超越少女は路を示すが旅をするのは俺達だ   作:小沼高希

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プロージブル・ディナイアビリティ 7

「……なんでこんな簡単なことに誰も気がつかなかったんだ?」

 

俺は計算結果を見ながら言う。まとめればちゃんとした論文になるぐらいの品質だと自負しているが、これが表に出ることはないだろう。

 

必要な高圧のためのウルツ鉱型窒化ホウ素と、その周囲で起こす爆縮。大量生産ができるような素材にはならないが、それでもセンサーであったり量子素子であったりには十分な量が手に入る。それに加工も比較的容易で、常温で超電導を示してくれる。

 

『正解を知ってから賢ぶるのは愚か者の行為ですよ』

 

「うるせえ」

 

BIFRONSの言葉に俺は吐き捨てる。いいだろ悦に浸たって。この結果を再現できるようになるまでしばらく時間がかかったんだぞ。なお最初の条件がわかってしまえばあとは自動化できるのがこのシステムの良いところです。もう少し作りやすかったり動きやすかったりする状態でいいのを探してもらうのだ。

 

「私が知っている構造は重力特異点で有効理論を変えた上でのものだったから、もし他の方法で合成するならもっと効率の良い組成が存在する可能性が高いということは伝えた?」

 

「伝わっている」

 

俺は呟く。何回か聞いた気がするが、四辻さんからすれば何回か確認しておきたいようなことなのだろう。妥当だ。俺を信じるんじゃないぞ。

 

「それで、どこまで時間がかかると思う?」

 

四辻さんが聞いてくる。

 

「……学部生が卒論発表の直前にいい感じに詰め込んでブレイクスルーを起こしてくれねぇかなぁ」

 

「無茶を言わないほうがいい」

 

「無茶じゃないだろ、今どきは」

 

人工知能が新しいことができるようになったのはここしばらくだが、おかげで科学技術は一気に発展していると言っていいと思う。今までの論文システムや査読制度が死んだわけではないが、そうではないコミュニティの果たす役割はかなり大きくなってきている。

 

例えば高校生が今まで突破できなかったベンチマークをクリアする道筋を作り出すことがある。大学の学部レベルのポスター発表が最先端の問題をしっかりと解いていることだってあった。まあとはいえこいつら道具縛りのコンテストで世界クラスみたいなバケモンばっかだがな。

 

人間が知性の分野で道具を使うようになっても、生の頭の力は案外軽んじられてはいない。オリンピックが肉体的能力を競い、自動車どころか自転車より遅い移動のために争っていたとしても、それは決して無意味というわけではないのだ。

 

というか人間の速い人は普通に自転車を追い抜かしてきますからね。俺がいくら人工知能の支援を受けても競技プログラミング上位者には勝てないです。目的地がない人間がどれだけすごいマシンを手に入れようがどこにも行けないのだ。

 

『計算が終わりました』

 

「ありがと」

 

微妙な空気をBIFRONSが壊してくれたので俺は画面に向き合う。こういう機微を読める人工知能ってすごいよな。理論上は人間が把握できるインプットを統計的に分析すれば人間と同じ程度の理解ができるというのはわかるのだが、普通空気っていうのは人工知能が読めないとされるのがお約束だろ。膨大な画像付き対話コーパスを数百年単位で覚えたとかそういう結果だろうか。

 

なおこういう学習データは法的的にグレーなやつも結構あります。著作権法とかではなく個人情報保護の観点と目的外利用のあたりで。刑法ではなく民法の方ですね。

 

「……結構ランドスケープがなだらかだな」

 

似たような作り方をしたものがだいたい安定していて、かつ特定も欲しいものが得られている。良いことなのだが、都合がいいといえばその通りだ。つまり熱とか振動とか、そういう外部の何かを加えても性質が大きくは変わらないということだ。逆に言えばどこかに一つ安定した井戸みたいな底があるわけではないので、一定温度で長期間放置し続けると次第に劣化してくる可能性があることだが。

 

この種の情報を人目で整理できるシステムというのは素晴らしいが、普通であれば毎回個別にパラメーターを設定して三次元可視化が必要、みたいなもので大変だった。マルチモーダルはちゃんとトークン処理を設計しないとうまく噛み合わないことがあるので、つまり人工知能が言葉で絵を変えるのは困難なのだ。

 

いわゆる古典的な画像生成は言語から画像を作り出すが、特定の場所を精密に変えるのはアーキテクチャ上難しい。科学系のイラストレーションではそのあたりが重要になってくるので専門家の需要はしっかりあったりするのだが、このシステムはそれを壊してしまうかもしれない。

 

「人類より数階層上の知性がわざわざ作成の難しさがあっても材料として選んだものだから、特性としてはかなり良いもののはず」

 

「俺達が扱う鉄鋼とかポリエチレンとかアルミニウムとか、そういう枠だものな」

 

バナジウムは別に宇宙にそんなにある物質ではない。ニッケルと亜鉛のうちニッケルの方は小惑星にそれなりにあるけど、亜鉛はそれに比べれば少ない。小惑星とかから回収しようとすると面倒なので地球を丸ごと掘削したほうがいい。とはいえこのデータは俺達のいる惑星と観測範囲から雑に出したものなので、実際のところは前提が違うのかもしれないが。

 

正直言って集めにくい素材を使ったとなれば、それだけの価値がある材料ということになる。となればできる範囲でその特性は最適化されるだろう。その結果が今の人類でも計算できる範囲の代物ということだ。

 

「……ただ、管理できる環境ならもっと低圧で、あるいは別の素材で作ることができる可能性はある」

 

「そのあたりの直感は俺にはまだないな」

 

「私も理論的に説明できるというほどではない」

 

「圧縮されたままの情報を読んだ感想とかか?」

 

「そう遠くはない」

 

昔読んだ本をなんとなく思い出して、こんなことが書いてあったなとはわかるが、それがどのあたりにどういう文章で書かれていたかわからない、みたいな話だろう。実際にどうなっているかを聞いてみたことはあるが、うまく説明するための語彙は俺達の使うものからかなり独立しているので説明できないらしい。白黒の世界で色相を表現するとか、そういう感じで感情とか認識に一つ追加の次元要素があるみたいな感じなのだろうな。

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