
のび太「出木杉君、最後何なんだろう? 何がごめんなんだ?」
ジャイアン「なんなんだろな? 分かるか、スネ夫?」
スネ夫「さぁ。二人の間で何か約束とかなかったのか?」
のび太「なかったと思うんだけどなあ」
ジャイアン「まあ、何でもいいや。今日はめでたい日だ。飲もうぜ」
スネ夫「そう言うと思っていい酒を用意しといたよ」
のび太「やったぁ!」
僕はこの時、分かっていなかった。
ノーベル賞がどれだけ恐ろしいものかと。
それを知るのは、出木杉の授賞式から一週間後のことだった。
とんでもないことをやってのけた出木杉君。
しかし、これは本当に彼の功績だったのでしょうか?
おそらく彼はのび太と関わってなかったとしても、普通にエリートとして生きてはいたでしょう。
しかし、今回のようなノーベルダブル受賞のような名誉も、満足のいくような人生を送れていたかは分かりません。
何が彼の人生を変えたかというと、それはやはりのび太ということになります。
出木杉だけではありません。
しずかちゃんやジャイアン、スネ夫だってそうです。
ですが、誰もそれに気付いていません。
いや、強いて言えば出木杉は勘付いてはいたようですが、はっきりとした実感として感じていたわけではありません。
でも、それでいいのです。
あなたが嫌いな人はいますか?
あるいは、あなたを嫌いにさせた人はいるでしょうか?
もしかしたら、その人物こそが幸福へのキーパーソンだったかもしれません。
あるいは、あなたがその人物の幸福へのキーパーソンだったかもしれません。
我々は知らないまま幸せに小石を投げているのかもしれませんね。