超越少女は路を示すが旅をするのは俺達だ   作:小沼高希

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プロージブル・ディナイアビリティ 10

「まずいな」

 

科学技術省に呼び出された俺と四辻さんは相変わらず難しそうな顔をした須藤さんの前に座っている。

 

「やりすぎましたか」

 

俺が言うと、須藤さんは頷いた。

 

「というわけでこちらも追加の駒を投入だ。改めてこちら、中根さんだ」

 

「よろしくお願いします」

 

そう言われて俺と四辻さんとで挨拶をしてきた女性に握手を交わす。前にこういう人が須藤さんのところにいた気がするな。というか須藤(sudo)中根(center root)さんか。わかりやすい名前で助かる。

 

「中根さんの経歴は?」

 

四辻さんが聞く。

 

「普通の公務員だ。大蔵省に入ったがその後あちこちに回されて、今では文部省系列の組織にいる」

 

「……我が国でそんなことが?」

 

俺は正直驚いた。いや、縦割り行政というのは官僚制度における秩序を保つためにある程度は必要なものだが、それは同時に硬直化を招く。再三内閣再編だの霞が関改造とか言われてもなおこの種のものは残っていると聞いたのだが。

 

「まあ、色々あるんだよ。材料技術領域における革新的な競争力強化に向けた通商産業行程戦略において重要な仕事をしたのも彼女だ」

 

「長いので材革工程戦略(ザイカクロドマ)って言いましょうよ」

 

俺は須藤さんの言葉に呆れて言う。しかし大蔵省か。国家の財布を握る、最も権力が強いとされる省。しかし内部の専門性は高く、省の内部に省があると言われるほどの難解さだったはずだ。しかしそこに入って、その上で変な場所にいるということはたぶん実力で殴るタイプだな。そうでなければ須藤さんが後任に置くとは思えない。

 

「お二人について、最低限の話は聞いています。その上で、お二人をアセット42の管理者として以降扱います。よろしくお願いします」

 

彼女はそう言って須藤さんの隣りに座った。なるほどね、前は少し離れたところにいたのであくまで付き添いですよとなっていたがここから彼女が本格的に絡んでくるわけか。

 

どういうわけか俺の知り合いになる女性には変なやつが多い。これにはいくつかバイアスがあって一つは俺が変ではない女性を記憶していないこと、あるいは俺の周囲にいる人間が性別問わずに変であるみたいな可能性は十分にある。あと人間を男女で見るのは普通に不正確だからよくないよな。不正確だからと言って無価値ではないし、大抵の便利なものは正確ではないのだが。

 

「よろしくお願いします。四辻です」

 

「古瀬です」

 

改めて名前を言う。うん、これで俺達は共犯者というわけだ。仲良くしたいね。

 

「水城さんについての調査がこちらにあります。あなた方の知っている情報と矛盾がないかどうか、確認をお願いします」

 

そういって渡されるのは分厚い紙のファイル。時間を考えるとお昼ご飯はおろか晩ご飯を食べれるかどうかも怪しい。まあもうばらばらと四辻さんは目を通しているがな。

 

「使ったソフトは?」

 

俺はそう言いながらファイルを読む。少し無礼かもしれないが、そのあたりの丁寧さが必要な場面でもないだろう。俺だってその気になれば最低限の社交はできる。もちろん本物の外交ができるわけでがないがな。

 

「政府のものです」

 

「使ったことを特定できる人はいる?」

 

「内閣情報局にある独立したものを使っています」

 

「そのあたりはしっかりしているというか、まあ確かに狙っている相手は隣のやつにも知られたくはないよな」

 

俺は別に文章を読むのが遅い方ではないと思う。むしろ普通の人に比べればかなりのものだと思う。しかしよく調べているな。公開情報だけじゃなくて関係者への調査も入っているだろう。生活リズムまで抑えられているが、このあたりって俺が読むのなにかまずくないか?

 

「……この場所は違う」

 

四辻さんが心理分析のあたりのページを開いて言う。ここまで人間の思考方式を言語化したテキストはなかなかないが、これができる水準の人工知能を政府は持っているのか。いいな、俺のレポートも読みたい。

 

「どのあたりがでしょうか」

 

「彼女の行動を自分が世界を変えられるという自負に基づくと見ているけれども、あれは自負と言うよりも前提に近い気がする。経験に基づいたもの」

 

「……なるほど、私たちは世界を変えられるものとは思っていないので、その部分で齟齬があったかもしれません。反映させます」

 

そう言って中根さんはタブレット端末をいじる。というかそうか、表向きは俺達じゃなくて彼女が政府の監視対象になるのね。よく考えてみたら当然の話である。良かったな国立の研究所所属で。

 

「お願い」

 

そう言って四辻さんは書類に目を戻した。俺は集中力が切れたので書類の後ろの方を先に見てしまう。行動記録とか出した論文とか関係者とか。

 

「……俺達にこれを読ませる意味、あるんですか?」

 

「協力者としていつでも取り込めるようにするためです」

 

「人間を何だと思ってるんだか」

 

俺はため息を吐く。水城さんは何も知らされず、俺達に踊らされるわけだ。しかし水城のことだからな、楽しく鼻歌交じりに見えない相手とダンスを踊るぐらいのことはやってのけるだろう。少なくとも常温超伝導の可能性を考えて俺達を呼び出すのはそういう裏の話をわかっていないとできないだろう。

 

「……彼女を含めて、何人かを新世代研究者のロールモデルとして構築します」

 

「制御できるものか?」

 

「ある程度は可能です」

 

「ある程度を越えたら?」

 

「対応不可能な範囲にはならない、と考えます」

 

「傲慢なのか実力を理解しているのか、よくわからんな」

 

多分ある程度はちゃんとリスクとか想定外とかを加味していて、それでもなお制御可能だと判断しているのだろう。その判断に大きなミスはないはずだ。しかし判断にミスがないからと言って決定に間違いがないとは限らないのが難しいところなんだよ。俺の考える問題ぐらいは対応しているだろうが。

 

「……須藤さん、少しいいですか?」

 

「何だ?」

 

ずっと黙って俺達と中根さんを見ていた須藤さんが言う。いや、忙しいはずなのにここまでのんびりしているように見えるのは数少ないリラックスのタイミングだからかもしれないが。

 

「彼女は有能ですか?」

 

「私の部下にするのに相当苦労したし、多くの負債を負った」

 

そう言った須藤さんに俺は頷く。須藤さんを疑う理由は特にない。

 

「中根さんは、須藤さんをどう思いますか?」

 

「悪くない人で、経験に基づいた能力は高いと思います。しかし私のほうが得意な分野もあります」

 

それは自分の能力を誇示するというよりも、シンプルに書類を読み上げているようだった。

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