超越少女は路を示すが旅をするのは俺達だ   作:小沼高希

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チェーン・ギャンギング 2

『こんちには、ルイです』

 

『始めまして。水城です』

 

そんな会話をして握手を交わし、食堂の中央あたりで話している二人。水城さんの服の中に仕込んだマイクから伝わった音が骨伝導で俺のサングラスに伝わってくる。

 

周囲を固めるのは明らかな警備の人が三人ぐらいと、私服の人が五人ぐらい。多分ぱっと見えないような、それでも押さえておきたい場所にほかの十人ぐらいがいるんじゃないかな。

 

「会話内容は普通だよな……」

 

俺はそう呟いてサングラスの裏を見る。

 

── 現状の会話は全て公開情報です

 

「公開情報だからっていうことよりも、その公開情報をどう話すかってことが重要だろ」

 

そう呟きながら会話ログを確認する。こういうところの微妙な交渉って相手の顔色を見ながらやったほうがいいから俺には向いていないんだよな。二人ともサングラスを付けていないし文字を読み取れそうな端末もないので生身で戦っているということだろうか。少なくともルイさん側の方にイヤホンとかインカムはついていない。

 

ちなみにこちらは隠しカメラと隠しマイクを複数向けています。まったくどう考えても俺達の方が悪の組織みたいな動きをしているんだよな。そこまでするってことはそこまでの相手なんだろうと向こうに教えてしまうデメリットもあるが、それでもなお、しておいたほうがいいというのが須藤さんの判断だ。

 

具体的な話に入っている。超伝導体の技術発展についてよくまあ水城さんは追いつけるな。というかルイさんの方もちゃんとやっているのがすごいよな。大学でやっていたことは必ずしも専門になるわけではないというのは当然だが、これを自力で理解できるレベルで学んだのだろう。

 

『ですから、私がやったこと自体は別にそこまで特別ではないんですよ』

 

そう言ってルイさんの方を見る水城さんを俺は横目で確認する。こうやってちらちらと観察しているのは多分気がつかれているだろうが、それでも黒いサングラス越しの視線だからわかりにくいだろうと思っている。そうであってくれ。

 

『いえいえ。あのシステムは本当に良いものです。今まで詰まっていた研究が複数あれで動き始めたんですよ』

 

『そう言ってもらうのは開発者として嬉しいものですが……』

 

ちょっと水城さんが押され気味といったところだろうか。水城さんは明るくて元気な人という印象があるが結構理詰めで動く。素の感じで圧が強くてちょっと訛りのあるルイさんと比べると弱いのかもしれない。

 

いや、そんなわけはないか。素でこの話し方をするような人があのポストにいるわけがないんだよな。演技と本心の区別をつけることは難しいが、少なくともあの人は複数の役柄を使いこなすことができる人だろう。

 

「会話って訓練されているのかね」

 

── 特有のパターンが見られます

 

そうやって表示される内容はかなり複雑だが、訓練された人とそうでない人の会話の間のとり方についての論文をベースに分析したものらしい。こういうのって思ったより情報の蓄積があるものだな。

 

ジャンルとしては演劇論。つまりは人間にどういう印象を与えるかを制御するための技法。そういうものには色々とあって系譜も複雑なのだが、ルイさんの使っているやり方は相手の反応をわずかに待つので間が伸びるし、わかりやすい反応には素早く返答が来るので判断しやすいそうで。いやまあ理屈はわかりますしそのタイミングとかを訓練で多少制御できるというのも納得ですがね、それができるかどうかっていうのはまた別の問題ですよ。

 

もちろん、この程度の分析は向こうもしてくるだろう。今回はルイさんはあまりガジェットを持ち込んでいないらしいが、隠しカメラと隠しマイクぐらいは想定してもいいだろう。ただの会話なのもあってあまり身体検査とかもできないからな。警備のためということで手荷物検査は一応したらしいが。

 

しかしやっていることはずっと世間話だ。もちろんそういうところで人間関係を築くのは大事だし、こちらとしては無駄にコストだけ払わされた形になるので向こうの戦略としては理解できるのだが。

 

『となると、あなたのソフト開発予算自体は国家プロジェクトの……』

 

『はい。ただ、日本のその種のシステムはアメリカ合衆国とは大きく異なりますし、私はあなたの国のそれをあまり深く理解しているわけではありません』

 

『こちらも日本の制度が詳しくわかっているわけじゃないからね。そのあたりは今後協力とかをしていくなら徐々に理解し合っていかないと』

 

口調にズレが出たことをBIFRONSが知らせてくる。俺は会話内容が少し変わってきたことに注意する。今まではあくまで公開情報とかそこから比較的推測しやすい学術的情報に内容が限られていたが、協力の話は出てきていなかったはずだ。

 

『協力?もちろん私達は国際的な協調を重視していますが、なにぶんここは国立の組織です。面倒なこともあるのですよ』

 

『そのあたりについては日本・合衆国間の調整を今後深めていきたいと思っていまして、ミス・水城が今後その分野で活躍されるのではないかと思っています』

 

先物取引(フューチャーズ・コントラクト)はリスクの大きいものです……という説明は、不要でしょうね』

 

『ええ』

 

ルイさんは微笑む。表情パターンが更新される。彼女が所属していたASPAは青田買いを行う組織だ。収穫できれば大きく儲けることができる分野に投資を行う。それは臆病者がやれば成果が出ず、向こう見ずがやれば出ていく金が大きくなりすぎる。各種の統計とか社会学的分析は、その活動をかなり繊細な賭けだとみなしている。

 

『今までうまく回っていた方法が、ずっと回る保証はないのよ。だから私達は今、ここで、動く。そのためにはポケットの中の金ぐらいは投じるし、危険だって冒す。思ったよりあなたが重要人物だとわかったのは嬉しいことね』

 

『室温超伝導の価値が、その名前の響きに比べて低いことはご存知でしょう?』

 

『それが必要なものの価値を踏まえれば、決して低いとは言えないでしょう?』

 

なるほどね。水城さんが今回の騒動全部の中心にかなり近いと踏んだわけか。それぐらいまでは想定のうちだし、水城さんにもうまく行きそうならそれで通してくれと中根さんはお願いしているはずだ。とはいえ俺達と国家と水城さんの利害関係は独立しているはずだし、どうなるかは全然読めないところではあるんだけれどもね。

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