転生した狐はメイドになる   作:くまんじゅう

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魔王

 世界の北の果て───氷土の大陸

 魔王が治めるこの地に、私、ルドラ、ルシア、ヴェルグリンドの4人が訪れていた。

 

「どうなってんだ、ここは? ここまで天気が変わらないなんて普通じゃねえぞ」

「・・・・・ルドラ。恐らく、私の姉がいるわ。さっきから探知に引っかかっているもの」

「ヴェルグリンドの姉・・・というと、白氷竜ですか?」

「そうよ」

 

 白氷竜ヴェルザード。ヴェルダナーヴァとヴェルグリンドと同じく竜種の一体で、ヴェルグリンドは一度も勝ったことがないという竜種兄妹の長女。

 そんな相手が魔王と共にいるというのだから、また驚きだ。普通の感性をしていたら間違ってもこのペアに戦いを挑みはしないだろう。

 そう、”普通の感性”をしていたらだ。生憎、ルドラはそこら辺がぶっ飛んでいるためそんなの関係ないとばかりに挑みに来て、現在妄想の中にトリップしている。

 ルドラは王太子で金には困っていないはずなのに財宝にも目がなく欲深いため、大方、魔王を倒して宝と名声を手に入れた自分を想像しているのだろう。いつ見てもこうゆう時のルドラはとても気色の悪い笑みを浮かべている。

 

 しばらく歩いてきて、漸く氷の城が見えた。あの城が恐らく魔王の居城・白氷宮だろう。

 私達が白氷宮に到着した途端ルドラがずんずんと奥に進んでいき、一番オーラが強く魔王がいるであろう部屋の扉を開け放った。

 

「俺様はルドラ。ルドラ・ナスカだ! 人間の勇者にして、人々の希望を一身に受けし者。邪悪なる魔王め、滅ぼしてやらあ! ついでに、持ってる財宝全部よこせや!!」

 

 魔王に挑みにきた勇者の言動は、完全なるヤクザであった。これにはルシア達も、

 

「兄様! それではどちらが魔王か判りません!?」

「ダメね。欲で目が濁っているわ。間違いなく痛い目に遭う」

 

 と、散々な物言いだった。更にはルドラが一人で戦うとか言い始めて魔王に切りかかった。

 

 本当に何を暴走しているんだこの馬鹿勇者は!? 

 

 ぎりぎりでルシアが支援魔法の聖剣発動(ホーリーブレード)をかけたが、魔王には剣で受け長されてしまった。

 何度か攻防を続けたかと思えば、何か話をしてルドラが騒ぎ立てている。

 

「ギィって何だ、ギィって!? それは名前じゃない! 俺様の武勇伝に載せるならもっとカッコイイ名前がいいだろ!」

「名前なんざ、何でもいいだろうが」

「言い訳ねぇだろ! 戦うのは中止だ、俺がもっといい名前を考えてやる!」

 

 ルドラが本当に馬鹿なことを言い始めた!? ほら! 魔王の方も困惑しているじゃないか! 

 この馬鹿は名前の上書きをするつもりらしい。ただの魔物でさえ大量の魔素を消費するのだ、魔王にどれほど必要かは押して知るべしだろう。そう思ってルドラを止めようとするが、

 

「待たせたな! お前は今日から、ギィ・クリムゾンだ!」

 

 間に合わなかった。馬鹿は本当に馬鹿だった。これから自分が挑む相手に名前をつけるなんて、本当に馬鹿だ。敵に塩を送るってレベルじゃない。

 ルドラは名付けで魔素の代わりに神聖力を大きく消耗し、意識を失っているし。

 

 この気まずい空気どうすんだ!! 

 

「あの、本当に家の馬鹿が申し訳ありません」

「あ、ああ、別にいいけどよ」

 

 魔王改め、ギィ・クリムゾンさんに馬鹿のしでかしたことルシアと共にを謝っていると(ヴェルグリンドは気絶したルドラを膝枕している)、ギィが何かに気づいたように私に視線を向けてきた。

 

「なあ、手前がヴェルダナーヴァに新しく任命されたっつう調停者か?」

「えぇ〜〜〜。魔王も知ってるんですか、それ。いや、貴方は調停者でしたよね」

「では改めて────はじめまして、魔王ギィ・クリムゾン様。私は新たな調停者、ノウェムと申します。以後、宜しくお願いします」

「おお、よろしくな」

 

 ルドラの奇行で戦う気が失せたのか挨拶などは穏やかに進んだ。ある程度進んだ所で、ヴェルグリンドが急に上を向いたと思ったら、直後、白髪に深海色の瞳を持つ女性が現れた。恐らく──ー

 

「久しぶりね、ヴェルグリンド」

「ええ久しぶり、姉さん」

 

 やはり、ヴェルグリンドの姉・ヴェルザードだったようだ。

 

「遅かったじゃねえか、ヴェルザード」

「眠っていたのよ、ギィ」

「まあいい。今ちょうど一段落ついたところだ」

 

 魔王ギィと白氷竜ヴェルザードが親しそうに会話している。やはり二人はルドラとヴェルグリンドのように相棒らしい。

 

「それで、この方達は?」

「勇者ってやつらしいぞ、俺に挑みにきたんだと」

「へぇ」

 

 ヴェルザードの瞳が暗く妖しく輝いた。こちらを見定めているのだろう。解析鑑定の感触を感じるが、別に隠すことはないため抵抗しなくても良いだろう。

 

「あら、調停者までいるのね」

「ノウェム!? あなた、レジストしなかったのですか!?」

 

 ルシアが私の行動に死ぬほど驚いているが、別に良い。視界の端でヴェルグリンドが膝枕をしたまま下を向いて何かを話しかけている。どうやら、ルドラが目覚めたらしい。

 

「おし! じゃあ始めようぜ!」

 

 ルドラが起きたそばから魔王ギィと戦い始めようとしたが、そうは問屋が卸さない。

 

「兄様、正座です」

「は? 何言ってんだルシア?」

「いいから、正座しなさい」

「っっ! はい!」

 

 思わずこっちも震え上がってしまうような迫力の声をルシアは出していた。それに加えて、

 

「ねえルドラ」

「! ヴェルグリンド! たすk」

「正座なさい」

「・・・・・・・・はい」

 

 ヴェルグリンドの静かに燃え上がるような憤怒がルドラの抵抗する気力を更に奪った。ルドラはこちらに顔を向け、泣きそうな顔で(ノウェム! 助けてくれ!!!!)と訴えてきたが無視することにしよう。二人の怒りに巻き込まれたくない。やっぱり魔王に名付けをして、命の危機を招くのは流石のヴェルグリンドでも説教をするらしい。

 

 その後、ルドラは二人に死ぬほど怒られたが、その間に神聖力が回復したためギィと勝負を行った。しかし、決着はつかなかったため今後、何度も挑み続けるらしい。

 

 幾度も勃発する二人の戦いを呆れたような瞳で私とヴェルザード、ヴェルグリンド、ルシアが一緒に眺めるのが日常になったのは言うまでもない。

 




ヴェルザードはノウェムを解析鑑定していますが、まだ興味がないため究極能力の有無と称号と名前しか見ていません。

ギィ以外の原初って出す? どうでもいいが作者はテスタロッサが好き

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