超越少女は路を示すが旅をするのは俺達だ   作:小沼高希

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プロトコル・スタック 3

資産運用における白銀律というものがある。死だ。黄金律は忘れること。一時期はやっぱり上手くいかなかったと売られることになったインデックス投資もその時に買っておいた人が得するようにできていたあたりを見るに、現代文明の上前で生きていくのはなかなか悪いものではないらしい。

 

とはいえ、それが実現できるのは技術発展あってこそのものである。あるいは自転車操業。現代社会は大きくなりすぎて、社会が成長するという幻想なしには破綻してしまうのだ。かつてはムーア則が、その後は人工知能のスケーリング則がそれを保証していたが、今では特に情報分野ではもう少しテクニカルなことをしないと壁を突破できそうにないという時期になっている。

 

「でもこれはちょっとやりすぎな気もするな……」

 

急激に値上がったのはLögseimr(ログセイムル)社。高圧装置の大手ですが、なんか一気に人気物になりました。大丈夫かな。こういうところで調子に乗って潰れてしまうと今後の計画が何もかも狂うから程々にしてほしいのだが。

 

「あまり合理性がない気がする」

 

四辻さんがチャートを見て言う。まあ確かに経済に合理性を見出すってあまりうまく行きませんからね。人間は愚かだし買った株の値段で一喜一憂してしまう愚かな存在なのだ。俺もそうです。この会社の株を少し前によくわからないままなんか証券口座をBIFRONSに言われるがままにぽちぽち操作して開いて月収ぐらいの金額を突っ込んでおきました。

 

「合理性というのは?」

 

「ここで動く金額は、会社の持っている資産とは関係のないものだよね?」

 

「まあそうだな、確かにこれらの数字は帳簿上のものだが、それは同時に会社の資産でもあるわけだ」

 

これが資本主義の面白いところである。噂話とその場の空気によって、企業が大規模な投資を受けるに等しいことが起こるのだ。普通なら銀行とかに行って丁寧に交渉するところを、なんか良さそうな話があるぞと感じた人たちが金を注ぎ込んでくれるのである。

 

もちろん、それが全て増えて帰ってくるわけではない。俺も高校時代に色々と自分の考えた投資戦略とかをBIFRONSに相談した時期があったが、大抵はもっと上手く考えられた上位互換があった。やっぱりインデックス投資ってやつが何も考えないで済むので一番ですよ。

 

「……それがうまく理解できない。信用できるものなの?」

 

「通貨を信用しているんだから株式市場ぐらいは信用しないといけないんじゃないかな……」

 

というかこのあたりを雑に語ると面倒になるな。BIFRONSに頼もう。

 

というわけでわかりやすいスライドがでてきた。わかりやすいと言っても俺と四辻さんに合わせてあるのでかなりハイテンポな気がするが。

 

『すなわち、二次市場の拡大によって相対的に一次市場が小さくなり、資金確保による市場への影響が抑えられていると言えます』

 

資金調達のために企業は株券を売る。そしてそれを買ってくれた人に会社の一部を渡す。それは配当金であり、株主総会での議決権であり、解散の時に余った資産を受け取れるというものだ。考えてみれば元本の保証なんてものはどこにもないのである。これは一次市場。

 

そしてこの株券を持つ権利がやり取りされるのが二次市場だ。ここでは一次市場の性質がかなり失われて、どういうわけか人気とか空気とかで株券に値段がつく。たとえ配当がなく、議決されるような議題がなく、しばらく解散する予定がない会社の株券でさえ、高値がつくことがあるのだ。

 

経済学においてなんでこんな価格システムができるのかを合理的に説明できるモデルはできていない。というかたぶん誰もが合理的な世界ではこんな二重のシステムが成り立たない。行動経済学みたいなジャンルではそのあたりがよく扱われている。

 

しかし面白いのはほぼ全員が合理的でなくなっても市場みたいなものは機能するし、そこからお金を得ることができるということだ。例えば時価総額が大きな企業は銀行から信頼されるし、あるいは自社株を刷り増して市場に流すことで資金を確保することができる。やりすぎると株価が下がるが。

 

このシステムは間違いなく現代技術史においてそれなりの役目を果たしている。鉄道、通信、人工知能。どれもバブルを起こしているが、逆に言えばバブルが起こるぐらいに金と注目が集まったのだ。そしてその時に買われた分の株式はちゃんと投資に回っていることが多い。

 

ちなみにここで価値の下落が起こるというのは単純なやり取りだけではなくて例えば株式の保有額を担保にカネを借りるとかいう複雑なことをしているからです。勝手に無から金を取り出そうとするな。しかしそういう担保で金を出すから企業が気軽にできることができるという側面がある。かつて企業は国家クラスが強力にバックアップしないと大きくなれなかったんですよ、財閥とか結構そうですね。癒着とも言う。

 

「……理解はできた、と思う」

 

四辻さんが呟く。

 

「よかったな」

 

「これは、やはり人間の機能限界を前提にしているのでは?」

 

『人間の機能限界を前提としたシステムを、人間より高速に、しかし人間の行動に応答することを前提とした人工知能が動かしています』

 

「まあ今どき人間が手作業で株を買うことはあまりないか……」

 

俺は言う。ちょっとシステムを組めば簡単に株や為替の取引ができる時代である。インターネットを数分間漁れば人工知能を使って大儲けした人が公開している一本十万円のセミナー動画とかを見つけることができるだろう。投資で大成功した秘訣を共有したいというやつがそんな高い金を取るなよ。

 

「面白いね」

 

「普通に人が死ぬ案件だからな、あまり面白がるのも考えものだが」

 

「……そのあたりも私には納得ができない。もちろんそれが前提とされる場所ではそれに沿った振る舞いを示すけれども」

 

「人間の愚かさってやつだよ、人が死ぬことによる穢れを嫌うのさ」

 

人間はどうやって死ぬし、その理由は多種多様だ。借金苦で自殺する人を可哀想だとは思うが、そういう人全員に気を配れるほどの資源は俺にはない。誠実であろう、平等であろうとすると全部を無視して自分の楽しいことだけを見るようになってしまうのだ。

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