コツ、コツ、コツと、靴が地面を踏み鳴らす音があたりに響く。
「やっぱり、いつ来ても色々と見覚えがあるんですよね、ここ」
「前の世界にも同じような文化の国があったの?」
周囲に建ち並ぶ古代中国王朝の時代のような建物には少し不似合いな着物で、歩き慣れた街を行くように迷いなく、
その隣には蒼髪と金色の瞳をした女性がノウェムが漏らした呟きに興味を持ったようで尋ねている。
「ええ、ちょっと前にも向こうの世界には戻ったんですけど、あちらにも同じような建築や服の文化の国がありましたよ」
「そうなのね。でも、帝国は私とルドラが作り上げた国だから関係ないのだけれど」
「わかってますよ・・・・・その・・・今にして思えば久し振り、ですかね───グリンドさん」
懐かしむように、少しだけ気不味さを隠すように、ノウェムは自らの隣で歩く女性に声をかける。
そう、声をかけられて微妙な表情をしたのはノウェムに『グリンド』と呼ばれた女性───世界に四体のみ存在する竜種の一体『
ヴェルグリンドは微妙な表情のままおもむろにノウェムに近づき───頬をつまんで引っ張った。
「ほんとよ! 何千年会いにこなかったの!」
「しゅみません! しゅみませんでしたから! ほっぺ放してくらさい!」
「仕えたい主を見つけたとかで、数千年も仲間を放ったらかしにしたのはどこのどいつ!?」
「わらしです! 私ですから! もうしないので許して下さい!」
「まだ反省が足りないようね!」
ヴェルグリンドがノウェムをいじめる手は緩まず、ノウェムの頬は万年に近づいてきた人生の中で初めての感触を与えられる。
(グリンドさんとルドラの下から離れてから、どれだけ永い時間が経ったんだろう)
そんな中、ふと、ノウェムは思わず考えてしまった。
これまで生きてきた時間の全てを正確に覚えているわけではないが、今にして思えば途方もない時間をこの世界に馴染めず不安を心に残していた私を受け入れてくれた、人生の恩人と言っても過言ではない彼らとも離れて過ごし、連絡もあまり取っていなかった。
それを考えれば、おふざけと言える程度のお仕置きをするだけで叱りつける訳でもないヴェルグリンドは、特別優しいのだと思う。
ノウェムがヴェルグリンドについて考えているのと同じく、ヴェルグリンドもノウェムについて考えていた。
(放ったらかしにしたのは許さないけど────良かった。ちゃんと回復したみたいね)
実際、ヴェルグリンドはそこまで怒っている訳では無い。
ノウェムがヴェルダナーヴァから与えられた調停者としての役目を果たそうと、何千年も身を削って行動していたことを知っているからだ。
あの時のノウェムは限界だった。
あのまま異世界への調停者として行動し続けていれば確実に精神を壊していた。
かといって、あそこでヴェルグリンドが無理に役目を取り上げるようなことをすれば、責任感と異世界人たちへの罪悪感に押しつぶされて、壊れてしまっていた。
あの時のノウェムは手が出せない状態だったのだ。
ヴェルグリンドはそれを歯痒く思いはすれど、静観するしかなかった。
しかし丁度二千年ほど前、そんな限界だったノウェムの精神状態が急激に改善した。
濁りかけ、砕けかけていたていた魂も元の鮮やかさと輝きを取り戻し、以前にも増して燦々と、鮮烈に輝くようになった。
その背景にあったのは一人の
そのことを知っているヴェルグリンドとしては、ノウェムの主となったルミナスに感謝はあれど悪い思いなどあるはずもなかった。
「はぁ〜、・・・・・・もういいわ」
「───! ありがとうございます!」
「ただし! ───貴方の主との話を聞かせてね。仲間として色々と気になるから」
「喜んで! まずは────」
そこからの二人の話は人に見せられるようなものではなかった。
心の底から楽しそう主との生活を語るノウェムに、少しの嫉妬心を感じたヴェルグリンドが自らの恋人、ルドラとの幸せな日々の話を聞かせ、それに対抗したノウェムがさらにヒートアップしてルミナスとのもっと過激な話を言い始める。
「───その時のルミナス様ったらもう本当に凛々しくって! なんであんな格好良い登場の仕方するんでしょうもうあんなの惚れないわけないじゃないですか! グリンドさん、私を庇った時にルミナス様なんて言ったか分かります? いえ我慢できないのでもう言っちゃいますけど『妾を置いて死ぬなど許すわけがなかろう、貴様は妾の所有物なのだぞ?』ですよ! 強さだって全然で殺そうと思えばいつでも殺せる程度の強さしか無いのに私を庇って前に立って
「あらそうなのね。でも私のルドラだってそんなのに負けないくらいいえ余裕で勝利してしまうくらい可愛くて格好良いのよ。例えば────」
話し合いの内容を端的に言えば、ただの惚気合いであった。
互いのパートナーに対しての狂おしいほどの愛を、傍から見れば砂糖を吐きそうなほどの愛を遠慮なく叫ぶ。
そんな幸せな時間を今のノウェムは過ごせる。
過ごすことを、誰よりもノウェム自身が許せている。
それがヴェルグリンドには嬉しかった。
ただ、自分のルドラへの愛よりもノウェムのルミナスへの愛が大きいとは認めたくなかったから、自分の愛はしっかりと叫ぶことにしよう。
ヴェルグリンドはルドラへの想いを存分に叫びながら、そう思った。
*****
私は奈南ちゃんやお母さんたちのいる元の世界から戻ってきていた。
向こうで三賀日を過ごしてからだから、これ以上は共通テスト直前の奈南ちゃんの邪魔になるし、そろそろルミナス様に会いたくなってきたからだ。
次元跳躍で向こうの世界から戻ってきてルミナス様の待つ神聖法皇国ルベリオスへと向かう帰り道に、私は東の帝国───ルドラ・ナムリウム・ウルメリア東方連合統一帝国に寄って、ヴェルグリンドと
その後にルドラと久し振りに手合わせでもと思ってルドラの下に寄ったのだが、ルドラは忙しいようで手合わせは出来なかったのだ。代わりにルドラとお茶会のようなものをしてきたのだけれど・・・・・あのルドラも落ち着いたものだなと、素直に驚いた。
とまあそんなこんなで、東の帝国での用事も済ませた私はルベリオスの首都『ルーン』に帰ってきた。
ここは古代中国の王朝ような建物が多い東の帝国とは違い、まるっきり西洋風の建造物ばかりだ。
だからか、ルベリオスの建築には光を上手い具合に取り入れたものが多い。
私が今いる、ルミナス様を神と崇めるルミナス教の大聖堂はその代表例の一つだ。
天に伸びる二本の双塔と光を取り入れるための巨大な薔薇窓、ステンドグラスからは赤や青、黄や紫などの色とりどりの光が差し込み、幻想的な空間を作り出している。
そして霊峰を背にしたこの大聖堂から見える麓の街の景色は光を遮らず、自然と調和し、白を貴重とした非常に美しいものに仕上がっている。
これが私とルミナス様、そしてロイやルイたちが二千年をかけて作り上げてきたものなのだ。
この国は、私がラミリスさんの下から旅立って初めて見た、あのナスカ王国の王都の活気ある町並みに負けない理想郷だと断言できるし、あの時に感じた『この営みや人々の笑顔を守りたい』という思いを───あの、6700年の間ずっと忘れてしまっていた原初の
だから、私はこの国が好きだ。
この国に住む人々が、そして、彼らを守るルミナス様が好きだ。
「まあ、そんなの分かりきった事ですけどね・・・・・・そろそろ
そう呟いて、私は霊峰を目指す。
霊峰の山頂に位置する『奥の院』その更に奥へと進んだところには地下へと続く秘密の入口が設けられており、その先に広がっているのがルミナス様の住まう吸血鬼の王国『
夜想宮廷が地下に造られているのは私がルミナス様の配下になる直前、元の都であった『
それが原因でルミナス様はクソトカゲのことが大嫌いになったんだとか。
ルミナス様は今でも『
まあ、それは今はおいておくとしよう。
ルミナス様の部屋に行く途中、私は今日会ってきたルドラについて考えていた。
「それにしても・・・・どうしてルドラは天使系
私も元は天使系の中でも強力な美徳系の究極能力『
「だから『持ってない』って答えたけど・・・・本当にどうしたんだろ?」
ルドラがヴェルダナーヴァから譲り受けた美徳系
だが、そんな能力をあのルドラが使うわけがない。あの正々堂々が大好きなバカがそんな汚い手を使うなど、中身が別人でもないと有り得ない。
そして、中身が別人だった場合、ルドラLOVEのあのヴェルグリンドが気付かないはずがない。というか、もしそうだった場合激怒するだろう。
ヴェルグリンドのことがなくとも、ルドラはこの世界でも屈指の強さを誇る。精神攻撃だって効かない。
そんなルドラを支配できる者など、そうそういるはずが無い。
ルドラたちの下にいる時はリラックス出来るし、一応二人は東の帝国のトップだから二人の配下に私が二人への敵意がないと示すために感知系の能力だったりも解除してる。だからルドラの今の状態はよく分からないのだ。
長い間転生を続けてきたからルドラの魂はだいぶ摩耗しているだろうし、感じられるオーラもだいぶ弱っていた・・・・・大丈夫なんだろうか。
ルドラとギィのゲームの審判のため、どちらかに肩入れできない私ではどうしようもないことだと分かってはいるが、それでも心配なものは心配なのだ。
そうしてルドラについて考えて歩いていれば、そろそろルミナス様の部屋が見えてきた。
メイド服の裾を直し、汚れを全て魔法で消し去る。
眼前に姿見を出して、髪と全身の身だしなみを改めて整えれば───完成だ。
こんな事をしてもあまり変わらないという人もいるかも知れない。
けれど、好きな人には少しでも綺麗な自分を見てほしいと思うのはそんなにいけないことだろうか?
「すぅー・・・・はぁー・・・」
だから私は、出会ってから二千年も経った今でも、ルミナス様の前では魅力的な自分であり続ける。
───私は二つ、ルミナス様に隠し事をしている。
一つは、ルミナス様が知らない姿が私にはあるということ。
獣形態、人間形態、そして人獣形態の三つの姿のうち、人獣形態だけはルミナス様には内緒にしている。
その姿はルミナス様のメイドとしてのノウェムではなく、調停者兼審判者兼異世界人、そしてミリムちゃんの育て親としての、勇者ルドラの仲間としてのノウェムだから。
そしてもう一つは、私が『調停者』だということ。
私は異世界人の横暴から基軸世界を守る立場にあると同時に、魔王と勇者の両陣営に中立的な立場でなくてはいけないため、一方に過度な肩入れはできない。
ルミナス様がこれまで以上の規模の天魔大戦に参戦した時、私はルミナス様の命を裏切るような行動をしなければいけない。
「───よしっ」
気付かれてはいけない。
私が貴方に隠し事をしているということに。
だって、ヴェルダナーヴァやルシアとの約束はこの胸に、色褪せずに残っているから。
彼らが愛した世界を私も守りたいと、そう思ってしまったから。
バレてはいけない。
貴方に会う度にこの胸は、この心は、はしゃぎだしたくなる程の歓喜に包まれているという事に。
だって、恥ずかしいから。
貴方には自分の想いを隠さないと誓ったけれど、
ドアの取っ手にに手をかけた。
いつもの様に貴方に会うだけだというのに、柄にもなく、手は少しだけ震えている。
震える手を抑え、私は扉を押し開けた。
ヒナタに付けた並列存在から、ルミナス様とヒナタが今何をしているのかは分かっている。
私が向こうの世界に旅立った後、魔国連邦とルベリオスは相互不可侵条約を結んだというが、ルミナス様は絶対に文化交流とか技術交流もしたがるだろう。前に会ったシュナなんかは、料理とか音楽とかその辺りのことが得意そうだ。
そのうえ開国祭なんてお祭り事にはルミナス様は絶対に行きたがるだろうから、メイド服を用意して置かなければいけない。ルミナス様お気に入りの、私とおそろいのメイド服を。
これからのことを想像して、唇が自然と弧を描いた。
いつの間にか、手の震えは無くなっていた。
部屋に入った私に気づいて微笑む貴女に、初めにかける言葉は決まっている。
離れた期間はちょっとだけれど、それでも、愛しい貴方に久し振りに会うのだから。
だから私はこう言うのだ。
「─────ルミナス様、ただ今帰りました!」
どうも、突然特大感情を投下するタイプの作者です。
あ…ありのまま、今起こった事を話すぜ!「思うがままにノウェムにとってのルミナスを書いてたらいつの間にか1182文字も書かれてた」な…何を言ってるのか、わからねーと思うがおれも何をされたのかわからなかった…なんだこれバグか?
ヴェルグリンド側の惚気が省略されてるのはヴェルグリンドの惚気まで書いたらエミュがムズすぎて書いたヴェルグリンドに確実に作者が解釈違いを起こすからです。すいません!
てかIFじゃない本編にヴェルグリンド出したのめっちゃ久し振りな気がする、、、、、、!?
やっと中間テストが終わったため書けました!
作者は物語を書く時は、まとまった時間を取れる時に一気に書くので、こういう丸一日休みの日がないと書けないんですよね。
因みに今回の話は書いくのに3時間半、推敲して投稿するの1時間くらいかかってるので約5時間なんですけど、これって平均的なくらい遅い方なんですかね?
ノウェムは自由学園の教師だけど、アニメ一期OADの校外学習の話書く?たぶんリムルやティス先生と少し話すだけで殆ど変わらない
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書け
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どうでも良いから本編書け