超越少女は路を示すが旅をするのは俺達だ   作:小沼高希

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プロージブル・ディナイアビリティ 4

「それでは皆さん始めていきましょう」

 

少し古ぼけた空気の漂う会議室で俺は言う。誰かに教えるなんていう立場になるのはいつぶりだろうか。最新は四辻さんに何かを教えようとしたときかもしれないな、と気がついて少しおかしくなった。

 

基本的には俺達の作ったソフトウェアについての説明会である。ここに集まっている人の半分は学生、四分の一は研究職、残りは企業とかかな。一応名簿は確認したのだが、詳しくひとりひとり調べるまでの時間はなかった。

 

というかあまりそういう個人情報を人工知能に扱わせるのはよくないみたいな話はあるのだ。昔から名前と所属で検索して情報を得るみたいなことはできていたが、今はもっと精緻なことができる。かつては一流の分析者しかできなかったことが、BIFRONSではなくともそこらへんのガードレールを弱めた人工知能を使えばできるのだ。

 

もちろん、普通の人工知能エージェントサービスでそういう事を頼んでも断られるのがオチだ。そのあたりはちゃんと規約とか倫理ガイドラインを読みましょう。読むのが面倒くさいならそのエージェントに聞いてもいいよ。

 

「つまりこのシステムの一つ一つは、皆さんが触ったことがあるかもしれないソフトウェアなわけです」

 

そんなたぶんみんなわかりきっているであろうことを俺は言っていく。なおこのトークは録画されてスライドと一緒にオンラインに公開されます。こういうところで利益を得るとかできなくはないが、それが俺達の最終目標にどこまで貢献してくれるかと考えるとね。

 

それなりに集中して話を聞いてもらっている。ありがたい。俺みたいな不真面目なやつはそもそもこっちが顔を出してやっているんだぞとふてぶてしい態度を取ってくるのだ。少なくともそこまで顔に出している人はいなさそうだ。

 

「では実際に触ってみましょう、わからないところがあったら聞いてください」

 

そんなこんなで各自が事前にダウンロードしたソフトウェアを触り始める。ノートパソコンというのはある種の完成されたデザインらしく、画面付きのディスプレイというのは長らく代替候補が出ていない。タブレット端末は結局入力の時に画面の半分をキーボードに潰されるし、仮想キーボードとかにも限界があるということだ。

 

「すみません、いいですか」

 

「どこです?」

 

「このライブラリ選択の場所なんですが……」

 

そう言われて俺は確認をする。あーなるほど、事前にチュートリアルを回すとデフォルトのライブラリがずれるからテスト用のディレクトリから変わるのね。そしてテスト用のディレクトリはちょっとわかりにくい場所にあるから戻せない、と。うーんこれどうしようもない気がするな、とはいえヘルプには追加しておける内容だから対応しておこう。

 

「動きそうですか?」

 

「いけそうです」

 

「どうも」

 

そんな話をしながらまずは鉄鋼の曲げの話をする。転位が炭素でうまく止まってくれるから炭素の濃度によって硬さが変わるんですよみたいな話を濃度を振って計算できる。この機能は本当に便利だ。支援エージェントに簡単な指示を出すだけでやってくれます。

 

本当に便利になったと思う。この種のソフトウェア専用人工知能エージェントみたいな考え方は昔からあったけれども、それを実装できるだけの力がある人はまずそもそもソフトウェアを自分で作る側に回ってしまったので既存ソフトの能力を活用する方向にはあまり進まなかったのだ。

 

画面上にはいろいろな結果が表示される。計算の順番からして完全に同じ結果が出るわけではないが、それでも炭素を多く入れたほうが硬く、そしてもろくなるみたいな話はさくっと出せた。よかったよかった。

 

というわけでここからが本番です。もっと無茶苦茶な構造をやってみよう。例えばテラパスカルとかいう現実ではなかなか起こせない圧力を使うとどうなるかとかね。

 

一般的にこの種の圧力というものの計算は難しい。静水圧ならまだしも実際に俺達が作りたいような素材を扱う時には衝撃波になるし、その波が伝わる方向や速度は結晶とか不純物に依存する複雑なものとなる。かといってあまりミクロスケールの議論をしすぎるとマクロの物性が見えなくなる。

 

とはいえこのあたりの調整を事前に終えておいたテストデータをちゃんと配ってあります。このコードは少し変えるだけで他の素材にも流用できるよ。

 

「……時間もいいところですし、一旦休憩に入りましょうか」

 

そう言うと、張り詰めていた会議室の空気が軽くなる。少しは肩の力を抜いてもらえるように話していたつもりなのだが、やはり難しいな。俺の纏っている空気はそこまでシリアスなものじゃないと思うのだが。

 

スタッフさんに挨拶してお弁当をもらう。四辻さんはなんか普通に他の人と話していて楽しそうだが、彼女が食べているのはコンビニのおにぎり。俺のやつだってそこまで高級というわけではないが講師担当者が食べる格みたいなものはたぶんあるんだろうなというやつ。多分近くのお弁当屋さんのやつだろう。知らないところだけど箸袋を見るにこの近辺のチェーンらしい。確かに会議とかイベントとかがあるなら成り立つ商売だよな。

 

「……屋上、あるかな」

 

もしなかったら外のベンチで食べよう、なんてことを考える。階段を上がるとまた別の話し合いをしているような空気が漂っている。確か学会かなにかの打ち合わせで使っている人がいたな。下のところにあった案内板を見に行こうか悩んで引き返すのが面倒で俺は適当に建物の中をふらつく。

 

結局屋上はなかったけれども、見晴らしのいい外の階段があったのでここで食べることにした。土地が余っているというか、余らせているというか。緑の芝生が建物の間にある。古い大学とかだとこのあたりがけっこう詰められているし、逆に赤城先端学術都市のような設計された場所だとそれはそれでなにか奇妙な感じがある。ここもそういう奇妙な空気が少しだけある。

 

人間は最初から自然なものを作れないとか、そういう話だと思う。ある程度人がそこで過ごして、どこか丸くなったものがいい、みたいな。でもそうするためには古いものを壊したり捨てていかなくちゃいけなくて、でもそれに見合ったものを作ろうとすると最初から考えすぎたものになってしまう、みたいな。

 

もっと楽に考えることはできないのかな、なんて思いながら俺は薄いカツにとろみのないソースをかけて食べた。冷めてはいたが、それはそれでおいしいものだった。

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