転生した狐はメイドになる   作:くまんじゅう

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ご都合主義注意
戦闘描写苦手なので許して下さい、お願いしますぅ


神千斬り

 

 

 

 

 原初の悪魔

 

 かつてヴェルダナーヴァが光の大精霊より始まりの七人の天使───始原の七天使を創造した反動で、闇の大精霊より生まれた始まりの七柱の悪魔。

 

 誕生した順に、

 

原初の赤(ルージュ)

原初の白(ブラン)

原初の黒(ノワール)

原初の緑(ヴェール)

原初の黄(ジョーヌ)

原初の紫(ヴィオレ)

原初の青(ブルー)

 

 七柱の内この世界──基軸世界に顕現し、名を得て留まっているのは三柱。

 

『赤色の王』ギィ・クリムゾン

『緑色の王』ミザリー

『青色の王』レイン

 

 白氷宮に住まう彼らである。この三人は私の同僚とその従者であるためよく知っている。

 しかし、残り四柱は基軸世界に顕現することはあるが直ぐに悪魔達の世界『冥界』に帰還する。というよりも、あの三柱が冥界に帰っていない事の方が異常事態なのだ。ましてや原初が名を得るなど以ての外だ。

 

 もしも、残りの四柱の内一柱でも名を得ることがあれば世界が混乱に包まれるだろう。それほどに彼らは凶悪なのだ。

 

 ギィに聞いた話によると、

 黒は研究者気質で気まぐれな変態、紫は残虐非道の代名詞、黄は核撃魔法を遊び半分にそこら中に放つ爆弾魔。

 

 そして白は苛烈で好戦的で────高潔。

 黒は論外として、紫と黄の二柱と違ってその誇りを貶さなければまだ交渉の余地がある。

 

 

 

 

 

 

 

 だが、今回の場合は事情が異なる。

 

 ()()()()()

 その美しい薄紅色の口唇を釣り上げて弧を描き、不本意な形で自らを受肉させた者達に激怒している。笑顔は本来攻撃的なものであるとは言うが、彼女の笑顔は真に”笑顔”というものを体現しているだろう。

 悍ましい程に甘美な笑みを浮かべる彼女は、惨劇の予兆たる笑みを保ったままこの場にいる全員に向けて言葉を紡いだ。

 

「こんな形で、無礼にもわたくしを呼び出した狼藉者は誰なのかしら?」

 

 その口から一文字、また一文字と音が鳴る度に、皆が骨の髄からの────魂からの恐怖に身を震わせる。生憎、彼女を呼び出した将軍や魔術師たちは先程彼女が放った初撃の『死の祝福(デスストリーク)』で一人残らず死に絶えてしまったから、彼女の問いに答える者はこの場にいない。

 

「ねぇ、わたくしの言葉を無視するなんて、誰が許したの?」

 

 ダメだ。奈南が見ているなんて関係なく今回は私が対処しなっ────

 

「ゔぅ゙あ゙あ゙あ゙ぁ゙っ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!」

 

 身体を変化させようとした瞬間、心からの恐れに恐慌状態に陥っていたトンナが、言葉にならない叫び声を上げ、蛮行に走った。

 

「あらそう。そこまで死にたいのね」

 

 ───ああもう、これだから冷静さを欠いた行動は嫌いなんだ。

 

 彼女は(ブラン)に向けて魔法を放ったのだ。

 それは事実上の敵対宣言に他ならず、たとえ彼女に微塵も効いていなかったとしても最悪の選択に他ならなかった。

 

「【火炎大魔槍(ファイアランス)】」

「っっ!! バーディ、回避!! レムス、皆を守って!!!!」

 

 (ブラン)が小手調べの魔法を放った途端、奈南が固まっていた皆にとっさに指示を出す。それに突き動かされて各々が行動を再開した。

 白が放ったのは何の変哲も無い元素魔法。しかし術者の力量によってその威力は一般的な魔術師のそれを軽く凌駕する。

 

「うぅおぉおおおおおぉおぉお!!!!!」

 

 レムスが私達パーティーメンバーを背後に大盾を構え、超威力の魔法を死に物狂いで防ぐ。

 

 こうなってしまったら一先ずみんなを援助しなければと思い、全員に【筋力増強(ストレングス)】【速力増強(アジリティー)】【魔力増強(マナマキシム)】【保護防壁(プロテクション)】【武具強化(リインフォース)】【想像共有(チャネリング)】【自動回復(オートヒーリング)】の強化魔法を施す。これで思考の共有も可能になり、戦いやすくなるはずだが・・・・・・どこまで通用するものか? 

 

「ありがとうルナ! バーディ、行くよ!!」

「おう!!」

「いいわよ、遊んであげるわ」

 

 奈南がバーディと共に白に突撃する。

 トンナが奈南の剣に炎の魔法を付与し、バーディには私が先程以上の強化魔法を施した。

 

 そして────吶喊する二人の攻撃を白が物質創造で作った剣と魔法障壁で防いだ。

 

 二人の連携攻撃を余裕そうな表情で防いでいるのにカウンターで攻撃しない辺り、遊ばれているのだろう。

 本当に、彼女が戦闘を楽しむ性分で良かった。仕事上、私が全力を出せない分のハンデとしては丁度良いだろう。

 

 その後、三人含め私達は何度も何度も攻撃したが彼女はダメージの一つすら負わなかった。

 

 

 

 

 *************************

 

 

 

 

 幾度も最高の攻撃をしているのに、眼の前の女性にはかすり傷すら与えられない。

 

 私は危機感に不安を募らせる。

 ルナの弱化魔法のパワーダウンも、レムスの大槌の一撃も、トンナの大魔法の直撃も、バーディーの爪の刺突も、私の剣の斬撃も何一つ効果が見えない。

 

 勇者として旅をする中で何度も危機に陥ってきたけど、ここまで勝ち目が見えないのは昔ノウェムさんと模擬戦をしたとき以来だ。

 

 

 

 

 

 ──────────

 ──────

 ──

 

 

 あの人には何をしても砂や埃の一粒すらつけることが出来なかった。

 

 何をしても涼しい顔で対処するあの人には、畏怖や尊敬の念を覚える以前に途轍もない安堵を感じていた。この人が自分を守ってくれている、この人が自分を強くしてくれる。そんな安心感がずっとあった。

 

 だけどあの日、足元に突然魔法陣が出現したと思ったら、全く見覚えのない場所にいた。

 あれは初めてこの世界に来た時とノウェムさんに初めて会った時に体験した魔法『転移』だった。何度かノウェムさんに教えてもらった事があったが、未だ私は使いこなすことが出来なかった。

 

 取り敢えず現在地を知ろうと、歩いて歩いて歩いて、二週間かけて漸くたどり着いた街でここがナスカ王国の北端にある街だと知った。ナスカという国名は一度だけ聞いたことがあった。

 

 ノウェムさんが一度だけ、この世界の地図を見せてくれたことがあったのだ。あの時は前の世界の常識を引きずっていたところがあったから疑問に思わなかったが、この街で色んな人に散々な対応をされたからこそ分かった。

 

 ────あの人は、何か重要なことを隠していた。

 

 この世界で地図というものは国家機密に近い。魔法が発展していたとしても、世界中の地理を把握するのは非常に困難だ。また、地理情報というものは各国の戦略的にも重要の一言で表せない程には重要で、世界地図ともなれば億万の金を支払ってでも手に入れたいと思う人がいるのだ。

 

 そんなものを一冒険者が持っていて良い筈が無いのだが、あの人は対価もなしに私に見せていた。普通じゃない。

 

 だけどまあ、そんな事を考えてもどうにもならない。

 そう思い、一先ずは保留することにして元いた場所に帰ることを目標にした。あそことナスカは大陸の真反対に位置していてだいぶ時間がかかると思った。だから街で依頼を受けて日銭と路銀を稼ぎ、あの人のように出来る限り人を助けた。

 

 そうして漸く旅に出られて、朧気にだけど記憶の片隅に留めておいた地図を頼りに歩いて、戦って、食べて、歩いて、戦って。何時しか眠ることすら動作でしかしなくなっていて、

 

 ────やっとの思いで漸くたどり着いたあの場所は、砂と塵だけの草一本生えない不毛な土地に変わり果てていた。

 

 絶望した。

 あそこにあった自然が、動物たちが、人々が、あの宿屋が、あの女将さんと娘ちゃんが、あの訓練場が、広場が、跡形もなくなっていた。

 

 そこで何時間も何晩も呆けていた気がする。

 

 そんな風に例え心がどれだけ沈んでいても不躾にも喉は渇いてお腹も減って、私は命を繋ぐためにその場をのそりと動いた。

 重苦しく、牛歩の如く、ゾンビのように歩いて、飲んで、食べて、襲ってきた魔物を倒して、戦って、戦って、戦って、戦って、戦って──────いつしか、私は勇者と呼ばれるようになっていた。

 

 

 ()()

 その単語を聞いた時、ふと脳裏にあの人の言葉が蘇った。

 

『私の恩人はラミリスっていう凄く優しい方、貴方が勇者になった時は会えるかもね』

 

 確かに、確かにあの人はそう言っていた! 

 そうだ! 強くなれば────『勇者』になれば、ノウェムさんにまた会えるかもしれない。

 

 ────でも、どうやって? 

 

 私は既に勇者と呼ばれてはいる。でもノウェムさんが言っていた『勇者になる』というのは、そういう事じゃないだろう。それだけならあの人が態々強調して言うはずがない。

 

 じゃあまず勇者ってなに? 言葉通りの意味じゃないの? 

 

 それがどうしても分からなかった。

 でも、ヒントはあった。

 

 ()()()()

 

 その人に会えば、なにか分かるはず。

 

 思い立ってからは早かった。

 前にも増して人を助けて、言動も希望を見出せるような明るいものに変えて、勇者然とした行動を心掛けて旅をした。

 

 そうして旅をして1年が経った頃、ある魔物討伐の依頼主と話す中であるヒントを得たのだ。

 

「ありがとう。こんな辺鄙な田舎の依頼を受けてくれる人なんてそうそういなくてねぇ」

「大丈夫です! おじいちゃんも大丈夫だった?」

「大丈夫じゃよ。本当に、お前さんと話していると昔見た勇者様を思い出すのぉ」

「──っ! ・・・・・・・・・おじいちゃん、勇者って?」

 

 おじいちゃんは話してくれた。昔この地を訪れた勇者とその仲間達の事を。

 

「なんだい知らないのかい?」

「勇者様が何十年か前に、一度この辺りに来られた事があるんじゃよ。あの時は確か・・・・・勇者の加護を貰うためと、おっしゃっとったのぉ」

「勇者の加護?」

「それが何のことかわからんが、確か精霊の棲家とやらを目指してると・・・・」

「精霊の・・・・・棲家──────ありがとう、おじいちゃん!!」

 

 

『精霊の棲家』

 ナスカに転移してしまってからの3年で漸く得られたヒントだった。

 

 それから数ヶ月経って、偶然助けた商人が別れ際に「貴方に精霊様の加護がありますように」と言った。

 

 彼から精霊について聞き出して、漸く。

 あの日から四年が経って漸く、私は精霊の棲家があるという森にたどり着いて────ルナと出会った。

 

 それからラミリスさんと会って勇者の卵を得たけれど、ノウェムさんの情報は得られなかった。

 あの時は4年間苦労が無駄になってしまった気がして思わず泣いてしまったけれど、後にしてみればそこまで心に深い傷は無かったと思う。

 

 だって、4年間ずっと一人だけで旅をして、ふとした瞬間に感じていた孤独感が無かったのだから。

 そばにあの子が感じられて、撫でてみれば意外と暖かくて、時折気持ちよさそうに声を洩らす姿が愛おしかった。4年間の孤独がたった数日で癒やされた気がしたんだ。

 

 ルナが傍にいるようになってから2年の間に、頼れる仲間もできた。

 

 優しい人柄を利用され、パーティーメンバーに搾取されていたのに気づいていながらも彼らに尽くしていたレムス

 魔法の研究にのめり込む悪女なんて悪い噂しか聞かなかったけれど、話してみると意外とお茶目さんだったトンナ

 強すぎる力を恐れられて同族から迫害されていたけど、優しさを失っていなかったバーディ

 

 中々に個性的な面子が仲間になった。

 賑やかな食事や寝る前の女子トークは久しぶりで、背中を任せられる人達がいる戦いはとっても安定感が増した。

 ルナは魔法が使えたり意思があるだろうけど喋れなかったりと、まだ謎が多いけれどそれでも大切な仲間。

 とても楽しい毎日だった。

 

 だけど、そうなんだけど、

 

 

 ──────何処にいるんですか? ノウェムさん。なんで、私だけを逃がしたんですか? どうして、姿を見せてくれないんですか? 

 

 

 会いたいよ

 

 

 ──

 ──────

 ──────────

 

 

 

 

 

 頼れる仲間達と一緒に戦っても、眼の前の白い女性には何一つ影響が見られない。

 もしかすると、彼女はノウェムさんと同じくらい強いのかもしれない・・・・・それなら、私達に勝ち目はない。

 

 ────でも、こんな惨状を齎した彼女に膝をつくわけにはいけない。勇者とか何とだか関係なく、負けるわけにはいかない。

 

 彼女は悪魔だ、それも相当上位の。

 これまでにも何度か悪魔と戦った事はあるが、この人と比べれば圧倒的に格下だ。

 彼らは思わず嫌悪感を感じてしまうほどの気配を放っていた上に恐ろしい力も持っていたが、この人からはそんな気配は感じない。代わりに今の彼女から感じられるのは滲み出る英明さと、悍ましいまでの怒気。

 

「そろそろ飽きてきたわねぇ。もう殺してしまおうかしら」

「ッッ! 炎の巨人(イフリート)風の乙女(シルフィード)!!!」

 

 呼び出した二体の契約精霊が魔法を放つ。

 天使と悪魔と精霊の三竦みから見れば、上位精霊が悪魔の彼女にダメージを与えられない筈が無い。

 

 けれど彼女には効かない。涼しい顔で立っている。あの人のように、優雅に微笑みを湛えている。

 

 どうする! どうすればいい?! どうすれば倒せる!?! 

 

 斬りかかり、魔法を放ち、受け流そうとする。

 全員でかかっても全て躱されるか防がれた。

 巧い。魔素の扱い方も、魔法の制御技術も、武具の扱い方も、何もかもが巧いんだ。

 

 でも、エネルギーはそこまでじゃない。本来の彼女はもっと強いのだろうが、冥界から現世に来たことで存在の維持に大部分の力を割いているのだろう。

 今までの数時間で削った分と合わせればもう少し私が頑張ればっ──────

 

「色々と考えているみたいね。でも、不本意だけれど今の私は受肉してしまっているからエネルギーは関係ないわよ。それに、貴方程度なら片手間で潰せるわ」

 

 絶望的な事実が彼女自身の口から告げられる。

 唯一の希望とも言って良かった長期戦の選択肢が潰された。

 

 仲間達も既に満身創痍だ。

 レムスは身体中傷や骨折だらけで、バーディは爪も牙も折れ、トンナは魔法が使えないほどに消耗している。ルナだってずっと回復の神聖魔法を使った影響かぐったりしていて動かない。私もそこら中から血が流れて意識が朦朧としてきた。

 

 長期戦の選択肢なんて初めから無かったかのようなものだが、もう潰された。

 だけどまだ、まだ戦える。皆が庇いながら戦ってくれていたお陰で、私自身の消耗はそこまででもない。ここで私が諦めれば、彼女は最初に放った黒い光の魔法で私達を一人残らず殺すだろう。

 

 正直、あの時なんで助かったのか分からない。あれは私達に何もさせず、周囲に転がる兵士たちと同じ様に殺せたはずだ。

 でも、私達は誰も死ななかった。

 自身に宿る光の大精霊に聞いても分からなかった。でもこんな奇跡がそう何度も起こるなんて、短絡的に考えられはしない。多分、一人なら光の大精霊に守ってもらえる。けれど、もう一度全員が生き残る道はない。

 

 ──────なら、私は仲間を生かす道を選ぶ。もうあの人に会えないのだとしても。

 

 剣を握る

 力を込める

 魔素を体に流す

 スキルを熾す

 精霊武装を展開する

 

「絶対に、貴方を倒す!!!」

 

 悪魔は口の端を歪に釣り上げ────美しく、嗤っている。

 

 

 

 

 ******************

 

 

 

 

 さっきまでとは比べ物にならない速さで斬りかかるが止められる。瞬間、反撃を食らいそうになり慌てて後退した。

 様子見の攻防は終わり全力戦闘に移ってはいるが、遊ばれている。数時間前からずっと、遊ばれている。この人は多分戦闘に悦楽を見出す種類の悪魔だ。だから私はまだ生きている。

 

 何度も何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も、何度も攻撃した。

 

「可愛らしいわねぇ。愚かにもわたくしに挑んで、その綺麗な魂を燃やしている。後どれだけ保つのかしらぁ?」

「【極炎獄霊覇(インフェルノフレイム)】【竜巻大魔刃(トルネードブレード)】!!!!」

 

 苦し紛れに魔法を放ち───弾かれる。

 

「あぁぁああああぁぅうぅううぁあああ!!!!」

 

 獣のように叫びながら剣を振るう───受け流され、たたらを踏む。

 

「倒れて!!」

 

 契約精霊全てに魔法を行使させる───一つ残らず相殺される。

 

「もう、倒れてよぉ!!!」

 

 目尻に涙が溜まる。

 それでも、剣を振るう。

 

「────っ、・・・・」

 

 体が切れ咲かれ、鮮血が飛び散った。

 スキルやルナがかけてくれた【自動回復(オートヒーリング)】が治癒してくれているが、それでも治りきらない。

 

 ダメだ・・・・・・・勝てない。

 

 ずっと殺す気で戦っているのに、疲れた様子も見えない。ノウェムさんに教わった魔法行使方法で魔素はだいぶ節約できているが、それでも底が見えてきている。

 この世界に来たときから付き合ってきたユニークスキル『駆使者(アヤツルモノ)』が、さっきから全力で白い悪魔の戦闘技術を学習し、私に還元してくれている。それでも学習が追いつかないほどに彼女は洗練されていた。

 それに加えて昔ノウェムさんが教えてくれた技術を総動員して、旅の中で身につけた技を全て試しても通用しない。

 

 彼女の見惚れてしまいそうなほどに赤い瞳は、優しげに細められている。

 彼女の呆れるほどに神々しい肢体は、技を放つ時にその黄金比の調律が崩れても尚美しさがある。

 そんな彼女に殺されるのだと思うと「それも良いかもな」なんて考えが出てきて、思わず自嘲する。

 

 あぁ、本当に何を馬鹿なことを考えてるんだ。

 さっき死ぬまで戦うって決めたばっかりでしょう? 

 諦めるな、膝をつくな、屈するな。

 

 ────でも、もう十分やったよね? 

 

 本当は諦めたい

 逃げ出したい

 泣き出してしまいたい

 助けてって、叫びたい。

 

 今までずっとみんなの理想の勇者として振る舞ってきたけど、勇者なんて本当は柄じゃないんだよ。

 

 でも弱肉強食のこの世界で力は必須で、必死に死なないように鍛えてきた。

 剣だこもできたし、形も自然と正しい形でできるようになった。魔素を知覚できるようになったし、魔法も行使できるようになった。

 お父さんとお母さんと一緒にいたかったし、頑張ったねって抱きしめてほしい。

 そもそも異世界になんて来たくなかったし、戦いたくなんてなかった。

 

 来たくなかったけど、それでもこの世界に来たことは後悔できていない。

 だって、色んな人と知り合えたんだから。

 依頼で会ったおじちゃん、商人、レムス、女将さん、トンナ、ルナ、衛兵さん、王様、バーディ。

 そして、ノウェムさん。

 

 異世界で出会った全員が大切で、苦しいこともあったけど、それ以上に楽しくて。

 

「あぁ」

 

 声がかすれる

 

「・・・・・・やっ、ぱり」

 

 限界などとうに迎えた

 

「諦め・・・・・・・・きれない、なぁ」

 

 思い出す

 

「──────意思が・・・・・重要、なんでしょ」

 

 あの人に教わった世界の理を。

 

「最後、くらい・・・・・・・いいでしょ?」

 

 

 

 

 

 

 おねがい

 

 

 

 

「みん、なを・・・・・たすけさせて?」

 

 

 

 

 わがまま、叶えさせてよ

 

 

 

 

 

 

 

《告。個体名ノウェムより、個体名清水奈南に祝福(ギフト)が贈与されました》

《確認しました。ユニークスキル『駆使者(アヤツルモノ)』が祝福(ギフト)を得て、個体名清水奈南の全保有スキルを生贄に進化に挑戦・・・・・・成功しました》

 

 

 

《ユニークスキル『駆使者(アヤツルモノ)』は究極能力(アルティメットスキル)巧緻之王(プロメテウス)』に進化しました》

 

 

 

 

 

 

 

 

 きこえた

 

「────っ。あぁ、きこえ・・・・・たよ」

 

 確かに聞こえた。世界の言葉が

 

「みて、いて・・・くれ、たん・・・・・です・・・・・・ね」

 

 あの人の祝福が──────なら、

 

「できる!!!」

 

 最後の力を振り絞り、剣を握る。進化したスキルを把握し、権能を剣に纏わせる。悲鳴を上げる足を無理やり躾けて、走り出した。

 

 剣に纏わせた巧緻之王(プロメテウス)の権能『天炎』

 本来は聖なる属性を滅するための破滅的な権能のようだが、今だけはそれを反転させる。命の危機に陥るようなそれすらも、巧緻之王の権能『精密統御』で完璧に、一寸の狂いもなく。

 

「コンッ!!」

 

 視界の端にボロボロのルナが写る。

 鳴き声に呼応して、天炎の白い炎が黒くて禍々しい、凶悪な色に染まった。

 

 核撃魔法『破滅の炎(ニュークリアフレイム)

 あの子によって寸分の狂いもなく制御された魔法が付与された。あの子が制御し、私が何もせずとも自然と天炎と馴染むように調整されていたその魔法に、こんな魔法が使えたのかという驚きがあった。

 

 しかし、それ以上に心強くて、安心できて、あの深い森の奥で出会った最初の仲間に感謝の念が溢れ出る。

 

 一歩、また一歩と走り抜ける。

 

 白い悪魔が目を見開き驚いた表情を見せたのが、何だか面白くって。

 皆に支えられているようで、皆に力をもらっているようで、自然と唇が弧を描いた。

 

 万感の思いを込めて、白い彼女に最後の一閃を────振り抜いた。

 

 

 

 

 

「──────【神千斬り(かみちぎり)】!!!!」

 

 

 

 

 

 その一撃は防御の上から白い悪魔を切り裂き、背後の山すら抉り取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ********************

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────あぁ。できたよ、みんな。

 

「もう死ぬだろうか」と考えながらも、私は不思議な満足感に包まれていた。

 

 最後の最後に一矢報いれたんだ、これ以上の結果は望むべくもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ず───、見て──し──よ。───よ──く──がん───り──ま────たね。

 

──────あとは、任せて」

 

 

 声が、聞こえた気がした。

 

 滲む視界に、大きな黒い耳と尻尾をもった人影が映った。

 

 ─────ノウェム、さん? 

 

 記憶に残る人とは何もかもが違うその横顔に、不思議と、自然と、そう思った。

 

 

 

 

 




はい、過去1の文字数です。次は万文字いけるように頑張ります。
それと奈南の神千斬りは某大罪の漫画からです。カッコ良すぎて物語書くなら入れたいって、ずっと思ってたんですよね。夢が叶いました


*********************


『巧緻之王プロメテウス』・・・・思考加速、森羅万象、詠唱破棄、並列演算、神聖覇気、精密統御、天炎

天炎・・・聖属性特化の破壊的な炎。本来はラミリスの迷宮や勇者の精霊武装の破壊が主な使い方だが、今回は反転させ悪魔や妖魔への特攻に変化させた。

本来の使い方で今回と同威力の神千斬りを使えば、原作テンペストの地下迷宮を1〜35階層程度まで一気に破壊出来ます。40層手前で止まるくらいかな?
特攻とはいっても流石にヴェルグリンドに通用するほど強くないし、名前も究極能力も得てないテスタとギリギリ相討ちに持っていけるかというレベルなので、、、、、それでも十分バケモノですが。

閑話として異世界人の話を2話書こうと思っていて、1話は決まっているんですが、あと1話が決まっていません。読みたい異世界人の話に投票お願いします。

  • 奴隷になり、買ったノウェムを信仰した少女
  • 日曜朝の変身ヒロインに憧れた少年
  • 手に入れた力に溺れた青年
  • 歓楽街で女帝と呼ばれた艶女
  • 聖女だったが転移後は魔女と呼ばれた少女
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