出木杉のノーベル賞受賞から一週間。
僕はいつものようにアトリエで仕事をしていた。
最近は僕のファンも増えたようで、安定して仕事が来ていた。
もちろん、僕のいたスーパーも相変わらず仕事を発注してくれてる。
社長はもう退職していて、もう仕事を依頼する義理はないはずなんだけど、それでも変わらず僕を愛してくれているので格安で仕事を受けていた。
最初のころは安定した収入源だったし、僕の原点でもあるのでこれぐらいはね?
さて、僕が呑気に仕事をこなしていたその日の午後、秘書や受付事務の仕事を任せていたしずかちゃんが突然事務所に飛び込んできた。
のび太「あれ? どうしたの? 今日の夕飯の相談?」
しずか「大変よ、あなた!」
のび太「何が?」
しずか「依頼が殺到してるの! こうしてる今も増えてるわ!」
のび太「え?」
しずか「私、どうしたらいいかわからなくて……。このままじゃ依頼は数年待ちってことにもなっちゃうわ!」
のび太「そんなバカな!? ちょっと依頼を見せて!」
しずかちゃんから依頼を見せてもらう。
1日に来る量とは思えないほどの依頼が、朝から僕宛に発注されいた。
それも一か所だけでなく、色んなところから。
のび太「ほんとだ。しかもイタズラじゃない。いろんなところから依頼が。一体なぜ?」
しずか「わかったわ。出木杉さんよ」
のび太「出木杉君? 彼が発注したってこと?」
しずか「違うわよ。出木杉さんのノーベル賞のせいよ。きっと今になって、あなたのデザインだって知れ渡ったんだわ」
のび太「そういえば……。ここ数日も依頼が増えてたっけ?」
しずか「ごめんなさい。私、気づいてなかったわ」
のび太「いや、それを言ったら僕も」
しずか「とりあえず、どうするの? もう依頼はパンク状態。しかもまだまだ増えるわよ」
のび太「う、うーん」
しずか「依頼はしばらく受けないようにする? 今の依頼も、一年以上かかりそうなものはキャンセルの連絡を入れるわよ」
のび太「いや、僕を頼ってくれてるんだ。受けよう。ただ、依頼の完了には時間がかかると伝えてくれ」
しずか「わかったわ」
のび太「仕事の時間はいつもの2倍に増やす。そのつもりで予定は出してくれ」
しずか「ええ」
のび太「それと、いつものスーパーや他のお得意様には……」
しずか「わかってるわ。いつも通り仕事は受けるって言うんでしょう?」
のび太「ありがとう。やっぱり頼りになるなあ」
しずか「ふふっ、何年あなたの奥さんやってると思ってるのよ。でも、体を壊さないでね」
のび太「それは君もだろ。しばらくきついだろうけど、頑張ろう」
しずか「ええ!」
のび太「それにしても出木杉のやつ、おぼえてろよ!」
しずか「ダメよ。そんな言い方したら」
出木杉の「ごめん」の意味がようやく分かった。
ノーベル賞の余波で僕の仕事が激増することが分かってたんだろう。
それからの1年はまさに地獄だった。
朝から晩まで休日もなく僕は働き続けた。
ノビスケが既に自立していたのは、ある意味幸福だっただろう。
本当に描いても描いても終わらない。
落書き感覚でやっていた仕事が拷問のように思えた。
これが何十年も楽して仕事してきた報いというのか?
高校の一学期なんか比じゃない。
僕は人生で一番きつい一年を過ごした。
だが、ブームはいつかは終わる。
1年過ぎたころにはキャンセルの電話も増え始め、ようやく仕事は落ち着きをみせたのだった。
60代になろうって時に、こんなきつい仕事をやらさせられるなんて。
もうこんなの二度とやりたくない。
結局のところ人生のツケを払わされたのび太君でした。
ちなみに、この時ほど出木杉に殺意を持ったことはなかったそうです。