超越少女は路を示すが旅をするのは俺達だ   作:小沼高希

137 / 170
フィッション・プライマリー 7

「……よく思うとさ、古瀬さんってなかなかだよね」

 

「何がとは言わないけれども、同意する」

 

水城さんと四辻さんがなにか話している。リラクゼーションルームでは議論の結果色々できたプロトタイプの画像が映し出されたディスプレイとかスキャンされたメモ書きとか、あとは俺の視界にサングラス越しに色々ある情報とかがいっぱいだ。前の国立情報通信総合研究所でやった時とは違って、今回は俺の得意分野の数打って実装していく形になるので今回はこれでいい。

 

「何に同意しているんだよ」

 

そう言いながら、俺は椅子に座り込む。強制的に脳を外部からの支援を受けて回す感じになるのでかなり体力が持っていかれるのだ。

 

「私は非言語的かつ非明示な前提を共有することができている」

 

「そういうのを仲間外れにするっていうんだよ、人間関係からの切り離しでハラスメントに該当するぞ」

 

未練がましく言っているがまあ別に俺も少し前まで四辻さんと一緒に水城さんのことをとやかく言っていたのでおあいこということにならないでしょうか。なってください。さもないと俺が負けます。

 

「……しかし古瀬さんはあれだね、人工知能と息を合わせて行動している」

 

「BIFRONS側が合わせているのもあると思いますよ」

 

水城さんの言葉に四辻さんがあまり嬉しくない補足をしている。

 

『本システムの調整は古瀬さんを対象としていますので、そういった表現も可能です』

 

「あー、もとから当てはまるように作ったものに合わせるもなにもない、ってこと?」

 

『ただ双方の変化に伴う調整は不可欠です。知識や表現の差異を吸収する過程で、古瀬さんの果たしている役割は存在するでしょう』

 

「割合については?」

 

水城さんがBIFRONSに尋ねる。

 

『定量化することは困難ですが、簡易的な推計ではおよそ半分弱です』

 

「何を根拠に出しているのやら」

 

俺が呟くと次の瞬間にはディスプレイには俺の果たしている貢献を割り出すためのモデルが提示されていた。なるほど、俺が悪かった。

 

「……そもそもこの数学モデルを貢献に使うのって不適切じゃないの?」

 

水城さんは画面を睨んで言っている。なんでそれを読めるんだよ。まあ完全にデタラメを出しているわけではないというのはわかるが。

 

「あの式は何?」

 

四辻さんが尋ねる。

 

「少し前に見たことがあるんだけれども、協働エージェントのトークン配分問題とかのやつだったはず。結果として得られる式自体はシンプルで、前提とする仮定も決して難しいものじゃないんだけれども、証明がかなりトリッキーだったから覚えている」

 

よくまあそこまで知識があるな。俺は外部記憶と外部思考をBIFRONSに頼っているので何かを覚えていたり考えているという認識がそこまでない。じゃあ俺の脳は何をしているんだろうな。

 

「……一旦進捗整理しないか?」

 

俺は話をそらそうとする。

 

「そうだね。基本的な設計はできて、問題はどこまで活用してもらえるかの方だと思う。計算資源を有効活用するためにはできるだけ低レベルで構築したいけれども、そのあたりを詰めても速度が倍か三倍になる程度なんだよね」

 

水城さんが乗ってきてくれた。おかげで俺は少しだけ罪悪感みたいなものから逃れながらサングラスの裏を流れる文字を読むことができる。

 

「そもそも計算量が読みにくい問題ばかりだからな。オーケストレーションのシステムが重要なのであってソフト自体は多分別のものを比較的簡単に組み込めるし」

 

「ただやっぱり必要な問題に対してこちらでカスタムしたほうがいいのではと思うんだよね、別に私たちじゃなくてBIFRONSとかでもいいんだろうけれども」

 

「できるか?」

 

『可能です』

 

「じゃあBIFRONSでいいと思うぞ俺は」

 

俺と水城さんの会話を四辻さんは黙って聞いていた。彼女は特に言うこともないということだろう。それはそれでちょっと寂しいな。コメントがあると助かるのだが。

 

「……どの程度、使ってもらえると思う?」

 

四辻さんが俺の視線に気がついたのか口を開いてくれた。

 

「んー、そもそも私はあまり使わないんだよね。自律システムに投げて放って置くなんてことをしないから」

 

「俺は普通に使うが、このシステム自体がかなり人間向けにチューニングしたものだからな。その前の人工知能というかエージェントとして組み込みやすくなっていて人間向きじゃないやつの方使うと思うぞ」

 

「自分たちが使わないものを作って誰かに使わせようとすることは、一般的には傲慢と形容されるのでは?」

 

「そうかも」

 

水城さんがさらりと言う。

 

「……まあ、確かに問題が起こった時に対応できるかどうかという点では決してプラスにはならないな。もちろんそれなりに対応はするが」

 

というかよく考えてみるとこれから予算をつけてもらって色々とやる予定なのだがそれを上のほうで回している間にもうそれなりのものができてしまっている気がする。あとはあれだ、メンテナンスとかの長期維持に必要な予算ってことで。

 

持続性の維持ってこういうオープンソースのものに対して重要なんですよね。そのコストが払いきれずに撤退してきた人は多い。というかオープンソースってかなり互助的な要素が強いはずなのでみんなもっと貢献して欲しい。適当なエージェントに一通り見てもらってイシュー投げてくれるだけでもそれなりにありがたいんだからさ。

 

昔のマナー的なもので人工知能に処理させたものは相手に渡しても負担になるだけだみたいな話があるのだが、今はちゃんとそういうものの処理も人工知能ベースでやるので全体的にスケールしているし当時よりも問題を送る方も受け取る方も洗練されているので結構なんとかなる。かつては問題があったとされた部分のコードを全部削除して何も返さなくなったのを改良とか言って送っていた人工知能があったというが、それが冗談として笑える時代になってよかった。

 

「そのあたりは私が担当する?」

 

四辻さんが俺達を見て言う。

 

「……四辻さんも四辻さんで、あまりテスターとして参考にならない気がする」

 

水城さんの言葉に、四辻さんはちょっと悲しそうに眉をひそめた。もしかしたらこの部屋にいる三人は全員まともではないのかもしれないな。今更か。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。