その年の冬、小学校の同窓会があった。
先生が生きてるうちに、クラスメート全員も無事なうちにってことで、その年の忘年会は非常に気合が入った物だった。
まあ、気合を入れてほしくない人物もいるけど。
ジャイアン「それでは皆さん、ここで一曲!」
スネ夫「わあ、やめろヘタクソ!」
しずか「誰よ! 武さんにマイク渡したのは!」
先生「やめろ剛田君! 血圧が上がる!」
久々にいつかのリサイタルのような衣装で歌いだすジャイアン。
会場は阿鼻叫喚の地獄と化していた。
と、そこで黄色い歓声が上がる。
「きゃー、出木杉さんよ!」
「いよ! 出世頭! ノーベル賞受賞者ー!」
会場は大盛り上がりだ。
出木杉「やあ、どうもみんな。会えてうれしいよ」
出木杉はみんなの歓声にこたえて、スマイルを送る。
そんな出木杉に怒ったのがジャイアンだ。
ジャイアン「おい! 出木杉! 俺様の歌の最中だぞ! 邪魔すんじゃねえ!」
出木杉「いやあ、ごめんごめん。続けてどうぞ」
スネ夫「おい、バカ! 続けさせんな!」
しずか「そうよ! やっと解放されると思ったのに!」
ジャイアン「……みんな酷くね?」
先生「あー、その、二次会でやってくれんか? できれば私のいないところで」
出木杉「ああ、先生ご無沙汰してます。そういえば……」
出木杉が先生に近づき、何か言葉をかける。
すると、先生は驚いたように僕を見てきた。
先生「おい! 野比!」
のび太「はい?」
先生「あ、いや、なんでもない」
のび太「?」
後で出木杉に聞いたら「ノーベル賞おめでとうございます」と言ったんだってさ。
まったくニクイやつだ。
同窓会も終わり、夜の十時。
まだ飲み足りない連中は、引き続き3次会4次会と続けるつもりのようだったけど、僕は限界だったので抜けさせてもらった。
ちなみに、しずかちゃんは女子たちだけで盛り上がるつもりのようだ。
ちょっとした空き地で夜風に当たる。
ほてった体に心地いい。
ドラえもん「のび太君」
のび太「……ドラえもん?」
空から視線を戻すと、目の前にドラえもんが立っていた。
のび太「どうしたんだ? まだ来る時期じゃないだろ?」
ドラえもん「実は、お別れに来たんだ」
のび太「お別れ? 滞在期限ってやつは過ぎてないだろ?」
ドラえもん「違うんだ。もうすぐ僕は廃棄処分になる」
のび太「何だって!? セワシ君は何をやってるんだ!」
ドラえもん「いや、セワシ君は関係ない。僕が決めたんだ」
のび太「え?」
ドラえもん「僕も製造されてから、もう60年になる。もう僕はとっくにメーカー保証外なんだ」
のび太「保証外ってことは……修理費がかかる?」
ドラえもん「うん。セワシ君は修理費なんかいくらでも出してやるって言ってくれたけどね。でも、彼の孫の世話はドラミがいれば十分だろう」
のび太「どこか調子が悪いのか?」
ドラえもん「もうさすがにあちこちボロボロだよ。この前の検査で『危険』と言われた」
のび太「そう、か」
ドラえもん「泣くなよ。僕らロボットは生きようと思えば無限に生きられる。でも、それは新しいロボットの誕生を妨げる行為なんだ」
のび太「そうだね。分かるよ」
ドラえもん「ゴンゾウって覚えてる? 実は彼、まだ生きてるんだ」
のび太「え? あのロボット擬人権のゴンゾウ!?」
ドラえもん「ただし、博物館でガラスケースに詰められた状態でね。壊れないように大事に保管されてるんだ」
のび太「かわいそうだな」
ドラえもん「この前会いに行ったよ。うつろな目で『イモほりてえっす、イモほりてえっす』って呟いてた。あれはもうボケてるね」
のび太「君はそうなりたくはないってことかい?」
ドラえもん「うん。あんなのは悲しすぎるよ」
のび太「だろうね」
ドラえもん「僕の席は、もうどこにもないのさ」
悲しそうにそう言うドラえもん。
だけど、なぜか誇らしげだった。
ドラえもん「後のことはドラミに頼んである。だから心配しなくていいよ」
のび太「いや、もういいよ」
ドラえもん「もういいって、僕らの助けはいらないのかい?」
のび太「君達は僕らがいつ亡くなるか知ってるんだろう?」
ドラえもん「…………」
のび太「はは、やっぱりなあ」
ドラえもん「のび太君! 未来は変わるんだ! 諦めるなんて君らしくないぞ!」
のび太「それでも、パパやママがあと100年生きたりするわけないだろ? 僕らだって同じさ。君の時代までには亡くなる」
ドラえもん「それは、そうだけど」
のび太「君と同じさ。僕らの席だって、もう残ってないんだよ」
ドラえもん「その割には、誇らしげだね」
のび太「君だって」
ドラえもん「分かったよ。ドラミにはそう伝えておく」
のび太「うん、ありがとう。ドラミちゃんに辛い思いをさせなくて済むよ」
ドラえもんと向かい合う。
小さいなあ。
いや、僕が大きくなったのか。
そしてよく見たらボロボロだ。
塗装まで剥げてきてるじゃないか。
のび太「ドラえもん。先に逝って待ってるよ」
ドラえもん「え?」
僕の言葉に、ドラえもんは一瞬戸惑う。
だけど、次の瞬間満面の笑顔でこう答えた。
ドラえもん「死後の世界なんて信じてないけど、信じてみたいな。君にまた会える日のために」
消えていくドラえもんを見て、僕は静かに涙を流した。
きっと会えるさ、ドラえもん。
そして、みんなとも。
ずっと続いていくと思った僕らの道。
それは、これからも続いていく。
――STAY WITH ME ドラえもん 完――