平穏からの
ミリムと子竜と暮らし始めて1年ほど。
家の外で子竜と元気に遊び回っているミリムを見ながら、私は平穏を噛み締めていた。
(この前巫山戯て『〜なのだ!』って言ったら、ミリムちゃんが気に入ってそのまま使い続けるようになったのは驚いたけど)
二人と一緒に暮らしているログハウスのラウンジで色々考えながら寛いでいると、ミリムから誘いがかかった。
「ねぇね! 一緒に遊ぶのだ!!!」
「何をして遊ぶんですか〜〜!」
「鬼ごっこなのだ!!」
鬼ごっこか。以前ナスカ王国に来た頃に子供達と何度かやったから、ミリムを楽しませてあげられるだろう。
「分かりました、遊びましょうか!」
「やった──なのだ────!!」
「キュ────!!」
(ルシア,ヴェルダナーヴァ、見ていますか。貴方達の娘は元気に育っていますよ・・・・・・幸せだなあ)
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ミリムと鬼ごっこをして遊んでから数日、ヴェルグリンドから思わず恐怖してしまう様な思念が飛んできた。
(ねぇ、ノウェム)
(? ・・・・・なんですかグリンドさん?)
(忘れているみたいだけど、あれからそろそろ1年経つから説明の機会をあげるわ。姉さんと一緒に待ってるから、白氷宮に来なさい)
あっ・・・・・・・・・完全に忘れていた。
ヤバい、竜種に進化した時に関する諸々の尋問があったのを忘れていた。説明するのがヴェルグリンドだけならまだ良いがヴェルザードと一緒にというのはマズイ。いざという時に逃げられなくなった。
でも、行くしか無いだろう。あの時、説明を1年後に延ばしてもらったのは自分なのだ。
そうと決まれば、色々と準備しなければならない。私がいない間のミリムの護衛や食事をどうするかなど。
(でも、どっちも問題ないか)
「ねえ、ミリムちゃん」
「なんだ〜〜!! ねぇね!」
「ミリムちゃん、これを上げるよ。今までは渡せていなかったけど、本当は君のお父さんとお母さんの物だからね」
「? ・・・何なのだ、これは?」
「それは『フィリア』。きっとミリムちゃんを守ってくれるよ」
ルシアとヴェルダナーヴァの結婚祝いにと渡して、二人が亡くなってからは私が管理していたもの。ミリムもある程度成長して良い機会だろうし、二人の娘のミリムに渡そうと思う。
「ミリムちゃん。もし私がいない間なにか危ないことがあったら、その杖に嵌めてある宝石に祈ってみて。精霊さんがきっと助けてくれるよ」
「精霊!! ありがとうなのだ!!!!」
ミリムも両親に関しては物心がついていなかったからか、ぼんやりとしか覚えていないようなので特別気負いすることもないだろう。
「それと、この箱の中にご飯入れておくから、お腹が空いたら食べてね」
そう言って私が指さしたのは、以前ナスカ王国にいた時にルシアと作った箱内部の時間の流れをゆっくりにさせて食べ物をあったかいままにしておける疑似冷蔵庫だ。時間の流れを遅らせるのはスキルの権能『胃袋』を参考にして作ったから大丈夫だろう。
「じゃあ、ねぇねは数日家を空けるから、いい子にして待っていてね」
「ねぇね、どっか行くの?」
「うん、ちょっと用事があってね。あの子と一緒に待っていてね、お土産買ってくるから!」
「お土産!! 分かったのだ、いってらっしゃーいなのだ────!!!」
「うん、行ってきま──す!」
じゃあ、どうにかして言い訳を考えないと。
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白氷宮、年中吹雪が吹いている北の大地に聳え立つ美しい城。
そんな美しい城の中で、私は命の危機を感じていた。
正座をして俯いている私の前に立つのは、美しい二人の女性。
一人は白髪に深海色の瞳を持った少女──竜種の長姉『白氷竜ヴェルザード』
もう一人は蒼髪に黄金色の瞳を持った女性──竜種の次女『灼熱竜ヴェルグリンド』
二体の竜種の前では何人たりとも余計な発言はできない。それはたとえ、私でさえも。
「ノウェムちゃん」
「はっ、はいっ!!」
「何で呼ばれたか、分かるわよね」
「ヒェッ」
「・・・何かしら?」
「何でも御座いませんっ! 呼ばれたか理由は勿論存じ上げております!!!!!!」
怖い、只々怖い。
ヴェルグリンドが微笑んでいるだけなのも怖いが、それ以上に何時もの深海色の瞳を黄金に光らせて質問してくるヴェルザードさんが怖すぎる。絶対に嘘は許さないという圧力を感じる。
「じゃあ聞くけど、何で私達の鱗を壊した上に黙って回収して、挙句の果てに進化に使っているのかしら?」
「それは──────」
「それは? 何かしら?」
「二人が怖かったんです!! 申し訳ありませんでした!!!!!」
勢いよく土下座に入った私を二人が冷たい目で見下ろしてくる。この世界でも五本の指に入るだろう強さを持つ人物、二人に見下されているんだから震えが止まらない。心の底から震え上がるとはこういう時のことを言うのだろう。
「それにしても、竜種の亜種・星閻竜狐ねえ」
「あら、どうしたの姉さん」
「いえ、どれくらいの強さなのか少し気になってね」
「なら戦ってみたら?」
「えっ、ちょっと待っ──」
「それがいいかしらね・・・・ノウェムちゃん、付き合ってくれるわよねえ」
「・・・・・・はい」
これは無理だ。回避不可能な戦いというより、回避しようとしたら同時に究極レベルの攻撃が飛んでくる戦いだ。
ヴェルザードさんの強さは未知数だが、ヴェルグリンドが勝ったことがないというくらいなのだから滅茶苦茶強いのだろう。というより、ヴェルドラが竜種にしては弱すぎただけなのだ。
「えーっと、ルールはどうします?」
「ルール? そうね・・・・・・死ななければ何でもいいんじゃないかしら?」
なんか怖すぎることを言い出したぞこのお姉様。
「ルールをどうするか」という質問への答えが「死ななければok」とかどんな戦闘狂だよ・・・・・・・・・・そういや、ルドラだったりも似たような感性してたな。
「せめて場所を移しませんか?」
「いいけど、どこにするのかしら?」
「場所は・・・・・この大陸の西側の海上でどうですか?」
「そうね、周囲の被害を考えればそれがいいかしら」
「なら・・・・ギィさん! 最悪の場合は止めてくださいね!!」
「分かったよ。全く、手間をかけさせやがる」
私が叱られているのを面白そうに観察していたギィに周囲の被害が大きすぎた場合の仲裁を頼んだが、本当に仲裁するんだろうな?
そんな不安とともに、私とヴェルザードの戦いが始まろうとしていた。
前回のあとがきで書いていた異世界人は次次回になりそうです。
1時にもう1話更新します。
ノウェムが虚無崩壊を得るか?
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得る
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得ない