ルナさんがルミナスの元に居着くようになってから2ヶ月が経ったある日のこと。
ルミナスとルナさんと私が集まってお茶会をしていた際に、それは来た。
「勇者、だと?」
世に君臨する魔王ルミナスの下に『勇者』を名乗る人物が訪れたのだ。報告に来たギュンターは続けて、
「はい。どうやらトルビヨンを殺した勇者のようで」
「───っ!」
「そのような些事を態々報告せぬでもよい」
「申し訳ございません」
そう言ってギュンターは下がった。
要件は魔王トルビヨンを殺した勇者がやって来たことだったらしい。
トルビヨンは複数いる魔王の中でもとりわけ凶暴で、ちょうど3ヶ月程前に討伐された魔王だった。
「そういえば、あの愚物は死んだのだったな。あそこまで頭の悪い奴だったのだから、まあ当然であろう」
小さい声でルミナスがそう呟いたのが聞こえた。
「そんなにだったの? そのトルビヨンっていう魔王」
「うむ。奴は獣人の魔王でな、脳まで筋肉で出来ているような阿呆じゃった。2年ほど前に獣人が進行してきたであろう? あれもあやつの仕業じゃ」
「そっか・・・そんな魔王を倒せたってことは結構強いんじゃない? その勇者」
「知らぬ。だがまあ、ギュンターならば負けることは無いであろうよ」
私とルミナスがそんな話をしていると、突然ガタッという音がし、音の方向に目を向ければルナさんが立ち上がっていた。
「あの子はまだ・・・・・・助けないと」
俯いている彼女からは何時も感じる冷静さや底知れなさが出ておらず、ただ幽鬼のように譫言を口にするばかりだった。尋常でない様子の彼女に私達が瞠目してかける言葉を見失っていた間に、彼女は私達には見向きもせず一目散に走り去っていった。
「大丈夫、じゃあなさそうだね」
「うむ、あやつの弱点がこのような所にあったとはな・・・・・・仕方があるまい。追いかけるぞ、クロエよ」
ルミナスが自分から動く姿勢を見せたのが珍しく、彼女の顔をまじまじと見つめてしまったから、そんな内心を見抜いたルミナスが言い訳をする。
「夜薔薇宮をあの邪竜に壊されてしまったからな。新しい支配体制を構築している最中なのだ。オークションのように皆殺しにされては敵わん」
ルミナスはルナさんを気にかけていた。今さっきまでしていたお茶会だって、ルナさんがふと甘い物が好きだと口にしたのを聞いたルミナスが彼女を喜ばせるために開いたのだ。
自分が美しいと認めて買い上げた相手がずっと暗い顔をしているのが気に食わなかったのか、言葉通りの事を心配しているのかは分からない。けど、ルミナスが異様な様子の彼女をただ心配しているのだけは分かる。だから、
「わかった。行こう、ルミナス」
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走る、走る、走る
転移という手段すら忘れ、がむしゃらに走っていた。彼が殺されないようにするために、まだ私を貶めただけの彼が、この先も幸福に生きていけるように。
そうしてルミナスの居城を走り抜け、ギュンターに今にも殺されそうになっている彼を見つけた。怯えて、共に来ただろう仲間も倒れて、トルビヨンを討伐する時に私が貸した長剣も取り落として、今にも死にそうだった。
この光景を見てしまったからだろう、私は自分が世話になっている方を蛇腹剣状態の九曜で絡め取り、地の果てまで吹き飛ばすなどという裏切りを犯した。
「はぁっ!」
「何だっ──────」
本当に、私は何をしているんだろう
彼には既に一度裏切られたというのに
彼は・・・・・前世の私を、菊月千夜を殺した男だというのに
「よかった、間に合った・・・・大丈夫、ハルキ?」
庇ってしまう、守ってしまう。
彼は勇者というには弱すぎて、ただの人と言うには強すぎる。
愚かで無様で滑稽で卑怯で胡散臭くて、その上同仕様もないほどにクズだけど、だからこそ人間らしい・・・・・・・だけどたぶん、私はそんな事を考慮してこんな愚行を犯したわけじゃない。
たぶん、私は同郷の人に死んで欲しくないだけなんだと思う。
単に異世界という意味での同郷ではなく、真なる意味での、つまりは全く同じ世界の同郷。そんな彼まで殺してしまったら、私はあの子達や彼を守らないといけないのに、なんt──────
「てめぇ!! 何でここにいやがる?!」
「それは────」
「お前はあの時確かに売り飛ばしたはずだ!! こんな所にいるわけがねぇ!!!」
──────ああ。やっぱり、君はそう言うだろうね。
分かるよ。君はあまり信用してくれなかったようだけど、それでも1年以上は一緒に各地を旅して回ったんだ。君が次に言う言葉くらいは予想がつく。次は─────
『「意味わかんねえんだよ!!」』
「マジでなんでこんなに上手くいかねぇんだよ!? てめぇを売り飛ばした金で漸くいい女を買えたのに、金も全部持って逃げられた!」
喚き散らす彼を見下ろす。
君をここまで追い詰めてしまったのは私なのだろう。
学校で君がイジメを受けていたのはクラスの中心の女子に言いがかりをつけられて、それに反論してしまったからだったと思う。それを発端に君は日常的にいじめを受けるようになった。先生もどうにかしようと動いていたけれど、それでも止まらなかった。
そんな君は、この世界に来た時目をキラキラと輝かせて希望に満ちていた。
君と私が暮らしていた前の世界とは違う、この世界の弱肉強食という絶対の摂理に君は得た力の事もあって直ぐに順応した。
「それで稼ごうとして魔王を討伐に来たらこれだ! ふざけんなよ!」
けれど、そんな彼が得た自信をへし折ってしまったのは私だ。
「てめぇもあいつも、いつもそうだ!! てめぇらはいつも俺を見下す!! 上から目線で俺を助けて─────才能だけのクソ女が!!」
「・・・・・・ハルキ、私は─────」
その時、粒子化した血の奔流が私達に向けて放たれた。この奔流は私諸共ハルキも穿くようにコースどられている。
防がない訳にはいかず、鉄扇状態の九曜で跳ね返したが、どうやら向こうでも対処されたらしい。
「・・・・・・来ましたか」
「貴様、これは何の真似だ? ルミナス様の所有物でありながら”勇者”に与するとは」
ロイ・ヴァレンタイン
魔王ルミナスの配下であり、先程飛ばしたギュンターと彼の兄のルイの三人で構成される”三公”の一角。殺さずに相手取るには少々手間がかかる相手だ。
それにしても、ああ、本格的に彼らと敵対してしまったようだ。
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「────【
「! っっ────【
「────【
私とルミナスが着いたとき、そこは混沌としていた。
床は谷のように大きく裂け、壁には超高温の何かが通過したかのような溶解した跡があり、落雷が周囲一体を焼き尽くさんとしている。
そしてその中心にルナさんがいた。
背後に誰かを庇っているようで、彼女はその場から殆ど動かずに戦っており傷一つ負っていない。それに対し、彼女と対峙しているロイ、ルイ、そしてギュンターは全身に数え切れないほどの傷を負い、致命傷に見えるようなものすら食らっている。
「それにあれは・・・・扇?」
ルナさんが手に持っているのはこれまで見たこともない扇の様な武器で、それを巧みに操ってルイの魔法を跳ね返し、ロイの剣技をいなし、ギュンターの攻撃を相殺していた。
その姿はまるで月明かりが照らす湖畔でただ一人、舞を踊っている姿を幻視してしまうほどに綺麗で、戦いの中心にある彼女を場違いにも美しいと感じてしまった。それはルミナスも同じようで、彼女の美しさに口に弧を描いて笑みを浮かべている。
「・・・・ルミナス、このままじゃ」
「そうじゃな、このまま事が進めば奴が勝つ。まさかこれほどまでとは思わなんだが」
ルナさんには剣の稽古を何度も付けてもらって、未来でも見てきたからその強さは十分理解していると思っていたが、理解が全然足りなかったみたいだ。少なくとも誰かを庇いながらあそこまでの演武は出来ない。
あの三人だけではどう頑張っても勝てない。勝たないと交渉の席にすら就いてもらえない。なら、
「うん。ルミナスは三人を回復させて、私も出て、く・・る・・・・・?」
それが見えたのは偶然だった。
ルナさんの背後、丁度彼女で隠れて死角になっている位置で何かが動くのがかすかに見えた。そして視界の端では、傭兵のような格好をしている人たちが集まり、十数人がかりで何かをしようと準備しているように見えた。
動きをよく見ようと意識を向けた時、飛沫と冷気が頬を撫でた。
「【
ルナさんが放った魔法により、 亡霊に縛り上げられた三人に水で形作られた骨の蛇が彼らに襲いかかり、その身を爆ぜさせ彼らを抉り、氷の世界が何もかもを凍てつかせた。
「──────【
最後に
「・・・・・夜?」
雷の降り注ぐ曇天から雲一つない星月夜が生まれたその魔法は、満天の星空とも云うべきその美しさに引き込まれるとともに、恐ろしさも感じる。
私のユニークスキル『絶対切断』とも違う、絶対的な貫通能力。それが天に満ちている星の光一つ一つに込められているのだとひと目見て理解したのだ。
直に貫かれた三公は勿論の事、ルミナスも当然理解している。
しかし、私たちのように全員がそれを理解できたわけでは無い。
それとも、理解していながらもあのような行動に走ったのか、今となってはもう分からないが、その場の誰にとってもそれは衝撃的だった。
「・・・・・コフッ・・・・・・・・」
夜が崩壊し、ルナさんが口から血を吐いて崩れ落ちる。
そこにいる者は皆呆気にとられていた。
なぜなら、地に横たわる彼女の胸を、ちょうど心臓のある位置を──────────聖火を思わせる美しい剣が穿っていたのだから。
そして、その剣は────────彼女を背後から、突き刺していたのだから。
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「やった! やってやったぞ!! この剣ならお前を殺せるってのはマジだったのか! あぁ、ありがとう! 態々自分から殺し方を教えてくれて!」
なにが起きたんだっけ?
【
────ああ、ウェスタで刺されたのか。
奈南が使っていた聖剣『
あの子が愛用し、神聖力を込めて
「────てめぇら、やれ!!」
ハルキと共に魔王トルビヨンを討伐したとき、トルビヨンを相手取る直前で剣が壊れてしまった彼が死なないようにと貸していた。しかし、私が捕まって奴隷となった後は貸したまま返ってきていなかったあれが、今私の胸を穿つ形で返ってきた。
私から命の灯火を奪わんとするそれは、相変わらず見惚れてしまいそうなほどに綺麗で、元の所有者に相応しい剣だった。
『神へ祈りを捧げ給う───』
地に伏せる私を中心に、術式が展開される。
耳に入ってくるのは究極の神聖魔法【
────ここで完全に滅ぼすつもりか
見上げる視界の端にクロノアとルミナスが見えた。
あの人達がこっちに来れないのは【氷結地獄】と【蛇骨水爆】で出来上がった蛇を模した巨大な氷が道を塞いでいるからだ。あれには過剰に魔素を込めたから簡単には破壊出来ない。
聖火の長剣が命を奪っていく。
神話級に至っているこの剣は、精神生命体ですら殺しうる。
そして
聖火の長剣には聖者を滅ぼし、反転すれば邪悪を滅ぼす
聖者と邪悪。対立するその二面を併せ持つ存在、それが聖魔霊だ。この剣は私やヴェルグリンド、そしてヴェルザードのような聖魔霊に対し絶大な力を発揮する。
恐らく、聖火の長剣のダメージと傭兵の一派が行使しているこの霊子崩壊でギリギリ殺せるかどうかと云うところだろう。
正直、レジストするのは簡単だ。
『───我は望み、聖霊の御力を欲する───』
────本当にそれでいいの?
良いよ
これからも使命には従わないといけないし、あの子達の魂を一緒に滅ぼされる訳にはいかない
────やっと死ねるのに?
────それに、異世界人達の魂は世界の言葉に預ければいいじゃない!
死ねないよ
亜種とはいえ竜種に進化した私には不死性がある。不滅と言い換えても良い
だから、死ねないよ
────あら、忘れたの? 竜種の不滅は完全じゃないって
────原初の悪魔なら復活後も記憶と人格は前と同一だけど、竜種は復活したら人格が変化する。それってつまり、今思考して、絶望して、自棄になっている貴方は死ぬってこと
────それに今の私がここで死んでも、次の私がいつかあの子達を元の世界に帰してくれる。次の私が駄目でもその次が、成し遂げてくれる
────ねえ。それってとっても素敵なことだと思わない?
・・・・・・・・・・そうだね─────
『───我が願い、聞き届け給え───』
─────とっても、素敵だね
『───万物よ尽きよ───』
ありがとう
奈南、私を殺してくれて
ありがとう
ハルキ、私を壊してくれて
みんな、今までありがとう
ようやく、そっちに行けるよ
「・・・・ルシア・・・・・・いま・・・そっちに・・・・・」
『─────
聖なる天の光が、降り注いだ
「妾を置いて死ぬことなど許すわけがなかろう」
指を鳴らす音が響く
「貴様は────────妾の所有物なのだぞ?」
それだけで、神聖の極地はいとも容易く崩壊した
すみません、だいぶ遅れました!!
言い訳にもなりませんが、突然静岡の方に行く予定が入ってしまいまして書く時間が取れませんでした
たぶん次の話で一旦完結です。
原作の話もありますので完結してから閑話だったりifルート幾つか上げたら原作に入ると思います。
ちなみに、これまでこの『転生した狐はメイドになる』という二次創作を書いてきて思ったのは、最初期に作ったプロット途中からガン無視だったな!です
みんなは魔王と勇者で誰が好き(リムルは除外)
-
ギィ
-
ミリム
-
ラミリス
-
ディーノ
-
ダグリュール
-
ルミナス
-
レオン
-
ルドラ
-
サリオン
-
グランベル
-
クロノア
-
マサユキ
-
クレイマン