超越少女は路を示すが旅をするのは俺達だ   作:小沼高希

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チェーン・ギャンギング 4

会話も終盤かな、というぐらいに議論は進んでいる。いやまあ普通に聞いていたら世間話ですがルイさんが今の高圧装置の限界とかの話をしているのはそういう意図があると見ていいだろう。でも水城さんはそのあたり詳しくない人なんですよね。あくまで専門は人工知能。

 

ただルイさんも聞いている限りは材料工学の専門家というわけではなさそうだ。ちょっとしたミスが二つか三つ、俺が分かった範囲でも存在した。とはいえこれは別にルイさんが無知とか不勉強というわけではない。実は一般的には俺は相当に知識を詰め込んでいる人間になるらしいですよ、怖いね。

 

とはいえ今の御時世でそういった知識がどこまで役に立つかと言われると難しいところだ。人工知能がギガトークンのデータを検索とかなしに丸ごと普通に読んで処理してくる時代において、情報の組み合わせとか発想も速度で勝つことは難しくなっている。あと一般的な人工知能はそんな探索範囲を増やしてもいいことがないので制限されていることが多い。

 

『……そろそろいいぐらいの時間ね。お時間を取らせてすまなかった』

 

『いえいえ。また何かあれば』

 

そんな会話をしてルイさんと水城さんは握手を交わす。うまく行ったかね。

 

『あとそうだ、他にも挨拶をしておきたい人が』

 

その言葉で俺の心臓が跳ねる。いやぁ慣れないものですね。入ってしまった交感神経のスイッチをゆっくりと呼吸しながら落ち着けていく。

 

ちらりとサングラスの裏で視線を動かす。こっちに歩いて来ていますか。まあそうだよな。

 

「始めまして、古瀬さん」

 

発音には訛りがあったが、それでも十分良い発音だった。

 

「ええと……はい、はじめまして」

 

俺は怪訝そうに差し出された手を握る。自己紹介もしてもらえないか。知らないわけ無いだろうという話でもある。というかギアを上げてきたな。別に俺が向こうから知られていることは当然だとは思っていたが、それでも水城さんや俺と並ぶような候補はそれなりにいたはずだ。その中で特にこの場所の付近まで移動していた人に絞って情報を覚えていたかだろうか。

 

あるいはどこかに通信機があるのか。耳に何かをつけている感じはないが、世界にはその手のガジェットは色々ある。髪の中に仕込む骨伝導イヤホンとかかもしれない。そのあたりを気にすることはあまり本質ではない。

 

『あなたの評判は聞いています。腕のいい理論家だと』

 

『あー、いいえ。俺が思うに、その評価は不適切です』

 

『本当?』

 

『本当に』

 

さっきまで英語を聞いていたのに口は全然回らない。夢にまで出るほどだったのに所詮夢は夢か。

 

『そう。ではミス・四辻にもどうぞよろしく』

 

『確かに』

 

そう言って、彼女は去っていった。いや怖い。本当に怖い。理屈では理解できるし訓練も少し流行ったが実際にやられると見透かされた行動ってこんなに怖いものなんだ。なんで水城さんは今平然とした顔でペットボトルのお茶を飲んでぷはーっ、っていい笑顔をできているんですか。

 

「お疲れ様です」

 

俺が立ち上がって近づこうとした時に水城さんに声をかけたのは中根さん。ダサい私服だが、こんな研究機関に休日出勤している研究者らし異服装といえばその通りである。あとサクラ役の人はBIFRONSの分析によれば体をあまり動かしていない人も混じっていたそうだ。つまりあれか、須藤さんとか中根さんとかのネットワークの暇な人を駆り出した感じか。なんか手当とかもらって欲しい。

 

と言って俺も水城さんの方に進もうとすると四辻さんが俺を手で制した。おっとなにかやったかな。と思ったらなにか検知器みたいなものを取り出したり服をぱんぱんと叩き始めた。ああなるほど、虫とかが仕込まれていないかの確認ね。

 

「大丈夫そうです」

 

中根さんが言って、周囲に手を振った。解散の合図だろうか。サクラの皆様が帰る準備を始めた。この雰囲気だと打ち上げとかはない感じかな。

 

「いやー疲れたよ。楽しかったけどね」

 

水城さんはあっけらかんと言う。

 

「俺は一回の挨拶だけでかなり精神削られたよ……」

 

「それはまあ、慣れだと思うよ」

 

「慣れよりも先天性というか既に持っていたものがあるんじゃないか?」

 

「私も昔は人見知りだったからさ」

 

「……そうか」

 

そう言われると特にツッコミもできないので俺は黙ってしまう。このあたりをさっきまでのルイさんだったらうまく回せていたのだろうな。

 

「お疲れ様です」

 

いつの間にか立っていた四辻さんがぺこりと頭を下げる。今回は四辻さんを使わなくて助かったが、それでもここからの帰りで接触される可能性があるから注意しておく必要があるな。

 

「ルイさんが古瀬さんを狙っていた可能性を感じましたか?」

 

「うーん、私が全てだとは思っていないのはかなり確実だけれども、それでも無視できる存在ではない、と考えていたと思うな。古瀬さんに会いに来るために来たというよりも、周囲に知っている顔があったから揺さぶるおまけで挨拶したんだと思う」

 

「……わかりました」

 

そう言って中根さんは取り出したタブレット端末にペンで何かを書き込んでいる。専用のフィルムのお陰で俺からは何も見えない。

 

「で、このあとはいい感じに車で帰らされるの?」

 

「はい。尾行を確認したいので」

 

「わかったよ、途中でどこか寄れる?」

 

「……場所にもよります」

 

なんか水城さんはふてぶてしい。普通なら面倒な政治案件に巻き込まれたことに愚痴や文句の一つや二つ言っていいはずだし、俺が殴られるぐらいのことはまあ甘んじて受け入れるつもりであったのだが。

 

「……水城さんは、かなり緊張していましたね」

 

「……かっこつけさせてよ」

 

四辻さんの質問に水城さんは苦笑いをした。というかそういうことを四辻さんは読み取れるんだな。俺とは別回線でBIFRONSに繋いでいてそういう分析を依頼したとかかもしれないが。

 

「精神的負担がかかっているなら、休息を優先するべきです」

 

「有給取って四連休にしているからそこは安心して」

 

「……睡眠時間を六時間以上取ることを推奨します」

 

「ちゃんと毎日七時間ぐらいは寝ているから大丈夫だよ」

 

「健康だ……」

 

俺は呟いてしまった。いやまあ結構夜ふかしして昼からの出勤になったり、特に予定がない時には夜の八時ぐらいに寝て朝の八時ぐらいに起きてちょっと眠いからと言って二度寝していたりするので、俺が不健康な生活をしているだけだろう。

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