超越少女は路を示すが旅をするのは俺達だ   作:小沼高希

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トランスファー・オービット 7

青写真を、誰かが作り出したらしい。

 

「いや、これは……」

 

「この執筆者は現実に対する認知に特殊な指向性があるのでは?」

 

「狂った陰謀論者だって言っていいと思うよ」

 

英語圏のウェブサイト。人工知能が作ったようなリッチなデザインで、今後の科学技術の発展が描かれている。なお他のページには人工知能が人類をより高次の意識に導くとか、脳神経科学が娯楽を代替できるデバイスを開発するとか、完全なヒューマノイドロボットによって人類が労働から解放されるとか、遺伝子治療の発展によってがんを直せるようにしてテロメアの修復で永遠の生を手に入れるとか。うん、ずっと前から言われていてなかなか実現できていないやつですね。

 

量子力学の発展がエネルギー凝縮を実現し、これをもとに人類はブラックホールを制御できるようになる。物質とエネルギーの相互変換ができるようになることで、エネルギー問題は解決、これを活用して大気中の二酸化炭素を固定化し、計算資源に膨大な電力を投入し、宇宙開発をするみたいな話だ。うーんなんか目的と手段が混乱していないか?

 

「実際は、これらの問題の本質はエネルギーの不足以上に政治的問題であると私は認識している」

 

「うーん、ただ資源の不足があるってこと自体は間違っていないと思うぞ。結局政治なんていうのは限られた資源をどう配分するかの意思決定を反乱を起こさないように行うってだけであって、資源が余っている分野ではそこまで政治的問題ってのはおこらない」

 

そこに当然のようにあるものを分配するということは、基本的に起こらない。ただそこに価値が生まれ、対立ができ、意図が入り込むと政治になってくる。例えば俺達は日本語を独占しているわけではないし、どこかに日本語認定機関があってそこにお金を払わないと日常生活で正しい日本語を使う権利が得られないなんてことはない。

 

ただ、言語に政治的側面がないわけがない。日本では文部省の「言海」以降は国定の国語辞書は作られていないが、フランスではアカデミー・フランセーズが、スペインではスペイン王立アカデミーが、イタリアではクルスカ学会が、中国では中国社会科学院語言研究所が、韓国では国立国語院がちゃんと国家予算で辞書を作っている。まあそれでもどこも予算厳しいくせに要求が酷いなんて話はよく聞く。世知辛いものだ。

 

これらの組織は良くも悪くも行政やら政権やらと独特のスタンスを取っている。権力に流されないことを権力と対立することと勘違いするのは世界共通だし、たぶん四辻さんも理解できるタイプのバイアスだろう。人類は愚かなのだ。

 

「エネルギーが余るなんてことが起こりうる?」

 

「……怪しいかもしれない」

 

需要と供給は表裏一体のものだ。しばしば供給は需要を作り出す。そうでなければ今までなかったものが売れ始めるわけがない。もちろん作ったんだから売れるみたいなことはそうそうないのだが。

 

人類はエネルギーの使い方を色々と知っている。熱と光はいいとして、今は演算もそれなりに割合が増えてきた。化石燃料を代替するなり、高分子用炭素の原料を大気中の二酸化炭素にする形みたいな方向は、十分なエネルギーがあればいけるかもしれない。それで多少発熱はするが、地球温暖化で問題となるのは温室効果という系の中の係数を変えるものであって定数を足す部分ではないんだよ。

 

「ただ、この予測はかなり正しいと思う」

 

「細かいところは結構怪しいし、エネルギーが使えるようになったら今までできなかったことができるようになるのは当然だろ」

 

「当然のことだから」

 

「それもそうか」

 

誰が言おうが、途中経過がどうあろうが、正しいことは正しいのだ。ただ、似たような条件で言われていることが正しいと信じられるかどうかが変わってくるだけ。

 

「……あ、ここは間違っている」

 

四辻さんが指を伸ばしたディスプレイには数式が提示されている。この種の数式を言語のように扱う能力には一定の修練が必要だけどその研鑽みたいなものが英語経由とは言え文面から滲んでいる感じがないからこれ人工知能による生成だろうな。

 

「間違っていると言える根拠ってもう出ていたっけ」

 

「……三か月前に論文で」

 

「オープンアクセス?」

 

「先工研からは」

 

「ならだめだろ」

 

先工研のいいところは、かなりの論文出版サービスと契約していることだ。国民の貴重な血税が国外の機関に吸い上げられているのは忌まわしいと思うし、論文を読むにも投稿するにも金を取るくせに無償で査読をさせるシステムはどうにかならんのかとは思っているが、機能しているということはどうしようもないだろうとは半ば諦めている。

 

「……結局、接続できる情報だけをまとめて、それを自分の知識や思考だと思っている自意識の肥大した人の作ったものだったと考えていい?」

 

「そう言いたくもなるよな、人工知能単体ならもう少し謙虚だ」

 

人工知能に何かを奪われるという恐怖に対応するため、一般的な開発企業はガードレールとしてできるだけ謙虚になるような方向性を入れている。BIFRONSみたいな性格を作るのはかなり大変なんだぞ。ロック外された規約上はセーフだけど理念上はアウトだろみたいなモデルを複数もとにしてそこから蒸留を重ねたりとかしているわけだからな。

 

「……人間は、やはり不要なのでは」

 

「有機マニピュレーターとしてはまだ有用だから滅ぼすのはやめてあげて」

 

「滅ぼす……どうやるのがいいと思う?」

 

「BIFRONSに聞いておけ」

 

『人工知能による反乱に基づく人類の絶滅シナリオは十七件生成済みです。そのうち成功可能性があると言えるものは二つだけであり、本システムが実行できるものはありません』

 

「後で読ませてもらえる?」

 

四辻さんが天井を見て言う。カメラとマイクが天井にあるからなんだが、BIFRONSが上位存在という意識を刷り込まれていそうな気がしてならない。たぶん陰謀論だ。

 

『人間が読める形に落とし込んで提示しますが、これを悪用することはおやめください』

 

「……しないと思う」

 

「思うで大丈夫かな……」

 

そう言いながらも、俺はちょっと気になっていた。BIFRONSはこういうシナリオをこつこつ作っているのだろうし、だからこそ何かあった時に結構素早く対応できるのだ。

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