超越少女は路を示すが旅をするのは俺達だ   作:小沼高希

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プロージブル・ディナイアビリティ 3

国立先進科学技術館。科学技術情報事業団管轄の展示館で、日本各地の研究機関がやっているかなり生に近い情報を出すことで有名な場所だ。そしてこの周囲には様々な会議場やら研究機関やらがある。

 

飛行場からの交通の便も悪くないというのもあって、学会というよりはもう少し公的というか国とかが絡む国際会議で使われている印象がある。ほら、学会というと発表がメインとなりますけど会議だと意見交換とかが中心になるし力関係とか調整とかも必要になるじゃないですか。そういうイベントの時にこの場所が選ばれている気がします。

 

というわけで明日から勉強会をするというので前入りしてのんびりと展示を見ているのだ。平日の展示館の広々とした空間で、周囲を見渡してもいるのは俺と四辻さんだけだ。

 

「……こういうふうに見せるんだ」

 

そう言いながら四辻さんはトポロジカル絶縁体を説明するインタラクティブな展示を見ている。このアニメーションはなに使っているんだろうな。ちゃんとした3DCGのソフトとかだろうか。

 

「一応はちゃんとした監修が入っているわけだからな」

 

俺はそう言いながら隅っこの方の展示協力者のリストを見る。というか実際にここを作ったデザイナーさんとか建築会社みたいなものまで入っているんだな。建築でいいのかな、設営とか?

 

そんなことを思いながら環境とか宇宙開発とか材料とかのコーナーを見ていく。ブレイン・マシン・インターフェイスのところはかなり最近更新されたらしく、どこかのスライドで見たことあるような、でもちゃんと綺麗にされた図があった。ちゃんと監修入った生成ものか手描きだな。サイエンス系のイラストレーターは今なお需要がしっかりとある。変なものを作ったりしないというのは結構大事なのだ。

 

人間の知的活動のすべてが人工知能に取って代わられる、なんて言われた時代が一時期あったらしいがそんなことにはなっていない。今でも全部人工知能で代替できるだろみたいなオフィスワークが残っていることがその証拠の一つだ。

 

特に日本は社員の首を切りにくいのでそういう雇用維持のために色々頑張るところがある。それが問題だみたいな意見も当然あるが、かつて各国で人工知能バブルとその崩壊のあたりで雇用がぐちゃぐちゃになった中相対的にマシだった我が国を見るとそれでいいんじゃないかねと俺は思う。

 

「面白いものはあったか?」

 

「……この空間自体、かな」

 

「そういうところを見るのか」

 

そう俺が言うと四辻さんは頷いた。ドラマの撮影でも使われることがあるとか聞いたことがあるが、確かに色々な展示物というか配置も一時的というか後から動かせるように作られている感じがする。天井のパイプみたいなものも色々取り付けることを前提としているし、事実いくつものスポットライトみたいなものが通路を照らしている。

 

C4棟もどこか似ているところがあるが、あちらはもっと天井が低めだし、前世紀に建てられた三河工業大学のキャンパスと通じる、なんていうか研究所らしい空気がある。このあたりはBIFRONSのカメラが有ると詳しいことを聞けるのだろうが、今回は外している。別に撮影してもいいって書かれていたんですが、わざわざカメラ付きのサングラスで入っていいですかと聞いて揉めるのも馬鹿らしいですしね。

 

ただ、そういう利用者を考慮しているらしいというのが入ってからの感想だ。翻訳であったり、あるいは音声ガイドみたいなものであったり、そういうための二次元コードが結構いろいろな場所にある。スマートフォンで読み込んでみるとクエリ用のパラメーターが見えたので、BIFRONSと繋げばかなり色々と楽しいことはできそうな気がする。というか多分そういう事をやっている人が展示館の中の人にいるんだろうな。

 

「ところで、これを見てどれぐらいの人がわかると思う?」

 

「ほとんどの人はわかった気になるだけだろうし、それでいいんだよ」

 

「不正確な状態で下される判断は、不正確なものとなるのに?」

 

「それでもだよ、俺達は全知全能じゃないし、自分たちを一瞬で滅ぼせるほどの能力だって持ってない」

 

冷戦がそういう意味では一番危なかった時代だというが、それをも俺達は結局乗り越えたのだ。もちろん幸運に支えられたのもあったのだろうが、もし実際に熱核戦争に発達しても人類の歴史は数十年巻き戻るだけで済んだかもしれない。このあたりは実際には起こらなかったことだし、俺は具体的な統計とか推計を知らないので適当な話になるが。

 

「それならある程度わかったつもりになっている人を増やし、そして本当に理解できた人も少しは用意するほうが、良い、と」

 

「全員を均一に教えるとか鍛えるってことは不可能だってなっているからな。人工知能の登場で特にその種の能力の格差が如実に出てしまったところがあるし」

 

人工知能を使いこなせるかどうかというのは、ある種の脳機能の問題だ。文字を読めないディスレクシアのように、人工知能を使うことが苦手な人というのがいる。それも、数割ぐらいの範囲で。

 

そのあたりを直視すると平等とか理性的市民とかって欺瞞じゃないですかとか政治参画はエリートに限るべきですよとかになるのであまり触れられていない。そもそも俺達がエリートというか、自分たちには秘密を持つ権利を握ると信じる少数のメンバーで構成された秘密組織で四辻さんを隔離していることを考えるとなにもかもが碌でもない気がしてくる。

 

「酷いね」

 

「そっちのほうだとそもそも選択権がないだろ」

 

「問題なのは建前と本音の乖離」

 

まあ、自由があると言っていながら実際はその前提が揃っていない俺達の世界と、人類より賢い知性によって部品として管理されていた四辻さんの世界のどちらがいいかと言われると微妙なところだ。幸福をどう定義するかにもよるが、俺個人としては四辻さんの方で生まれたとしてもあまり後悔しない気がするな。

 

「……でも、そういう嘘の中で人間は生きているんだよ」

 

「苦しみの中の生を、私はそこまで安易に肯定できない」

 

「……うん」

 

わかっている。俺達がどれだけ世界をうまく回したところで犠牲者は出るし、誰もを納得させることはできない。全ては程度の問題で、限られた資源の中でどれだけマシな方向に、後から後悔しない手段で進められるかどうかが大事なのだ。

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