「終わったみてぇだな」
「ようやく休めるのよさ」
失楽世界を解除し、現実世界に戻ってきた私とミリムを迎えたのはギィとラミリスさんの呟きだった。
二人の方に目を向けると、途轍もない違和感に襲われた。
「あの〜、ラミリスさん?」
「ん? なにさノウェム?」
「その姿は?」
ラミリスさんは元々美しい正に精霊女王! という感じの容姿をしていた、のだが、何故か手乗りサイズに縮んでしまっている。どうゆうこと? まあ十中八九ミリムの影響だろうけど。
「堕落しちゃったのよさ!」
「・・・・・・・・・・・・・・???」
手乗りサイズのラミリスさんが笑顔で述べた言葉に思考が停止した。
打落
陀落
ダラク
だらく
堕落
・・・・・・・堕落?!
「ちょっ、それ大丈夫なんですか!? というか、そんな姿になって調停者や星の管理者としての役目はどうするんですか!!??」
「大丈夫! 大丈夫!」
慌てる私とは対照的にラミリスさんは何食わぬ顔で笑っている。
いや、本当にヤバいだろう。調停者の方は私がラミリスさんの分の役目を果たせば良いが星の管理者は別だ。あっちは私では肩代わり出来ない。
「そんなことは置いといてお前たちは竜の方に行ってろ。手前ぇがミリムと異空間に行ってから三日は経ってんだ。さっき勇者が一人死んだぞ」
「ギィさん!?」
「ねぇね! 早く行くのだ!!」
「ミリムちゃん!? あ〜もう!! 二人とも後で説明してくださいね!!!」
まだ説明が欲しいが、これ以上時間を取ってはいられない。
あんな事を言ってミリムを正気に戻したのだ、一刻も早く混沌竜の下にミリムを連れていかなければ。
衝撃で緩んだ気を引き締め、ミリムを連れて混沌竜の下へ転移を発動した。
**********************
「グルゥオォォォォォォオオォ……ッ!」
「──────────」
転移直後、私達は瓦礫の中で破壊の限りを尽くす混沌竜を眼下に捉えた。
ミリムは友の変わり果てた姿に顔を曇らせるが、それでも決意の光は消えない。
「【断絶結界】────これで周囲に影響は出ません。ミリムちゃん、私は手を出さないので貴方の手であの子と決着をつけなさい」
「・・・・・・・分かったのだ」
そう言ってミリムは混沌竜──子竜の元に降りてゆく。
そして戦闘を────開始した。
いつも一緒に遊んでいた二人が今、闘っている。
普段のじゃれ合いでは無く、本気の殺し合いをしている。
その事実に胸を締め付けられる。この状況をミリムの試練として捉えて許容している──許容できている己の心にも嫌悪感を抱く。本当に辛いのは私ではなくミリムの筈なのに、心が壊れる音がする。
「ヴェルダナーヴァ、どうして世界はこんなにも残酷なんでしょう」
もう居ないこの世界の創造主に問い掛ける。
本当に、どうして世界はこんなにも残酷なことをするのだろうか。
ミリムが必死に呼びかけるが、子竜は応えない。
思いの丈を、未来への願いを、共にいたいというささやかな祈りを口にする。
懸命に、必死に、遮二無二に、ひたすらに、真摯に、泣きながら言葉を重ねる。
それでも、子竜は応えない。
魂を憎悪に染め上げられた哀れな子竜は、彼女の声も、彼女との記憶も何もかもを失っていた。
端から不可能だったのだ、子竜が心を取り戻すなど。
子竜の為に立ち上がった少女の願いが叶う未来など、始めから存在しなかったのだ。
ミリムもそれを理解したのだろう。
嘆きながらも子竜を──友を大山脈に封印した。
子竜を封印した地は大山脈の中にある、海のように青色のネモフィラが咲き誇る花畑だった。
ミリムは眠っているように動かなくなった子竜に花冠を被せて、疲れたのか子竜の横で眠ってしまっている。
「貴方の眠りが安らかであることを祈っていますよ」
決着を見届けた後、花畑に降り立って眠る子竜の頭を撫でる。
この花畑は大山脈の中でも奥地の奥地──最深部に位置しており、易々と立ち入れる人も魔物も居ない。眠りを享受するのにはもってこいの場所だろう。
「そして、ミリムちゃん・・・・よく、頑張りましたね。貴方ならもう、私がいなくても大丈夫でしょう」
二人の隣に腰を下ろし、子竜に寄り添い眠るミリムを膝の上に寝かせてゆっくりと撫でる。
怒り、奮起し、涙を呑んで闘った。それほどまでに頑張ったのだから、少しでも休ませてあげないといけない。
それに、この子はこれから魔王として君臨することになるだろう。ギィの様に人々から恐れられる魔王として。魔王となったミリムに私は力を貸せない。それをしてしまうと人と魔とのバランスが魔に偏りすぎてしまう。
調停者としてのノウェムとは別人の、一個人として未来の魔王の誰かに仕えれば陰ながら彼女を守るくらいは可能ではある。それをするにも能力の大部分を制限しなければならないし、仕える魔王に調停者としてのノウェムを隠さなければいけないだろう。
それに、私が心から仕えても良いと思ったのは今までにヴェルダナーヴァとルシアしかいない。あの二人は友でもあったが、この人になら自分の全てを預けたいと真に思える君主の器でもあった。
今は亡き二人以外の誰かに私が心から仕えるとしたら、その人は────────
「まあ、今考えることでは無いですね・・・・・・・・・・・・それにしても、封印の地がネモフィラ畑とは・・・・・・・」
青いネモフィラの花言葉は『あなたを許す』
ミリムが意図したことではないだろうが、この光景は感動的な物語のようだった。
そして、この一連を『感動的な悲劇』と、そう捉えてしまった自分に、転生して魔物に成り果てた時に無くなった筈だったものを────────酷い吐き気を催した。
*************************
あの後、眠りを深くしたミリムを抱えて白氷宮に向かった。
ギィから『事が終わったら来い』と思念を受け取っていたのだ。未だ起きないミリムをベッドに寝かせ、ミザリーに見守るように頼んだので一先ずは安心して話し合いができる。
「二人とも、混沌竜にはミリムちゃんが決着を付けましたよ」
「了解なのよさ!」
「なら良いさ」
二人ともミリムをその後を聞いて満足そうに頷いた。私とミリムが混沌竜の下に転移する前の余裕綽々とした態度の裏には、やはり心配もあったのだろう。それが無くなったこともあって実にいい笑顔をしている。
「じゃあ、これからのについて話し合いましょうか」
「まずはラミリスが力を失ったことついてだな」
「え゙ぇ゙〜〜〜〜そんなのどうでも良くない?」
「「良くない」」
ラミリスさんの呑気な考えにギィと共に即答する。
どうでも良い訳がないのだ。ラミリスさんが力を失ったことが齎す影響は大き過ぎて、決して無視できるものではない。
というか、前にもましてラミリスさんの言動が幼くなってないか?
「調停者としての役割は私とギィさんがいるのでどうとでもなりますが・・・・」
「星の管理者の方は別だからな」
そちらはどうすれば良いのか何も分からない。
ギィとミリムの妖気を浴びて精霊女王から妖精族に堕落してしまった今のラミリスさんは、死と転生を繰り返す存在になってしまったらしい。
それに伴って管理者としての権能は限定的にしか扱えず、『迷宮創造』というスキルになってしまったようだ。それでも尚強力過ぎる権能だが、以前と比べると見劣りしてしまう。
「そんなの考えてもどう仕様もないのよさ!! 保留よ保留!!!!」
「・・・・・・・一理あるな」
「ギィさんまで・・・・・・・もういいです、次の議題にしましょう」
流石にこれ以上の否は無駄だ。そう思って次の議題に進む。
「次は魔王の扱いについてですね」
「これね〜〜どうすんのさ、ギィ?」
「それなんだがな、一つ提案があるんだ」
「・・・・・・・・提案、ですか?」
ギィが話し始めた提案は予想打にしないものだった。
曰く、ギィ,ミリム,ラミリスさんが魔王として君臨するという。
私もミリムが魔王になるのは予想していたが、まさかラミリスさんもとは。力を失った今のラミリスさんはそこら辺の魔物にすら敗北するレベル──つまり雑魚と行って差し支えない強さしか無いが、迷宮内での戦闘という一点においてはそこらの魔王種など文字通り手のひらの上だ。
確かに、魔王としての人選はこれ以上ないだろう。
「? なんでノウェムが入んないのさ?」
「ラミリスよぉ、話聞いてたのか? ノウェムまで魔王になったら人魔間の力関係が完全に崩壊するんだよ」
「そうですよ、ラミリスさん。それに、私はギィさんとルドラのゲームの審判でもありますから、どちらかに肩入れしすぎるのはルール違反です」
「そっか〜、面倒くさい事情があんのね〜〜」
ラミリスさんのそんな呟きと共に緊急の問題は話し終えた。異論無しと意見が一致したのだ。後はミリムが起きてからでも良いだろう。
そんな安堵とともに、私は紅茶を呷った。紅茶はまだほんのりと温かみを保っていて、それでいて、
──────味がしなかった。
ミリムvs子竜は情報が無さすぎて無理でした、、、すいませんッッッ!!!
なんで私の学校の先生は事前告知なしに英語の小テストを敢行してくるのでしょうか?
「先生たちはいつもそうだね。嘆きをありのままに伝えると決まって同じ反応をする。
わけがわからないよ。どうして教師はそんなに普段からの学習にこだわるんだい?」
閑話として異世界人の話を2話書こうと思っていて、1話は決まっているんですが、あと1話が決まっていません。読みたい異世界人の話に投票お願いします。
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