結局……。
1学期が終わるころには、僕とジャイアンは見事なまでに落ちこぼれていた。
空き地に来る者はもう誰もいない。
みんな自分のペースで勉強するようになった。
というより、校内最下位のバカ二名に係わるのをやめたんだろう。
逆に校内では出木杉が大人気だった。
そりゃそうだ。
テストができるやつだってのは小学校の仲間ならみんな知っていたが、中間試験、期末試験と学内一位で張り出されたんだ。
分かりやすいくらいに校内は『デキスギさんスゲー!』と黄色い声で一色になった。
校内の女子はもちろんのこと、今までジャイアンに従っていた連中ですら今じゃみんな出木杉派だ。
分かりやすいまでの人気逆転に、最初は激昂していたジャイアンも、1学期が終わるころにはすっかり意気消沈していた。
中学校をナメていた僕らは、分かりやすいほどに負け犬だった。
そんな負け犬2匹は、今日も何をするというわけでもなく空き地に集まっている。
ジャイアン「……なあのび太」
のび太「……なんだいジャイアン」
ジャイアン「期末試験の順位、何位だった?」
のび太「驚いたことに最下位一歩手前」
ジャイアン「俺がその最下位」
のび太「ジャイアンってそこまで頭悪かったっけ?」
ジャイアン「意地になりすぎた。全く勉強してなかったんだ」
のび太「まあ、僕も9点なんだけどさ。全教科合わせて」
ジャイアン「そっかぁ。俺8点」
二人して大きなため息。
情けないほどに、どんぐりの背比べだった。
ジャイアン「俺、母ちゃんに泣かれちまったよ。怒られもしなかった」
のび太「僕も。またいつもの説教かと思ったら、ママ泣いちゃって何にも言わないんだ」
再び二人で大きなため息。
みじめだった、あまりにもみじめだった。
ジャイアン「こうなりゃ、この拳でテッペンとってみっか!?」
のび太「いいね! やろうやろう!」
ジャイアン「って、言っても相棒がのび太じゃなあ」
のび太「ズコーッ!」
ジャイアン「あ、わり。本気で言ったんじゃねえんだ。ていうか、本気で言えりゃあなあ」
のび太「どういうこと?」
ジャイアン「俺がバカすぎてお山の大将にすらなれないってこと」
のび太「ああ……」
さすがのジャイアンも、中学入って即落ちこぼれたんで不良になりました……ってのは恥ずかしかったらしい。
おまけに、お供が僕だけってのも情けなかったんだろう。
ジャイアン「それに、ジャイ子のためにも、最強にバカな不良少年ですなんて言えるわけねえだろ」
のび太「せめて勉強はちょっと苦手だけど、ケンカじゃ誰にも負けない、みたいな?」
ジャイアン「そうそう。そういうの。ちょっと苦手ってのがミソな」
本日、三度目の二人で大きなため息。
理想と現実の差は激しすぎた。
???「おや? 野比君に剛田君じゃないか?」
突然、懐かしい声をかけられた。
と、いうより、僕らに声をかけてくれる人なんて久々だった。
声の主は僕らの小学校のときの先生だった。
のび太「せ、先生!?」
ジャイアン「お、お世話になってます!」
先生「いやあ、夕方とはいえ暑いねえ。どうだい君らは? 中学でもがんばっとるのかね?」
僕ら沈黙。
トップクラスに見られたくない人に見られてしまった。
どう答えたものか、僕らは黙ってしまう。
先生「どうしたのかね? 何を黙っとるんだ」
のび太「いや、僕らは別に……」
ジャイアン「待て、のび太。正直に言おう」
のび太「…………」
先生「真剣な顔をしてどうしたんだ? 話してみなさい」
僕たちは先生に話した。
二人そろって中学校をなめていたことを。
僕は中学に入ったのにのんびりしすぎていたことを。
ジャイアンに至っては中学校にケンカを売って孤立したことを。
先生は黙って僕らの話を聞いてくれていた。
そして、聞き終わると大笑いしたのだった。
先生「わははは、まったく君たちは面白いな!」
のび太「先生! 笑いごとじゃないよ!」
ジャイアン「そうだぜ! 俺たち真剣なんだぜ!」
先生「いやあ、すまんすまん。もちろん勉強しなかったのは褒められたことじゃないが、それにしたって君達はバカのスケールがでかすぎるだろう」
のび太「?」
ジャイアン「?」
先生「そうだな、私も君らのことは気になっていた。よかったら夏休み私の家に来たらどうだ? 勉強なら教えてあげよう」
のび太「えっ? 先生中学生も教えられるの!?」
ジャイアン「そうだぜ! 俺たちなんかさっぱりわかんねえのに!?」
先生「そりゃあ、こんな仕事をしとるし、大人なんだから中学1年生の範囲ぐらいはわけないさ。その代わり、ビシバシ行くからな」
のび太「……はい! お願いします!」
ジャイアン「右に同じく!」
先生「なに、むしろ君らが壮大に挫折してくれてよかったよ。大丈夫だ、まだやり直せる。それじゃあな」
僕とジャイアンはおじぎをして先生を見送った。
ジャイアン「先生って、すげえんだな」
のび太「うん。僕ら、何も知らなかったんだね」
口うるさいだけだと思ってた先生。
だけど、小学校だけじゃなく中学のことまで教えられるんだって知ったときは驚いた。
そして、僕らはまだまだ子供なんだってことを思い知ったのだった。
中学になると途端にきつくなる学力ヒエラルキーの世界。
そこに逆らった勇者二名。
……と言えば聞こえはいいですが、実際にここまで落ちぶれたら人生詰んだようなものですよね。
幸い、彼らには「先生」という拾ってくれる存在がいましたが。