超越少女は路を示すが旅をするのは俺達だ   作:小沼高希

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トランスファー・オービット 3

ブレイン・マシン・インターフェイスに関する事業連合(コンソーシアム)に顔を出している。先工研の職員という枠であるが、周囲からはなんか微妙な扱いを受けている。

 

冷たくて悲しいなと思うのが半分、そりゃあそうだろ、と思うのが半分。だって俺達はそこまでブレイン・マシン・インターフェイスの話をやっていませんからね。ある程度下地ができたら人工知能の話で加速させようとは思っていますが土台が揃うまでは待つしかありません。

 

今のところ提案された高分子がおもったより上手く行っていて、in vitroの評価手法はほぼ確立、in vivoでマウスではできたがまだ経過観察中、アカゲザルでの実験はもう少し先ということだ。

 

一応ワイヤーを入れて脳と繋ぐみたいなアイデアは存在するし、いくつかの難病に対してそれなりに手術が行われて成功していると言っていいだろう。ただそれは脳の一部を使って単純な信号を送ることができるというもので、情報のやり取りをうまくやってのけるという水準には未だ到達していない。

 

例えば人工内耳や視覚野刺激みたいな方法で使えなくなっている感覚を補助するようなアプローチはある。しかしそれはノイズを意味のある情報に処理できるだけの脳神経回路を時間をかけた訓練を経て作る必要があって、かなり大変である。少なくともまだインターネットを脳に直結するようなことはできていない。

 

今回のブレイン・マシン・インターフェイスの分野でコアになっているのは、フィードバックを前提とした埋め込み型の情報収集システムである。人間の脳がどういうときにどういう反応を示すのかをより詳しく分析し、その上で最低限の介入を行う。例えばぼんやりしている時に肩を叩いて気を取り戻させるように、思考が変な方向に行っていたりした時に注意してくれるようなシステムだ。

 

これは例えばてんかんとかパーキンソン病とかで使われることをまずは前提にしているが、神経発達症の症状緩和に使えるのではないかみたいな話も出ている。ここで治療って言葉が使えないのが今どきらしいな、と考える。

 

人間の神経発達は固有のもので、それはアイデンティティとしての価値があるから外部から侵害するべきではない、みたいな。あるいは医療的アプローチを取ることで病気であるというレッテルを貼ることになるから良くない、みたいな。

 

余計なお世話だよ、と神経発達症の端っこにいる身としては思う。痛みを感じるのは個性だから麻酔薬を使うなんていけませんなんて苦しんでいる時に言われれば相手を殺したくもなってしまうだろう。

 

「今後は厚生省側との連携を深めつつ……」

 

そんな話がスライドに流れている。まあそちらの行政方面は強い人がいるから大丈夫でしょう。国会答弁とか各委員会とかの人の動きを分析しているのだが、二、三人ほど科学技術系の人で積極的に頑張っている人がいる。

 

一人は地方議員上がりだが地域の産業界との繋がりがもとで技術畑の人、もう一人は生物系の大学教授から政界進出した人だ。あと一人はちょっと影が薄いけれども科技閥の人。つまり官僚あがり。世代からして須藤さんの先輩になるのだろうか。所属部門が被っている時はなかったが、なんか変なつながりがあるのかもしれない。

 

そこから少しずれた文部省、厚生省、通産省あたりは人の動きが読みにくい。そもそも繋がっている人で表で動ける人が少ないというのもあるかもしれない。わからないことにはあまり口を出さないのがいい。

 

「……進んでいるね」

 

四辻さんが俺の隣で言う。

 

「そうなんだよな」

 

少なくともマウスの脳地図を応答やフィードバック含めてより精緻化するみたいなアプローチはかなり成功していると言っていいだろう。迷路を解くマウスにゴールまでの道のりの「正解」を与えるみたいな実験もある。

 

ただ、四辻さんのつけているものからすればまだまだ遠いと言ったところだ。四辻さんのブレイン・マシン・インターフェイスだと分散端子がサブメガ個、そして百個近い高密度端子があるそうだ。自己成長的に思春期の脳発達と合わせて成長するような形らしいので具体的にどうなっているのかはわからない。

 

成長する素材というのはまだ人類がうまく扱えていない分野の一つだ。時間変化を加味して設計されたハイドロゲルに近いものだというのはわかるが、それを作るためにはかなり複雑な自己組織化を操る必要がありそうだというところで止まっている。細菌を使って発酵でアルコールができるぞなんて言っている横で遺伝子を組み替えて設計したタンパク質を作らせようと言っているようなものだ。

 

「これは独立していていいね」

 

四辻さんが言う。確かに俺達が今までやってきた物理系の話は材料と測定と理論が絡み合っていて、それを無理に一つ進めようとするならボトルネックが別のところに生まれるという構造になっている。ブレイン・マシン・インターフェイスはそれ一つである程度まとまっていて、まだ外部の計算機側の方でボトルネックができていないというのがありがたい。

 

もちろん四辻さんがつかっているやつぐらいに端子数が増えると必要な処理も膨大なものになって専用のアーキテクチャとか非ノイマン型とかが必要になってくるのでしょうけれどもね。

 

「脳をコンピューターと繋いで強化とかできたら嬉しいんだがな」

 

「無理だと思う」

 

「そうか……」

 

小声の会話。四辻さんが無理だと言うなら今の人類には難しいのだろうという判断はまず間違っていないと思う。もちろんすべて正しいわけではないだろうが、それでも有限の資源をただでさえ見積もりの低い分野に投資するのは割に合わない。

 

俺達はすぐ、視覚とか、あるいは漠然とした記憶なんかをブレイン・マシン・インターフェイスで繋げられると考えてしまう。ただ、純粋にインターフェイスが違うのであればそんなことは簡単にはできないというつまらない結論になってしまうのだ。

 

文字を表現するなら文字に適したインターフェイスがある。画像なら画像。そして知識というのはやり取りされるものというよりもニューロンの再帰的結合と動的再配列みたいなかなり不思議なメカニズムで動いているのだ。それを外部と繋ぐためにはかなり特殊な訓練みたいなものが必要になるだろうし、それはあまり現代の倫理ではよろしいものとはされない気がする。

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