転生した狐はメイドになる   作:くまんじゅう

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最終話+過去一の文量です。




転生した狐はメイドになる

 

 

 

 

 何だ! 

 

「ル、ミ・・・・ナス」

「貴様、何を勝手に死のうとしておる? 貴様の力量ならあやつの攻撃など容易に避けられたであろうに」

 

 何なんだ、こいつは

 どうしてこいつは、この人は! 

 何でこんなに、勝手なんだ! 

 

「それに何故霊子崩壊(ディスインテグレーション)を受けようとした? 中断させることなど容易かったであろう?」

 

 勝手なのに・・・・・・何で、今の光景に────

 

『弱いものイジメは辞めるのよさ』

 

 ────あの時のことを、思い出してしまうんだ。

 

「ああ、胸の穴が塞がっていないではないか」

 

 ルミナスはそう言って、私の胸から乱雑に聖火の長剣(ウェスタ)を引き抜き、遠くに放り投げた。

 

「【部位再生(リジェネレーション)】」

 

 胸の風穴が塞がっていく。

 私の体は他人の魔法が効きにくいのに、そんな事関係ないと言わんばかりにその魔法は心臓を再生させる。魔の者も使用自体は可能だとはいえ扱いにくい神聖魔法の筈なのに、吸血鬼の彼女は神がかった技量で傷を完全に回復させた。

 

「てめぇ! 何てことしやがる!」

 

 虎の子の聖火の長剣に霊子崩壊を他人に邪魔されたことにカッとなったのだろう。ハルキが大きな声を上げた。

 

「っぁ、ハルキ───」

「こいつを殺せるかもしれなかった千載一遇のチャンスだったんだぞ! それを!」

「黙れ下郎」

「なっ! こ、この───」

「これは妾の所有物じゃ。貴様の様なゲスが妾の物に触れるでない」

 

 ハルキを黙らせたルミナスは私を『所有物』と、そう言った。

 それはとても屈辱的だった。物扱いされて、その上自分よりも圧倒的に弱い奴に庇護された。

 護られるのはとても久しぶりで、そして屈辱的だった。屈辱的だったのに、同時に何故だか凄く嬉しくて、数千年ぶりに胸の高鳴りを感じる。

 ルミナスはそのままハルキの方に向かって歩み始めた。

 

「ねえ、ルナさん。何で今日ルミナスがお茶会を開いていたのか知ってる?」

 

 いつの間にか隣に来ていたクロノアが声をかけてきた。ここまで接近されたのに気づけなかったなんて自分の気の抜けようを嘆けばいいのか、一時のとはいえ弟子の成長を喜べばいいのか。

 

「いえ、知りません」

「ルミナスはね、ルナさんに元気を出してほしかったの。だから今日、お茶会を開いたんだ。貴方が甘いものが好きだって前話してくれたでしょう? それをルミナスに言ったら、ノリノリで企画してくれたんだよ」

「・・・・・・そう、なんですか」

 

 そんな理由だとは一ミリも思っていなかった。

 突然『茶会をするぞ』とだけ言われて連れてかれて、行ってみれば私の好きなお菓子ばかりだったのを少し怪しんではいたが、ハルキが来たという報に驚きを持っていかれていた。そのお茶会をルミナス本人が私のために行っていたなんて全くの予想外だった。

 

「・・・・・なら、ルミナスには悪いことをしましたね。お茶会を途中でほっぽり出してこっちに来ちゃいましたから」

「謝ればいいよ。それにルミナスはそれぐらいで怒るほど狭量じゃないから」

 

 そうクロノアに言われ、ルミナスの方に視線を向けた。

 そこではハルキと彼女が戦っていて、ルミナスが圧倒していた。それは昔の私なら思わず目を覆いたくなってしまう程一方的な戦闘で、でも何故か手を出そうという気にはなれなかった。

 そうして、ルミナスの魔法が彼に直撃する。

 

「【死せる者への祝福(デスブレッシング)】」

「あっ、だめっ────」

 

 その技はダメだと手を出そうとするもどうしてか体は動かず、光の手がハルキと周りの傭兵たちを包みこんでいく。光が消失した時に姿を表したハルキ達からは既に、命の灯火を感じられなくなっていた。

 

 前世の私を殺し、今世の私を殺しかけた男の最後は、呆れるほどにあっけないものだった。

 

 せめて魂を元の世界に返すためにと回収を試みるも、魂からは拒絶の意思を感じ取る。

 これを出されてしまっては、私は彼らを回収出来ない。これまでもハルキと同じ様に私に回収されることを拒み、この世界の輪廻に取り込まれることを選んだ異世界人は大勢いた。それは単にこの世界を愛した人だったり、私を蛇蝎のごとく嫌っている人だったりと様々だ。

 魂の回収に関して、自分でも無責任なことをしている自覚はある。彼らの魂に受肉することを許さず、元の世界で生き返らせると言ってずっと閉じ込めているのだ。未だ彼らを元の世界へ連れ帰る手段など発見できていないというのに。

 

 魂の回収を受け入れられても拒絶されても、私が無力感に苛まれるのは変わらない。

 

「ぁあ・・・・・・またっ・・・・」

 

 もう、頭がおかしくなってしまいそうだ。

 仲良くなった人も私を嫌った人も、出会った人はみんな先に死んでいく。数少ない昔からの知り合いだって、調停者の使命上過度に干渉することは出来ない。それを6700年も繰り返し続けて少しづつだが、確実に精神が擦り減っていく感覚を感じ続けた。

 

「・・・・?」

 

 でも今は、あまりその魂が───心が擦り減る感覚がない。

 それどころか少し、本当に少しだが、胸の奥底に眠って表に出せなくなってしまっていた痼りがほぐれたような感じがした。

 

「───さて、ルナよ」

 

 ハルキ達の処刑を終えたルミナスが次の標的を私に定めた。

 彼らを裏切った罰で私も殺されるのか、所有物として罰せられるのか。

 

「・・・・・殺すならお好きに」

「馬鹿め。何度も言わせるでない。貴様は妾の所有物じゃ、殺すわけがなかろう? それに─────」

 

 そう言ってルミナスは俯きかけていた私の両頬を優しく持ち上げ、その美しい金銀妖瞳(ヘテロクロミア)の瞳を強制的に見させた。

 

「─────妾の行いを察そうなどと驕った考えを抱いたまま死ぬことなど許さぬ。矮小な身でそれをしようとするなど傲慢にも程がある」

 

 それは反論したくなるような嫌な言葉選びで、反論する気も失せる程に引き込まれる言葉だった。

 ルミナスのカリスマの為せる技なのか、そんな不遜な物言いをする彼女に私は見惚れていた。誰かに見惚れるなんて生まれてこの方初めてで、知っている筈の彼女が全然違う人に見えてしまう。

 

「貴様には妾の新たな支配体制の構築に協力してもらわねばならんのだ。その貴様に今死なれて困るのは妾なのだぞ。それを分かっておるのか?」

 

 聞いたことない話だった。しかし恩もできてしまったのだし、それを含めずとも断る理由はない。

 

・・・・ひゃい・・・・・分かり、ました・・・・

 

 何故か声が自然と弱くなったが、そんな事実は認めない。

 

 言葉を返すとルミナスから手が差し出された。

 

「では改めて言おう───────」

 

 それを掴んで立ち上がった私に、彼女は言葉を放った。

 ルドラに誘われて、精霊の棲家からの門出を───新たな一歩を踏み出そうと決意したあの時を想起させるその言葉を。

 

 

 

 

 

 

 

「──────ルナよ、貴様、妾と共に来い」

 

『なあ、ノウェム。お前、俺達と一緒に来い!』

 

 

 

 ルミナス、どうして

 

 

 

「妾と共に、全てとは言えずとも、皆が幸福に暮らせる理想郷を築かぬか?」

 

『俺達と一緒に、世界平和の夢を実現しねぇか!』

 

 

 

 どうして貴方はあの夢を─────

 

 

 

「それに貴様は美しい。その美貌が失われるなど世界の損失であろう」

 

『それにお前、面白そうだしよ!』

 

 

 

 ─────夢物語のようなあの愚かな理想を、思い出させるのですか? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 随分と長い時間、呆けていた気がする。

 突然固まった私を不思議に思ったのか、クロノアやルミナスが眼前まで来て何やらしている。そんな二人を視界に入れ、私は未だ収まらない熱に動かされるままに()()()()を口にした。

 

「ルミナス、その理想郷の夢を信じても・・・・・・いえ・・・・・・信じさせて、くれますか?」

 

 僅かにだが目を見開いた彼女は一呼吸置き、その()()()()()を口にした───口に、してくれた。

 

 

 

「好きに信じるがよい」

 

 

 

 一見素っ気ないように聞こえる言葉だけど、とても暖かくて、あの幸せだった頃に戻ったように感じてしまう。

 

 本当にありがとう。

 信じさせてくれて、信じてもいいと言ってくれて。

 

 私は彼女の手前で膝を突き、誓いの言葉を口にした。

 全てとはいかずとも、自分をさらけ出し忠誠を捧げる決意の言葉を。

 

()()()()()、貴方様の申し出、承りました。私はこれより貴方様に従者としてお仕え致します」

 

 ────もし、貴方が理想の前に屈して、折れてしまった時は────

 

「それに伴い、一つ謝罪を。ルナという名は私を呼称するに真に正しい名ではありません。これまでそれを告げていなかったことを、深く謝罪致します」

 

 ────その時は、私が────

 

「私の真の名はノウェム・ルナといいます。ファーストネームとミドルネームはあっても、ファミリーネームが無い不完全な状態ですが、これが私の真の名前です」

 

 ────あの子達を苦しめ続けるこの世界を────

 

「ルナ改め、このノウェム。貴方様にお仕えしても宜しいでしょうか?」

 

 ルミナス様は私を一瞥し、一瞬悩むような素振りを見せてから言葉を発した。

 

「許そう。ノウェム、貴様をこれより妾のメイドとする・・・・・・・・それと、配下になった報酬をやろう。先程貴様はファミリーネームが無いと言っておったからな──────」

 

 ────その時は、私がこの世界を滅ぼそう────

 

 ルミナス様はそう言って、最高の報酬を私にくれた。これから何千年を共にする事になるその報酬を。

 

 

「─────────貴様がバレンタインの名を名乗ることを許す。貴様はこれよりノウェム・L・バレンタインを名乗るがよい」

 

 

 この日から、私はルミナス様のメイドになった。

 

 

 ────だから、信じますよ。ルミナス様♪ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 あの後、殺しかけた三公に謝罪した私はルミナス様の居城にある自室に戻ってきていた。

 

 名前の上書きをするためだ。

 流石に私に名付けをするとなるとルミナス様が干からびてしまう。いや、余裕なのかもしれないが、少しでもその可能性がある手段を取るのは避けたかった。

 

 それに今回のことを経て、一度自分を見つめ直すべきだと感じたのだ。

 ルミナス様に思い出させてもらうまで、私は強くなろうと決心し理由でもある本当に成し遂げたかった夢の事を忘れ、使命に縛られ突き動かされるだけの道具のようになっていた。

 

「本当に、何千年もバカやってたなぁ」

 

 こう思えるようになったのも、ルミナス様にハルキを殺されて吹っ切れてしまっからか、精神に余裕ができたからだろう。お陰で元の自分を少しは取り戻せた気がする。

 

「よしっ、やりましょうか!」

 

 自分の奥底に意識を向ける。

 改めて見てみると、私を構成するものの多くは思ったよりも誰かから貰ったものが多かった。

 

 種族である『星閻竜狐(ネビュラール)』は竜種の四人から貰った素材を使って進化したし、魔法の多くはラミリスさん達に教えてもらったものだ。

 それに七つの究極能力(アルティメットスキル)の内、四つは貰ったようなものだ。

 

追慕之王(ヘルマニビス)』は数多の異世界人達がくれたスキルを統合して獲得したもの、

聖劇之王(シリウス)』はティリヤが死後も私と共にいたいと遺してくれたもの、

巧緻之王(プロメテウス)』は奈南が私に願いを託してくれた証、

 そして『知識之王(ラファエル)』は──────

 

「・・・・・ルシア」

 

 ルシアの死後直ぐに、彼女を蘇生させようと足掻いた結果獲得してしまったものだ。

 本当に、私は色んな人達に助けられてここまで生きてきたみたいだ。それを忘れるだなんて、どれだけ血迷っていたんだか。

 

「名前を新しくするんです。折角ですし、能力(スキル)の進化にも挑戦してみましょうか」

 

 今まではあの子達の力を変えてしまうのが嫌で尻込みしていたが、挑戦してみよう。幸い追慕之王には『能力保存』の権能がある。失敗したとしても再現は可能だ。

 それに、上手くいけば世界を超えられる力を得られるかもしれない。可能性は万に一どころか億が一にも満たないかもしれないが、それでも挑戦しないと始まらない。

 

 ならまずは、

 

「─────【尾裂の術】機能を一時停止」

《告。申請を受理しました。【尾裂の術】は正常に機能を停止しました》

「九曜─────『権限拡大・最大化』」

《告。権限の拡大申請を受理しました。個体名ノウェムの権限は最大に昇華されました》

 

 準備は完了した

 これを言ってしまえばもう後戻りはできない

 しかし、恐怖は欠片もなかった

 

 大きく息を吸い、私は宣言した。

 新たな『名前』を。これからを生きる、私の名を。

 

「私の名はノウェム! 転生者にして調停者、異邦の衡裁(エクイティ)にしてルミナス様のメイド『ノウェム・L・バレンタイン』!」

 

 その名前は、私の魂に刻まれた。

 見た目にも、能力にも変化はない。

 だが、魂の奥深くが、確かに変化した。

 

 そうして、名付け時特有の全能感や多幸感に包まれたまま、進化を次の段階に移行した。

 

「────『世界宣告』」

《告。宣告、及び申請を確認しました。対象────世界の言葉》

《申請により、これより個体名ノウェムの能力進化を開始します》

 

 名付けもそうしたが、【尾裂の術】を機能停止したことで使用が可能になった『魔素倍加』を利用して進化する。このために態々【尾裂の術】を止めたのだ。

 

 基本的に能力進化は世界の言葉に丸投げになる。そうしなければいけないほどの神の御業なのだ能力の改変とは。

 だが、今回だけは自分でスキルを弄る。

 

「────『解析鑑定』」

 

 世界を超える能力を欲するのに、世界の言葉に任せていては得る事が出来ようはずもない。自分の可能性を信じて、これまで得てきた全ての力を使い、一世一代の能力進化を行う。

 

「・・・・・・・えっ」

 

 能力進化の途中、あることに気づいた。

 究極能力を再編するため一度分解する過程で、知識之王(ラファエル)にさし当たった。そして知識之王を隅々みまで解析し、一つの違和感を見つけた。ふわふわの毛で編まれたセーターから特定の小さな小さな糸くずを見つける程に、限界を超えて目を凝らさなければ発見できないほど些細な違和感。それはスキルに何かが張り付いているようなものだった。

 

「──っ!? ぁあ、ああ!!」

 

 それの正体に気付いたら嬉しくて嬉しくてたまらなかった。

 

 そこに

 ずっと、そこに

 そこで、見守ってくれていたんだね

 

 

 

 

 

「そこにいたんだね──────ルシア」

 

 

 

 

 

 違和感の正体

 それは『知識之王(ラファエル)』に本当に僅かにだが残留していた、ルシアの魂の欠片だった。

 

「本当に、久し振りですね!」

 

 上手く笑えているだろうか? 

 例えそこに彼女の意識がなかったとしても、君には元気な私を見ていてほしい。

 

「会えて嬉しいです、本当にッ・・・・・ほん、とう・・・・ッ・・・・

 

 久しく流していなかった嬉し涙が流れる。涙声になり、うまく言葉が喋れない。

 本当に嬉しいのだ。心の底から、嬉しいのだ。

 死んでしまって、もう会えないとずっと思っていた親友にまた会えた。それがどれだけ嬉しいことか。

 

「ねぇルシア、見ていましたか? ミリムちゃん、成長していたでしょう? 悲しいことがあったのに、今ではあんなに楽しそうに・・・・・・・ルドラとグリンドも、元気ですよ。世界平和のために、邁進してて」

 

 本当に嬉しい。嬉しくて、再会を喜んでいたいのだが、そうも言っていられない。

 それに、ルシアの魂を見つけたと同時に一つの考えが自然と頭に浮かんできたんだ。それが一番いいように思う。

 

「本当はこれからも、ずっと一緒にいたい! けど!! だけど!!」

 

 そう。

 ルシア、君は、貴方は─────

 

「貴方は自由を愛したあの人の───ヴェルダナーヴァの妻。それに貴方自身も自由を心から愛していた・・・・・・なら、貴方は私のもとに縛られるべきじゃない」

 

 別れてしまうのは寂しいけれど、今の私にはルミナス様がいる。あの人が、一緒にいてくれる。だから大丈夫、もう壊れたりなんかしない。諦めたりなんかしない、してやらない。何度でも立ち上がって、前を向く。

 

 

「────『記憶之書』『追憶具現』」

 

 追慕之王(ヘルマニビス)の権能『追憶具現』

 私の記憶にあるスキルや魔法をエネルギーを消費して再現を可能にする能力だ。記憶にあることが条件のため記憶之書と併用することで一度見た物を何度でも再現可能という能力に化ける。

 究極能力(アルティメットスキル)の再現は一度きりという制約こそあるが、その一度きりがギィが持つ『傲慢之王(ルシファー)』のコピー能力を遥かに凌ぐ強さに再現するという強すぎる能力だ。

 

 それを今回はコピーではなく知識之王(ラファエル)を二つに分け、それぞれを美徳系の知識之王と同等の能力に仕上げることに使う。

 ルシアの魂は不安定だ。スキルから剥がしてしまえば直ぐに霧散してしまう。

 だから、ルシアの魂を含んだ知識之王と、ルシアの魂が無い知識之王の二つを作る。かなりのエネルギーを消費することになるが、ルシアの安全に比べればなんてこと無い。

 

「・・・・・できた・・・・」

 

 膝から崩れ落ちてしまう程に気を遣う作業が終わり、二つの美徳系究極能力が新たに世界に誕生した。

 

知恵之王(ラファエル)』と『智恵之王(ラファエル)

 

 同一の天使の名を冠する、究極の力である。

 

 じゃあ、名残惜しいけれど、やるとしよう。

 

「─────『能力返還』」

「さよなら、ルシア─────またいつか、どこかで」

 

 

 

 

 

《確認しました。個体名ノウェムが究極能力『智恵之王』を返還・・・・・・・成功しました。究極能力『智恵之王』は、正常に輪廻の輪に還りました》

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、再開しましょうか」

 

 ルシアを見送ってもまだ、能力進化は続いている。

 今度こそ、世界を渡る能力を得るのだ。

 

 現在私が保有する七つの究極能力(アルティメットスキル)

閻福之王(ヘカテー)』『虚飾之王(アルコン)』『知恵之王(ラファエル)』『怨嗟之王(イブリース)』『巧緻之王(プロメテウス)』『聖劇之王(シリウス)』『追慕之王(ヘルマニビス)

 これらを一度分解し、再編する。

 

「ほんと! ヴェルダナーヴァはやっぱり凄いですね!!」

 

 最適化させた権能の全てを破壊特化のスキルと演算特化に分け、統合分離して新たな権能を作り出す作業はさっきの何倍も神経を使い、改めてヴェルダナーヴァの凄まじさを再認識し、やけくそ気味に声を上げてしまう。

 

 皆に習った全ての技術を()使()し、未来のためのに()()を絞り、()を吐いてでも、()()の声を浴びてでも、舞台の上で無様に()を舞うことになってでも、皆を()()()の到来を願う。

 

 そんな想いを込め、良き未来を夢見て私は─────

 

 

 ─────二つのスキルを、完成させた。

 

 

 

 

 

知徳之王(クタニド)

 

 そして

 

奈落之神(ウボ=サスラ)

 

 

 

 

 

 完成させた二つのスキル。

 凶悪で神聖で、凄まじい権能を内包するそれらの中には、

 その中には─────

 

「あぁ・・・・・・で、きた! 漸く、ようやく!! できたよ────奈南!!」

 

 ─────次元跳躍

 

 そんな権能があった。

 

 

 

 

 

 

 

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奈落之神(ウボ=サスラ)』と『知徳之王(クタニド)』を作り上げた後、気絶するように眠って一晩が明け、私はルミナス様の下に赴いていた。

 

「────今、なんと言った?」

「はい。早速で申し訳ありませんが、一年ほど休暇を頂きたく思います」

「・・・・・・・・・なぜじゃ?」

 

 必死にお願いする私に、ルミナス様は目元を抑えて疑問を呈する。

 そりゃそうだ。働き始めて初日に一年間の休みを申請するなど巫山戯ている。

 

「身辺整理にその程度時間がかかります♪」

 

 だがそんな事は関係ない。

 することが出来たのだ、それを終わらせてから出ないと働くなんて出来ない。

 

 そんな私の態度に呆れ果てたのか、ルミナス様は目元を手のひらで覆い黙って言葉を発さない。

 そんな折に思わぬところから援護射撃が飛んできた。

 

「ルミナス、いいんじゃない? まだノウェムさんに任せている仕事は無いし、これからずっと一緒にいてもらうんだから。それぐらい認めてあげないと・・・・・・それに、大事な子なんでしょ、ノウェムさん?」

「クロエ・・・・・ええ、命を賭しても惜しくない程には」

 

 私が真の名を明かしたから自分もと、本当の名前を明かしたクロノア、改めクロエは優しく語りかけるようにそう言ってくれた。本当に彼女には助けられてばかりだ。最初にオークションであったときも、彼女が剣を防いでくれなければ私はルミナス様を滅ぼしていた。

 彼女には、感謝してもしきれない。

 

「・・・・・別に許さぬとは言っておらん。ノウェムよ、行って来るが良い!」

 

 観念したようにそう言ってくれたルミナス様に背中を押され、あの子達を元の世界へ帰しに行く旅を始める前に行かなければならない()()()()()へ転移した。

 

 

 

 

 

 **************

 

 

 

 

 

「久し振りですね。ギィさん、ヴェルザード」

「よぉ、随分と顔つきが変わったなぁ、ノウェム」

「久し振りね、ノウェム。また()()に来たの?」

 

 私がやって来たのはこの二人居城───白氷宮だ。

 

「いえ。それはまた今度にしておきますよ、ヴェルザード。今日は報告と、宣言をしに来たんです」

「ふむ、いいぜ。言ってみな」

 

 そう言って私の言葉を促すギィに、少し言葉が詰まる。何度あっても彼の前は緊張する。

 しかし、これは調停者には報告しなければならない。

 

「まずは報告の方です─────────私、ある魔王に仕えることにしました」

 

 瞬間、ギィとヴェルザードが目を見開くのが分かった。数千年間魔物と人間、どちらの陣営にも肩入れしていなかった私が、動くと言ったのだ。その反応も当然だろう。

 

「本当か! てめぇ、世界のバランスはどうする気だ!! 俺の仕事を増やすつもりじゃねぇだろうなぁ?」

「私も同感よ、ノウェム。それは許容できないわ」

「心配しなくても大丈夫ですよ。元より人魔間の競争に手を出すつもりはありません。出すとしても、聖人程度に力を抑えてですかね?」

 

 そう言えば二人は途端に安堵したようで、見るからにオーラの荒れが無くなった。

 

「それならば、まあ良いだろう。認めてやるよ・・・・・・それで? てめぇが見込んだ魔王ってのはそれほどのやつなのか?」

「そうですね・・・・・強さは正直全然です。でも、あの人に賭けてみたい。そう思わせてくれるようなカリスマの人でした。一瞬ルドラかヴェルダナーヴァと話しているような気分になりましたよ」

「そうなのね。そんな魔王が・・・・それで、貴方はその魔王に何を期待しているのかしら?」

 

 ヴェルザードにそう問われ、言ってもいいものかと少し逡巡する。しかし、これを言わないことには始まらない。

 

「それは宣言の方に絡んできますね・・・・・私は、あの人が掲げた理想に夢を───未来を見たんですよ。だからあの人の近くで、それを見ることにしたんです・・・・・・それと────────」

 

 そこで一拍おき、私は決意を───身勝手で我儘な決意の言葉を口にした。

 

「─────もしあの人が失敗したら、その時、私は世界を滅ぼします。だから、全力で止めてくださいね♪」

 

 それを聞いたギィとウェルザードは、心の底から驚いたような、初めて見る顔をしていた。

 

「まさかてめぇがそんな事を言うなんてな」

「ええ、意外だわ」

「知りませんでした? 実は私、とっても夢見がちで我儘なんです♪」

 

 そう宣った私に、ギィとヴェルザードは微笑んで、そして獰猛な笑みを浮かべて

 

「わかったぜ、その時はちゃんと殺してやるよ」

「調停者が減るのは困るのだけど・・・・任せてちょうだい」

 

 二人はちゃんと引き受けてくれた。引き受けてくれるって、最初から分かっていたけど。

 

「けどよぉ、いいのか? その時はてめぇは確実に死ぬぜ」

 

 白氷宮を去る際にギィが不敵な笑みを湛えてそんな事を言ってきた。面白がっているような、気になっているだけのような、どちらともつかない表情で。

 

 それに私は、

 

 

 

「はい、だって──────────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうかよ、お前はその道を選ぶのか」

 

 ノウェムが去ったその場所でギィは感傷に浸るように、しかしどこか嬉しそうにそう言った。

 

『だって──────その時は全てを上からねじ伏せますから、覚悟しておいてくださいね!』

 

「あの子、だいぶ変わったわね。最近はずっと暗い顔してたけど、今日はずっといいを顔していたわ」

「いいじゃねえか。あんな啖呵切りやがったんだ、その時は受けてやろうぜ」

「ええ・・・・それにしても、あの子があそこまで気に掛ける主って誰なのかしら?」

「そうだな・・・・とんだイカれた野郎だろうよ」

 

 

 

 

 

 

 

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「では、行きますか」

 

 白氷宮から転移した私は、どことも知らぬ森の中で世界を渡る準備をしていた。【尾裂の術】は私がいなくても機能するようになっているし、一年くらい離れてもギィもいるから大丈夫だろう。

 私が返さなければいけない魂は計34527個。一人でやったんじゃ一年じゃ到底間に合わない。だから九曜(グラハ)の力を借りることにする。

 

 九つの形態に変化する九曜の、未だ使ったことのない最後の形態『善悪の果実』

 

 外見は単なる林檎の実だが、その実態は食すことで九曜が一時的に使えなくなる代わりに、ある権能を使用可能にすると云うものだ。

 その権能の名は『多重存在』

【尾裂の術】に組み込まれている並列存在の上位互換のような能力で、明確な本体が必要な並列存在と違い、作った分身体の全てが本体になり得る力。これを使って、数多の世界に役割を分担して行くことにする。

 

 ネックレスにした九曜を首から外し、果実にして─────齧った。

 

 自らにその力が宿ったことを確認して、私はその力を───何千年も望み続けたその力を、使用した。

 

 

「──────『次元跳躍』!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ぅう・・・・んぁ・・・・?」

 

 高層ビルの林立する都心からは少しだけ離れた場所、都内に位置するとある公園で少女は目を覚ました。

 

「・・・・・なにが、どうなって・・・・」

 

 目覚めたばかりで寝ぼけているのだろう。

 視界ははっきりとせず、意識は未だボンヤリとしている。

 何か夢のような体験をしていたことだけは覚えているのだが──────

 

「そうだ!! ノウェムさん! それにあの悪魔はどうなったの!?」

 

 少女───清水奈南の言葉に答える人は誰一人としていない。

 

「もう、蘇ったばっかりなのに・・・・奈南はせっかちですね」

 

 ─────わけでは無かった。

 そこにいたのだ。両目に溢れんばかりの涙を湛えて、今にも泣きそうになっている黒い少女が。

 

「─────ノウェムさん!!!」

「そうですっ、ノウェムですよ!! 奈南!!」

 

 奈南は勢い良く、ノウェムの胸に飛び込んだ。

 彼女なら受け止めてくれると信じて、そんな事は考えずに万感の思いのままに、飛び込んだ。

 

「怖かった! 怖かったよぉ! それでも何とかしなくちゃって!! それで────」

「頑張った! 頑張りました! 本当によく頑張ったよ─────」

 

 そのままどれくらい泣き続けたのだろう? 

 彼女に抱きつき、色んな液体を顔中から垂れ流して、乙女としての尊厳を悠々と破壊しながら何時間も泣き続けた。それはノウェムさんも同じで、感動の再会と言うには余りに絵面が酷かった。

 そんなこんなで、気づけば目覚めた時にはまだ明るかった空に茜色が差してきていた。

 

「泣き止みましたか?」

「うぅ・・・・・もう、大丈夫です」

「それは良かった」

 

 いつの間にか周囲に撒き散らしていたモノを私の分まで綺麗サッパリと消してしまっていたノウェムは、穏やかな声でそう言った。抱き合ったような状態から隣へ座り込み、彼女の顔を横目に見る。彼女に、死の直前の記憶まで思い出した私は聞くことがあった。

 

「ねぇ、ノウェム」

「なに?」

「私が死んでから・・・・・・どのくらい、かかったんですか?」

 

 質問にバツが悪そうな顔をして、誤魔化しちゃだめっぽいなぁと、小さく呟いた彼女はゆっくりと口を開いた。

 

「6700年・・・・・かかりました。私もう、おばあちゃんになっちゃいましたよ」

 

 ノウェムさんはおどけながら言ったが

『6700年』

 その言葉の重みがずっしりと胸の奥に響いた。

 

「別に気にする必要ないよ。奈南のお願いを聞いた形になったとはいえ、最初から私はこうしていたと思うから」

「・・・・・・・それでも────」

「よしっ、暗い話おわり! 奈南、立って!」

 

 私が漏らそうとした謝罪の言葉をノウェムは無理矢理に断ち切って、私の手を掴んで勢い良く立たせた。彼女に手を引かれるままに、私はついて行った。

 

「奈南がね、一番最後なんだ」

「・・・? 何が、です?」

「こうやって手を引いて家に連れて行くのが、だよ。他の異世界人34526人はもう家に返したの。だから、奈南が最後・・・・・ああ、スキルとか魔法は使えなくなってるから注意してね」

 

 歩いている途中で、そんな事をノウェムは口にした。

 日の入りと夜の中間、薄明と呼ばれるような空に照らされる彼女の顔は薄暗くて良く見えない。

 しかし周囲の景色にはだいぶ見覚えあるようになってきて、ここが家の直ぐ近くだというのが分かる。

 多分ここを曲がれば─────

 

「着いたよ」

 

 ノウェムが指差した方向。そこに、家が見えた。

 特段大きくも、小さくもない普通サイズの一軒家。二世帯住宅にしては少し手狭なのかもしれないが、家族を直ぐ近くに感じられる。そんな、大好きな建物────────私の自宅が、そこにあった。

 

「奈南が向こうの世界に行ってからこっちでは1ヶ月くらい経ってるから、戻ったら結構怒られると思うけど、ちゃんと謝るんですよ」

 

 それだけ言って私の手を振り払い、ノウェムさんは踵を返そうとした。

 だが────

 

「待って! ノウェム───いえ、千夜さん。この家は貴方が暮らしてた場所でもあるんですよね・・・・・・なら、一回くらい帰ってきて下さいよ!」

 

 ────振り払われた手を、私が掴んだ。絶対に逃がしはしない。

 

「離して」

 

 千夜さんはこちらに顔を向けず、突き放すような声でそう言った。

 

「離しません」

「奈南、離して。お願い」

「離しません。絶対に」

 

 我ながら酷いやつだと思う。ずっと守ってくれて、その上6700年もかけて私を蘇生させてくれた相手にすることでは無い。

 だけど、この機を逃せば二度とこんなチャンスはこない。それだけは嫌にはっきりと分かった。

 だから、

 

「一緒に帰りますよ! 千夜さん!!」

「───ッッ!! 帰れるわけ無いでしょう!!」

 

 突然声を荒げた彼女に瞠目する。手は離れてしまったというのに逃げる素振りも見せず、千夜さんは大声を上げ続けた。

 

「私が、あの家に帰れるわけ無いでしょう!! 今更どの面下げて帰ればいいんですか!? 産んで育ててもらったのに、親よりも早く死んで! 何も返せずに! その上今は顔も体も変わってしまった!! どうやって私が菊月千夜だと証明しろと!! それに何百万人も殺して血に染まった私なんて、みんなに見せられるわけが無い!!!」

 

 それは心からの叫びで、とても痛々しい声だった。

 でも、だからだろう。その声が、いつもこの時間帯に庭仕事を終える()()()の耳に入ったのは

 

 

 

「もしかして、奈南かい? それと・・・・・・・・・・・ち・・・よ?」

 

 

 

 お祖母ちゃんの───千夜さんのお母さんの耳に入ったのは。

 

 彼女を視界に入れた千夜さんは、石のように固まって動かなくなってしまった。

 

 

 

 

 

 ********************

 

 

 

 

 

「・・・・あの、お茶入れてくるね〜」

「奈南、座っていなさい」

 

 あの後、家に入った私を出迎えたのは両親と祖父母からの力一杯の抱擁と、涙が出るほどに恐ろしいお説教の数々だった。とても怖かったけど、その分心配してくれていたことがとても良く感じられて、幸せを噛み締めていた。

 

 反対に、ノウェム周りの空気は最悪だった。

 ちゃぶ台の前に正座しているノウェムは顔を床に固定して動かないし、その反対側の祖父母と父────菊月武光と菊月美代子、そして清水一馬は難しい顔をしてノウェムを見つめている。

 

 空気の気まずさに逃げ出そうとするも、母に先回りされ逃げ場をなくされてしまった。

 

「それで、君は奈南を誘拐した犯人なのかな?」

 

 父がそう、ノウェムに問い詰めた。

 ノウェムは黙りこくって何も答えず。祖父母は静観の構えだが視線はじっくりとノウェムの一挙手一投足を見極めている。

 そんな彼らとは対象的に、私は目の前が真っ赤に染まった。

 

「そんなわけ無いでしょ!! ノウェムは私をずっと支えてくれたんだよ? 保護してくれたんだよ? それを誘拐犯呼ばわりだなんて!?」

 

 恩人に対する筋が通っていないのは明白だ。

 しかし同時に、ノウェムの今の立場も分かっている。一ヶ月失踪していた娘と共にいたのだ、誘拐犯だと最も疑われる立場にあるのもまた事実。

 

「保護? なら何で一ヶ月も連絡がなかったんだ? 電話なり何なりで私達に無事を伝えるくらいできだはずだろう」

「・・・・・・・・」

「ノウェムからもなにか言ってよ!!」

 

 何で黙っているんだ、この人は!? そんなバカなことをすれば状況は悪くなる一方じゃないか! 

 

『奈南、私はこの人達とは揉めたくないし迷惑を掛けたくないんです。だから、穏便にことを─────』

「それでこのまま罪を被るつもりですか?! ふざけるのも大概にして下さい!!」

 

 ノウェムから思念で伝えられた内容にカッとなる。

 その旅路がどれだけ過酷なものだったのかは分からないけど、何千年もかけて私達を元の世界に帰しに来てくれたんだ。それを考慮せずにただ攻めるだなんて、あっていい訳が無い。

 

 

「奈南、お前は──────誰に・・・・いや、誰と話しているんだ」

 

 

 父の言葉にハッとする。さっきノウェムが言っていたではないか、私はもうスキルを使えない。

 思念伝達をしようとしても、その言葉は口をついて出るだけだ。

 

「あの、これは────」

 

「──────もういい」

 

 弁明しようとしたその時、お祖父ちゃんが口を開いた。その視線は私に───ではなく、真っ直ぐにノウェムを見つめていて、いつも優しく柔らかい表情はいつになく真剣だ。

 

「ノウェムさんと、言ったかな? 最初に言っておくけど、私と美代子は別に君が奈南を誘拐したと思っているわけじゃないんだよ。それは最初から疑っていなかった。ただ一つ、答えてほしい事があるんだ。いいね?」

 

 そう問う声音は口調の優しさに反して有無を言わせない力強いもので、ノウェムは姿勢を正していた。

 

「ええ、答えられることなら」

 

 ノウェムもいつも通りの口調なのにその表情はいつになく真面目で、真っ直ぐにお祖父ちゃんを見つめている。そんな彼女に場違いにも少しドキッとしてしまった自分がいた。

 

「君には常々私の趣味突き合わせていたと思うけど、どう思っていたんだい?」

「別に嫌じゃなかったよ、だって私の趣味、は・・・・お父・・、さん・・・・から

 

 ノウェムの言葉が尻すぼみになっていく。

 失態に気づいたのだろう。これでは彼女とお祖父ちゃんと関わりがあったと認めてしまっている。彼女は慌てて立ち上がり、必死に否定しようとする。

 

「違っ! 今のは違うんです!! 今のは─────」

「千夜、座りなさい」

「──っ、はい」

 

 

 否定しようとして今度はお祖母ちゃんの力強い言葉に自然と従ってしまっている。

 これはもう駄目だろう。二人には完全にバレてしまっているらしい。にしても、何でバレたんだろう。

 

 そんな私の疑問を他所にお祖母ちゃんはちゃぶ台の周り移動し、そのまま自然と、ノウェムを抱きしめた。

 

「ほんと、バカな娘だねぇ・・・・・・どんだけ姿が変わっても、お前に気付かないはず無いだろう?」

「────っっ、・・・・・・・・」

 

 抱きしめられたノウェムは目を見開いて、抱きしめる腕を振り解こうとしていない。と云うよりも出来ないと云う感じでされるが儘になっている。

 そうしてお祖母ちゃんの胸にノウェムの顔が埋まり、しばらくした頃、啜り泣く声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 ********************

 

 

 

 

 

 ああ、駄目だ

 振り解かなきゃ、この家から離れなきゃいけないのに

 体に力が入らない

 

 涙で視界がはっきりとしない。

 奈南と再会したときに流し切ったと思っていた涙が際限なく流れてきて、お母さんの服を濡らしていく。止めようと意識しても、意思に反して涙は止まらない。

 いや、多分、私が止めたくないんだ。

 

「・・・・・お母さん・・・」

「なんだい?」

「どうして、分かったの? 私が千夜だって」

 

 それは純粋な疑問だった。

 今の私は人獣形態で、前世の私とは似ても似つかない。この状態で街を出歩けたのだって、認識阻害の魔法を張っていたからだ。認識阻害の魔法を解除した途端にお母さんに見つかったとはいえ、私だとバレる要素はなかったはずだ。

 

「何で、って・・・・・そんなの勘以外にあると思うかい? 昔から私の勘はよく当たるって、覚えてるだろう?」

「・・・・・そう、だったね。お母さんの勘は外れたこと無かったっけ」

「あと強いて言えば、私を見た時のお前の顔だね。あんな親に悪戯がバレた後のバツが悪そうな顔を初めて会うやつにされちゃあ、嫌でも頭は回るよ。それに、前のあんたのバツが悪い時の顔と全く同じだったからね!」

「そっかぁ。だから最初に『ちよ』って言ったのかぁ・・・・・じゃあ誤魔化しは無駄だったなぁ〜」

 

 最初から全部バレていたようだ。

 やっぱりお母さんにはいつまで立っても叶わない。

 

「おい男ども! 突っ立ってないで早く来な!!」

 

 ていうか、お母さんってここまでの男まさりだっけ? 確かに乱暴な口調も多かったけどここまでじゃなかったと思う・・・・・・・まあ、娘が死んだそりゃ変わるか。

 お母さんに呼ばれ、お父さんとさっきまで私を問い詰めていたお兄ちゃんが寄って来て、恐る恐る声をかけてくる。

 

「その・・・・・お前は本当に、千夜なのか?」

「・・・・そうだよ、お兄ちゃん」

「・・・・・すまないが、まだ信じきれない。だから、確かめさせてくれ」

「? いいけど、なに?」

「じゃあ、俺が最も好きな数を10個挙げろ?」

「は? ・・・・・・えっと、0、φ、π、28、57、343、496、1260、1729、6174だったっけ?」

「合ってるかぁ〜・・・・・・・・・おかえり、千夜」

「待って意味不明なんだけど!!数学オタクは結婚して娘が出来ても治らなかったの!?」

「治るわけないだろ! 病気じゃないんだから!」

「お兄ちゃんのは病気でしょうが!!」

 

 感動的なムードがぶち壊しだ。どうしてこうオタクは空気が読めないんだろう。だけど、お陰でだいぶ昔に戻れたような気がする。

 

「千夜」

「お父さん」

 

 最後にお父さんが声をかけてきた。お父さんは見たことないくらい優しくて、見たことないくらい素晴らしい笑顔だった。

 

「その姿についても気になるし、千夜のこれまでのこと、聞かせてくれるかい?」

「・・・・・うん、分かった」

 

 これは結構長い話になりそうだ。奈南も涙ぐんでいて、お兄ちゃんと結婚したという千紘さんは置いてけぼりになっているけど、仲良く慣れたら嬉しいな。

 

「じゃあまずはね、森の中で妖精さんと出会った話から!」

 

 その後、私は皆に話し続けた。今日学校であったことを心底楽しそうに親に話す子供のように。

 辛く苦しかったけれど、それでも楽しくて、大切な思い出を沢山もらったあの世界での旅路を。

 

 ああ。ようやく、帰ってこれた 

 

 

 

 

 

 **************

 

 

 

 

 

「うぅ〜ん、情報量が多い」

「お兄ちゃん、後三千年くらいだから! 頑張って!」

「だってなぁ! そんな異世界があるってだけでも驚きだってのに、何だよ世界を渡る力って! 何だよ娘って! お前いつの間に拵えたんだよ!?」

「はァ──!!! だから言ったでしょ! ミリムちゃんは義理の娘だって! 親友の娘なの!!」

「だからって一気に何でもかんでも言い過ぎだ! 少しは抑えろ!!」

「これでも十分ダイジェストだよ!!」

 

 お父さんと言い争うノウェムの姿はいつになくイキイキしていて、これが本来の彼女なのかと思う。お父さんも普段はあそこまで声を荒げること無いのに、あれも兄妹だからこその距離感と云うやつだろうか? 一人っ子の私には良くわからない。

 

「よし、一旦休憩だ。夜通し聞きっぱなしだったからな、朝ご飯にしよう。二人は一度頭を冷やしなさい」

「「はい」」

 

 ありがとうお祖父ちゃん。私には二人の言い合いを止める力はない。

 

「じゃあ、味噌汁作ってくるよ・・・・千紘さん手伝って」

「は〜い。今日は魚でも焼きますか?」

「あっ、私も手伝う!」

 

 お祖母ちゃんもお母さんとノウェムを連れて台所に行ってくれた。

 少しはゆっくりできそうだ。

 

「よし、奈南」

「ん? お父さん何?」

「お前が見つかったって色んなとこに報告行くぞ。存分に怒られてこい」

「────っ! やだやだやだ────!!!! 助けてノウェム!!」

『頑張ってね〜』

「裏切り者───!!」

「おお、それが思念伝達か。スマホいらずなのは便利だなぁ」

 

 

 

 

 

 *****************

 

 

 

 

 

 朝食も食べ終わり、残り三千年分の話もして、辺りはすっかり薄暗くなっていた。

 予定では直ぐ戻るつもりが、丸一日はここにいてしまったらしい。

 

「ねえ。千夜さんはこれからどうするの?」

 

 ふと奈南がそんな事を言ってきた。

 それにつられ、皆の視線も私に集まる。言うことは決まっているが、それでも改めて言うのは結構勇気がいるなぁ。

 

「向こうの世界に戻りますよ。あっちの世界を管理しないといけませんし」

「調停者って、言ってたよね。それかい?」

 

 皆を連れて玄関に向かう。

 時間的に期限の一年もうが迫ってきているから、早急に帰らないといけない。

 

「うん。私は向こうの世界でまだやることがある。あっちに大切な人も置いてきちゃったし、戻らなくちゃ。後、自分の全てを預けてもいいって思えるくらい、信じられる人も出来たんだ。だから、心配しないで!」

「無理。心配はするよ─────だって親なんだから。もう一回親より先に死んで見ろ、その時はフルスイングで殴り飛ばしてあげるよ」

 

 変わったと思ったけど、お母さんは変わっていなかった。

 どこまでも優しくて、そしてどこまでも頼りになる。そんな大好きなお母さん。そんな貴方たちだから、私はここまで成長できたんだ。

 

「・・・・・また、こっちに帰って来れる?」

「うん。一年に一回は、絶対に来る・・・・・・・それにね、みんな──────」

 

 

 

 

 

「私、向こうでやりたい事が───夢が出来たんだ! だから、それを頑張って叶えてくるよ!」

 

 

 

 

 

 そう宣言した私に、みんなは優しく笑いかけ、こう言ってくれた。

 

 

 

「「「「「いってらっしゃい!」」」」」

 

 

 

 この言葉に相応しい返答は、一つしかないだろう。

 玄関の枠に足をかけ、目尻に溜まった涙を拭い、一度だけ振り返る。振り返るのはこれで最後だから、盛大に右手を掲げ、思いっ切り振りながらこう言うんだ──────

 

 

 

 

 

「────いってきます!」

 

 

 

 

 

 本物の笑みを浮かべ、境界をまたぎ、一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ****************

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「身辺整理は終わったのか?」

 

 城の一角、広間にてソファに身を預けたルミナス様が声を掛けてくる。

 

「はい。もうスッキリ、完璧にしてきましたよ」

 

 そう私が言うと彼女は笑みを浮かべ、立ち上がる。

 

「では改めて言うぞ───────ノウェム・L・バレンタイン、貴様を妾のメイドに任ずる」

 

 差し出された手を取って立ち上がる。

魔法換装(ドレスチェンジ)】で服装をメイド服に替え、昔ルシアに習ったカーテシーを披露する。

 

「承りました。ノウェム・L・バレンタインの名に誓い、永劫の忠誠を御主人様───ルミナス・バレンタイン様に捧げます」

 

 私はこの日、ルミナス様に永遠の忠誠を誓い、真に彼女のメイドになったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ********************

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の人生を誰かに話すとしたら、題名はどうしようか? 

 

 こんなことを聞いておきながら、本当はとっくに決まってるんですけどね

 

 

 

 

 

 では、話すとしましょう

 

『転生した狐はメイドになる』

 

 そんな、夢のような

 

 

 いえ、

 

 

 ─────私が夢を叶える、そういう物語を。

 

 

 

 

 

 

 

 




これにて『転生した狐はメイドになる』は一旦完結です。

初投稿の2025年12月13日から本日2026年5月31日まで、本当に長い間お付き合い頂きありがとうございます!初投稿の作品を完成まで導けたのは皆さんのコメントなどで励まされていたからです。改めて、評価をしていただいた多くの方と、この作品を呼んでくださった全ての方に感謝申し上げます。

小話ですが、ノウェムはルミナスには人獣形態を未だ見せていません。これからも人形態で仕えることになるでしょう。人獣も見せるとしたら、それはたぶん天魔大戦らへんですかね。
あと、ノウェムに関連する数字って数学的に重要なやつにしてあるのが多いんですよね。このノウェムの存在値なんてナルシスト数ですしね!気付かれましたか?

これから閑話やifストーリーを幾つか上げて原作時間軸に入ろうと思っていますが、そんな全部描写はできないため、ルミナス陣営が関わる話などを中心に上げることになると思います。
投降はゆっくりになるでしょうが、どうぞこれからもお付き合い下さい。


最後に、転スラ大好き!


***************************

ステータス
 
名前:ノウェム・L・バレンタイン
存在値∶8859万3477(+九曜)(+α)
種族:最上位聖魔霊──星閻竜狐ネビュラール
庇護∶星閻の庇護
称号:嚆矢の異世界人、調停者、審判者、真なる魔王、異邦の衡裁
魔法:<元素魔法><物理魔法><精霊魔法><上位精霊召喚><上位悪魔召喚><陰陽術><神聖魔法><核撃魔法><魔厭術><竜種魔法>
固有スキル:『万能変化』『万能感知』『竜霊覇気』『無限再生』
アルティメットスキル:『奈落之神ウボ=サスラ』・・・魂暴喰、虚無崩壊、虚数空間、静寂、死魔、世界宣告、失楽世界、追憶具現、共感洗魂、並列存在、次元跳躍、時空間支配、多次元結界
『知徳之王クタニド』・・・思考加速、解析鑑定、並列演算、詠唱破棄、森羅万象、思念支配、法則支配、統合分離、属性変換、術理創造、物質創造、霊知、隠匿、精密統御、記憶之書、幻霊廟、真実の羽、能力保存、能力返還
耐性:『痛覚無効』『物理攻撃無効』『状態異常無効』『自然影響無効』『精神攻撃無効』『聖魔攻撃耐性』
保有武器:[九曜グラハ][聖火の長剣ウェスタ][月神の細剣アルテミス]・・・他多数
保有魂数:{異世界人・・・1}{他・・・6789381}
常用能力:『幻霊廟』『魔加五重』【尾裂の術】

みんなは魔王と勇者で誰が好き(リムルは除外)

  • ギィ
  • ミリム
  • ラミリス
  • ディーノ
  • ダグリュール
  • ルミナス
  • レオン
  • ルドラ
  • サリオン
  • グランベル
  • クロノア
  • マサユキ
  • クレイマン
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