超越少女は路を示すが旅をするのは俺達だ   作:小沼高希

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プロージブル・ディナイアビリティ 6

「わざとらしかった」

 

焼き鳥を食べながら四辻さんが言う。お酒は飲まない。多分もう四辻さんは飲める年齢だし、ちょっと飲んだぐらいでは酔わないぐらいには耐性があるだろうが。まあ今どきは別に酒が飲めたからなんだという話ではある。アルコール業界は悲鳴を上げているらしい。

 

「……否認可能な範囲だろ、まだ」

 

俺はそう言いながらキャベツをかじる。あまり酸味は得意ではないが焼き鳥のタレと合わせるならいける範囲だな。四辻さんは鳥の方に集中しているらしい。

 

「意図と行動が食い違うと、人間は特有の反応を示す」

 

「嘘をついた時の癖?」

 

「端的に言えば」

 

四辻さんはそう言いながら、会話にはあまり集中していないようだ。多分初めて食べる砂肝の食感とかレバーの風味とかを楽しんでいるのだろう。彼女にとってそれはただの情報で、好き嫌いが形成されるほどではまだない。俺はまあそういう癖のある味だよなと思うだけであまり好きとか嫌いとかはないが。

 

「……それを読むのは、慣れた人間でも難しいんだよ」

 

「表情を古瀬さんは読める」

 

「かなり意識しないと無理だけどな。顔をじろじろ見るなと言われたことがあるし、慣れている人にはやり方が分かるだろ」

 

「慣れている人がいると思う?」

 

「いる」

 

問題は割合じゃない。俺達がこれから相手にするようなやつらは基本的に世界最高峰のスペックを持っていて、その裏には裏打ちされた地力がある。高い建物は良い土台を持っているし、その土台には別のものを建てることもできるのだ。

 

天は平気で人に二物や三物を与える。それが良いとか悪いとかではなく、まずは前提として受け止めねばならない。そうしてやっと問題に立ち向かえるのだ。

 

重力があることを否定はできるかもしれないが、かわりに出てくるのは面倒な計量テンソルのナブラしたやつだ。なら一番シンプルなものを使ったほうがいいだろう。それと同じで、前提をこねくり回したところで限界がある。

 

「……危惧のしすぎだと思う」

 

「わざとらしかったとさっき言っていただろ」

 

「私が気がつく程度でしかない」

 

「四辻さんは人間なんだよ」

 

そう言いながら俺はねぎまをかじる。しかしよくまあ中まで火が通りながら肉を焼きすぎない火加減とかができるよな。ばらばらにやって後で串に刺しているとかなのだろうか。

 

「……そう」

 

四辻さんが呟く。別に俺は四辻さんが強いとか弱いとかいう話をしたいわけではない。その前提の話だ。人間は解剖学的に、あるいは生物学的に限界がある。逆に言えば、その限界までなら結構自由に振る舞ってしまうのだ。

 

だから俺は人間を舐められない。できないだろうとされたことを、道具によって解決してくる。今回の俺の表情というか振る舞いだってそうだ。今回の話は録画されていて配信されるわけで、それをBIFRONSみたいなシステムのうち心理分析に特化したやつに突っ込まれたらまずいかもしれない。

 

もちろん、そういうリスクはあらゆる場所にある。四辻さんのブレイン・マシン・インターフェイスがどこかに映っているかもしれない。俺達の危ない会話が録音されていて、それを分析している知性がいるかも知れない。あるいはもっとシンプルに、異常な技術の源を探り当ててくる人がいるかも。

 

「俺達も人間で、限界がある。だから、一点突破でやってくる相手には勝てない」

 

「防御よりも攻撃のほうが有利だということ?」

 

「タイミングも方法も選べるからな」

 

だから四辻さんを隠すためには大掛かりなものが必要だった。ただ、その金額も建物全体の改修費からするとそこまででもないだろう。ユニットバス一つの値段はガスクロよりも圧倒的に安いのだ。

 

「……考えるのは、大変そうだなと思う」

 

「四辻さんも色々考えてるだろ」

 

「私は考えることが普通なだけ。古瀬さんは意図的に考えている」

 

「……呼吸をするよりは、意識して思考をしているとは思うがな」

 

何かを自然にやるというのは慣れが必要だし練習が必要だ。だから一人が学べることには限界がある。でも世界には人がたくさんいるのだ。俺ぐらいに考えている人はいっぱいいるだろうし、それぞれが別の方向を向いているだろう。

 

「面倒なことを考えたくないなら、最初から手を出さないのも一つだよ」

 

「……それは、嫌だよ」

 

俺は負けず嫌いだ。諦める前に色々とあがいてみたい。結局そうやってなにかに勝てた記憶はないし、口先ではすんなり諦めるのが賢いと思うみたいなことを言うが、実際はかなり面倒なやつだ。

 

「面倒事を投げ出したって、世界は終わらないよ。真実を誰かが見つけても、嘘が誰かに暴かれても」

 

「……世界はな。俺は終わるんだよ」

 

「世界はあなただけじゃないよ」

 

「俺が感じられるのは俺だけなんだよ」

 

他人に対して敬意を払うつもりはあるし、唯我論みたいなことを言うつもりはない。誰かを犠牲に行きていくのを認識するのは辛いだろう。でも、それは別に俺が嫌だからという話であって、終わりたくないから終わりたくないというのはちょっと違うんだよな。

 

このあたりはあまり真面目に考えたくない。考えたところでろくな結論は出ないし、結局は権威か宗教にすがることになる。それは俺があまり好まないあり方だ。

 

「……面倒だね」

 

そう言って四辻さんは笑った。

 

「あとそのももは俺が注文したやつ」

 

「食べないほうが悪い。冷めるよ」

 

そう言いながら、せめてひとつぐらい分けてもらうかと思った根本の一つまで四辻さんはかじる。思ったより串の数が多いな。俺も四辻さんもそれなりに食べる方だとは思うから合理的に落ち着いて考えればまともな本数だとしても、この後の支払金額にちょっと怖くなる程度には俺は吝嗇なのだ。

 

「……追加はどうする?」

 

四辻さんはスマートフォンを触って購入画面を出しながら言う。俺の方もスマートフォンの画面を見ているが、注文をしてくれるならそちらでお願いしてしまうか。

 

「十本盛りってやつ気になるからそれで」

 

「わかった」

 

たぶんこれでそろそろお腹も満たされてくるだろう。シメを頼むのにも良い頃合いかもな。しかし鶏釜飯おにぎりにするか白湯ラーメンにするか、実に悩ましいところだ。両方頼んで取り皿を貰うというのもありかもしれないが、そうすると一つをまとめて食べた時の満足感は薄れてしまいそうだしな。

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