転生した狐はメイドになる   作:くまんじゅう

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普通に難産+テストで遅れました。
2週間毎にでかめのテストあるっておかしくないですか?

時系列的には39話と40話の間。6700年の旅路の中です。


間章ー泡沫に生きた者達ー
閑話 聖劇之王(シリウス) ①


 

 

 

 この遺書を誰が読んでいるのか、誰が聞いているのかは分かりませんが、まずこう言いましょう。

 

 こんにちは。

 

 私はティリヤ・セイリオスと申します。

 今やこの国の国教となっている神使教を創設して教主もしている、ちょっとすごい人です♪ 

 

 あっ、そこのあなた。今、『神使教ってなんだ?』って思いましたね。

 顔に出していなくても、私にはお見通しですよ。神使教はこの国では国教になるほどに力をつけましたが、他国では未だ知名度が低いですからね。しょうがない部分もあります。

 

 では、長いおしゃべりのようなものですけど、この遺書ではまず神使教についてから話していきましょう。

 

 まあ神使教について話すには、初めに私のことを話さないといけませんが。

 

 前置きですが、私は所謂『異世界人』と呼ばれる存在です。

 異世界人は召喚か偶然かの違いはありますが、元は別の世界からこの世界に連れて来られた人間の事を指します。追加でいえば、この世界間の呼び出しの関係は一方通行になっているため、異世界人が元いた世界へ帰ることは不可能ですね。

 

 とまあ、そんな異世界人は先程も述べましたが二種類存在しています。

 人為的に召喚されて世界を渡った『召喚者』

 偶然世界を渡ってしまった者───ここでは『迷い人』とでも言いましょう。

 とある方によると、どちらかと言えば召喚者の方が多いようです。まあ私は迷い人、つまりはレアな方ですが。

 

 今ではこれほどまでの権力をもち、優雅な暮らしを送っている私ですが、そんな私もこの世界に来て直ぐの頃は本当に毎日死ぬような暮らしを───いえ、殆ど死んで暮らしていました。

 金無し家無し人権無し。

 これでは本来出来たであろう事もできません。元の世界では芸能活動をしていたぐらいには見目が良かった私は、この世界に迷い込んで直ぐ奴隷として捕まってしまったので、殺されなかっただけマシですが、それも状況を悪化させていましたね。

 

 そんな私がこうなる道筋の、その最初の一歩があれほど優しいのものでなければ、寿命を迎えかけている今の私はこんなにも満ち足りていなかったでしょう。

 あそこで捕まっていなければ、

 あそこで自害していれば、

 あそこであの方の手を取っていなければ、

 全ての可能性の私の中で、最も幸福な私は自分だと、ここまで自信を持って信じることはできなかったでしょう。

 

 真っ白な雪が、凍えるような寒さで奴隷達を苦しめていたあの日。

 あの薄暗くて汚い檻の中で、()()()()に生まれ変わったんです。

 

 そう、あれは─────

 

 

 

 

 

 **************

 

 

 

 

 

「ぁあ、・・・ぁ・・あぁ」

 

 薄暗く、汚く、そしてゾッとするほどに静か。

 そんな場所で一人、小さな少女が寒さに耐えかねうめき声を上げた。

 

 いや、そのうめき声は少女一人のものではない。

 注意深く聞けば、何十何百ものうめき声をこの空間では聞くことが出来た。うめき声を漏らす者達に目を向ければ彼ら彼女らの首に、一つ残らず首輪がついていることが確認できただろう。

 彼らは奴隷───つまりは商品なのだ。

 傷がついたとしても数日経てば治っている。例え劣悪な環境化にいたとしても生きている商品なら損傷があっても問題はなく、治れば十分な値段がつく。そんな利点を備えた商品、それが彼らだ。

 

 この場の奴隷として最高級の商品、それが始めに声を上げた少女だった。

 身長は高すぎず低すぎず、体重も重すぎず軽すぎず。そんな普通の少女。しかし、それだけでは最高級の品と分けられる訳が無い。

 理由は偏に顔の良さ。

 少女はこの空間にいる誰よりも美しい顔を持っていて、誰よりも丁寧に扱われてきたであろう体躯も持っていて、そして誰よりも、悪意ある責め苦に耐え続けていた。少女にとって幸運だったのは寒さに曝され禄に休めてもいなかったからか、腹に新たな命が宿る事が無かったことだろう。

 

 そんな不運な少女の名はチヨリ

 

 チヨリにとって今の状況は理解が追いつくものではなかった。

 なにせ、彼女がこちらの世界に渡ったのは自宅で眠っていた時なのだ。起きてみれば周りは見覚えのない野原で、直ぐに野盗に捕まって売られて今に至るのだ。未だ十六歳の少女が受け止めきれるはずも無い。

 

「・・ぁむ・・ぃ・・・」

「おっ! 今日は誰もまだ使()()()()()みたいだな!」

 

 今のチヨリが考えられるのは()()、ただそれだけだった。しかし、そんな彼女が漏らした声に返ってきたのは二十歳程度で髪を無造作に下ろした男の喜声だった。

 男はいそいそとチヨリの檻の鍵を開け中に入り、しゃがみ込んで彼女の顎を持ち上げた。

 

「本当は駄目だってオーナーの野郎に言われてんだけどな・・・・なあ、今日も頼むぜ」

 

 虚ろだったチヨリの瞳に昏い闇が宿る。

 これから()()()()()が彼女には容易に想像できたからだ。

 

「ぁ・・ゃめっ・・」

「奴隷の分際で口を開くな!」

 

 頬をぶたれた。

 そして間を置かずして、一定テンポで鳴り響く音と少女の泣き叫ぶ声、そして男の嘲笑が響き始めた。

 それらの音は吹雪の音にかき消され、誰の耳にも届くことは無かった。

 

 

 

 ─────────────

 

 

 

 チヨリが使われた翌々日、彼女のもとに奴隷達の所有者───奴隷商が来て、彼女を檻から連れ出した。

 

 連れてこられたのは浴場で、彼女は奴隷商に見られながらではあるが数週間ぶりに体の汚れを落とすことが出来た。温かい湯というのは凄いもので、彼女は正常な思考能力を取り戻すことが出来た。しかし抵抗しようにも出来ることなど無いと理解したが故にされるが儘になる。抵抗すら出来ない自分が嫌いになる。そんな彼女にはその美貌をより際立たせる華々しい服が着せられた。

 何故こんなことをするのかとチヨリが心の中で疑問に思ったとき、奴隷商は彼女が口に出して聞いてもいないのに口を開き始めた。曰く、彼女を買いたいという客が明日来るためその客に、より多くの代金を出したいと思わせるためだという。

 

 チヨリは大した興味を抱けなかった。

 今になって漸く、彼女は現状をスッキリとした頭で理解し、世界に絶望することができたからだ。彼女はもう元の世界にいた頃の事を想起しても自分ごとのように思えず、ただそうだったのだなと受け流すようになっていた。

 

 

 

 翌日、悲鳴が木霊していた空間にカツカツカツと、2人分の足音が響いた。

 例の客が来たのだろうかと、チヨリは嫌になるほど冷静な頭で考えた。

 

 

 

 

 

 *************

 

 

 

 

 

 カツカツカツと、2人分の足音が響いている。

 片方は私のもの、もう片方は目的の少女を所有している奴隷商のものだ。

 

「して、魔人のお客様は彼女のみをお求めで? (わたくし)めは研究用でも的用でも、様々な用途で使えると奴隷を取り揃えておりますよ?」

「いえ。その、平原に突然現れたという少女のみで大丈夫です。他はまた機会があればお願いします」

「承知いたしました。その機会が遠くない事を願っております」

 

 トップ直々に案内をしてくれている奴隷商の問に答えながら考える。

 

 失態だ。

【尾裂の術】をメンテナンスで一時的に機能を停止させていたとはいえ、そのタイミングでこの世界に来てしまった少女を直ぐに認知できなかった。

 そのせいでその子はこんな所に閉じ込められてしまっている。

 

 

 

 失態だ

 

 

 

 その子には出来る限り最大限の事をしなければ。彼女のこれまでのことを聞くに、償うことなど出来ないけれど、見せれる限りの誠意をもって彼女に接しなければいけない。

 

 そうして、その少女───チヨリが入れられているという檻の前に到着した。

 

「おい、お客様が来られたぞ」

 

 奴隷商がチヨリであろう少女に声を掛ける。

 彼女はゆっくりと顔を上げ、私に光の灯っていない瞳を向けた。

 

 正面から見た彼女───チヨリはとても美しい容姿をしていた。

 肩辺りまで伸びた湖色の頭髪に、灰色がかった淡いピンクの瞳。過酷な奴隷生活のせいか少し痩せこけてしまっているが、それでも隠せないほどの元来の顔と体つきの良さ。その全てが決して悪目立ちせず、均整美の象徴とも言えそうだ。

 

 しかし、その均整美が今は崩れてしまっている

 

 ───瞳だ。

 彼女の瞳が、その美しさに反して何も映すことのない深い闇をのぞかせている。

 

 そんな彼女に目線の位置を合わせ、少し躊躇いながらも私は声をかけた。

 できるだけ怖くないように、親しみを持ってもらえるように、優しい口調で。

 

 

「こんにちは」

 

 彼女は何も反応を示さない。

 

「私はノウェムと申します」

 

 彼女は何も反応を示さない。

 

「貴方と同じ世界出身で、ちょっとすごい人です♪」

 

 彼女が少しだけ反応を示した。

 

『ねえ。チヨリさん、ここから出ませんか?』

 

 奴隷商に聞かれたくない内容もあり、途中から思念伝達での会話に移行したことも彼女の態度を変える要因になったのだろう。 彼女の反応は少しづつだけど大きくなっていく。

 

『ここから出て、穏やかに暮らせるところに行きましょう。そこで、ゆっくりと休みましょう?』

 

 そこで漸く、彼女は答えた。

 

『別にいいよ』

『・・・どうして?』

 

 純粋な疑問だった。この空間から逃げられるなら、それを望むと思っていたのだが。

 

『もう、どうでもいい。ここから出てもどうせ家には帰れないんでしょ? それに、私はここで純潔を散らされ嬲られた。もう数えるのも億劫になるくらい使われた』

 

『───もう、いや』

 

 絶句した。

 予想していたよりも彼女の状況はずっと悪かった。彼女は世界に失望している。彼女は何もかもを諦めている。

 そして『使われた』という言葉。その意味を理解して、私は怒りが沸々と湧き上がってくるのを感じた。背後に立っている奴隷商と背後でこちらを見物している男共に対して竜霊覇気を展開してしまいそうになるほどに、明確な怒りの感情を抱いた。

 

 ああ、でも───

 

 

 

 ─────────────

 

 

 

 ノウェムと名乗った人と話している時、どうしてか不思議な気持ちになっていた。

 それが彼女が『私と同じ世界出身』っと名乗ったからなのか、彼女個人の纏う雰囲気がそうさせるのかは分からない。彼女と話していると色々なものが和らいでいくような気がする。

 しかし心の大部分を占めているのは依然として暗い気持ちで、聞かれたことを嘘で取り繕うことすら鬱陶しくなってくる。

 

 だから、その質問にも素直に答えた。

 

 答えを聞いた時の彼女は一瞬言葉を失ったようで、しかし感じとれる気配とでも言うべきものが一瞬、押しつぶされてしまいそうなほどに大きくなった。

 

「そっか」

 

 気圧されてそちらに意識が引っ張られた時、彼女はそれだけを口にした。

 その答えは淡白としすぎ過ぎていて逆に呆気に取られた。だからだろう、彼女の()()()()に咄嗟に反応できなかったのは。

 

 

 

「よく、がんばりましたね」

 

 

 

 柔らかい感触に包まれた、前が見えなくなった。

 柔らかく、それでいて少しだけ硬いそれは確かな熱を持っていて、そこで漸く()()が誰かが私を抱きしめているのだと理解した。

 

「辛かったでしょう? 苦しかったでしょう?」

 

 意識すると背中に手が回され、それが優しく背を撫でながら上下してもいる。規則正しく拍動する心臓の音が酷く私を安心させる。

 

「場所すら分からず頼れる人もいなかったのに、世界にたった一人で」

 

 ただのハグ。たったそれだけの事がこの時の私にどれほどの影響を与えたのかは知る由もない。涙は自然と流れていた。

 

「一人でよく、がんばりましたね」

 

 

 ただ、一つだけ確かなことがあるとすればそれは─────

 

 

「・・ぅん・・・・」

 

 

 ─────この時、私の中からは『断る』という選択肢が消滅していた。

 

 

 

 

 

 **************

 

 

 

 

 

 チヨリから了承を得てから、私はすぐに動き出した。

 

「この娘を買います。金額は?」

「え、えぇ。女である上、容姿を加味して・・・・・金貨400枚です」

 

 足元を見られている。そう確信した。

 この市場で金貨200枚を超える奴隷は数人、そして元々この男がチヨリにつけようと思っていた値段は金貨250枚だ。400枚などいくはずもいない。

 まあ、しかし───

 

「分かりました。これで契約成立ですね、ではこの子はもらっていきます」

 

 そう言って奴隷商に袋を投げる。

 中には金貨500枚が入っているが、一刻も早くこの子をここから離したかったからどうでもいい。それに金なんてまたすぐに稼げるし、最悪ルドラからカツアゲすれば良い。

 

 金を数え始めた奴隷商を無視してチヨリを抱き上げ、出口へ向かう。

 数日前から続いていた吹雪はすっかり止み、夜空が私達を優しく照らしている。そんな空の下を歩いていると、不思議と穏やかな気持になってくる。転移するまで彼女が少しでも安心して眠れるよう、元の世界で母が面白がって歌っていた子守唄を口ずさむ。

 

「Hush, little baby, don't say a word, Mama's going to buy you a mockingbird.And if that mockingbird don't sing, Mama's going to buy you a diamond ring.And if that diamond ring turns brass, Mama's go──────」

 

「────唄なんて歌って、随分と呑気なもんじゃねえか。べっぴんさんよぉ」

 

 その時、背後からかかった無粋な声が子守唄を阻んだ。

 そちらに振り返ると、奴隷商の所で遠目に私達を見ていた男たちが計五人、武器を手に立っていた。彼らの声を聞いた途端、眠っていたはずのチヨリが目を覚まし、一瞬だが体を震わせた事に気付いたのは私だけだろう。

 

「・・・何か御用で?」

「そいつは俺達のお気に入りなんだよ。だから勝手に連れて行かれちゃ困るんだ。だから、大人しくそいつを置いて帰ってくれねえか?」

「断る」

 

 彼らの言い分に、そんな言葉が自然と口をついて出る。

 ああ、今確信した。コイツらは駄目だ。コイツらが生きたままではチヨリが安心して笑える未来など訪れるはずがない。

 コイツらは今この場で、殺しておかなければ。

 

「チヨリさん、見たくなかったら目を閉じていてね」

 

 彼女に小声でそう言うと、彼女は一瞬視線をそらそうとしたが、それでもすぐに真っ直ぐ、真正面から彼らを見つめた。

 そんな彼女に少し微笑ましい気持ちと、応援したい気持ちが湧いて出てくる。だから、この術できれいな花を咲かせてみよう。そのためならなけなしの罪悪感などいくらでも捨てられる。

 

「ねえ皆さん。花は好き?」

 

 言い終わると同時に、指を鳴らす。

 鳴らすと同時、彼らの肉体は天の彼方に吹き飛ばされ、そこで、悍ましいまでの爆発に巻き込まれた。

 

「ふふっ♪た〜まや〜、ですね♪」

 

 魔厭術【華火】

 対象を花火の様に打ち上げ、色彩豊かに爆散させる術である。開発コンセプトが「美しい花には棘がある」のこの術は、ヴェルグリンドの業を参考に開発した際にルシアにドン引かれた思い出のある懐かしい術だ。

 使うことは無いと思っていたが、まさかこんな所で使うことになるとは。

 

 空一面に咲いた日の花を、成り立ちから見ていたチヨリは、目を見開いて唖然とし、しかしこれだけは確実に言った。

 

「・・・・きれい」

 

 彼女の顔に、空に浮かぶ色とりどりの花々に負けないくらい、美しい花が咲いた。

 

 

 

 




皆さん、お久しぶりです。先日のテストに殺された作者です。
今回は聖劇之王の元の所有者の話になります。恐らく2話か3話で終わると思います。
対戦よろしくお願いします。

みんなは魔王と勇者で誰が好き(リムルは除外)

  • ギィ
  • ミリム
  • ラミリス
  • ディーノ
  • ダグリュール
  • ルミナス
  • レオン
  • ルドラ
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  • グランベル
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