超越少女は路を示すが旅をするのは俺達だ   作:小沼高希

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チェーン・ギャンギング 5

一週間ぐらいが経過した。まだルイさんは日本各地を巡っているらしい。

 

「でさ、どうやらアメリカ政府はファンドを作りたいらしくて」

 

そう言いながら水城さんは焼けた肉を金属の箸で取る。微妙な昼過ぎの時間帯の焼肉店。周囲には人がいないので、ちょっとぐらい危ない話なら普通にできる、と思う。

 

「金はどこに出させるんだよ」

 

「金なら余っているんでしょうよ」

 

そんな話を俺と水城さんはする。アメリカの二大政党制はフィードバック機構のゲイン調整をミスって発散したかのような奇妙な右派と左派への揺れ動きを見せている。そんなんだから第三政党が普通に台頭してきたり議会よりも連邦政府とか州政府の方を信頼するみたいなことになっているんですよ。

 

とはいえそれでも世界最大の経済国家であることは間違いない。一時期中国に抜かれたがその頃に中国国内でいつもの問題とかがあって共産党が混乱して結局はまだアメリカが一位のままだ。これについてはそういう統計を選んで使っているだろうみたいな批判もありますけどね。だって考えてみれば人口がかなり違うんですから。

 

まあそんなことはともかく、俺達は肉を食べていく。俺も普通に三十入った人間とはいえまあまあ食べているつもりではいるが、水城さんと四辻さんのほうがよく食べている気がする。でも皆さん赤身肉のほうがお好きなんですね。

 

「……やっぱ株式市場なのかねぇ」

 

水城さんが言う。

 

「じゃないの?国が出せる金には限度があるけど、電子の海をふよふよとしている記号はかなり大きいし」

 

「新素材系のベンチャーか……今のうちに買っておいたほうがいいかな」

 

「インサイダーとか言われないように気をつけろよ」

 

「必要なら株式購入権(ストック・オプション)とかを報酬に貰えるようにするよ」

 

「賢い」

 

俺と四辻さんは正解を知っているが、そこに沿った方向を示したところで道がそういう方向にできる保証は一切ない。というか歴史上を見るに結構紆余曲折したり思ったのとはぜんぜん違う方向で技術が発展するなんてことは日常茶飯事なのだ。

 

例えばインターネットを見てみよう。最初はASPAが予算を提供したギャンブル枠であった。通説として軍事攻撃による通信破壊を前提としたネットワーク構造の構築なんて話があるが、当時のASPAが金を投げた時にはそこはあまり重要視されていなかった。むしろ大学同士の計算機を結んで新しいことができれば面白いことが起きそうだという判断によるものだった。

 

そして繋がれて生まれたネットワークを便利にするために各種のプロトコルがでっち上げられ、そして個人レベルでも情報発信ができるようなシステムが整備され、結果として現代のインターネットが生まれた。そんなことはあまり考えられていなかったのに。

 

いやまあ当時のASPAの担当者が相当やばい人だったというのはありますね。彼はサインの一つで相当な額を動かせる権限を上の方からもぎ取っていましたし、その予算でアメリカの大学のコンピューター分野はかなり余裕を持って馬鹿なことをやる事ができました。そこで生まれた自由度が後のインターネットにも大きな影響を与えているというのはまあそこまで間違った見方ではないでしょう。

 

というわけで俺達があれこれこういうのがいいああいうのがいいと言える段階は終わっていて、あとは政府とかの公的機関の金を注ぎ込んで実用化のステップに立たせて、そこからは市場に任せるというのが一つあります。インターネット・バブルふたたび、となる可能性は十分にあるが少し前に人工知能バブルがあったのでもう一個ぐらいあっても別におかしくはないか。

 

「……面倒をかけることにはなる」

 

俺はそう言って水を飲んだ。

 

「私は気にしてないよ、世界は面倒なことばかりだから」

 

「水城さんは厭世的なのか楽観的なのか、よくわからなくなりますね」

 

俺がどう返そうか悩んでいると四辻さんに主導権を奪われてしまった。まあ別にいいけど。

 

「私はなんていうか、目の前を見ているだけだよ。何かを変えたって経験がそれなりにあるから手の届く範囲は変えられると思うし、それを上手く調整すれば世界規模の問題にも手が届く」

 

「まだ有識者会議に呼ばれるような枠じゃないだろ」

 

俺はそう言うが、実のところ水城さんは政府との繋がりもなんだかんだあるはずだ。例えばよく人工知能分野ならこの人と言われる大物がいるが、その女性と水城さんは結構仲がいい。以前の人工知能系の学界で一緒に飲んでいるのを見た。というかそのあたりになると本当に狭いのでシンポジウムの後の打ち上げとかに俺みたいな部外者がさらっと参加できるんですよ。

 

「箔はもう少し欲しいかな、そうすれば動きやすくなる」

 

「ちゃんとした論文はまだ作っていないからな……」

 

俺達が作ったソフトウェアはRχivに置いてあるが、あそこは査読がされるわけではないのでアカデミアにおける価値というのは微妙なところだ。識別子取れるから自作の教科書とかを置いている人もいるし、なんなら授業ノートを投稿している人だっている。

 

といってもあれは授業ノートというよりは教科書の再構築みたいなところがあったな。章立てとか数式とかは俺も参考にした古典的教科書と同じなんだけど参考になっている本がかなり多いし専門書混じりだし、それでいてもとの教科書の悪いところをばったばったと痛快なまでに切り捨てていてよかった。なおもとの教科書の作者にも認知されていてそのフィードバックを受けた改訂版も出ています。

 

思考が逸れた。ともかく俺はアカデミアからすればあまり立場のない人物だ。出した論文が全てとは言わないしコネやら人間性とかは十二分にあるが、だからといってそれだけで信頼されるような世界ではない。俺だって人工知能分野では世界有数の(lobe)構造の専門家ということで名が通っている。とはいえ(lobe)構造を知っているような層はほんの一部だけれど。

 

「アカデミアが嫌いなのはわかるけれど、適度に入っておかないとそれはそれで面倒だよ」

 

「四辻さんをどこまで出すかも悩ましいんだよな、今どき高卒が前線に立てるか?」

 

「ディプロマミルで取った学位でそれなりの立場にいる人はいるよ、そもそも日本の博士課程はディプロマミルだと言っている人もいるし」

 

「日本も教授資格みたいな枠で明治時代に大博士号の授与前例作っておくべきだったんだよ、そうすればインフレ後にも対応できた」

 

「まあ知的先端に誰もが触れられるのはいい時代だと思うよ」

 

そんな会話をしていたらまた追加の肉が来た。楽しそうに食べる水城さんと四辻さんを見るとそれだけでお腹がふくらんできた。いや、それなりに俺達は食べているから普通に満腹になっただけかもしれない。

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