転生した狐はメイドになる   作:くまんじゅう

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今回はちょっとご都合主義気味?でも、スキルの設定は変更されていないので、多分、きっと、大丈夫。


ミリム・ナーヴァ

 ブレスが放たれる──『静寂』で掻き消す。

 爪が振り下ろされる──九曜で受け流す。

 エネルギーが放たれる──天に向かって弾く

 尾が薙ぎ払う──根本から尾を斬り落とす。

 大地が蠢く──地そのものを斬り刻む

 

 

 掻き消す、受け流す、弾く、斬り落とす、斬り刻む、再生される、その繰り返し。

 ミリムの暴走が始まってから約6日が経過し、私はその間できるだけ被害が出ないようにミリムの友たる精霊竜(エレメンタルドラゴン)の成れの果て────混沌竜(カオスドラゴン)の相手をしていた。

 

 周囲の物体を一方的に変質させる能力『能力封殺(アンチスキル)』は厄介であり、生半可なスキルや魔法は意味をなさない。

 甚大過ぎる被害が出るような攻撃は閻福之王(ヘカテー)の権能の一つ『静寂』で掻き消しているが、それでもやはり被害は出る。その上、私は混沌竜の攻撃に対処するだけで自分からは一度も攻撃していない。

 正直、殺すだけならば容易い。今の私なら赤子の手をひねるくらい簡単にできる。しかし、それでは意味がない。

 この子とはミリムが決着をつけるべきなのだ。

 

 今はミリム達がいる超魔導大国の首都から少しだけ離れた場所で戦っている。

 ミリムがこの子と向き合えるのならば何年でも戦い続ける事ができるが、そうもいかないだろう。必ず何処かのタイミングで私はミリムにかかりきりになりこの子をここに放置する。

 その時に出ることになる犠牲は・・・・・・・・・全て私が責任を取る。

 

 そして、戦っている最中に気づいたことがある。

 この子は一度死んで魂を失ってしまったが、その一部はこの子の中と、今はミリムが持っているフィリアの内部に残っていた。恐らく、フィリアの中にいた精霊達が殺されたことで出来た空白を埋めようとして、死して輪廻に還るはずだったこの子の魂の一部を取り込んだのだろう。その残った二つを合わせても魂全てには満たないが、残っていただけでも奇跡だ。

 

 しかし、それで魂を復元できるかと言ったら・・・・無理だろう。

 この子の魂は砕け散ってしまった上に、憎悪に染まりきってしまっている。

 

 何かに染まってしまった他者の魂を完全に復元するなどそれこそ神の御業だ。

 私は力を失う前のヴェルダナーヴァ以外、そんなことを出来る人は知らない。

 

 私も魂の扱いには調停者の中でも最も長けていると自身を持って言えるが、それでも霧散しきっていない魂を治す【反魂の秘術】や割れる直前の魂の強度を強化するのが限界だ。魂を壊すだけならばある程度力を持っていれば誰でも出来る。しかし、手を加えるとなるとその難易度は跳ね上がる。

 魂の扱いに長けた悪魔でも、悪魔よりも長けた私でも無理なのだ。できる者がヴェルダナーヴァ以外にもいるとすれば、それは────────

 

『ノウェム! すぐ来てっ!!!』

『ラミリスさん!? っ、分かりました!』

 

 混沌竜と睨み合いになり、一時的に戦闘が落ち着いた所でラミリスさんから思念が飛んできた。ミリムの方で”何か”があったのだろう。

 

「ごめんなさい、またすぐに来ますよ」

 

 膠着状態だったのを利用し、私はラミリスさんの気配を辿って転移した。

 

 

 

 

 

「グルゥ・・・・ゥオォォォォォォオオォ……ッ!」

 

 ノウェムが転移した後、辺りにはただ竜の咆哮だけが響いていた。

 それは理性を失った獣の遠吠えにも、親しかった者を見失い嘆き悲しむ悲痛な叫びにも聞えた。

 

 聞く者は既にこの場にはいないというのに、竜はただ、天に向かって苦しげに叫び続けていた。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

「ラミリスさん!! 状況は!!」

「後ちょっとなのに!暴走が収まらないの!!」

 

 転移直後、ラミリスさんの説明と虚飾之王の『霊知』も使い、状況を把握した。

 ギィはミリムと直接戦い続け、ラミリスさんは怒りの方を中和しているようだ。それに、ラミリスさんは魔王二人が放つ高濃度の妖気に曝され続けたせいで魔に染まり掛けているし、ミリムは今も苦しんでいる。

 

 それらを把握した途端、行動を開始した。

 二人が出来なかった最後のピースを埋めるための行動を、私が今のミリムにしてあげられる最善の行動を。

 

「ギィさん!! 離れて!!」

 

 ギィは私の声を聞き、即座に下がる。

 本能のままに動くミリムはそれを追撃しようとするが、それは私が許さない。

 

「ぐ゙ぅ゙ぅ゙ゔぅ゙ゔぅ゙ぁ゙ぁ゙あ゙ぁ゙ぁ゙っ゙っ゙!!」

「・・・・ハァッ!!!」

 

 ミリムの拳と私の拳がぶつかり、大気が揺れる。

 

 本当に、『憤怒之王(サタナエル)』というスキルは呆れるほどにミリムの力にピッタリとハマっているようだ。ミリムが一度攻撃する度、私だと三度は打ち込まないと威力を相殺出来ない。もう単純な力勝負では勝てそうもない。

 

 受け流し、防ぎ、跳ね返す。

 ミリムの動きが限界まで鈍くなるまで、決着をつけようと飛び込んでくるまで、何度も何度も。

 

 何度も何度も、何度も何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も、何度も拳を交える。

 

 そして遂に────

 

「あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙っ゙っ゙!!」

 

 ────押し負けた。

 

「っ・・・・・・!!!」

 

 ミリムの腕が私の胸を貫いた。それはもう綺麗に、そして荒々しく貫かれた。

 このままでも別に死にはしない。亜種といえど竜種に進化したことで私は不死性を獲得している。しかし、高速戦闘の中で曝した隙は致命的だ。

 

 だけど良かった、ちゃんと罠に嵌ってくれて・・・・・・やっと、限界まで近づいてくれた。

 

 そんな安堵とともに、胸を貫かれたまま、真正面からミリムを抱き抱えるようにして拘束する。ギィとラミリスさんが尽力してくれたから、今なら殺さずに暴走を止められる。

 

 腕の中でミリムが暴れる。防御なんてしていないから、耐性を貫くミリムの攻撃で胸以外にも体中に風穴が開き、半身を吹き飛ばされる。

 しかし、そんなことは関係ない、抱きしめる力を緩めない。バカ娘と言っていしまいたいくらいに暴れていたとしても、ミリムはルシアとヴェルダナーヴァの────そして、私にとっても、何にも代えがたいほどに大切な娘なのだから。

 

「絶対に離しませんし、見捨てませんよ。だから──────

 

 最後に力いっぱい抱きしめ、スキルを発動させる。

 ミリムを────血は繋がってないけれど、可愛くて可愛くて仕方がない大切な愛娘を取り戻すための力を。

 

 ──────だから!! 戻ってきなさい、この愛娘!!!」

 

 

 

「発動────『失楽世界』!!!」

 

 

 

 

 **********************

 

 

 

 

 世界が加速し、ミリムと私だけが取り残される。

 いや、そうではない。私とミリムだけが、あの世界から隔離されたのだ。

 私が創った仮想の世界へと。

 

『失楽世界』──私が魔王への進化(ハーベストフェスティバル)に際して獲得した究極能力(アルティメットスキル)怨嗟之王(イブリース)』の権能の一つ。効果は引き摺り込んだ対象の星幽体(アストラルボディ)よりも更に奥底にあるもの──魂、つまりは心核(ココロ)への干渉。

 

 これがあるだけで、心核を壊せも汚せもするとても強力な力。

 しかし、この権能は使える相手が限定される。混沌竜や死霊(アンデット)のように一度死んだ相手にはもう使えないし、この世界の外からやって来た者達にも使えない。

 そして何より私が自分よりも上位だと思った相手に使えば逆にこちらの心核に干渉される。

 

 そんな扱いにくい能力だが、今回に於いてはあって良かったと心の底から思う。だって、理性を失っていたとしてもこうして対話が出来るのだから。

 

「それで、落ち着きましたか? ミリムちゃん」

「・・・・うん」

 

 やはり目に見えて落ち込んでいる。

 それもそうだろう。最も親しかった友が死に絶え、怒りに任せたとはいえ数十万の命を奪ったのだから。その中には当然、罪のない人達もいたはずだ。その上、友が自分の行動のせいで今も苦しみ続けているのだ。

 そんな彼女に、私はこれから一つだけ問いを投げかけないといけない。

 

「ミリムちゃん、一つだけ聞きます」 

「・・・・・なんなのだ? ねぇね」

「貴方はあの子のために怒ったことを後悔していますか?」

「────────」

 

 そう、私がミリムに問いたいのはこれだけなのだ。

 月並みな言葉だが、他者の為の怒りは決して悪いものではない、悪だと断ぜられるものではない。

 だってそれは、その人のことを本当に大切に思っていた証であり、他人の為に怒れるという優しさの証明に他ならないのだから。

 

 しかし、気持ちは別だ。

 どれだけ綺麗事を並べても後悔してしまっては、それを行った本人の心は傷ついたまま。だからこそ、他人の為に怒った優しさを悔いない強い心が必要なのだ。

 私も、ルシア達を護れなかったことを悔い、自分の無能さと愚かしさが嫌になった。しかしルシア達の為に怒り、あの国を滅ぼしたこと自体を悔いたことは一度もない。

 

 ミリムは大丈夫だろうか? 

 本当にそれだけが心配だった。その答えは自ずと出るというのに。

 

「────していない! しないのだ! だってあいつは! 私の大切な・・・・たい、せつな・・・・・・・ともだ、ち・・・・なのだ」

 

 強い、本当に強い子だ。

 泣いて泣いて、辛くても、悲しくても、言葉が尻すぼみになっても、友のための怒りを後悔しない。

 

「よく言えました。本当に、よく言えましたね」

 

 優しくて、強くて、悲しくても明るく振舞い、前を向く。そんな子に育ってくれたことが何よりも嬉しかった。

 

「ミリムちゃん、前に、杖を渡したでしょう?」

「・・・・ねぇね?」

「あの杖、フィリアの中にはあの子の魂が少し、ほんの少しだけだけど残っているんですよ」

「────本当!? 本当なのか!??」

「はい、本当ですよ。ちゃんと、ちゃんと残っています。でもね、あの子の体は今、さっきまでのミリムちゃんみたいに暴走してしまっている。だから、今も苦しんでいるあの子を助けに行きましょう?」

 

 結末が、あの子を殺すことだったとしても、封印することだったとしても、彼女が全身全霊を果たせるようにする手を惜しまない。そんな意味を込めて、座り込んだままのミリムに手を差出す。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・行く、行くのだ! あいつを助けに!」

 

 恐らくミリムも分かっている。あの子を助ける手段は存在しない。

 だけど、それでも、友と向き合う覚悟を決めた。

 

 仮想の世界は、もう必要ない。

 

 ミリムが手を取り、二本の足で立ち上がったのだから。

 




本当に、本っっっっ当にお久しぶりです。
テスト二連続という悪魔に殺されていました。しかし、これからは前の投稿頻度に戻れると思いますので、暖かく見守ってほしいです。どうぞ宜しくお願いします。


やっべ〜、だいぶ久しぶりに書いたから文が汚え〜。それに話がはえ〜(小声)

ちょっと違和感があったので修正しました。
「虚飾之王アルコンの権能の一つ『悪壊』で存在ごと崩壊させているが」→「閻福之王の権能の一つ『静寂』で掻き消しているが」

閑話として異世界人の話を2話書こうと思っていて、1話は決まっているんですが、あと1話が決まっていません。読みたい異世界人の話に投票お願いします。

  • 奴隷になり、買ったノウェムを信仰した少女
  • 日曜朝の変身ヒロインに憧れた少年
  • 手に入れた力に溺れた青年
  • 歓楽街で女帝と呼ばれた艶女
  • 聖女だったが転移後は魔女と呼ばれた少女
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