「カルロス子爵様、お久しぶりでございます」
「おや、ナナ殿ではありませんか! ご機嫌麗しゅう、先日は────」
あの後、知っている人がいたから挨拶してくると言ってリムルたちの下を離れ、マリアベルの護衛だと気づかれない程度に彼女の近くで行動していた。
目の前で私と親しげに話しているこの子爵は、ここに来る直前に都合よく洗脳した一人だ。
やはり精神系のスキルはこういう場で知り合いがいると誤魔化すのに最適なため、『
・・・・・まあ、精神系のスキルの一番悲しい使い方でもあるのだが、これがあればパーティーでボッチを極める事にはならないで済むというのも、特定の層には魅力なのだろう。
そうしてパーティーが続く中で、リムルがドワルゴンのガゼル王やファルメナスの新王ヨウムと王妃ミュウランと話しているのを尻目に、私のため息をこらえる労力は段々と増している。
だんだんと近づいてきていた反応の目的地が間違いなくこの会場だと悟ってしまったからだ。
「・・・・はぁ」
国の権威を示すために態々国の守護竜王───
かつてこの体の持ち主───"三代目勇者”清水奈南に魔法を使った戦闘の基礎を教え込んだ人物、つまりは神祖トワイライト・バレンタインの高弟第三位である『雷帝』シルビア・エル・リュの実の娘にして、父に偉大なる"二代目勇者”サリオン・グリムワルトを持つ人物。
彼女が自称する"神の末裔”という言葉も、神祖とヴェルダナーヴァの関係を考えれば強ち間違いではない。
ここまで書けば私が会いたくなかった理由も合わせて、襲来したのが誰だかはもうお分かりだろう。
魔導王朝サリオンの皇帝───エルメシア・エル・リュ・サリオンだ。
「・・・・奈南の姿で来たのは失敗だったかなぁ」
彼女自身は奈南の事も私の事も知らないだろうが、彼女の母シルビアは奈南の事も私の事もよく知っている・・・・・かつて私自身が、奈南がシルビアの弟子になるように仕向けたのだから。
奈南がまだ後に仲間となるバーディやレムス、トンナたちと出会う前は、私自身は獣形態のルナとしてだったが、当然ながら私と奈南の二人で共に旅をしていた。
勇者の卵として再会した奈南はとても強くなっていた。
しかし、それでも世界の上澄みの上澄み───覚醒した魔王や勇者とは未だ隔絶した力の差が存在した。
だからこの時は未だ戦闘中に魔法を使うのが苦手だった奈南をシルビアの下に引っ張って行った。
当時のシルビアはエルメシアの出産直後かつ夫である勇者サリオンを混沌竜との戦闘で亡くしたばかりであったため、初めは警戒で取り付く島も無かった。しかし奈南の前向きかつ人好きのする性格も相まって、ある程度は魔法戦闘の指導をすることを了承してくれたのだ。
『ねぇ、この子もちゃんと寝たみたいだし、そろそろ君も喋りなさいよぉ。ちょー強い私にとっては、そんな演技バレバレよぉ?』
まあ、私は変化していることをシルビアに見抜かれていたらしく、奈南が寝ている間に色々と話し込んでしまったし、シルビアとの交流は彼女がルミナス様と親しいことも相まって未だに続いている。
『へぇー? 君も、やっと止まれたんだねぇ。私も嬉しいわぁ!』
ルミナス様に仕え始めてすぐの頃、久し振りに会って開口一番にこう言われたのは今でも記憶に残っている。
私自身はエルメシアと話したことはないがこれだけシルビアから彼女の事を聞かされているのだ。逆があっても不思議じゃない。エルメシア自身は当時未だ赤子だったこともあり奈南と話したことはないが、ある程度は話を聞いているだろう。
とまあ、そういった事情も相まって、エルメシアにこの姿が見らてその話がシルビアにまで伝わってしまうのは避けたい。
───まあ、もう手遅れだが。
会場に巻き起こる少しの混乱を予想した私はそっと、マリアベルの隣に座った。
「招待、ありがたく頂戴した。朕は嬉しく思う」
「こちらこそ、お会いできて光栄です・・・・・今夜の一時を楽しんでくだされば幸いに思います!」
「うむ。明日からの祭りとやらも期待しておる故、せいぜい朕を楽しませてたもれ」
『英雄覇気』を緻密に纏い、配下を傍に引き連れてパーティー会場に入って来た人物を見て、私は少し引いた。
───シルビア、とんでもない娘を持ったな。彼女、滅茶苦茶強い。
ヒナタの倍以上はあると窺えるエネルギー量に、気配や先程の『英雄覇気』からして聖人に覚醒している。先程リムルも『英雄覇気』の影響を受けて意識を失いかけていたし、練度は相当なものだ。それにシルビアから彼女の武器はチャクラムだと聞いているが、あの身のこなしからして剣もある程度は使えそうだ。
そして何よりその身に宿す
強さで言えばまだシルビアの方が上だろうが大差は無いんじゃなかろうか。
「───おい、見ろ!」
私がエルメシアの能力と戦い方について考察していると、周囲が段々とざわつき始めると共に、大好きな気配が近づいてきていた。
「ようやくお出でなさいましたね」
「ああ、遅れていたから心配したけど。悪い、ちょっと行ってくる!」
パーティーの開始時刻になっても姿を見せないから来ないのではないかと思っていたのだが、遠くから聞こえるリムルたちの口ぶりからして、どうやら遅れていただけのようだ。
この場にいる私以外の全員の心境は、ガゼル王がこの言葉で代弁してくれているだろう。
「───ふむ、魔王たちのお出ましか・・・」
私が表立った意識を向ける訳にはかないが、それでも誰が来たのかぐらいは分かる。
というより、その気配を私が間違えるはずもない。
───ミリムちゃんが到着したのだ。
「サビ抜きよ、サビ抜きなの♪」
今は隣で寿司を頼むマリアベルの傍を離れるわけにはいかないが、正直に言えば今すぐミリムちゃんを抱きしめに行きたくて仕方がない。先程新王ヨウムが『めかし込んでる』言った通り、オシャレしているミリムちゃんなんてマジで見たい。見たすぎる。そして全力で撫で回したい。
私の中ではミリムちゃんを可愛がりたいという欲とマリアベルから距離を取りたいという願い、そしてマリアベルの下を離れてはならないという使命感がせめぎ合っていた。
ここ数日話していて気付いたのだが、私は
彼女の魂に根付いたスキルの名は『
かつて『
その名が示す通りに、彼女は正しく強欲の権化と言える。
話している間に『強欲者』で精神を支配しようとしてきたことは数知れず。
『共感洗魂』を使って、察知されないように彼女の思考を読み取り、彼女の望み通りに振る舞って支配された振りをするのも大変だった。
彼女が
その不快な感情を彼女の思考を読み取る過程で常に至近距離で感じ取っていたのだから、精神的にはもうだいぶ疲れた。
マリアベル以外にも、この会場に入った時から
私の正体には気がついていないだろうが、彼はかつてギィと鎬を削った偉大な悪魔だ。普通に戦えば間違いなく勝てるが、彼自身の高すぎる技量に悪辣な発想力、そしてその発想を実現する応用力も相まって敵対はあまりしたくない。この場で本気で戦いでもしたら彼に加えリムルを含めた
歴史的問題児の一人である
帰ったら即座に異世界人一人一人に付けている分体とは別に、問題対処用の分体を増やして対応に当たらなければならないだろう。
私のような精神生命体には無いはずの胃がキリキリと痛むのを感じる。なんだか胃薬が欲しくなって来た。ルミナス様に沢山に構ってもらって精神力を回復しなければこのデスマーチは保たないだろう。
あぁ、ルミナス様とずっと一緒にいる本体が羨ましいぁ。
本体は三日間ルミナス様と開国祭を謳歌する心積もりらしいし、解除される前に文句言ってやろう。
こんな分体の思惑を他所に、開国祭は一日目、二日目、そして三日目と過ぎていった。
*****
開国祭を終え、私とルミナス様は
歌劇場で執り行われた音楽鑑賞会では
あれは良い。私ももう一万年近く生きているが、魔物と人間が共にこんな大規模にオーケストラをやるなど全く想像もしていなかった。ルドラやヴェルダナーヴァに見せたら、二人は大喜びしたんじゃないだろうか?
その後に披露されたシオンという
私自身は前世では音楽など授業以外でやったこと無かったのだが、昔ルシアにピアノを教えてもらった事がある。その時にピアノにハマった。どハマりした。
基軸世界に来て未だ10年も経っていなかった当時の私は未だに
とまあそんなこんなで、
そんな私のピアノを何度も聞いているルミナス様とルミナス様のために弾いていた私が共に夢中になって聞き入ってしまったのだ。彼女らの芸術の腕前はまず間違いなく、世界レベルだと言えよう。
「ルミナス様、あの二人も招いて今度ルベリオスで音楽会をしたいですね!」
「リムルには文化交流を提案したが、最初の一歩としてそれも良いかもしれぬな。まったく、一日で妾の認識をこうも塗り替えおったわ、これ程嬉しい事は無い! お主もぬかぬかしておれぬぞ、ノウェムよ?」
「えぇ、私も久し振りに新しいことに挑戦したくなりました! 新しい曲を作るか、それかヴァイオリンもやってみますかね?」
ああ、久し振りに本当に良い刺激を受けた。これはメイドと調停者という二つの本業に加えて
「それにあの技術発表じゃ! ヒポクテ草と魔素の間にあのような繋がりを見出すとは、なかなか面白い事を考えるものよ」
「確かにあれは面白かったですね! ヒポクテ草が魔素の濃度が高い場所に生息するのではなく、魔素の濃度が高いが故に突然変異した植物だとは、私も知りませんでした」
「
これは私も本当に知らなかった。だから研究発表を聞いている時は驚愕で開いた口が塞がらなかったのだ。
まさかヒポクテ草がこんなものだったとは・・・・・私自身がヒポクテ草で得られる薬効自体をあまり必要としなかったからヒポクテ草自体に目が向かなかったのは仕方がないとしても、やろうと思えば何でも知れる『霊知』を保有していたが故、この世界のことなら自分は何でも知っていると無意識に慢心してしまっていた事を突き付けられた。
こうした形で自分の無知と未熟さを知る事になるとは、やはり私もまだまだ精進しなければならないだろう。
「最近は
「ふむ、戦闘面で言えばあの迷宮・・・・・ラミリスの迷宮を使っている様であったな」
「ええ、ラミリス様の迷宮をあのような形で利用するとは、
あれは本当に厄介だ。ただでさえラミリスさんの迷宮が基礎になっているのに、そこに加えて最下層にいるという暴風竜ヴェルドラだ。
後で実際に内部を探索して調査しておかなければならない。
ラミリスさんの能力『
そうそう、その地下迷宮のラスボスらしい
「・・・・何だったんでしょうね? あのクソトカゲの出店は」
「知らぬ。あの店を見たん瞬間に消し飛ばさなかった妾を褒めてほしいものよ」
クソトカゲ本人が店頭に立っていたあの『ギメイの鉄板焼』という出店、私自身も分体も見た瞬間に殺気が漏れ、危うく放火しそうになった。
あの日、ヴェルダナーヴァとルシアが殺されたあの絶望の日、私がルシアたちの下に向かうのを妨害しておいて本人はあの巫山戯た態度、この思いが八つ当たりそのものである事は自分でも分かっているが、殺意を抱かずにはいられなかった。
私とルミナス様には『ヴェルドラが反吐が出る程大嫌い』という共通点があるので、そういう点でこうして躊躇いなく愚痴を吐けるのは本当に嬉しい。
とまあ所々不快な事もあったけど、全体的に見れば・・・・
「楽しかったですね、ルミナス様」
この三日感を思い出し、自分の手で人と魔物が暮らすあの景色を実現できなかったのが悔しいような、それでも人と魔物が手を取り合う景色の実現を喜ぶような、そんな複雑な感情が私の声音には乗ってしまった様に思う。
「・・・・そうじゃな」
そんな私に、ルミナス様はただそれを言うのみだった。人によっては冷たいと感じるかもしれないその態度が、今の私には何だかとても嬉しかった。
・・・・だが、
「あの、ルミナス様?」
さっきまでしみじみとした話をしていたはずで、
「・・・・」
「この手は何かな〜? って」
どうしてルミナス様は私をベッドに押し倒してくるのだ!
「・・・・・」
「どうしてさっきからずっと黙ってるんですか!? ここ
何を言ってもルミナス様は無反応だ。
しかしその
「国のトップが他国の最高級ホテルでそれはマズいですって!?」
ちくしょう! こんな事になるなら音漏れを心配して【遮音結界】なんて張るんじゃなかった! これじゃあルイにもギュンターにも助けを呼べないじゃないか!
「ノウェムよ」
「・・・・なんですか?」
「声は出すなよ」
「────っ!」
抗議したいが、命令されてしまってはどうにも出来ない。
だからこれは、仕方のないことなのだ。
────こうして、私の開国祭の思い出は最後の最後で羞恥に染まることになったのだった。
風邪の時って筆が進むんですね。久し振りに時間が取れたかつ気力が湧いてスイスイ書けたのでほぼ連日更新です。
そういえば、ふと読書データという昨日を初めて使ってみたのですが、先月読んだ文字数が4,348,820文字で最も多かった月が14,312,542文字、昨年三月からの累計の文字数が143,907,414文字ということで自分の活字中毒もヤバいなと思い始めました。
開国祭編はこれで終わりです。だってあんまり変化ないし描写できないんですもん!作者の想像力がショボいせいでルミナスとノウェムのデートがどうやったってヴェルドラ虐め祭りに落ち着くんですもん!
次話からはアニメ4期の範囲になると思います。
ノウェムは自由学園の教師だけど、アニメ一期OADの校外学習の話書く?たぶんリムルやティス先生と少し話すだけで殆ど変わらない
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書け
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どうでも良いから本編書け