人を殺した。ルシアとヴェルダナーヴァを殺したやつを、殺した。
初めて人を殺したというのに酷く冷静な頭は、自分がやるべきことを憎らしいほどにすらすらと身体に命令する。
無造作に投げて捨てられている二人の遺体をきれいに並べて、開いた眼を閉じさせる。あんなに無惨な姿で放置は可哀想だろう?
「・・・・っ・・・! クソッ!! ヴェ・・・・ヴァ様っ・・・・・なんでっ・・・・・・・・っ!」
あまりの光景に茫然自失となっていたディーノは覚束ない足取りでヴェルダナーヴァの亡骸に近づき、そばに膝をついて声を上げて涙を流す。
隣に並べられたルシアの遺体を見下している私は、どんな表情をしているのだろう?
泣いているのだろうか?
それとも歯を食いしばっているのだろうか?
それとも──何の表情も、浮かべていないのだろうか?
それとも、それとも、それとも──────
堂々巡りの思考とは別の、冷静な部分で体は独りでに動き、言葉を発する。
打刀にして握っていたはずの九曜はいつの間にか指輪へと姿を変えていた。
「九曜────『権限拡大・最大化』」
《告。権限の拡大申請を受理しました。個体名ノウェムの権限は最大に昇華されました》
《権限の昇華に伴い、個体名ノウェムに関する一切の宣告はこれより秘匿されます》
指輪の状態の九曜の権能ーーー『保有者の権限拡大』それを用いて
「『世界宣告』」
《告。宣告、及び申請を確認しました。対象────世界の言葉》
《申請により、これより個体名ノウェムの
《告。能力進化に必要な魔素を必要量、個体名ノウェムは保有していません。個体名ノウェムの能力進化を中断します》
・・・・・・・・・・・・・・・魔素が足りない
「『魔素倍化』」
《告。能力進化に必要な魔素を必要量個体名ノウェムは保有していません。個体名ノウェムの能力進化を中断します》
魔素倍化を使っても魔素が足りない。
手詰まりかと思ったタイミングで世界の言葉が声を上げた。
《告。個体名ノウェムの胃袋内に魔素増殖炉を確認・・・・・・・使用しますか?》
魔素増殖炉。ミリムの中にあった受け継いだヴェルダナーヴァの力の塊だろう。
それを使えば・・・・・・・・・・・・・・・。
(ごめんね、ミリムちゃん)
《確認しました。個体名ノウェムの怒りを原材料とし、胃袋内に存在する個体名ミリム・ナーヴァが保有する魔素増殖炉を使用します。この使用による魔素増殖炉保有者への影響はありません》
宣告の後、湧き上がって行方を失っていた怒りが魔素に変えられてゆく。
胃袋の中で魔素がどんどんと増えて溢れている。ミリムと子竜は胃袋内で更に結界を張っていなければ悪影響が出ていただろう。
そんなことを考えた一瞬の内に、能力進化に必要な魔素は貯まった。
《告。必要量の魔素を確認しました。これより個体名ノウェムの能力進化を開始します》
私の中で能力の進化が開始した。
この進化で二人を蘇生できるようなスキルは手に入るのだろうか?
そう疑わずにはいられない。心の何処かで諦めがついているのだとしても、試さずにはいられない。
《確認しました。固有スキル『
《固有スキル『
神獣化が進化したが、このスキルでは蘇生は不可能だ。そう判断して次のスキルの進化に移行する。
残った魔素と怒りを材料として、生贄に使った魔素を上回る量を魔素増殖炉は精製する。
《確認しました。ユニークスキル『
《ユニークスキル『
「・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
進化したスキルを確認すると同時に困惑が脳内に溢れて、怒りが吹き飛び魔素増殖炉が機能を停止する。
そんなことを気にしていられないほどに、新たに獲得したスキルは衝撃的だった。
それはルシアが持っていたはずの究極能力。
「世界の法則を管理し、サポートに特化している」とルシアが説明してくれた、ヴェルダナーヴァが最初に持っていた天使系と言われる中でも七美徳の名を持つ、大罪系に並ぶ最強の
そんなどうでもいいことが頭に浮かぶ。
今重要なのはスキルとは魂に根付くモノだということだ。
スキルが集まる輪廻の輪の中に誰かが獲得していたスキルが取り込まれていたということはつまり、その人は・・・・・・・・・魂すら砕けて完全に死んでいる。
そう認識した途端に全身から力が抜け、立っていられなくなった。
「ルシアが・・・・・・・・・死んだ。
魂すら・・・・・・・・・・・残ってない」
彼女が死んだ事実からから必死に目を逸らそうとして、現実逃避気味に無理やりスキルを進化させた。
しかし、進化したスキルに彼女の死をより絶望的に突きつけられた。
「はっ・・・ははっ・・・・・・・こんなっ・・・・・・ことって・・・・・・っ!」
雨は痛いほどに体を強く打ちつける。
私とディーノの泣き声は雨音にかき消されてどちらも聞こえない。
丁度いい、今だけはその耳障りな音ががありがたい。
一晩続いた大雨の中では、どんな声も響くことはなかった。
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泣いて、泣いて、泣いて──────
何時間も泣いていた気がして、泣き疲れてしまった。
足に精一杯の力を込めて立ち上がり、同じように涙が枯れてしまって呆然としているだけのディーノに声を掛ける。
「ディーノさん」
「・・・・・・・なんだ」
「二人の遺体を・・・・・・・綺麗にして、天星宮に安置しましょう? 土に汚れたままでは、二人が可哀想です」
「・・・・・そう、だな」
私の提案に、ディーノはゆっくりと頷いた。
心の整理ができていないのだろう。私も同じく出来ていない、出来るわけがない。
虚喰で二人を胃袋の中に取り込む。間違ってもミリムが二人の遺体を見てしまわないように胃袋の中の隔離された場所へ。
周囲に飛び散ったヴェルダナーヴァとルシアの血液や体の一部も取り込む。少しでも二人を損ないたくはなかったから。間違っても刺客のものと混じらないように気を使いながら取り込む。
「・・・・・・・・終わったか?」
見ていたディーノが声をかけてくる。
「ええ、終わりました・・・・・・・・・・・ねぇ、ディーノさん。一緒に国を滅ぼしませんか?」
「は? ・・・・・どういうことだ」
「先程、二人を手に掛けた者の記憶を覗き見たのですが、二人はテロの一環で殺されたみたいですよ」
ナスカ王国の肥沃な土地を狙ってテロを起こし、同時に星王をよく思わない者達から送られた刺客が二人を襲撃した。私が直ぐに転移してきて襲撃がバレたのがおかしいのだ。
二人を殺したあの国は滅ぼさなければいけない。滅びないというのは私の魂が許さない。
「そうか・・・・・・・・行くぞ」
「ええ、行きましょう」
私の話をディーノは直ぐに承諾した。彼も激怒しているのだろう、何時もの優しさが見えない。
ディーノと並んでその国に向かう。
私はこれから人を殺戮し、国を滅ぼす。
そう考えた時、一つだけ気がかりなことがあった。
(ラミリスさんには、知られたくないなぁ)
ラミリスさんと私には名付けてもらった関係で魂の回廊が繋がっている。その回廊を通じて彼女に私のしでかしたことを知られたくはないし、殺戮で得ることになるだろう魂が、回廊を通して彼女に悪影響を与えないとも限らない。
そう思い、怒りに染まっていない最後の理性を使って、
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「・・・・・・・・・・・・・ノウェム?」
魔素増殖炉はミリムを取り込んだし、スキルに干渉できるくらい権限が滅茶苦茶パワーアップしていたから使えたという設定です。ヴェルダナーヴァが干渉したスキルと武器の効果だから出来るよね!ってゆう作者のガバを防ぐ願望でもあります。
固有スキルが進化するかは分からないのですが、増殖炉の魔素によるゴリ押しだと思ってください。
虚飾之王は元ネタが元ネタなので色々変な権能を持っています。
ノウェムは刺客が真祖の失敗作から送られた者だと気づいていません。刺客が洗脳されていて、ノウェムが見たのは洗脳後の記憶だからです。普段なら洗脳に気付けましたが今のノウェムは冷静じゃないため見落としてしまっています。
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ステータス
名前:ノウェム
種族:上位聖魔霊──幻竜狐
加護∶
称号:嚆矢の異世界人、調停者、審判者
魔法:<元素魔法><物理魔法><精霊魔法><上位精霊召喚><上位悪魔召喚><陰陽術><神聖魔法><核撃魔法><魔厭術>
アルティメットスキル:『閻福之王ヘカテー』・・・思考加速、詠唱破棄、術理創造、法則支配、世界宣告、静寂、虚喰、胃袋
『虚飾之王アルコン』・・・霊知、隠匿、悪壊、属性変換、空間支配、物質創造
『知識之王ラファエル』・・・思考加速、解析鑑定、並列演算、詠唱破棄、森羅万象、多重結界、思念支配、統合分離
ユニークスキル:『憤慨者シャイタン』
耐性:『痛覚無効』『物理攻撃無効』『状態異常無効』『自然影響無効』『精神攻撃耐性』『聖魔攻撃耐性』
保有武器:[九曜グラハ]
ノウェムが虚無崩壊を得るか?
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得る
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得ない