それから半年後。
ブームというのは悲しいものだ。
あれほど殺到した依頼も、1年半もすればさっぱりなくなった。
結局増えたのはお得意様が数件ぐらいだった。
まったく、本当のファンは落ち目の時にこそ応援すべきなのに、みんな薄情なものだ。
いや、別に僕は落ち目でもなんでもないけどさ。
数件だけとはいえ、定着してくれたお客様がいたのは十分ありがたいことだ。
落ち葉が舞い散る中を、家路へと急ぐ。
こんな明るいうちに帰れるのも久々だ。
のび太「おや?」
ふと見ると、家の前に奇妙な男女が立っていた。
なんだ、あの服。
現代の物じゃないような……。
男性「野比のび太さんですね」
のび太「はい」
女性「我々、こういう者です。ご同行をお願いします」
のび太「タイムパトロール? まさか、僕を捕まえに?」
TP男「いえ、我々はある人物に会いたいのですが、是非野比さんに同席していただきたいのです」
TP女「お時間は取らせません。ご協力お願いします」
のび太「? 別にいいですけど」
タイムパトロールが会いたい人って誰なんだろう?
不思議に思いながらタイムパトロールについていくと、目の前に現れたのは懐かしい一軒家だった。
のび太「先生の家?」
TP男「こちらです、野比さん」
TP女「あら? いいニオイ。お芋でも焼いてるのかしら?」
僕らは家に入らず、そのまま庭に回る。
すると、落ち葉をいじくりまわしながら縁側で焼き芋を焼いている先生がいた。
のび太「……先生」
先生「ん? おお、野比か? 久しぶり……」
僕の方を見た先生は、僕が連れている二人を見て固まった。
そして、何かを悟ったかのようにため息を付いた。
先生「そうかい。彼を連れてきたのか」
TP男「申し訳ありません、タイムスキー博士」
TP女「そろそろ頃合いかと思ったので」
先生「そうだな。うん、ありがとう」
のび太「え? 先生? どういうこと!?」
先生「初めましてかな、野比君。ドラえもん君が口を滑らしたとは聞いているよ。私がタイムスキーだ」
のび太「ええええええっ!?」
タイムパトロールの二人が部屋を片付けている中、僕は先生と縁側に腰かけていた。
こうして見ると、先生も年を取ったものだ。
もうすぐ100だもんな。
のび太「いったい、どういうことなんですか。先生が未来人だったなんて」
先生「ドラえもん君に任せた君の人生を変えるという計画は、私の研究チームの発案でね。私も君を見守るために、この時代に住んでいたんだよ」
のび太「そうだったんですか」
先生「だが、当初の私は不満だった。なんでこんな男をマザーコンピューターは選んだんだろうかとね。時には、それで当たったりもした。君にも辛い思いをさせたな」
のび太「いえ、今思えば小学校の時の僕は先生に迷惑をかけすぎでした」
先生「はは、それは本当にね。イライラで私も血管が切れそうになったよ」
のび太「ごめんなさい」
先生「まあ、君にイラついた理由はそれだけじゃないんだ。個人的な事情というか、劣等感だな」
のび太「劣等感?」
先生「私はずっとこの時代にいるだろう? おかしいと思わないかい?」
のび太「あ……滞在期限」
先生「私はね、0年なんだ。もっとも渡航禁止者というわけではない。何年いてもいい。そういう意味の0年だ」
のび太「それの何がまずいんですか? ずっと時間旅行できるじゃないですか」
先生「一般にね、滞在期限ってのは歴史に影響を及ぼす限度期間と言われてるんだ。それが0だぞ? 言ってみれば、お前なんて歴史的に価値がないと言われてるようなものだ」
のび太「あ……」
先生「我々は似た者同士だな。君はテストが0、私は歴史的価値が0。まったくお似合いじゃあないか」
のび太「そうですね」
わっはっは、と二人で笑い合う。
先生「まあ、しかし、君を通して、私は滞在期限が人間の価値を決めるものではないと気づいた」
のび太「僕を通して? どういうことです?」
先生「マザーが君をキーパーソンと指名しただろう? あれはつまり、歴史に重大な影響を与える可能性があるってことだ。ところが、どんな人物なのかと思ったら、ドジでマヌケな甘ったれでとてもじゃないけどそんな人物には見えなかった」
のび太「うわ、酷いや」
先生「だが、マザーの計算は正しかった。私はね、思うんだ。マザーは私のちっぽけな虚栄心を見抜いていたんじゃないかってね。だから、私は0だったのだろう」
のび太「でも、僕はそんな大したものじゃ……」
先生「大したものさ。君は優しさを他人に分け与えることができる。それは人々をより幸せにする。すごいことだ。私は学ばされたよ」
のび太「そうかなあ? よく分からないです」
先生「君は君のままでいいんだ。人類は幸せについて、まだまだ学ぶ必要があるな」
TP男「でも、タイムスキー博士もご立派ですよ」
先生「うん?」
TP女「おめでとうございます、博士。ノーベル時空賞受賞決定ですよ」
先生「なぬ……?」
いつから聞いていたのか、タイムパトロールの二人が僕らのそばにいた。
そして、タイムパトロールから告げられた言葉に、先生は停止した。
先生「本当かね?」
TP男「我々は本来それを伝えに来たんです」
のび太「時空賞って?」
TP女「未来で新設された賞ですよ。時空の研究は未来で盛んなんです」
先生「そうか。うん、そうか」
のび太「先生! いや、タイムスキー博士、おめでとうございます!」
先生「おい、野比!」
TP男「……やはり、それでも気は変わりませんか?」
先生「ああ、うん。賞は研究チームのみんなで受け取ってくれたまえ。私はこの時代に残るよ」
TP女「残念です。お元気で」
のび太「……? タイムスキー博士、帰らないんですか?」
先生「先生でいいよ。私はな、野比。この時代が好きだ。もうこの時代を離れて暮らすことなど考えられんよ」
のび太「先生……」
先生「世話になったな君達。片付けは済んだかい」
TP男「ええ。事前に荷物をまとめていただいたおかげで助かりました」
TP女「いいんですね? 博士? もう未来には帰れませんよ?」
先生「ああ、もう十分だ。今思えば、私の滞在期限が0だったのは、このためだったのかもしれんなあ」
先生はそう言い、遠くを眺めて涙を流す。
僕もつられて涙を流した。
たぶん、もう終わりが近いんだな。
可能性にあふれていた僕の道が、急速に閉じていくのを感じる。
でも、僕は失望なんてしていない。
可能性の道は、ノビスケ、そしてセワシ君へと繋がっていくはずだから。
タイムスキー博士の正体、ご存じの方はご存じでしたよね。
しかし当初は彼自身納得いってなかったようで、その劣等感をのび太君にぶつけていたようです。
まあ、それも仕方のない事でしょう。
天才時空研究者と言われた彼が、歴史的価値0と判定されたのです。
きっと悔しかったでしょう。
しかし、その苦しみの果てに彼が得た悟りは0≠歴史的価値であるということでした。
彼もまたのび太君に救われたということでしょうね。
しかし、のび太君は救ったつもりもなければ自覚もありません。
きっと、人類は幸せについてまだまだ学ぶ必要があるのでしょう。